進撃の巨人 もしもこんな世界があったのならば 作:molte
7話です。
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「久しぶりですね。お爺様」
「うむ。久しいなカルラよ」
そこは薄暗く不気味な空間に、口調と容姿が似合わない五十路に突入したような男性とエレンの実母であるカルラがいた。男性の方の実年齢は75。年齢と容姿が全くもって違うのは彼の美意識の高さに秘訣がある。
「エレンは元気か?」
「えぇ。元気にしてますよ」
彼らがいる場所はエレンの父が経営する病院の一角にある病室。石造りのようになっているのは、VIPな方専用なのかもしれない。いや不気味な空間はVIP違うか。
ご老人の病が再発したとのことで、カルラは寂しい思いしていないかとお見舞いに来てみたが杞憂だったようだ。
「あの人に伝えなくて…」
「必要ない」
カルラが恐る恐る聞いてみるが言い切る前に被せるよう、いや正確には、唾棄する雰囲気を醸すように吐き捨てた。
カルラの言うあの人というのは、エレンの実の父でこの御仁の実の息子。この病院の医院長を務めるお爺様とは違うので間違えないように。
その後カルラはお元気で。と言って音を立てないように病室から退室した。
☆☆☆
月曜日の朝というのは何故こんなにも憂鬱になるのだろうか。恐らくこの世を生き抜く人間全員が一度考えることだろう。
ただ、なんとなく面倒くさいだけで学校に行けば楽しいのはわかっている。だけれども、いやどうしてか行きたくない。こんな気持ちになった人いないだろうか、いや確実にいる。
けど最近、俺はそんな憂鬱を忘れる快感に気づいた。朝起きた時の伸びをした瞬間。これが一番気持ちいいんだ(普通)。
そんなことはどうでもよくって…。
一昨日のパーティーの影響でみんな夜遅くまで起きていたためぐっすり眠ってしまい、全員が起きてきたのはちょうど正午。帰宅したのは3時ごろだった。
ショックだったのが、最後見送りするときにアニに声をかけたのに無視されてしまった。
もしかして俺は嫌われているんだろうか。
確かに思い返せば最近アニとの距離が近い気がするし、思い当たる節もいくつかある。
けどアニは表立って否定はしていなかったはず…。
いやもしかして内面でめちゃくちゃ嫌がっているかも知れない。
「はぁ~」
「どしたの?」
最近よく考え事をしてる気がする。「ーぃ!」特にアニについて。
中学では少し話すだけの関係で多分、お互いに親友の幼馴染で幼馴染の友達。みたいな認識だっただろう。「ェエーン?」けど今はどうなんだろうか?異性の友達?よく一緒にいる仲間?もしくは意識している異性の…
「こらー!」
「うわぁぁ!?」
びっくりした…。
不機嫌そうなアルミンが俺の進路を阻むようにして怒鳴り上げた。
「な、なんだよ」
「なんだよじゃないよ!珍しく考え込むエレンを心配して声をかけてあげてたのにさ!」
そ、そんなに考え込んでたのか。
流石に俺が悪いのでウチの父さんがよく母さんにする誠心誠意を込めた土下座をする。
地面が夏のような少しカラカラとした暑さが制服を通り越して、俺の脛にじわじわとダメージを与えてくる。
数秒ほどの土下座でアルミンは許してくれた。
起き上がるときに行きつけのクレープ屋全種類奢りを添えて…。
「散財確定か…」
俺の呟きにアルミンは反応することなく無邪気に走り去っていった。
今日の時間割は1、2時間目に普通の授業を行い、昼前の2時間の授業は調理実習。昼休憩を挟んで、残り2時間はフィールドワークに出掛けるといった一年に一回あるかないかのような特殊な時間割である。
3、4時間目の調理実習はペアになって料理を作るというもの。テーマはお昼のランチ。
ただし、条件として調理室にある食材(在庫無限)だけで作ることと男女ペアで作ることくらいだ。まぁ思春期真っ只中の高校生には盛り上がること間違いなしのイベントだろう。
この学校の家庭科の授業は生徒に絶大な人気を誇る。
その所以として思春期男女の心をくすぐる教育方針があるという噂もある。ちなみに担当の先生はあんまり来ない。
1年A組では今日の家庭科の調理実習のペア決めが行われていた。
