『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』
『大和は三股かけている最低の屑野郎』
『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』
この三つがチェーンメールの内容である。
差出人のメアドは誰のものかわからず、大方捨てメアドであろう。
隼人の後に続いて俺と結衣も携帯を開き、雪ノ下さんや比企谷くんに見せる。
「チェーンメール、ね」
雪ノ下さんが俺達の携帯を一通り見渡してから口を開く。
「これが出回ってから、なんかクラスの雰囲気が悪くてさ。それに友達のこと悪く書かれれば腹も立つし」
そういう隼人の表情は悪意にうんざりした顔だった。
「止めたいんだよね。こういうのってやっぱりあんまり気持ちがいいもんじゃないからさ。シュウもそう思うしょ?」
明るく付け足した後、俺に同意を求めてくる。
「まぁ、確かにな。俺も最近の空気は好きじゃないし」
「あ、でも犯人捜しがしたいんじゃないんだ。丸く収まる方法を知りたい。頼めるかな」
うわ。依頼って言ってたから犯人捜しだと思ってたけどそうじゃないんだな。
丸く収めるってか早期解決だろ。丸く収めるだけなら、噂が風化するのを待てばいいと思ってしまうのは俺だけなのか?
「つまり、事態の収拾を図ればいいのね?」
「うん、まぁそういうことだね」
「では、犯人を捜すしかないわね」
「うん、よろし、え!? あれ、なんでそうなるの?」
先ほどのやり取りを全スルーした発言に隼人が一瞬驚くが、すぐさま取り繕った微笑みで穏やかに雪ノ下さんに意図を問う。
さすが真のリア充。微笑みを絶やさないぜ!
すると、隼人とは対照的に、凍てついた表情の雪ノ下さんがゆっくりと、言葉を選ぶように話し始めた。
「チェーンメール……。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も顔も出さず、ただ傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。悪意を拡散させるのが悪意とは限らないのがまた性質が悪いのよ。好奇心……」
雪ノ下さんのチェーンメールに対する憎悪はもう、なんというかハンパない物で、長々と俺たちに説明をしてくれている。頼んだ覚えはないのだが。
そして背後に揺らめいて見える黒い炎がよりいっそう雪ノ下さんの憎悪を強調してようだった。
最後に
「ソースは私」
という地雷発言をして終わる雪ノ下さん。比企谷くんが「実体験かよ……」とツッコミを入れていたが、俺を含めた残りの三人は面食らってなんて言ってよいのかわからなかった。
「まったく、人を貶める内容を撒き散らして何が楽しいのかしら。それで」
「まだこの話続けるの!? そろそろ地雷処理にいっぱいいっぱいなんですけど!!」
思わず声を張り上げてしまった。
しかしこうでもしないと俺のHPが持ちそうにないので、後悔はしていない。
「まだまだ出てくるわよ……」
「いいえ。それはまたの機会に」
「そう。簡単にまとめるとさっきの話は私がその低能な犯人たちを見つけていたという話なのだけどね」
「こ、こえぇ……」
まじかよ。よく一人で特定できましたね。ほんとこの人だけは敵に回さないようにしないと……。
俺の『敵にしちゃダメな奴ノート』に新たな名前が刻まれた瞬間であった。
「それにしても、お前の中学って流行最先端だな。俺んとこはそんなんなかったぞ」
「……それはあなたがメールアドレス聞かれなかっただけでしょう」
「確かに持ってなかったら送れないもんね」
「な! おい! ちょばか! あれだよ、秘密主義だよ! 個人情報保護法しらねぇのかよ!」
「ざ、斬新な解釈だ……」
結衣が若干引き気味で感想を述べる。
雪ノ下さんは呆れた様子で、ふぁさっと肩にかかった髪を払う。
「とにかく、そんな最低なことをする人間は確実に滅ぼすべきだわ。目には目を、歯には歯を、比企谷くんにはゾンビを、敵意には敵意をもって返すのが私の流儀」
なんか一つ変なの含まれてなかったか?
