やはり普通の俺には普通の学校生活しか送れない。   作:佐羅田

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遅くなりました!
すんません


葉山隼人は依頼人である

 

 

 

 

休み時間になると各人が思い思いの事をして過ごす。

友人と他愛もない話をする者、読書をする者、睡眠をとる者と様々である。

しかし今日はいつもより少々にぎやかである。昨日の帰りのHRで担任が「職場見学」のグループ分けについて話したからだ。実際の決定は明後日だというのに、気が早いものである。

そんな俺も隼人たち職場見学について話している。

 

「隼人くん、どこ行くことにしたん?」

 

「俺はマスコミ関係か外資系企業見てみたいかな~」

 

「やっべ、隼人マジ将来見据えてるわ。超隼人ぱないわ」

 

「そんなことないよ。そういえばシュウはどこに決めたんだ?」

 

「俺はなーんも決めてない」

 

「なら、俺と一緒に行かない?」

 

「ん。考えとく」

 

「いやいや、ちゃんと考えなきゃダメでしょー周くん! 俺らもそろそろ大人になるんだし?」

 

「それもそーなんだがな」

 

「でしょ? そう考えると最近、親とかガチリスペクトだわ」

 

「これからは真面目系だよなー」

 

「うーわー。でも少年の心を忘れたらやばいでしょー」

 

いつも通りの会話であるはずなのになんか変な感じなんだよな。最近のこいつらって。

まぁ、いいか。

その後も普通に話して休み時間が終わった。

 

 

 

グラウンドの喧噪が小さくなると、この部室にも夕日が差し込む。雪ノ下さんにその夕日に当たっている姿は神秘的で下手なドラマや映画よりよっぽどきれいだ。

 

「ふむん……。闇の時間が、始まるか……」

 

中二こと材木座くんが小さくつぶやいた後ぐっと拳を握る。

スルーの方向で。

 

「封印を、外すときが来たようだな……」

 

俺以外に三人もいるのに誰一人その言葉に応える声はない。

さっきからチラッチラッと俺たちを見ては何か言葉を求めている材木座くん。そして、それを完全に黙殺し読書を続けているのは雪ノ下さん。戸惑いながら「え、えっと……」と呟いている結衣。それに「スルー。結衣、スルーだよ」と答えている俺。

 

「材木座……、なんか、用か?」

 

ここで比企谷くんが話しかけた。すると雪ノ下さんは深々とため息をついてから比企谷くんをじろっと睨みつけている。それは「せっかく無視していたのに……」と目で訴えているようだった。

いや、俺は比企谷くんを褒めるよ。なんだて材木座くんはかれこれ三十分ぐらいずっとこの調子だったのだから。まじウザい。

比企谷くんの問いに材木座くんは嬉しそうにふふんと笑った。

 

「ああ、いやすまんな。つい良いフレーズが出てしまったものだから、その五感とリズムを確かめるために無意識に口に出していたようだ。ふっ、やはり我は骨の髄まで作家というのかな……。寝ても覚めても小説のことを考えてしまう。作家とは因果なものだ……」

 

嘘つくんじゃないよ嘘を。

 

「えーっとその考えたので小説は完成したの?」

 

「んがっ!」

 

俺の問いかけに苦しみだす材木座くん。

やっぱり妄想どまりかよ……。

 

「作家って何かを作りだす人だと思っていたけれど……。何か作ったのかしら?」

 

とどめとばかりに雪ノ下さんが追い打ちをかける。

 

「んがっぐぐっ!……むほん。そう言っていられるのも今のうちだけだ……。我はついに手にしたのだよ。エル・ドラドへの道筋をな!」

 

「なんだよ、受賞でもしたのか?」

 

「い、いや、それはまだだ……」

 

いつもより強気な材木座くんに比企谷くんが質問をすると一回萎れたがまた復活して続けた。

 

「だ、だが、完成さえすれば受賞も時間の問題だろうな!」

 

どこに威張れる要素があったのか是非ともお聞かせ願いたい。

材木座くんはコートをばさりとなびかせて、仕切りなおすように声高に叫んだ。

 

「ははっ、聞いて驚け。我はな、此度の職場見学で出版社へと赴くことにしたのだ! つまり、わかるな?」

 

「いや、全然わかんねぇけど……」

 

「察しが悪いな、八幡。つまり、我の才能がついに見出されるということだ。コネクションを得たということだ」

 

