やはり普通の俺には普通の学校生活しか送れない。   作:佐羅田

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長いです。


こうして物語は加速する

 

「彩華、あんなところでなにしてたの?」

 

「いや、別に」

 

「別にじゃないでしょ!」

 

現在俺は彩華と向かい合って話している。

というのも、なぜあんなところにいたのかを聞くためである。

 

「というより、なんで逃げたの?」

 

「いや、逃げたんじゃなくて。色々あるんだよ」

 

「あの人は友達か?」

 

「そう、あにきの知らない友達だよ。次からは夜遅くまで出歩かないから、これで許して」

 

お願いっと手を合わせて頼む妹。

さすがにこれをやられると俺も何も言えなくなる。

 

「今回は許すよ」

 

「やった! さすがあにき!」

 

「はいはい。それじゃ、あやすみ」

 

「ねえ、あにき」

 

部屋を出て、ドアを閉めようとしてま声をかけられた。

 

「どうしたの?」

 

「佐島さんのこと……まだ好きなの?」

 

言いづらそうに言葉を区切ってい聞いてる妹。

 

「彩華、その話はやめよう」

 

「ご、ごめん」

 

「それじゃ、お休み」

 

俺は返事を待たずに部屋を出て、自分の部屋に戻った。

しかし、なんでこのタイミングで彩華があいつのことを聞いて来たのか……。

考えるのはやめよう。考えても、もう意味はないのだから。

 

 

 

 

翌日、部室にはなかなかの人数がいた。

現在、ここにいるのは雪ノ下さん、結衣、比企谷くん、そして俺の奉仕部メンバーに加え、戸塚と材木座くんといったときどき部室に来る人たち。

今日はさらなる妙な人物が来ている。

いや、一度は来たことがあるため、全く無関係という訳でもないが比企谷くんや雪ノ下さんたちのような人種とはあまり関わり合いのない人物である。

その人物とは、葉山隼人その人である。

 

「んで、なんで隼人がここにいるの?」

 

「いやぁ、俺も結衣に呼ばれて来たんだけど……」

 

「由比ヶ浜に?」

 

比企谷くんが振り返って結衣に顔を向けた。

 

「や、あたし考えたんだけどさ、川崎さんが変わっちゃったのって何か原因があるわけじゃない? だから原因を取り除くっていうのは遭ってると思うんだけど、ああやって人の話聞いてくれないんじゃそれも難しいじゃん」

 

「ん、まぁそうだな」

 

結衣が珍しく理論を立てて話そうとしている。一同は黙って話の続きを聞く。

 

「でしょ!? だから逆転の発想が必要なわけよ。変わって悪くなるならもう一回変えれば今度はよくなるはずじゃん」

 

「で、なぜ葉山君を呼ぶ必要があったのかしら?」

 

やはり雪ノ下さんは隼人のこととなると若干棘があるんだよな。

 

「嫌だなーゆきのん。女の子が変わる理由なんて一つじゃん」

 

たっぷり間を取ってからまた口が開く。

 

「女の子が変わる理由は……こ、恋、とか」

 

恥ずかしいのか最後の方は声が小さくなっている。

無理すんなって。

 

「い、いやそこでなんで俺なのかよくわからないんだけど」

 

いや、そんなこと言ったら……。あーあ、ほら、比企谷くんと材木座くんの目が一瞬で変わったよ、あの目は完全にやばい目だよ。

 

「ほかにも女子に好かれそうな奴、たくさんいるじゃん。この中にもシュウとか……。戸塚だって結構モテるだろう?」

 

自分にモテる自覚があったことに二人は危ない目を引っ込めた。しかし敵意は消えてないな。

ってか、おい。俺まで巻き込むなよ。

 

「いや、俺はそんなそんな。なぁ戸塚」

 

「ぼ、ぼく、そういうのよくわからないから……」

 

俺たちの様子を見て結衣は腕を組んで少しばかり考えるしぐさをした。

 

「んー。さいちゃんもモテるとは思うけど川崎さんのタイプとは合わないと思う。中二は中二だし。そしたら周くんしかいないじゃん? でも念には念をってことで隼人くんに頼んだんだけど」