「あ、世界史でやった! マグナ・カルタだよね!」
「ハムラビ法典ですよ、結衣さん……。成立で言ったらその方法もありかもしれないけど、まずは犯人を見つけてからだね」
「どういうこと?」
「つまり、脅迫して止めさせるって意味だよ由比ヶ浜。というか俺に対してなんでゾンビなんだよ」
「そんなことはどうでもいいわ」
バッサリと切り捨てて雪ノ下さんは隼人に向き直る。
「私は犯人を捜すわ。一言いうだけでぱったり止むと思う。その後どうするかはあなたの裁量に任せる。これで構わないかしら?」
「……ああ、それでいいよ」
隼人は観念したように言った。
雪ノ下さんは何を言うつもりなんだろう……。想像しただけで怖くなってきた。哀れ
雪ノ下さんは机に置かれた結衣の携帯をじっと見つめる。それから顎に手をやり、考えるしぐさをした。
「メールが送られ始めたのはいつからかしら?」
「先週末からだよ。な、シュウ、結衣」
「そうだな」
俺の後に続いて結衣も頷く。
「先週末から突然始まったわけね。由比ヶ浜さん、信楽くん、葉山君、先週末クラスで何かあったの?」
「特に、なかったと思うけどな」
「いつも通りだったはず」
「うん……いつも通り、だったね」
「一応聞くけれど比企谷くん。あなたは?」
「一応ってなんだ……」
一応ってひどくない? クラスではあんまり関わりがないからってそれでもクラスメイトですよ彼。
少し考えてから比企谷くんが口を開く。
「あれだ、職場見学のグループ分け」
それを聞いて結衣がはっと何かに気付いた。
「……うわ、それだ。グループ分けのせいだ」
「「「え? そんなことでか?」」」
男三人の声が重なる。
おー、これって。運命感じない? 感じないよね。
「いやー。こういうイベントごとのグループ分けはその後の関係性に関わるからね。ナイーブになる人もいるんだよ……」
少し陰鬱な表情になる結衣を俺たちは不思議そうに見つめる。
しかし比企谷くんは納得が言ったような表情をしていて理解できたという感じになっている。
「葉山君、書かれているのはあなたの友達、と言ったわね。あなたのグループは?」
「あ、ああ……。そういえばまだ決めてなかったかな」
「ちょい待って。なら俺も書かれてるんじゃね?」
「確かに。グループ分けの話ならシュウも書かれてないと変じゃないか?」
「いやー。それはないと思うよ」
俺達の疑問を結衣は軽く否定した。
「俺も信楽は関係ないと思うぞ。この話はあの三人の中で誰が一緒に行くかだからな」
「わかりやすく説明してもらえるかな?」
隼人が笑顔で比企谷くんに説明を求めた。俺も気になるし話してほしい。
「あれだよ。あいつらは葉山と信楽はもう一緒に行くって思ってて、残り一人を勝ち取るための戦いだってことだよ」
「俺、隼人と一緒に行くなんて言ってないけど」
「周くんはあの三人より隼人くんと仲良く見えるし、あたしもそう見えるから……それで」
「由比ヶ浜の言ってることは正しい。俺から見ても解るぐらいだしな」
「そうだったのか……」
つまり、俺が悪いのか? いや、俺が居なくてもこんどは誰か一人がハブになるんだし変わらないか。
「……では、その三人の中に犯人がいると見てまず間違いないわね」
雪ノ下さんがそう結論出すと、珍しく隼人声を荒げた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はあいつらの中に犯人がいるなんて思いたくない。それに、三人を悪く言うメールなんだぜ? あいつらは違うんじゃないのか」
「はっ、馬鹿かお前は。どんだけめでたいんだよ、正月か。そんなの自分に疑いがかからないようにするために決まってるだろうが」
ここぞとばかりに比企谷くんが暴言を吐く。
隼人は悔しそうに唇をかんでいた。何も言い返せないような、信じたくないような、そんな憎悪が自分の近くにあることを認めたくないような、そんな表情をしていた。
「取りあえず、その人たちのことを教えてくれるかしら?」
雪ノ下さんは俺を見て情報を求めてくる。
しかし隼人が顔を上げた。そしてその目には友人の疑いを晴らそうという強い覚悟が宿っていた。
ならば俺は黙っておこう。
「戸部は、俺と同じサッカー部だ。金髪の見た目と反して一番ノリのいいムードメーカーだな。学校行事とかでも積極的に動いてくれる。いい奴だよ」
「騒ぐだけしか能がないお調子者」
「……」
雪ノ下さんの言葉に隼人が絶句していた。
「? どうしたの? 続けて」
いや、そんな不思議って感じで言わないでよ。今のはダメでしょ、まずいでしょ。
