やはり普通の俺には普通の学校生活しか送れない。   作:佐羅田

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ゆかり視点で語るもう一つの物語の終わり方です。


番外編 私は私の事が××です

私、佐島ゆかりには好きな人が居ます。

本当はもう佐島性ではないけれど、私はこの苗字でいつも人に挨拶します。

話しを戻して、その人と初めに出会ったのは忘れもしない小学校高学年の頃、ある放課後にまで話は遡ります。

 

その日は日直の当番が当たっていて、先生に雑用……もといノートを職員室にまで運ぶように言いつけられていました。

ノートの枚数は多くはありませんでしたが、私には重くて背も低かったために前もよく見えていませんでした。

ふらふらとした足取りで歩いて行くと、角から来た誰かにぶつかってしまいました。

当然ノートは廊下に散らばり、私は尻餅をついてしまいました。

すいませんと謝る前に大きな声が響いてきました。

 

「ごめん! 大丈夫だった?」

 

「え? あ、はい。大丈夫です」

 

ほんとごめん! とわたわたしながらノートをかき集めてくれる男子生徒は私よりも背が高い、今まで見たこともない人でした。

 

「ほんとごめんね! これどうしたらいい?」

 

「後は私が運ぶので大丈夫です……ありがとうございます」

 

人見知りの激しい私は目を合わせることが出来ず、メガネをかけ直し、小さく返事をしてからノートを持って走り出しました。

次の日、私のクラスでは一つの話題に持ちきりになっていました。おもに……女子の中で。

 

「ねぇねぇ! あの転校生さちょっとかっこよくない!」

 

「私もそれ思った! 体育の時も足早かったしね!」

 

「あたし告白しようかな~」

 

「花代ちゃんなら絶対いけるよー!」

 

よくも大声でそんな事を喋れるものだと思いました。

昔お姉ちゃんが言っていた女の子が好きな人について会話するときは牽制の印という言葉を思い出します。

牽制という意味が解らなかったので調べてみた所『相手の注意を自分の方に引きつけて 自由に行動できないようにすること』らしいです。

つまりは『手を出さないでね』という意味になるらしいです。

 

「ゆかりはどう思うー?」

 

「私は見たことないからよく分かんない」

 

「えー! なんでー!?」

 

なんで? と聞かれても会ったことがないのでどうとも答えられませんでした。

 

それから数日後、お姉ちゃんが一時退院しました。

またお姉ちゃんと登校できると考えると嬉しさでいっぱいです。

体が弱いお姉ちゃんですが、いつも私も守ってくれたり、助けてくれる頼もしいお姉ちゃんです。

意外にも器用なお姉ちゃんがたまあに折り紙で自慢してくるのは嫌ですが。

 

「いやはや、こんなにも学校に行くのが楽しみだとは思わなかったよ」

 

「なんでそんなに楽しみなの?」

 

「ん? ゆかりもいずれわかるさ」

 

お姉ちゃんはいつも難しいことを言う人なので私にはよく意味が解りませんでした。

ただ分かることと言えば、現段階遅刻寸前なことぐらいです。

 

運よくギリギリに校舎に入れた私はお姉ちゃんに今日は掃除当番があると伝え、自分の教室に入りました。

いつものように真面目に授業を受けると学校が終わり、掃除をし始めます。

自分の部屋を掃除するときは楽しい気分になる私ですが、こう公共の物となるとなぜかやる気が半減します。

それでもキチンと掃除を済ませると、お姉ちゃんの教室に向かいました。

扉を開けるとお姉ちゃんの背中が見え、その正面にはこの前の、廊下でぶつかった男子生徒が座っていました。

 

「お、お姉ちゃん……!」

 

驚きもあり、声が半音上がってからどんどん小さくなってしまい、男子生徒に笑われてしまいました。

その後なぜかジッとこちらを見つめてきました。

 

「こらこら、何人の妹もじろじろ見てるんだい?」

 

するとお姉ちゃんがからかう様にその人に言いました。

どうやら二人は仲が良いようです。

私はお姉ちゃんの後ろに隠れるように体を近づけましたが、挨拶を促されたので視線を合わせずに小さく挨拶をしました。

 

「佐島ゆかりです……。姉がお世話になってます……」

 