 

「おい、ナチュラルに俺を外すな」

 

「そして俺もナチュラルに混ぜないで」

 

「ヒ、ヒッキーは問題外なのっ! 周くんは手伝ってよ!」

 

そんな真っ赤になって言わなくても……。

 

「由比ヶ浜さんの判断は妥当ね。比企谷くん、あなたクラスで知られていて、靡く人がいるとでも思っているの?」

 

「ですよね」

 

あ、俺に対してのコメントは無なのね。

それはそれでショック。

 

「あ、やー、そういった感じじゃなくてね。なんというか諸事情によって残念ながらというか……、だから二人にお願いしたいんだけど……頼めないかな?」

 

「はー、結衣の頼みならやるよ」

 

「シュウがそういうなら……あんまり気は進まないけど、やるだけやってみよう。……結衣も頑張れよ」

 

そういってぽんと結衣の頭を叩く。おい、なにやってんだよ。頑張るのは俺たちだし、その手をどけろ。

 

「あ、ありがと……」

 

結衣は少し小さくそう呟いた。

なんだかんだで比企谷くんいわく『ジゴロ葉山&信楽のっ、ラブコメきゅんきゅん胸きゅん作戦(笑)』は幕を開けた。

いや、(笑)ってなんだよ。

内容は言うだけなら簡単だ。

ギャルゲーのように俺と隼人はあらゆる手段を使って川崎さんのハートをキャッチするだけ。

男子二人に言い寄られるとかもはや乙女ゲーだろ。

帰る準備を終えて、駐輪場へと移動した俺たちは時が来るのを待つ。

ちなみち俺と隼人どっちが先に行くか話した所、どっちも一緒にという極論になったので俺と隼人が駐輪場で待機、比企谷くんたちは少し離れ所に待機している。

というか完全に俺は引き立て役でしかないよな……。

そして、その時が来た。

川崎さんは昨日と同じように覇気のない、かったるそうな足取りでこちらに来る。

最初は隼人が声をかける。

 

「お疲れ、眠そうだね」

 

演技がうまい。とても自然になっている。

俺を続かないと……。

 

「バイトでもしてるのか?」

 

うわー。めっさ恥ずかしい。やばいわ。

 

「あんまり根詰めないほうがいいよ?」

 

俺たちが交互に話しかける。

 

「お気遣いどーも。じゃあ、帰るから」

 

自転車を押して去って行こうとする川崎さんの前に俺が立ちはだかる。

 

「まだ、話終わってないよ?」

 

ちなみに俺が不良系で隼人は優しい系でコンボを決めるのだとか……、死にてー。

 

「ちょっと、邪魔なんだけど」

 

どうにか通ろうとする川崎さんの後ろから優しい声が投げかけられた。

 

「あのさ……」

 

一回止まって隼人の方に振りかえる。

爽やかな初夏の風が通り抜け、ついでにへんな殺意もビンビン届いている。

風がやみ、最後のセリフを言う準備をする。

恥ずかしいけどやるしかない。

 

「そんなに強がんなくても、いいんじゃないかな?」

 

「たまにはちゃんと休んだ方がいいことだってあるんだぞ?」

 

隼人の優しい声の後に俺も続く。

そして、「「さぁ」」といって手を前に出す。

 

「……あ、そういうのいらないんで」

 

からからと自転車が、俺の横を過ぎ去っていく。

俺たちはたっぷり十秒ほど静止してから比企谷くんたちのもに移動する。

 

「なんか、振られちゃったみたい」

 

「なんというか、大切なものを失った気がするよ……」

 

…………。

 

「あ、いやご苦くっ……くくっ」

 

「ぶっ、ぷぷっ、グラーハハハバババ! ふ、ふられとる! ふられとるげ! あんたにカッコつけたのに二人ともふられとるげ! ぶぶぅはっははっ!」

 

「やめとけ材もくぅっくく……」

 

クッソー。この二人散々笑いやがってぇ……。

 

「二人とも! 笑っちゃダメだよ!」

 

戸塚に諌められているが全く収まりそうにない。

 

「ま、まぁ。別に気にしてないからいいよ、戸塚。シュウ、取りあえず落ち着いて」

 