やはり彼らも高校生。大げさかもしれないがこのイベントで大きく将来が変わる人間がいるかもしれない。
念の為にもう一度言うが、大げさかもしれない。
「エレンは誰とだったー?」
今まで見たことない程の上機嫌なステップでアルミンはエレンの下へ駆け寄った。
「なんか今日休みの人いて余ったから一人でやる事になった」
アルミンの上機嫌さに引きながらもエレンは冷静に答えた。
「一緒にやる?」
魅力的な誘いに承諾しようとしたが、かつてないほどのアルミンの機嫌の良さにエレンは思考を張り巡らす。そこから導き出した末…。
「遠慮しとくよ。クリスタと当たったんだろ?」
ビンゴ。アルミンは顎がみぞおちにつきそうなほど頷いた。
以前、アルミンからは直接クリスタアタック宣言を受けていたエレン。当時は特に気にしていなかったものの今となっては意中の人と共に過ごす(予定)親友の姿に羨ましく思えてしまう。
少し憂鬱な気分になるのは今日が月曜日だからなのか、もしくは違う理由であるのか。よくわからない自分の気持ちに前者であって欲しいと思うエレンであった。
「なんでミカサが?」
「まぁまぁ」
憂鬱なまま迎えた3時間目の授業を知らせるチャイム。
俺が使うキッチン席の隣には空席のはずなのにミカサが座っていた。
疑問が解消することなく授業が始まる。先生は自由人なので、出欠確認をとり終わるとすぐにどこかへ行ってしまう。
今日も今日とて、火事あったら呼んでねー。と走り去りながらどこかへ行ってしまった。てか火事が起きてからじゃ遅いだろ。
「なに作ろっか」
卓上に備え付けられているタブレット端末を操作しながら、頭を抱えるミカサ。
どうやら答えてくれないらしい。もしくはミカサには大した事でもないのだろう。俺自身も別に大層な疑問でもないので授業の方に切り替える。
「これなんてどうかな?」
「ガパオライス?」
ミカサがガパオライスの画像を見せてくる。
分からない側の人間が説明すると、豚ひき肉や赤パプリカ、玉ねぎなどの具材を刻んで炒め、ナンプラーやオイスターソースをかけた物をご飯の上にのせ、さらに目玉焼きをのせるといった感じ。タイ料理と説明欄に記載してある。
「どうやって作るんだ?」
「エレンなら動画見せるより私が一旦作ってみるよ」
タブレット端末の操作を終え、自信あり気に腕まくりをして準備をするミカサ。
今日使うこのキッチン、パッと見どこにでもある白タイルキッチンかと思ったら、タブレット端末に連携させることで指定した人数分の食材が届くようになっているらしい(返品可)。大体、教室内にクラス人数÷2分余るぐらいある。
とんでもない費用だな。てか絶対お届け機能いらんだろ。
……実は他にも調理室が2つあって、今俺たちが使っている教室はビギナー用の部屋。
多分学年ごとに使うんだろう。1ヶ所だけでいいと思うのは俺だけだろうか。もっと金かけるところあると思うんだけど。
「食べてみてよ」
そうこうしているうちに出来上がったみたいだ。画像より美味しそうに見えるのは単純にミカサの料理スキルが高いのだろう。
気のせいかキラキラ輝いているようにも見える。
「うまっ!」
案の定めちゃめちゃ美味かった。もう一口行こうとしたらすでに人だかりができて入り込めないようになってしまった。
どうやら俺のリアクションで呼び寄せてしまってたみたいだ。すまんミカサ。
「次エレン作ってみてよ」
「少しアレンジしてもいいか?」
否。と言う訳もなく優しく微笑んでくれた。
皆まで言わんが…少しジャンの気持ちがわかった気がする。
というわけで気を取り直してガパオライス作っていきます。
「手際とか参考にさせてもらうね」
「そんな期待しないでくれ…」
ではまず玉ねぎ、にんにく、生姜をみじん切りに赤パプリカは1センチの角切りにしておきます。
玉ねぎを切ってる時になぜかミカサの目が丸くなっていたのは補足しておかなくてもいいです。
ついでに料理酒、ナンプラー、みりん、オイスターソース、鶏がらスープの素。これらの調味料を合わせておくと後で楽ですよと。
次にフライパンにサラダ油を入れ弱火で熱し、にんにく、生姜を炒めて香りがたったら中火にして、ひき肉と豆板醤(トウバンジャン)も加えて炒める。
