この千葉市立総武高校の校舎は少々おかしな形をしている。
上空から見ると漢字の口のような作りになっており、その下に視聴覚棟の部分を付け足してあげれば我らの高校の俯瞰図の出来上がりだ。視聴覚棟はAV棟とも言われており、ちょっとエロいよねって思ったのは俺だけではないはずである。
道路側に教室棟、その反対側に特別棟がある。それぞれ二階の渡り廊下で繋がっており、これがうまいこと四角形を形成している。
校舎で四方を囲まれている空間が中庭である。
ここには、昼休みに女王様が運動したいと言った日や、隼人が気持ちがいいので外で食べようと提案したときに訪れることが多い。俺個人としてもこの場所は嫌いではないため、別に構わないのだが一つ問題がある。こっちが食事中なのにバドミントンなどをして楽しむ連中である。俺は食べ物に砂などがつくのをかなり嫌がる、イラッときてそいつらにぼろくそ言ってやったのはいい思い出である。その後、隼人が謝りに行ったらしいがそんなことはどうでもいい。
そして放課後になるとリア充たちがここに集まる。ぶっちゃけよくわからん奴らだ、なんで人前でキスとかできんの?意味わからん。ああ、意味わからん意味わからん。
平塚先生は床をカツカツしながら歩いていく、どうやら特別棟の方らしい。うちの学校はリノリウムの床を使っている、たしか焼却しても有害物質が出ないとても地球にやさしい素材で最初の名前はカンプテコンだった気がする。どうでもよかったねすいません。
無言で歩いてると平塚先生が話しかけてきた。
「君は何か言わないのか?」
「何かってなんですか?」
「いや、奉仕活動の内容について聞いてこないんだなと、ついでに逃げるための嘘とか」
「はあ、いや、もう逃げられんでしょう。それともうまいこと言えば逃がしてくれますか?」
「それもそうだな、私は逃がすつもりも言い訳も聞こうとは思わない」
「知ってますよ、まあ、特別棟になんて来ているんだから掃除か力仕事でしょうかね?」
「やはり君も彼と同じ意見なのだな、安心しろ君に頼むのは力仕事などではない」
平塚先生は少しニヤついた顔でこちらを見てきた。
力仕事でないなら残るのは事務だな、ぶっちゃけそれはそれで面倒なのだが。
「着いたぞ」
先生が立ち止ったのは、なんてことはないただの教室。しかし先客がいるようだ、中から声が聞こえてくる。
『……あら、臭いものだって自覚はあるの?』
『ああ、鼻つまみ者だけにっつって!』
なんだここ自虐お笑い部か?いや、完全にスベってたけどさ
「ここっすか?」
「ここだよ」
先生はドアを荒々しくしく開けた。
教室には椅子が何個も積みかさなっていて内装もこれといってされてない。その教室の真ん中に距離をとって置かれた椅子が二つあり、二人の人物がそこに座っていた。一人は男で確か同じクラスの人だったと思う、こちらを驚いたように見た後なぜか敵を見るような目で見てきた。二人目は女である、否、美少女である。総武高校に在籍しているのならば必ず誰しもが知っている人物、そう雪ノ下雪乃である。
「雪ノ下。邪魔するぞ」
「ノックを……」
「悪い悪い。気にしないでくれ。そして一人追加だ、こいつも頼む」
そう平塚先生は言って雪ノ下と会話する。
「彼もですか」
「よろしくやってくれ、そうそう彼の名前は」
「知ってします。
「おい、なんで俺の事は知らないのにそいつの事は知ってるんだよ」
無言だった男がそう声を上げた。あ、思いだした比企谷君じゃん。比企谷君の発言に雪ノ下雪乃は無視を決め込む。比企谷君ドンマイ!