二人に向かって歩き出した俺を隼人が手を掴んで抑える。

離せ、あの二人許すまじ……。

にしても隼人はいいやつすぎるだろう。

 

「葉山某……、そんなに強がらなくてもプー! いいんじゃないかなーっはっはっは!」

 

「ばっかっ! やめろ材木座! 笑わせんな!」

 

比企谷くんと中二が爆笑している中、結衣は顔を引き攣らせていた。

 

「こいつら最低だ……」

 

全くもって最低だ。俺は力を強めて歩き出す。

 

「だから落ち着きなってばシュウ」

 

すぐさま引き戻される。

やっぱり力が強い。さすがサッカー部。

 

「これも失敗、と。仕方がないわ。今夜もう一軒のお店に行ってみましょう」

 

「そだね……」

 

奉仕部に入って初めてこんな恥ずかしい思いをしました。

とりあえず中二だけは絶対許さない。

 

 

 

 

携帯の時計は午後八時二十分となっていた。

俺は待ち合わせの場所である海浜幕張駅の近くのモニュメントに腰かけていた。

これから向かうのはホテル・ロイヤルオークラの最上階に位置する『エンジェル・ラダー天使の階』というバーだ。

とってもオシャレな店だ。多分これが最初で最後になるだろう。

携帯をいじりながら待つと、声をかけられた。

 

「よう、信楽」

 

「えっと……あ、比企谷くんか。最初解らなかったよ」

 

「そうか?」

 

比企谷くんは黒い立ち襟のカラーシャツにジャケットを着た格好をしていて、髪型もいつもと違う。その恰好はなぜか様になっていた。

 

「なんか生活に疲れたサラリーマンっぽいよ」

 

「小町と一緒のこと言うなよ……」

 

あ、やっぱり、そういった感じで仕上げてきたのか。

俺たちはこれといった会話をすることもなく、待っていると戸塚と材木座くんがやってきた。

 

「ごめん、待った?」

 

「いや、今来たところ」

 

お前らはカップルかよ。

 

「うむ、やって来たぞ八幡、そして信楽某」

 

「おう。というかお前その恰好、何?」

 

「ふぅ、大人らしいと言われたからな。ゆえに、働く大人のスタイルをチョイスしてみたのだが」

 

「いや、それにしても作業着に頭タオルってなにさ」

 

「そんなことも解らないのか……」

 

やれやれと言ってきたのでこれは長くなると思い、後は比企谷くんに任せることにした。

しばらくして、こんどは結衣が登場した。

デニム生地の裾の短いジャケットを羽織り、下は黒チノに金ボタンがあしわられたホットパンツをはいている。

 

「おーい、結衣。こっちこっち」

 

キョロキョロしていた結衣に声をかけると、びくっと反応した後こちらにやってきた。

 

「あ、周くん、お待たせ。ってかヒッキー一瞬誰かわからなかった」

 

「んだよ。お前も信楽も。変か?」

 

「ぜ、全然変じゃないからっ! いつもと違いすぎて……」

 

へーとか言いながら比企谷くんをじろじろ見て頷く。

 

「これ、小町ちゃんが選んだでしょ?」

 

「え? そうなの?」

 

「ああ、よく分かったな」

 

「やっぱりね……」

 

「俺はわかんなかったわ」

 

さすがポイントちゃん。兄貴よりしっかりしてるな。

これで残りは一人だけだ。

いつ来るかなと思ったときに背後から声えをかけられた。

 

「ごめんなさい、おくれたかしら?」

 

白い。とてつもなく白かった。

暗闇の中にあってか雪ノ下さんの白いサマードレスは誰よりも、鮮明に美しく見えた。

 

「時間通りね」

 

「あ、ああ……」

 

俺以外にも雪ノ下さんに見とれていたらしく、比企谷くんの返事はそれだけだった。

 

「お前、もったいないお化けって知ってる?」

 

「馬鹿馬鹿しい。お化けなんていないわ」

 

あ、確かにもったいないお化けだな。

 

雪ノ下さんはさらりと受け流して全員の姿を流し見る。

 

「ふむ……」

 