それでもさすがは隼人。気を取り直して口を開く。
「大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる、人を安心させてくれて寡黙で慎重な性格なんだ。いい奴だよ」
「反応が鈍いうえに優柔不断……と」
「お、大岡は野球部だ。人懐っこい性格で、上下関係にも気を配れる礼儀正しいんだ。いい奴だよ」
「人の顔色を窺う風見鶏、ね」
「…………」
言い終えた隼人は沈黙していた。確かにあんだけ悪く言われ続けば何も出てこないよな。
というか、雪ノ下さんマジ、ぱない。この人まじで警察とか適職。
「どの人が犯人でもおかしくないわね……」
「お前が一番犯人っぽいのは気のせいか?」
「私なら正面から叩き潰すわ」
「えーっと、で、これからどうするの?」
「そうね。葉山君の話だとあまり参考にならないから、信楽くん、由比ヶ浜さん、ついでに比企谷くん。あなたたちからはどう思う?」
「俺が言ってもあまり参考にならないと思うぞ。隼人と似たような感じだし」
「え、ど、どう思うって言われても……」
「俺はまずそいつらをよく知らん」
比企谷くんは確かにあんまり話したことないもんね……。というか話したとしてもヒキタニくんだもんね。
「じゃあ、調べてもらってもいいかしら? グループを決めるのは明後日、よね? それまで一日猶予があるわ」
「……ん、うん」
雪ノ下さんに言われて、結衣が戸惑いの表情を浮かべる。
「……雪ノ下さん。それは俺と比企谷くんでやる」
俺は暗に結衣にはやらせるなという意味を込めてそう言った。
調べるということは聞いたりするということだ。仲良くやろうとしている結衣にとってその行動はリスキーすぎる。
俺の言葉の意味を察してくれたのか、それとも元々解っていたのか、多分後者であろう。雪ノ下さんは目をそっと伏せる。
「……ごめんなさい、あまり気持ちのいいものではなかったわね」
「まぁ俺達のグループの問題だし、俺が早く決めなかったのにも多少は原因もあるだろうしね」
「……そう。よろしく頼むわ」
「え? 俺も?」
「当たり前でしょ、俺達部員その一、その二だよ?」
「はいはい。分かったよ。任せろ、人の粗探しは俺の百八の特技の一つだ」
「……期待せずに待ってるわ」
いや、そこは期待してあげようよ。珍しく文句言わなかったんだからさ。
「と、いう訳で、隼人も手伝ってよ」
「あ、ああ。あいつらの疑いを晴らすために協力させてもらうよ」
「ちょ、ちょっと! あたしもやるよ! ゆきのんのお願いなら聞かないわけにはいかないしね!」
「そ、そう……」
結衣が顔を赤くして雪ノ下さんに訴えており、雪ノ下さんはそう答えたっきり横を向いてしまった。照れてるのかな? そうだとしたら彼女らの仲はいいのだろう。それは良いことだ。
そんな二人の様子を見ていた隼人が爽やかスマイルで笑う。
「仲良いんだな」
「あ? ああ。あいつらはな」
「ヒキタニくんもだよ」
やっぱり、『ヒキタニくん』はいつ聞いても笑える。
翌日の教室で、結衣は燃えていた。
昼休み、いつものように隼人たちと飯を食べながら比企谷くんの方を見ると、結衣と一緒に何かを話していた。
内容までは解らないが、身振り手振りが激しい結衣を見る限る何かしらの行動を起こすようだった。
頑張りすぎて失敗しないように、と心で呟きながら結衣を目で追いかける。
「お待たせー」
「あ、ユイー。おそいからー」
女王様たちのグループに入って行く結衣。
さて、どういう話題から入るんだ……?
「てかさー、とべっちとか大岡くんとか大和くんとか最近微妙だよねー。なんかアレっていうか」
まさかのドストレート!!
マジかよ、ありえないでしょ。いきなりすぎるでしょ。
「え……ユイってそういうこと言う子だったっけ……」
ほら、海老名さんが引いてるよ。
「あんさー、ユイ。そういうのってあんまよくなくない? トモダチのことそう言っちゃうのってやっぱまずいっしょー」
おお、女王様がまともなこと言ってる。
これでは結衣が悪口言う嫌な奴みたいになっている。
むしろ、結衣がハブられそうだ、なにをやってるんだが。
まったく、これギャルゲーとかなら選択ミスでゲームオーバーだぞ。
俺はどう仲裁すっかなーと考えることにした。
「ちがっ!ちがくてっ! その、気になる、というか」
「なに、あいつらの誰か好きなん?」
え? マジで? 誰さ!?
って待て待て待て。あれは嘘だよ。うん、誤魔化しただけ。
「全っ然違う! 気になる人はいるけど……、それはアレな人だし……。はっ!?」
え!? 居るのか!? おいおいどうなんだよ!