そして雪ノ下は確認するようにこちらを見てきた。なんでしってんねん。いや、嬉しいけどさと思いながら挨拶することにした。
「そうです。どうも、初めまして、2年F組の信楽周です。よろしく」
って、よろしくってなんだよ、まずここなんだよ。
そう、俺が挨拶すると、なぜか気分を害したのかこちらを少しキッと見てきた。チョー怖い
「初めまして?私これでも目立つと自分でも自負しているのだけれど。何の感情がなくても忘れられるのは案外イラっと来るわね」
雪ノ下の発言に平塚先生はなんだ?知り合いだったのかとか呟いている。まて、全く覚えてないぞ、もしかしてあれか?小学校一緒だったか?いや、俺途中で転校したし小学校の時の記憶なんてほとんどないぞ。まあモノは試し用だな。隼人の時はそれでうまくいったし。
「や、やあ~久しぶり、小学校以来だったかな?」
「そうね。あなたの嘘の下手さは十分にわかったわ、でもそこの比企谷君よりは頭が回るようね。答えは正解よ」
しゃ、さすが俺、こっちって言ったら小学校の事しかないし、とりあえず当たってよかった。
「おい、雪ノ下。俺を貶めるだけに引き合いに使うのはやめろ」
「あら、別にそういったつもりはなかったのだけれど、あなたがそう思うならそうなのでしょうね」
「こんのアマ……」
それ雑魚臭フラグだわ、ってか君ら仲良いな
平塚先生は様子を見ていたがうんと一言うなずいて話し始めた。
「仲がよさそうで結構な事だ、信楽も雪ノ下の知り合いだったようだしな」
だよね、この人たち仲良いよね、あれ同じこと思ってたじゃん。これはフラグか?って俺は何で平塚ルートに入ろうとしてんだよ、わけわかめ。
「比企谷は捻くれた根性の更生と腐った目の矯正、信楽はその何事にも希望を持てない性格の改変に務めたまえ。では、私は戻る」
「先生ちょっとストップ」
「ん?なんだね?」
「俺、肝心のここで何やるとかなんも聞いてないしまずここ何部よ」
俺の質問に比企谷君も続けてきた
「そうですよ、なんですか更生って。俺が非行少年みたいじゃないですか」
お、今の表現上手いな
「質問が多いな、しょうがない答えてやろう。この部の目的は自己変革を促し、悩みを解決することだ。私は君たちのように改革が必要だと判断した生徒をここに導いている。」
「目的は解りました。では、ここの部の名前はなんですか?精神と時の部室ですか?」
「なんかいきなりしょぼくなったな」
俺の華麗なギャグに比企谷君がツッコミを入れてくれた。ありがとう、それがなかったら絶対にスベッてたよ
「信楽君全く面白くないわよ。そうねゲームをしてあげる、ここは何部でしょう?」
言われちゃったよ、この人の攻撃多分誰に対しても効果は抜群だなんだろうな、相手によってバトル中にプレート変えられるアルセウスかよ。なにそれ、チートじゃん。
俺が悩んでいるのがそんなに嬉しいのか比企谷君はニヤニヤしている。いや、目は合わせてくんないんだけどね。
「ヒント、私が比企谷君と話をしてあげること、これはあなたにも適用されるのかしら?」
全く持って意味不明である。こいつこんな奴だったのか。ってかあんた比企谷君の事好きだな、何回比企谷君って言うんだよ。某ロボットアニメの義眼の銀髪王子かよ。
俺がさらに悩んでいると比企谷君が勝ち誇ったように雪ノ下に言った。
「残念だったなこいつはうちのクラスのトップカーストグループの奴だぞ、俺とは違うんだよ!」
そんな悲しいこと言うなよ、こいつ自虐趣味でもあんのか?
「よくもそんな格好の悪いことを自信をもって言えたものね、気持ち悪いわ」
「おい、気持ち悪いとか普通に言うなよ、泣くぞ」
「そう。事実なのだから受け止めなさい。それと信楽君、あたなも群れないと生きていけない低俗な人たちの一人なのね」
「おいおい、その言い方はひどいだろ、雪ノ下さん。別に俺は金魚の糞をしてるつもりはねえよ、ってか俺は成り行きであそこにいるんだよ」
「俺は努力してもここだがな」
比企谷君、マジでなんもしてなくても罪悪感湧くから自虐やめてくんない?