そして、材木座くんから順に指を指す。

 

「不合格」

 

「ぬぅ?」

 

「不合格」

 

「……え?」

 

「不合格」

 

「へ?」

 

「まぁ、合格かしら」

 

「よっしゃ」

 

「不適合」

 

「おい……」

 

俺以外が不合格、比企谷くんに至っては何か違う。

 

「あなたたち、ちゃんと大人しめな恰好でって言ったでしょう」

 

「大人っぽいじゃなくて?」

 

「これから行くところはそれなりの服装していないと入れないわよ。男性は襟付きジャケットが常識。信楽くん恰好が例よ。すこし普通すぎるけれど」

 

「俺のモットーは普通が一番なんで」

 

「雪ノ下は知ってても信楽、お前よく知ってたな」

 

「いや、ネットで調べてから来たから」

 

「意外とつまんない答えだな」

 

「うっせーよ」

 

調べることは大事、うん。俺間違ってない。

 

「あ、あたしもダメ?」

 

「女性の場合、そのまで小うるさくないけど……。でも、エスコートするのがこの二人、とくに比企谷くんだとすると、ちょっと厳しいかもね」

 

「いやいやいや、ジャケットジャケット」

 

郷ひろみみたいにばさばさジャケットの存在感をアピールする比企谷くん。

 

「目の腐り具合は隠せないものよ……」

 

「え、俺そんなにかよ」

 

「それで、どうするの?」

 

「入店を断られて二度手間になるのも嫌だし、由比ヶ浜さんはうちで着替えさせたほうがいいかもね」

 

「え、ゆきのん家いけるの!? 行く行く! ……あ、でもこんな時間に迷惑じゃない?」

 

「気にしなくてもいいわ。私、一人暮らしだから」

 

「この子、できる女だっ!?」

 

結衣が大袈裟に驚く。

でも納得できちゃうんだよなー、料理もうまいし。

 

「じゃあ行きましょうか。すぐそこだから」

 

雪ノ下さんはそう言ってお高いとこで有名なマンションに向かって歩き始めた。

お。おおう、もしかしてブルジョアジーか……。

 

「じゃ、俺たちはどうする?」

 

「腹減って来たな」

 

「何を食す?」

 

材木座くんの問いに俺たちは顔を見合わせる。

 

「ラーメンだよね」

 

「ラーメンだよな」

 

「ラーメンだわ」

 

 

 

 

改札前で戸塚と材木座くんと別れる。

俺と比企谷くんは改めてホテル前に移動して二人を待っている。

結衣からのメールによると待ち合わせ場所はエレベーターホール前だ。

 

「おい、由比ヶ浜着いてるっぽいぞ」

 

比企谷くんが携帯を見ながら俺に向かって声をかけてきた。

俺は辺りを見渡して結衣の姿を探す。

 

「お、お待たせ……」

 

小さな声で呟いた女性はいい匂いがするお姉さんだった。

深紅のドレスを着こなし、アップに纏められた髪が気品さを醸し出してる。

 

「えーと……。あ、もしかして結衣?」

 

「え、あ、うん。由比ヶ浜結衣、です」

 

「なんていうか、大人っぽくて分からなかった」

 

「え、それっていっつも子供っぽいってこと!?」

 

「こういう場所で大声を出さないでちょうだい」

 

そう言って今度のドレスを身に纏った雪ノ下さんが現れえる。

 

「お前よくそーいうのいっぱい持ってるな」

 

「たまに機会があるから持っているだけよ」

 

「いや、普通そういう機会がないんだわ」

 

「そう? 時間が惜しいわ。さぁ、行きましょう」

 

雪ノ下さんがエレベーターのボタンを押す。

ガラス張りに包まれながら上へと昇る。東京湾が見渡せ、船の明かりや車のテールランプ、高層ビルも絢爛たる光が張幕の夜景を彩っている。

 

最上階はいいぐらいの明るさなバーラウンジが広がっていた。

 

「おい……、おい、マジか。これ……」

 

比企谷くんが圧倒され、言葉を漏らす。かくいう俺を声を出さなくても圧倒されていた。

 

「きょろきょろしないで」

 

「いっ!」

 