「え、ええっと。そうじゃなくてっ! 気になるのは三人の関係性? なんか最近微妙だなーって」
あ、やっぱり結衣に好きな人なんていないよね。うん、あれも誤魔化しだよね。
「んだ、それか。つまんねー」
女王様は興味を失ったように携帯をいじりだした。
あ、気付いてはいたのね。
「わかる……。じつはわたしも気になってたんだ」
「そうそう! なんかぎくしゃくしてるってかさ!」
海老名さんは話題に食いつき、深刻な表情をした。
「わたし、思うの」
そう言ってため息を一回。
そんなに深刻に考えてくれていたのか、なんかありがたいな。
「――――絶対とべっち受けだと思うの! で、大和君の強気攻め。あ、大岡君は誘い受けね。あの三角関係絶対なんかあるよ!」
「あー、わかるわか、……ぅえ?」
「でもね、でもね! 絶対隼人くん狙いなんだよ! でもその隼人くんには信楽くんという相手が! くぅ~、友達のためにみんな一歩引いてる感じ、キマしたわぁ~!!」
前言撤回! ただのいつもの病気というかアレでした。
海老名さんは鼻血を出し大興奮。
結衣はすごい戸惑って「あうあう……」とか言っちゃってるし。
すると女王様がため息をついた。そう、いつものように。
「出った! 病気。おめ、黙ってれば可愛いんだからちゃんと擬態しろし鼻血拭けし」
女王様は意外と面倒見がいいのだ。
それを見て結衣はごめんのポーズを比企谷くんに送っている。
と、いうことは次は比企谷くんの番、か。どんなことしてくるんだろう?
なんだろ? と考えていると背中をとんっと叩かれた。
「って! 周くん! 聞いてる?」
「ん? ああ、聞いてなかった? なに?」
「やっぱりかー! いやさ、うちのコーチがラグビー部のほうにノック打ち始めて! やばかったんだわー。 硬球だったし」
「なら、ラグビー部に硬球の雨が降り注いだと」
「そうそう……あれはうちの顧問もキレてた」
「マッジウケんだけど! っつーか、ラグ部とかまだいいわ。俺らサッカー部やベーから。外野フライとかやばいでしょー! まじで! アツいわゲキアツだわ」
「そんなにか、隼人はそれ当たったのか?」
「いや、俺は当たってないけど。当たった奴もいたよ。久しぶりに驚いたわ」
いつも通りの会話だな。比企谷くんもなにもしてないみたいだし。
んー解決ならずか?
「悪い、ちょっとごめん」
そう言って隼人が比企谷くんの所に向かった。
俺はそのまま会話を続けた後、すこししてから同じようにして席を立った。
二人はやはり、あれのことを話しているようだ。そこに俺も加わる。
「それで? なんか解った?」
「それが全然。……いや、解った。……謎は、すべて解けた!」
え? あれ? 結局どっち?
放課後、部室には昨日の面々が集まっており、これから名探偵比企谷くんの推理の暴露が始まる。
「で、昼休みにいってた解ったってなに?」
「え? 私は全然わからなかったよ?」
「いや、見てたし。知ってるよ」
「ゆきのんごめーん!」
「構わないわ。これで女子が興味がないのと関わってないのが証明され、葉山君グループ男子の問題ってことになったのだから」
「ゆ、ゆきのん……」
感動で目をうるうるさせた結衣が雪ノ下さんに抱きつこうとしたが、雪ノ下さんはとっさに躱す。
そして壁におでこをごちっとぶつける。
なにやってるんだか……。
雪ノ下さんは呆れた様子で結衣のおでこを撫でながら俺に質問してくる。
「それで、由比ヶ浜さんでないとしたら、あなたは比企谷くんに言ったということでいいのかしら?」
「そうだよ」
「解ったと言っても犯人は解らなかった」
「……そう。見栄を張っただけなのね」
「いや、そうじゃねぇーよ」
「なら、なにが解ったのかな?」
隼人が笑顔でそう聞いた。
「あのグループは葉山のグループだってことだ」
「いや、今更何言ってんの?」
「えっと……ヒキタニくん、どういう意味?」
「ああ、付け加えるなら葉山と信楽のためのグループってことだよ」
「俺もか?」
「そんなことないと思うけど……」
いや、俺は関係なくてもあなたのことは事実ですよ。
「お前ら二人は、どっちもいないときの三人を見たことがあるか?」
「いや、ないけど……」
「ってか見えるわけないだろーが」
「そうだ。だからお前らは気付いていない。傍から見てるとあいつら三人きりのときは全然仲良くない。わかりやすく言えばな、あいつらに取っちゃ葉山と信楽は『友達』で、それ以外はの奴は『友達の友達』なんだよ」