肉の色が変わったら玉ねぎと赤パプリカと少しスパイスが欲しいので唐辛子を加えて炒め、合わせた調味料も加える。
「すごいね…」
少し人だかりが出来始めて緊張する。しかもミカサの横からの期待の眼差しにより余計に緊張する。
放送事故にならないようにしないと。
「味見していい?」
突然ミカサが顔を覗き込んできた。
「おわっ!?」
あぶねぇ。アツアツのガパオをぶちまけるとこだった。マジで冷や汗かいたぞ今。
「ん-、美味しいー」
喜んでくれるのは嬉しいが驚かせないでほしい。本人にその自覚が無いのは分かりきってはいるんだが…。
あとはバジルの葉と目玉焼きをのせたら完成だ。
「ふぅー」
なんかどっと疲れたな。
ふと視線を逸らしたらアルミンが楽しそうにペアのクリスタとなにか作っていた。羨ましいやつめ。ライナーの気持ちも知らないで。くそっ。
とここで授業終了のチャイムが鳴った。
普段の時間割ならやっとの思いで一息つけるが、今日は調理実習。休む間もなく自らが手掛ける料理に取り掛かる。
ざっと見るに7割くらいのペアがまだ料理を作っているみたいだ。
時間もまだもう1コマ分残っているので、ミカサとデザート作り対決することになった。
なぜか聞きつけてきたライナーが罰ゲーム有りと提案してきやがったので乗ることにした。
「審査員もつけようよ」
面白そうなモノを見つけてきたかの様にアルミンがクリスタと共に場へ躍り出た。
「私とアルミンとライナーと…」
クリスタが誰かを探すようにして
「アニで!」
呼ばれた当の本人はユミルと話しているみたいで、どういう状況なのかサッパリわかってない感じだった。
アニが審査員か…尚更負けられん
「ふふっ」
「どうした?」
不敵に笑うミカサ。いやこの場合は余裕の笑みか…。
「聞こえてたよ?」
「えっ?」
結局それが引きずってしまい惨敗した。
罰ゲームは…えっと~何だっけ?
そんなこともありつつ午後のフィールドワークへ出かける。
目的場所は市内の建造物や伝統ある老舗。今後の授業で関わる事なのだが初回は町の雰囲気と情景を覚えてもらうということらしい。
実はマリア高校、全体的に見ると県内進学者より県外進学者の方が多く、エレン達の中でもジャンやマルコがこれに当たる。
なので敷地内にあるホテルとは別に1,2,3年ごとに学生寮がある。歩いて5分ほどで学校に辿り着くことができるので県内進学者でも入寮してたりする。ちなみにホテルより質は劣る。
少し脱線したが、1年次から自主的に外へ出かけて行くため、早くマップを覚えろとのことなんだろう。
今日は学校専用の大型バスで移動する。最初の移動で30分かかるため、エレンは午前中に蓄積した疲労を帳消しにしようと寝ることに決め込んでいた。
「やっぱ一番後ろだよなぁ」
ドカッとライナーは最奥の5人席に座る。真ん中は空けて左にライベル、右にアルエレ。
「カラオケ大会?」
どうやらドリンクホルダーの隣に備え付けられているタブレット端末の画面にはカラフルなカラーでカラオケ大会と描かれていた。
「これすごいよ!」
なんとこの機器、学籍番号を打ち込むことでその人の個人データを閲覧することができ、個人情報も編集することも出来る。今はNo recordとなっているが歌えば歌うほどデータが更新されるのだ。
このタブレット端末にはカラオケアプリの他に、音楽アプリや映画などを取り扱う事もできて周りの影響も考えてイヤホンもある。
「久々にエレンの歌が聞きたいなぁ、なんつって」
ウザい振りを振ってきたライナー。が、イヤホンをして寝る気満々のエレン(というか寝てる)を見て思いとどまるかと思いきやアルミンに指令を出して
「にゅふぁっ!?」
脇下20センチにかけてアルミンの器用な指先でくすぐるそれは通称こちょこちょ。
彼の弱点を知る者はこの場にいる当のエレンを含め4人のみ。
「寝てたかったのに…」
エレンの願いは叶わず、先に歌っていた女子達からマイクが回ってきた。
「これさアルミン口パクでエレンが裏で歌ったら皆信じることない?」
なにやらライナーが面白そうなことを思いついたみたいだ。
現代社会、SNSが発達して通信環境があればどこでも情報を得られる時代。アルミン(エレンの歌)の歌声が全国ないし世界に届けられることだろう。