比企谷くんが変な声を上げた。

なんでだ、と思い視線を下に移すとヒールで足を踏まれていた。

うわー痛そう。声出さないでよかった……。

 

「背筋を伸ばして胸を張りなさい。顎は引く」

 

雪ノ下さんは俺たちに言って、比企谷くんの右肘をそっと掴む。

 

「あ、あの……雪ノ下さん? な、なんでせう?」

 

「いちいちうろたえない。由比ヶ浜さん、同じように信楽くんにしなさい」

 

「う、うえ?」

 

結衣が俺の肘をおどおどしながら掴む。

体の距離が一気に縮まりいい匂いが広がる。なんというか……その……。

 

「では行きましょう」

 

「お、おう」

 

現実に引き戻されて、二人の後に続いて行く。

ギャルソンの男性に連れられてバーカウンターに移動する。

そこにはバーテン服を着た泣きボクロの女性がいた。

というか、川崎さんがいた。

 

「川崎」

 

比企谷くんが小声で話しかえると、川崎さんはちょっと困ったような顔をした。

 

「申し訳ございません。どちら様でしょうか?」

 

「同じクラスなのに顔も覚えられてないとはさすが比企谷君ね」

 

「どんまい、比企谷くん」

 

雪ノ下さんの後に続いて俺も座り、結衣も席に着く。

 

「探したわ。川崎沙希さん」

 

雪ノ下さんが話を切り出すと、川崎さんの顔色が変わる。

 

「雪ノ下……」

 

その表情ははっきりとした敵意が込められていた。

 

「こんばんわ」

 

「ど、どもー……」

 

「信楽……、由比ヶ浜……。一瞬分からなかったよ。じゃあ、変えも総武校の人?」

 

「そうそう、比企谷八幡くん」

 

うっすと比企谷くんが会釈する。

 

「そっか、ばれちゃったか」

 

ふっと浅い溜息えおついてから、俺たちに一瞥をくれる。

 

「……何か飲む?」

 

「私はペリエを」

 

え、なに? ペリエ? 日本語?

 

「あ、あたしも同じものをっ!?」

 

「あ、俺も同じもので」

 

こういうのは雪ノ下さんのマネをしておけばいいだろう。

 

「比企谷だっけ? あんたは?」

 

「俺はMAXコー」

 

「彼には辛口のジンジャエールを」

 

言いかけた途中に雪ノ下さんに遮らぎられる比企谷くん。

川崎さんは苦笑まじりで「かしこまりました」と言って手際よく準備していく。

 

「それで、何し来たのさ? まさか振られたからってストーカー?」

 

「んなわけねーだろ!」

 

「落ち着きな、冗談だって」

 

「お前、最近家帰んの遅いんだってな。このバイ……くくっ、トのせいだよな? おと……くくっぅ、うと、心配してたぞ」

 

「おい、思い出して笑ってんなら怒るぞ」

 

全く、あれはマジで黒歴史だ……。

 

「――ああ、最近やけに周りが小うるさいと思ってたらあんたたちのせいか」

 

「大志から依頼されてんだよね」

 

「十時四十分……。シンデレラならあともう少し余裕があったけれど、あなたの魔法はここで解けたみたいね」

 

「それなら、後はハッピーエンドが待ってるんじゃないの?」

 

「あなたの場合、シンデレラというより人魚姫ね。待っているのはバッドエンドよ」

 

え、さっきから思ってたけどなんで仲悪いの? 面識あったの?

 

「……ねぇ、ヒッキー。どういう意味?」

 

「十八歳未満は夜遅は働けねーだろ」

 

「あ、なるほど」

 

「お前もわかってなかったのかよ……」

 

え、なんかごめんね。

 

「やめる気はないの?」

 

「ん? ないよ」

 

「あ、あのさ……あたしもほら、お金ないときバイトするけど、年齢誤魔化してまで夜働かないし……」

 

「別に……お金が必要なだけ」

 

「確かに……どうしても必要なときってあるよね」

 

「それはわかるんだけどよ」

 

「わかるはずないじゃん……あんなふざけた進路を書くような奴にはわからないよ」

 

「ふざけてねぇよ……」

 