「なら、どういう成り行きなのか聞かせてもらえるかしら?」
だいぶ脱線したがまあいいだろう平塚先生も退屈してるようだし
「俺がクラスでいたら話しかけられたんだよ『君、俺と小学校一緒だったよね?俺の事覚えてる?結構一緒に遊んだことあるんだけど』って」
「さっきの様子からするに彼の事も覚えてなかったんでしょうね」
「おう、だから適当に答えて家に帰ってアルバム漁ったよ、そしたら速攻出てきてそのまま学校でも話してたらって感じだ。ほら、俺は何もしてない。ってかトップカーストってなんだよ、そんなのどうでもいいだろう」
俺の発言に一同は驚いたような顔をしていた。いや、なんでさ?居心地悪かったらいねーよそんな所
「お前実はちゃんとした奴だったんだな。ただの友達ごっこしてる訳じゃないんだな」
比企谷君はそんな風に見てたのか、まあ、俺たち青春しています。って感じのテンションで話す奴はいるけどさ
「比企谷君はクラスでなかなか酷い目で見てたんだな、俺たちの事を」
「あら?比企谷君が同じクラスって知っていたの?」
「そりゃーな。比企谷八幡だろ?知ってるよ壁側の席に座ってたよな」
「お、おう」
なんで少し頬を染めてんだよ、やめろやめろ。あと最初名前出なくてごめんなさい
「よかったわね比企谷君。存在を知られててもらえて」
「うるせえよ」
雪ノ下雪乃は比企谷八幡をいじめて楽しんでいるのか。
なんとなく話題を忘れていた所に平塚先生が軌道修正に入る。
「話が逸れているようだぞ、そろそろ戻したまえ」
「そうだったわ。で、答えは出たかしら?」
「いや、俺には無理だ。答えを教えてくれ」
俺は考えるのをやめて答えを聞くと雪ノ下雪乃は高らかに宣言した。
「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」
俺がこれを聞いて思ったことは二つである。ひねれよ!!!そして変な部活に入部させられるって起こってしまうのか!である。まさか、俺の否定した実現が否定されるとはこれいかに
「さて、話は終わったようだな、聞いてる限り比企谷の更生にはてこずってるようだな」
「本人が問題点を自覚していないせいです」
先生の冷やかしに雪ノ下は冷然と答えた。
あれ、あの比企谷君の表情なんかバッドトリップしてない?
「あの……さっきから俺の更生だの変革だの改革だの革命機だの好き勝手言っちゃってくれてますけど、別に頼んでないんすけど……」
おい、心を読むな。ってか俺も求めてない
「あ、俺も求めてないっす」
「……何言ってるの?比企谷君の場合社会的にまずいレベルよ?」
雪ノ下は『1+1=2』くらいの当たり前を言うような言い方である。これ、俺逃げれるんじゃね?
「はたから見れば比企谷君の人間性は他の人より明らかに劣っているのだけど。そんな自分を変えたいと思わないの?向上心がないのかしら。向上心という意味ではあなたも同じく皆無だわ信楽君」
退路がなくなった。やっぱりこれが三次元だよな。うんうん。って嬉しくもなんともない。
「そうじゃねえよ。……変わる変われだの他人に俺の『自分』を語ってほしくねえんだよ。だいたいそう簡単に変わる自分が本当の『自分』なわけねえだろう。そもそも自己というのはだな……」
「自己を客観視できないだけでしょう」
あ、雪ノ下さんに遮られてちょっと悲しそうな比企谷君。ってかそのセリフ、デカルトの言葉じゃん。
「あなたのそれは逃げでしかないわ。変わらなければ前には進めないのよ」
なんかあたり強くなってないか?よし、俺は黙って見届けようじゃないか。どうせ逃げれないのだから
「逃げてなにがわるいんだよ変われ変われって……」
ん、とてつもなく長くなりそうだな、ってかこいつらの会話レベル高いよな。詭弁とか天動説とか地動説とか普通の会話でてこないだろう?まあ出てこないあたり俺はやっぱり普通の人間だよな。こいつらキャラ濃いよ。
そのあともうんたらかんたら話していた。
おいおいヒートアップしすぎだろ、我関せず。我関せず。
いきなりだが『矛盾』の話って絶対に守る盾と絶対に壊す矛にしたらオッケーだったんじゃね?ぶつけてどっちも壊れたら辻褄あうでしょ、盾の方は主を守れたし、矛の方もちゃんと壊せてるし。俺頭いい~。まあ俺が商人だったら質問した子に営業妨害とかイチャモンつけて保護者に買わせてトンヅラしてたね。どうでもいいか。
こんなくだらないことをグダグダ考えらえるだけ討論していたが最後の雪ノ下の言葉は耳に入ってきた。
「……それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」
おいおい、一体どんな人生を歩んで来たらこんなセリフが出るようになるんだよ。
俺には彼女が見てきたもの考えてきたものがとてもじゃないがわからなかった。
「二人とも落ち着きたまえ、信楽、君も止めるなりどうにかしたらどうだ?」
んなむちゃな。しかし平塚先生の言葉に空気は和らいだ。
「面白くなってきたな。私はこういう展開が好きなのだ」
おい平塚先生、目がジャンプってるよ。もうそれ週刊少年誌の目だよ。
先生は一人テンション高めで話を続けた。
「古来よりお互いの正義がぶつかったときは勝負をもって雌雄を決めるのがお決まりだ」
「なに言ってんすか?」
比企谷君の目がいつもり腐っていた。
比企谷君の発言を無視し先生は高らかに宣言した。
「これではこうしよう。これから君たちの下に悩める子羊を導く。彼らを君たちの正義の下救ってみたまえ。そして自分の正義を存分に証明したまえ。どちらがより多く奉仕できるか!?デュエル!スタート!」
「嫌です」
雪ノ下はそう一蹴した。比企谷君もうなずいている。やっぱりお前ら仲良いな
「先生。年甲斐もなくはしゃぐのはやめてください。ひどくみっともないです」
この人やっぱりすごいな。的確に抉っていくね!心を
あ~あ羞恥で顔が赤くなっちゃってるよ、しっかし顔はやっぱりいいよな。またかよ、どうやら俺は完全に平塚ルートに片足を突っ込んでしまってるようだ。足洗うのって小指一本で許してくれるかな?