実際、このバスに乗る1-Aの全員がイン○タや○witterなどを使用しているし、高校生なら誰だってSNSに触れているだろう。
それを踏まえた上でのワンチャンのバズり狙いも加味してライナーが説を唱えたのだ。
「ちょっと気になるわそれ」
ライベルの1つ前に座るジャンが参戦してきた。
「アルミンめっちゃ本気で歌ってるフリしてよ」
先程まで大人しかったマルコもノリノリみたいだ。
「これめっちゃみんなの反応気になるわ」
ちなみに補足しておくが、アルミンは歌がそんなに得意ではない。そのため今まで人前で歌うことを忌避してきた。
が、今回の場合は別に歌ってもいいらしい。後で何言われても知らない。
バスが学校を出てから15分ほど。
車内のボルテージはミカサとアニの美しい声により上がり、クーラーが必要なほど熱している。
「次は誰だー!」
誰よりも盛り上がっているのが先生なのに誰も突っ込まないのは単純に怖いからである。あと声が馬鹿デカい。
「アルミンいきまーす!」
「「「イェーイ!!」」」
初手の人からの流れで宣言制となった(初手はクリスタ)。
ちなみに先頭座席と中間にあるモニターにはタブレット端末で打ち込んだ個人データが映し出される(ラジオネーム的な名前など)。
エレンが歌うのはいま話題のドラマの主題歌。
「僕が~見つめる~景色の~そのな~かに~♪君がは~いってから変わ~りは~てたせか~いは~♪」
初っ端からの高い音。だがエレンは表情変えることなく歌い続ける。
「い~つもそつ~なく~こなした~日々の真ん中~っ♪不思議な~引力に逆らえ~ずく~ずれ~てく~♪」
まるでアルミンが出しそうな声に寄せるエレン。聞いてる身からすればあまり高くはないのだが、いざ歌ってみれば難しい。
そんな難しさも感じさせず当の本人は外の方を見ながらたまに採点バーを見て歌い、アルミンはかなりフリが様になっているが本人はキツそうだ(精神的に)。
恐らく1-A全員がアルミン歌うめぇってなってるはず。ライナーの予定では。
「た~か~ま~るあ~いの中変わ~る心情の中~♪」
サビに入ってもエレンの歌声が衰えることはない。
「こ~ん~なに~鮮や~かな~しきさ~いに~♪」
妖艶な地声と裏声の併用。難易度の高い曲を難無く歌い上げるのは、恵まれた声と日々喉の筋力使うことにある。
「アイラ~ブ♪ そのつづ~きをおくら~せて~~♪」
曲の性質上、めっちゃ盛り上がる訳では無いので歓声は沸かないが、それでも歌いだしやすごく高い所を歌いきった時は感嘆の声が最後尾の席まで聞こえた。
午後のフィールドワークなどは頭のどこかへ追いやって今はカラオケを楽しむ1-Aとキース先生だった。
ちなみに点数は95点だった。
今日のフィールドワークのタイトルは散策。何の変哲もないタイトルである。
一年全員の移動になるので、班ごとに振り分けられる。クラス関係なくシャッフルされ1班5人の編成。
「今日はよく合うね」
どうやら今日はミカサとの縁起がいいらしい。
班は他クラス男子3人とミカサ。ミカサ以外は誰も知らないのでこの場合はラッキーだった。
地図がスマートフォンに転送され、全員が確認する。
「おかしいな」
「どしたの?」
学校側から指定されたコースは、地元民しか分からないようなそれも人通りが忙しくなく寧ろ、1日に数回人が通れば良いよう路地。
そんな気にすることでもないか。というかそれよりも…。
「よ、よろしくね。ミカサちゃん。ヘヘッ」
低身長で髪がボサボサの手入れをしてない様な気味の悪い男子生徒がミカサにすり寄りながら声を掛ける。
他2人の男子もミカサに直接話しかけないものの舐めるような視線を向ける。見ていて気持ちのいいものではない。
ほぼ毎日顔を合わせているので目が肥えてしまっているかもしれないが、ミカサは美人の部類であるということを頭に入れといてほしい。
「無理しなくてもいいぞ」
こちらからは少し怯えているようの見えたので、声をかけた。
風呂場で聞いたジャンの話で、ミカサが不良に絡まれたのは最近の大きな出来事。もしそれが尾を引いているのであればサポートする必要がある。
「4班どーぞー!」
うちの班が呼ばれた。三人衆とは少し距離をとって俺とミカサが先導して進んでいく。
何もないと良いんだが…。