「ふさげてないならガキってことでしょ。人生舐めすぎ」

 

クロスをぽいってカウンターに投げると、壁にもたれかかる。

 

「あんたも。……いや、あんただけじゃないか、雪ノ下も由比ヶ浜にもわからないよ。別に遊ぶ金欲しさに働いてるわけじゃない。そこらのバカと一緒にしないで」

 

比企谷くんを睨みつけた後、こちらに顔を向けてきた。

 

「あんたなら分かるんじゃないの? ねぇ……信楽」

 

視線が俺に集まる。

 

「あんた、転校してくる前大分やらかしてたらしいじゃないか」

 

「どういうことなの、信楽くん」

 

雪ノ下さんが怪訝な目で俺に聞いてくる。

結衣も比企谷くんも同じく目で訴えている。

 

「一年生の時クラスである噂が流れたんだよ『信楽周は転校してくる前にカツアゲをしまくっていた』ってね」

 

川崎さんは罪を見せびらかすように言葉を紡ぐ。

 

「そんな噂聞いたこと、ないよ……」

 

「そりゃそうさ。こいつの人当りの良さでそれがガセだって皆思ったから」

 

「ならなんでお前は今それを持ち出したんだよ」

 

比企谷くんが川崎さんに聞く。

 

「別に、ただこいつは大志からの依頼でやってるって言ったし。ここに来てからも止めようとしてないし。なにより、さっきのセリフの重さは本当にお金が必要になったことがあるやつのだったから」

 

「そ、それで、周くん。本当、なの?」

 

結衣が怯えるように聞いてくる。

ああ、そんな顔されたくないなー。

 

「そうだよ。それは事実だよ」

 

空気が凍る。

あれだけ言われて誤魔化しても、いずればれるだろう。なら、ばばれないことを期待せず、言ってしまった方がいい。

雪ノ下さんはため息をついた後そっと顔を伏せる。

 

「詳しくは言いたくない。というか今はしてないし。今回は川崎さん、君の話をしてるんだ」

 

「そ、そうだよ。川崎さん、なにか話してくれたら力になれるかしれないし」

 

「なに、言ったところでなにかしてくれんの? 親が用意してくれないお金あんたたちが用意してくれるんだ」

 

「そ、それは……」

 

「そのあたりでやめなさい。これ以上吠えるのなら……」

 

雪ノ下さんが凍えるような声で助けてくれる。

 

「ねぇ、あんたの父親さ、県議会議員なんでしょ? ならあんたが私にお金貸してよ。結衣もくだらないことでバイトするんだったらあたしのためにしてよ。それか信楽、あんたまたカツアゲして私のために稼いでよ」

 

「汚い金のために俺はそんなことしたんじゃない!!」

 

俺は気付くと立って怒鳴っていた。

グラスが倒れて、飲み物がこぼれている。

 

「ちょっと! ゆきのんのことも周くんのことも今は関係ないでしょ!」

 

結衣も続いて川崎さんを睨む。

人のために怒れるなんて、ほんと、いいやつだな。

 

「……なら、あたしの家のことも関係ないでしょ」

 

「由比ヶ浜さん、信楽くん。落ち着きなさい。私は大丈夫」

 

「今日はもう帰ろうぜ。正直眠い」

 

比企谷くんがあえて空気を読まずに発言し、一気に白けた空気になる。

 

「……そうね、今日は帰るわ」

 

「悪い、先に失礼する」

 

俺は千円札を出して比企谷くんに渡して無言でエレベーターに向けて歩き出す。

 

「あとでメールするからな」

 

後ろから比企谷くんの声が聞こえるが返事を返さずにエレベーターに乗る。

全く、あんな大声を出したのはいつ以来か……。

 

 

 

 

『朝五時に通り沿いのマックに集合』

俺は幾分冷めた頭で朝の街をメールに従い歩いていた。

中に入ると朝早いのにかなりの人がいた。

 

「周くん……」

 

「あなた信楽くんも呼んだの?」

 

「あ? 当たり前だろ」

 

「さっきはいきなり大声出してごめんね」

 

俺は三人に笑って謝った。

 