「と、とにかくっ!自らの正義を証明するのは己の行動のみ!勝負しろと言ったら勝負しろ。君たちに拒否権はない」
「横暴だ……」
比企谷君は何か言ってるがどうでもいい。というか俺は確認しておいた方がいいよな。
「先生」
「なんだ、信楽?」
「景品はでるのでしょうか?」
「もちろんだ。どうせ比企谷なんかは適当にやっちゃえとか思っているだろうしな」
あ、それ、俺も思ってた。また思考が被ってしまった、末期だな俺。多分あの二つの大きな山が良からぬ電波を発信しているのだろう、けしからん。比企谷君は案の定目泳がしてるし。
「死力を尽くして戦うために、今回私が用意するメリットは勝った方が負けた方に何でも命令できる、というやつだ」
「なんでも!?」
比企谷君、それはダメでしょポーカーフェイスポーカーフェイス。ほら、雪ノ下さんが後ずさりながら防御態勢とっちゃってるよ。
「この男が相手だと貞操の危機を感じるのでお断りします」
「偏見だ!高二男子が卑猥な事ばかり考えてる訳じゃないぞ!」
え、違うの?違うな、違うことにしよう
「何を言ってるんだ?君たちだけじゃないぞ信楽、君もやるんだ」
え?俺も?まあわかってたけどね。そのための質問だったし
「あ、はい。じゃあ不戦敗で。ペナルティーはなるべくここに来るように心がけることで」
「だめだ、君も参加しろ」
「もともと二人の戦いですよ。俺が入るのは無粋ですし、作文にも書いたように意志がないと続けられませんし、つまらないじゃないですか。なのでおれの苦手な向上心を身に着ける練習として」
「う~む。よかろう。今回はそれで手を打とうじゃないか、しかし悩みの解決には精進して挑むように」
「了解です」
俺の作戦が決まる。さすが俺、まずこいつらに勝つなんて無理だよ俺には、なぜなら俺は普通なのだから。
「何を勝手に進めてるんですか?私はやりませんよ」
「さしもの雪ノ下雪乃といえど恐れるものがあるか……。そんなに勝つ自信がないかね?」
うわ、すげえやっすい挑発だな。
意地悪そうな顔で平塚先生が言うと、雪ノ下さんはいささかむっとした表情になった。
あれ?この人挑発とか乗っちゃうタイプなの?
「……いいでしょう。その安い挑発に乗るのは少しばかり癪ですが、受けて立ちます。ついでにその男を完膚なきまでに処理してあげましょう」
いちよ、俺も参加するんだけどね、もう比企谷君の事しか見えてないじゃん。そして完膚なきまでに処理ってなんだよ、そこは処理じゃなくて叩きのめすでしょ。こえーよ比企谷君が死んじゃうよ。
まあ二人の勝負だし審判Bでも俺は務めるとしますか。そして雪ノ下さんはかなりの負けず嫌いらしい。
「よし、決まりだな」
にやりと笑って平塚先生はそう言った。
「俺の意思は?」
「比企谷、そういうのはにやけ顔をやめてから言え」
「あ、はい」
「勝負の裁定は私が決める。基準はもちろん私の独断と偏見だ。あまり意識しすぎて本分を見損なわないように適当、適切に妥当に頑張りたまえ」
そういうと今度こそ出て行った。そしてチャイムがなる。今日の部活はこれで終了である。
最初に出て行ったのはむすっとした雪ノ下さんだ。当然、挨拶をせずさっさと帰って行った。残された俺は比企谷君にそれじゃと言って教室を後にし、携帯を見る。
不在着信 15件
未開封メール 4通
あ、忘れていた、今日は女王様がカラオケに行こうって言ってたっけ、
は~変な部活に加入され美少女に会おうが関係ない。結局はそれだけでしかない。
二次元で起こることが三次元で起こるはずがない。
やはり普通の俺には普通の学校生活しか送れないのである。
進路指導アンケートとかやってみたいですね。
進むペース遅いですかね?