「おい、幸せ回路すぎるだろ、その頭……」

 

比企谷くんがツッコミを入れても聞かずに「スタジオは……。キャスティングは」と呟いている姿は不気味そのものである。

 

「そういえば結衣はどこに行くか決めたの?」

 

「え、えっと……。周くんはどこにしたの?」

 

「俺は全くの未定だ」

 

「そ、そうなんだ。じゃあ……ヒッキーは?」

 

「自宅」

 

「え? それってまだ有効なの?」

 

「や、その線はもうないから」

 

ないのか……。あるなら俺も自宅にしたかった。

 

「んー、まぁ同じグループの奴が行きたいとこ行くんじゃねぇか」

 

意外だ。もうグループができていたのか。

 

「戸塚と後誰と行くんだ?」

 

「俺は戸塚とはいかねぇよ」

 

「ってかなんなん、その人任せ」

 

「いや……。俺は余りもので入れられる予定だから発言権ねぇんだよ」

 

「あ、ごめん」

 

「なーるほ、あ、ああー。や、ごめん」

 

今回は俺も一緒になって地雷を掘り出してしまったらしい。ほんとごめん。

 

「んで由比ヶ浜。信楽にも言われてたがお前はどこにいくんだよ」

 

「え、えっと、うん。一番近いところ」

 

「俺と同じで未定じゃん」

 

「発想が男二人レベルね……」

 

「おい、こいつらと一緒にすんな。俺は崇高なる新年のもとに自宅を希望したんだぞ。っつーか、お前はどこ行くんだよ。警察? 裁判所? それとも監獄?」

 

「あ、俺も気になった。雪ノ下さんなら国会とかにも行きそうだよね。後はブラック企業とか」

 

「はずれ。……あなたたちが私をどう思っているかよくわかったわ」

 

心まで凍るような笑みの雪ノ下さん。こわ! 違うよ! 俺はいい意味で……。

 

「私は……、どこかのシンクタンクか、研究開発職かしら。これから選ぶわ」

 

まだ確定はしていないのか、方向性だけを示した。いずれにしろ想像しやすい所だった。

と、俺のブレザーの裾がちょいちょいと引かれる。誰だと思って振り返ると結衣だった。

そっと顔を近づけて、俺の耳に唇を寄せてくる。いつも思っているいい匂いがいつもより濃かった。結衣が近い、近すぎる。こんなことは初めてだ。鼓動が早くなるのを感じる。やばい、これはまずいやつだ。

 

「あ、周くん……」

 

耳元に甘い吐息とくすぐったい声が届いてきていつもより意識してしまう。……え? なにを?

 

「し、しんくたんくって何? タンクに会社?」

 

「…………へ?」

 

「いや、だからしんくたんく」

 

なんかどっと疲れた気がした。

 

「……由比ヶ浜さん」 

 

雪ノ下さんはあきれた様子で俺から結衣を引きはがす。

 

「シンクタンクというのはね――」

 

説明を始めるとふんふんと聞き入る結衣。二人は穏やかにお勉強タイムに入ってしまった。

俺は二人と少女漫画を読む比企谷くんを横目にしつつ、携帯を開いてあのメールを見返す。

やっぱりこれがあいつらにも伝わってるんだよなー。まぁ、面倒なことにならないならいいんだけど。

適当にそんなことを考えてるうちに雪ノ下さんによる説明が終わり、俺は寝る体制に入ってそのまま眠った。

 

 

それから15分くらい経ってから結衣に起こされ、帰る準備を始める。

グラウンドのほうでも片付けが開始されていて、野球部がトンボをかけ、サッカー部がゴールを運び、陸上部はマットやその他もろもろをしまっていた。

比企谷くんがちらりと時計を見た後、雪ノ下さんが本を閉じ、今日と部活が終了した。

いつからかは忘れたが、雪ノ下さんが本を閉じるのが奉仕部での部活終了の合図となっていた。

今日の相談者はゼロ。いや、今日『も』のほうが正しいかもしれない。

今日の夜飯はなんだろうかーと考えていたころ。

そのときだ。タンタンと小気味よくリズミカルに扉を叩く音がした。

 

「こんな時間に……」

 

雪ノ下さんの呟きはごもっともだ。

比企谷くんが軽く舌打ちした後雪ノ下さんに目で「どーすんの?」と視線を向けると、

 