「これで全員そろったな」

 

後ろからポイントちゃんと大志が入って来た。

 

「中学生も呼んだのかよ……」

 

「さすがにお前の妹は呼ばなかったけどな」

 

比企谷くんはふっと笑った後、川崎さんに顔を向けた。

 

「川崎、なんでお前がそこまで金が必要だったか当ててやろう」

 

こんどは大志に顔を向けて言葉を続ける。

 

「大志、お前が中三になってから変わったことは?」

 

「えっと……塾に通い始めたとこくらいっすかね?」

 

大志の答えに川崎さんは唇を噛む。

 

「大志の塾にお金がかかる。しかしそこの問題は通っている時点で解決してるんだ。問題なのは川崎自信」

 

「そういうことね。確かに、学費が必要なのは弟さんだけではないものね」

 

雪ノ下さんは理解したように川崎さんに視線を向ける。

 

「姉ちゃん……。お、俺が塾行ってるから……」

 

「だから、あんたは知らなくていいって言ったじゃん」

 

川崎さんは慰めるように、大志の頭をぽんと叩いた。

いい感じに話がまとまった。

 

「けど、やっぱりバイトはやめられない。あたし、大学行くつもりだし」

 

「川崎さん。無理に頑張ったって失敗するのがおちなんだよ」

 

「信楽……。あたしに言われたことに対してのあてつけかい?」

 

「いいや、体験談さ」

 

俺は冷たい目で川崎さんを見る。

 

「盛り上がってることろ悪いけど」

 

比企谷くんが割り込むように話に入ってくる。

 

「川崎、バイトをすることなく、大志や家族を悲しませない方法ならあるぞ」

 

「比企谷、そんなことできるの?」

 

「ああ、川崎。お前、スカラシップって知ってる?」

 

 

 

 

外はまだ寒さに包まれていた。

俺たちは遠ざかって行く二人を見ていた。

 

「信楽くん」

 

「なに、雪ノ下さん」

 

「川崎さんの言っていたことなのだけれど」

 

「ああ、うん。話したくないっていったらどうする?」

 

「いえ、別に聞き出そうとは思ってないわ」

 

「ありがたい」

 

「ただ」

 

そう言って雪ノ下さんは俺を真っ直ぐ見つめる。

 

「あなたは部員だけれど、依頼者になれるってことも覚えておいて」

 

「……ありがとう」

 

小さくそう言うと顔をもとに戻す雪ノ下さん。

 

「それと、あなた由比ヶ浜さんが関わると少し感情的になるわね」

 

「んなことないだろ」

 

「あなたが昨日怒った時、自分のことを言われる前に少し体が動いていたわよ」

 

「よくみてたね」

 

「たまたまよ」

 

雪ノ下さんはそういうと比企谷くん達のほうに歩いて行った。

俺は小さく「おつかれ」と言って家に帰った。

 

 

 

 

試験期間一週間の全日程が終了し、今日は職場見学の日である。いや、テスト返却日でもあるのだが、あえて特筆することもない普通の点数だったので割愛しよう。

班などお構いなしに隼人の周りにはたくさんの人があふれていた。

まぁ、俺もそのうちに一人なんだけどね。

 

「ちょ、まじこっちのやベーって。ちょい来なって!」

 

「えーどれどれ」

 

「今行く……」

 

戸部、大岡、大和の三人は仲良く行動している。

 

「なんだ、信楽。元気そうじゃないか」

 

「あ、どうも平塚先生」

 

「うむ、それにしてもこのメカメカロードはすごいな」

 

ガラスの向こうで動く機会に感動する先生。

 

「多分ガンダムでも作れるようになるんじゃないですか?」

 

「そうか! やはりそう思うか!」

 

豪快に喜ぶ先生。

 

「そうそう、今後の勝負についてだが、不確定要素がありすぎてだな……。君の参加しながらも審判として立場からはどう映る?」

 

「比企谷くんの圧勝でしょうね」

 

「なぜかね?」

 

「俺の思いもよらない解決方法を生み出したりするからですよ。結衣のときも、材木座くんのときも、戸塚のときも、隼人のときも、そして、今回の川崎さんのときも」

 