それに反応したのは結衣だ。
「あ、ああ~、それすごいわかる……。中心の人がいなくなっちゃうと気まずくて携帯いじっちゃうもん……」
思い出したように言う結衣。その袖をちょいちょいと雪ノ下さんが引いて「……そうなの?」と聞いて、結衣はうんうんっと頷いている。
あれ? いつもと役が逆だな。
「仮に比企谷くんの言うことが正しくても動機の補強にしかならないわ。そこからどう犯人を突き止めるか……」
雪ノ下さんは顎に手を置いて考え始めた。
そこに比企谷くんが待ったをかける。
「別に探す必要はない。お前ら二人が望むなら解決する方法はあるぞ。これ以上揉めることもなく、……そして、あいつらが仲良くなれるかもしれない方法が」
そう言った比企谷くんの顔は笑顔だった。
悪魔のような笑顔、要するに悪い顔をしていいた。しかし、隼人はそれに頷き、取引をしてしまう。
ならば俺もそれに従おう。こういう時の比企谷くんはなぜか頼りになるのだから。
次の日、教室の黒板には名前が羅列されていた。
三人一組の名前、それは職場見学のグループを表している。
そこに書かれている名前の一つをちらっと見る。
戸部、大和、大岡
件の三人の名前が書かれており、その人物たちは話し合っている。
しかも三人だけで。
よくもまぁ、あんなことが思いついたもんだよ。
比企谷くんの考えはこうだ。
揉め事の原因である、葉山隼人と俺である信楽周を彼らから離したのだ。
つまりは発想の逆転である。そして、俺と隼人を離すあたりさすが比企谷くんと言ったところだ。
隼人は比企谷くんと組み(これは俺が仕組んだ)、俺は余っていたグループに入れさせてもらった。
ちなみち、俺とそいつらはあのグループの次に中のいい奴らのグループだったので問題はない。
俺達が名前を書いた後に隼人たちが来て名前を書いていく。
葉山、戸塚、比企谷
なん、だと!? 漢字だと間違わないんだな。
「隼人、これなんて読む?」
「え? あ、ヒキタニ?」
「ぶぶっ!? い、いや。な、なんでもない……」
吹き出してしまったが笑を堪えて誤魔化した。
そんなやり取りをしていると女王様が来た。
「周、隼人といっしょじゃないんだ?」
「え? ああそうだよ」
「あーし、隼人とおなじところにするから周、あんたもここにしな」
「いや、ちょ、ま」
「え? なに? もう書き換えちゃったから」
「え? 隼人くんと周くん一緒の所行くの?」
「あたしもそこに行くー」
「ぱないわ、ちょうぱない」
あれよあれよという間人が押し寄せ、女王様の後に続く兵隊のように同じ職場を書いていく。
人の波をかきわけながら俺は女王様と集団の外に出る。
「優美子……なにしてくれてんの」
「いいじゃん別に。ってかみんなで行った方が楽しいじゃん」
「いや、そうなんだけどね」
「ってか、あーし思ってたんだけど班違くても職場一緒ならよくない?」
「……あ」
確かにそうである。同じ所に行っちゃダメとは言われていない。
うわー、なんでこんな簡単なこと気付かなかったんだろう。
「あーしも言おうか迷ってたけど、解決できるなら当事者で解決できた方がいいと思ってさ」
「意外と考えてくれてたんだ」
「べ、別にっ! ただあーしは借りを返しただけだし」
「借り?」
「前のユイのやつ」
あー、あのとこか。でも確か。
「あれってカーディガンで終わりじゃないの?」
「あれもそうだけど、あーしはあれだけで返せたと思ってなかったし」
「と、とにかく! これで貸し借りなし! 一緒に行けることになってよかったじゃん」
言おうか迷って言えず、解決はしたものの一緒の所にはならず、でもどうやって一緒に行かせるか?上手くできないならクラスごと動かした。後のことは考えずに。まったく、この女王王様は。
「ほんと、不器用だよな」
「はぁ!? ほんと失礼だし!」
「それと、ありがとう」
「ふ、ふん!」
それだけ言ってプイッとグループの方に戻って行った。
全く持って不器用な女王様だ。
彼女は『これで貸し借りなし』と言ったがやはり、これは過剰にもらいすぎである。
価値観が違うのだからとらえ方も自由。だからこのことは俺にとっては借りであってもいいわけだ。
さて、この借りをどう返したものか。
俺は悩みながらも、全くいやではなかった。
むしろ考えるのが楽しいぐらいだ。
結論は早くなくてもいい。それでも考える。
さて、この借りをどう返したものか、と。
優美子押しになってきている気が……(笑)