「どうぞ」

 

雪ノ下さんはそれをノールックで返事していた。

比企谷くん、いや、俺達の事情とかどうでもいいのね……。

 

 

「お邪魔します」

 

余裕を感じさせる涼しげな男の声だった。

というか、え? 俺この声聞いたことあるような……。

 

 

 

入って来たやつはイケメンだった。これぞイケメンというほどイケメンだった。

茶髪のピンパーマ。いつものコンタクトではなくメガネをかけていた。

そして俺の予想通り、俺のとても知っている人物であった。

 

「隼人……どうしてお前がここに来てんの?」

 

「あ、本当に。平塚先生の言った通りにシュウがいた」

 

「いや、まぁ、一応部員だし」

 

「そうみたいだね」

 

「で、隼人も依頼?」

 

「ああ。こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」

 

部活用のエナメルバックを床に置くと、隼人は自然に「ここいいかな?」と軽く断わりを入れて雪ノ下さんの正面の椅子を引いた。

お、おう。すごいなこいつ。よく雪ノ下さんの正面に座れたもんだ。俺じゃあ絶対にできないわ。

 

「いやー、なかなか部活から抜けさせてもらえなくて。試験前は部活休みになっちゃうから、どうしても今日のうちにメニューをこなしておきたかったぽい。ごめんな」

 

必要とされる人間だからこう言えるんだろう。

俺の場合は抜けようとすると罵声と鉄拳が飛んでくるもんなー。

あれ? 俺って必要とされる人間じゃん。引き止められてるじゃん。

もしかして俺って隼人と同レベル?

ごめんなさい。調子こきました。俺の場合は罰ゲームでしたよ。

 

「能書きはいいわ」

 

快活に話す隼人に向かって雪ノ下さんが言い放った。心なしかいつもより厳しい気がする……気のせいか?

 

「それで? 頼みってなんだよ?」

 

とりあえず俺が聞くことにした。

 

「ああ、そうそう。シュウもいるし、奉仕部はここであってるよね? 平塚先生に悩み相談するならここだって言われて来たんだけど……」

 

隼人は爽やかに話を続ける。

 

「遅い時間に悪い。シュウも結衣たちもこのあと予定とかあったらまた改めるけど」

 

そう言われて、結衣はたまに見せる薄っぺらい笑顔で笑う。最近は減ってきたが俺にもごくたまに使うあの合わせ笑いだ。まだ抜けてないらしい。

 

「や、やー。そんな全然気を遣わなくても。隼人君、サッカー部の次の部長だもんね遅くなってもしょうがないよー」

 

結衣はそう固い感じで言うが雪ノ下さんたちの表情はすぐれない。

 

「いやー材木座くんもごめんな」

 

「ぬっ!? ふ、ふぐっ! あ、いやぼくは別にいいんで、あの、もう帰るし……」

 

敵対的な雰囲気はどこへやら、隼人に話しかけられるとあっさりなくなっていた。

なぜか材木座くんが悪いみたいな態度になっている。

 

「こっふこっふこっふっ! は、八幡、ではな!」

 

材木座くんは本当に帰ってしまったがその表情はなぜか微笑んでいた。

その姿は俺が比企谷くんの席を当てたときと酷似していた。

そのやり取りと横目に俺は結衣に小声で話しかける。

 

「結衣。本当にこの後用事ないのか?」

 

「え? ああ、うん。本当にないよ。。ありがと」

 

えへへと笑いながら言う結衣の表情はとっても可愛かった。

 

「それと、ヒキタニくんも。遅くなっちゃってごめん」

 

「…………いや、別にいいんだけどよ」

 

出た(笑)ヒキタニクン。

 

「俺も構わないぞー」

 

「ありがとシュウ。まぁ、改めてってなったとしてもシュウには相談してたけどな」

 

「なんだよそれ。というか話進めようか」

 

「ああ。それなんだけどさ」

 

そういうと隼人は携帯を取り出して素早く操作していく。

携帯……。もしかしてあれの事か?

俺の予想は正解だったようで隼人が開いたメールは俺が先ほど考えていたあのメールだった。

 

そう。それは怪奇文とも呼べる代物。

俺も結衣にも多分クラス中の誰もが最近送られてきているメール。

 

それは――――チェーンメールだった。

 




長くなると思うので……。
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