「なるほどな。では雪ノ下の負けということか?」

 

「いや、答えまでの過程では雪ノ下さんの勝ちですね」

 

「なるほど……。なら圧勝でもなかろう?」

 

「言い方が悪かったです。俺の圧敗です」

 

「君はかわらんな。さて、私は比企谷のところに行ってくる。変更事項についてはおって連絡する」

 

「了解です」

 

俺の返事を聞いた後、平塚先生は去って行った。

 

「おーい周ー。ファミレス行くよー」

 

見学が終わり、皆でファミレスに行くことになった。

 

「ごめんごめん」

 

「なにしてたのシュウ」

 

「平塚先生とちょっと話をね」

 

「ふーん。そういえばユイどこいったーん?」

 

「なんか用事あるみたいだから先行っててだってさ」

 

「用事って?」

 

「聞かされてないなー」

 

「まぁ、後で来るしょ」

 

俺たちはぞろぞろと歩いてサイゼに向かう。

昨日とは違って人数を聞かれた後、何個か別れて近くのテーブルに

 

「さーて、何頼みますかなーっと!」

 

席に座るなり、戸部が元気よくメニュー表を見ながら叫んだ。

 

「ちょ、戸部。うるさいってーの」

 

「まぁまぁ、元気なのはいいことだよ」

 

「隼人、俺やっぱり結衣のこと見てくるよ」

 

「え、あ、うん。気を付けていってね」

 

見送られて、店を出る。

距離はそこまで遠くはない。しかし、俺は少し早歩きで戻ることにした。

建物が見えてくる。

車が残っているあたり、数人の教師はまだいるようだ。

出入り口から結衣が走って出てきたのが見えた。

 

「おーい、結衣」

 

俺が手を振って呼ぶと、驚いたような顔をしていた。

 

「や、やあ周くん。どうして、先行ったんじゃないの?」

 

「いや、遅かったから迎えにきたんだけど……」

 

「そ、そうなんだ。いやーなんていうか、ありがとうね。私なんかのために」

 

えへへと笑う姿はたまに見せる合わせ笑いそのものであった。

そして、俺は異変に気付く。

 

「結衣、もしかして泣いた?」

 

「え?」

 

隠していたことがばれた、と言わんばかりの表情だ。

 

「いや、だって目の下赤し……」

 

「そ、そんなことないよ。ちょっと眠くてさ。ね、あ、欠伸しちゃって。うわー眠いなー!」

 

必死に誤魔化そうとして笑う笑顔を今にも崩れそうだった。

俺はなぜだがイラつき始めていた。

 

「何があったの?」

 

「だ、大丈夫だって! ほら、行かないと!」

 

そう言って走り出す結衣。でも俺はそれに続かなかった。

 

「結衣、俺トイレしてからいくよ、先行ってて」

 

「わ、わかった」

 

力なく返事し、結衣は皆の下へ向かった。

 

 

一体なんで結衣は泣いていたんだろう?

理由が解らない。そして、なんでこんなにも胸が痛いのかも解らない。

 

何があったんだ……? 誰がやったんだ……?

 

俺がふと顔を上げると、入り口付近に比企谷が立ってこちらを見ていた。

比企谷ならなにか知ってるかと思い、聞こうとしたがそこで疑問が浮かんだ。

 

なんでまだ、比企谷くんが残っているんだ(・・・・・・・・・・・・)

 

もう生徒はとっくにいなくなっているはずだ。

しかし、残っていた。

 

なんで? 用事があった? 

 

誰と? ……結衣と?

 

俺が睨みつけるように比企谷くんを見る。

すると、比企谷くんは自虐的な笑みを見せた後、苦虫をすりつぶしたかのような顔に変わり、視線を下にはずした。

 

ああ、結衣を泣かせたのは彼だったのか(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

後から思っても、あの時の俺は軽率で、おかしい行動だったであろう。

しかし、胸に抱いた気持ちを抑えることはできなかったであろう。

 

 

 

 

「比企谷あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

俺は真っ直ぐ彼を見みて、声を荒げながら全力で走って行った。

張り裂けそうになっている拳をさらに握りながら。

 




急展開! 
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