「俺は信楽周。よろしく」

 

爽やかな笑顔と共に出された右手を不思議にも、いつのまにか私は掴んでいて、つまり握手をしていました。

私は体が熱くなっていくのが分かったので、お姉ちゃんに下で待ってるからと告げて廊下に走り出しました。

一気に階段を下り、靴を履きかえると私は少し落ち着きを取り戻していました。

とても大きく暖かい手でした。

深呼吸をしてずれたメガネをかけなおすと、二人が楽しそうに階段を下りて現れました。

二人の一歩後ろからついて行き、交差点に差し掛かると、お姉ちゃんが私の手を握って別れの挨拶をしました。

 

「さて、僕たちはここで」

 

「そう? じゃあバイバイ」

 

「ああ、さよなら転校生くん」

 

私も小さく頭を下げて挨拶をしました。

私の手を握るお姉ちゃんはどこか楽しそうにわくわくした足取りで私を引っ張ってくれています。

お姉ちゃんの手も暖かく、とても心地がいいです。

その後の小学校生活は三人で行動していました。

といっても私はいつも一緒にいた訳ではなく、お姉ちゃんに誘われたときぐらいでした。本当は一緒にいたかったのですが、あまねさんと話すお姉ちゃんの楽しそうな笑みは今までに見たことがない笑みであったために私は遠慮しがちになってたのです。

そして私の心情にも変化がありました。

それは今までに体験したことがなくいものでした。

 

 

その感情の名前は――――『好き』という感情でした。

 

 

いつ好きになったのかは覚えていません。

ただお風呂に入り、大事に手入れしている髪を洗っている時にふと無意識に呟いた後、自覚しました。

自分で呟いた一言にびっくりしてあたふたした為にお姉ちゃんにからかわれ、お父さんに怒られたのは私の中でもベスト5に入る失態でした。

人見知りで恥ずかしがり屋な私に告白という最難関な事が出来るはずもなく、ずるずると時が経ってしまい、あの日が来てしまいました。

 

「ゆかり? 一つ聞いてもいいかい?」

 

「なに? お姉ちゃん?」

 

ある日眠る前、お姉ちゃんが私に話しかけてきました。

といっても別段変わった事ではなく、私は本から目を離して話をします。

 

「あーえっとー」

 

歯切れが悪く、何を言おうか迷っているようでした。

 

「あー、恋人って普通何するものだと思う?」

 

「え!?」

 

とても驚きました。

お姉ちゃんがそんなことを言うとは思っていなかったため、大声を出して驚いてしまいました。

 

「えっとーどうしたのお姉ちゃん?」

 

「うん、やっぱりそういった反応するんだね。僕の思った通りだよ」

 

「んー私もよく分からないけど……キス? とかじゃないの?」

 

「キスっか。……ふむ、難関だな」

 

どうしたのでしょうか? もしかしてお姉ちゃんに好きな人が出来たのでしょうか? それともまさかすでに付き合っているのでしょうか?

謎は深まる一方です。しかし解は直ぐに出ました。

 

「僕が転校生くんと……か」

 

「え?」

 

「おっと、口に出てしまっていたか……恥ずかしい。うむ、実を言うと僕は彼と付き合うことになったのだよ」

 

「そ、そうなんだ……おめでとう」

 

「ありがとう」

 

素直に喜びの言葉を出していました。

私の方が先に出会ったのに、私の方が先に好きになったのに。

布団に包まった私は延々とそんな惨めな負け惜しみを心の中で叫びました。

それでもこの言葉を声に出すことは私には出来ません。

大人のようなお姉ちゃんの真似をして、大人になれない私は大人ぶって自分の気持ちを抑え込みました。

 

 

私はうじうじする私の事が嫌いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学生になりました。

お姉ちゃんは代表挨拶に選ばれていました。

私と双子なのにどうして私とお姉ちゃんはこうも違うのでしょうか? 羨ましいです。

倒れることなくやり遂げたお姉ちゃんに労いの言葉をかけ、中学生活は始まりました。

私は『好き』という気持ちを捨てることが出来ずに、一年目は終わりを告げました。

本当に何もない、平和で楽しい日々でした。――――学校生活においては。

それに反比例するように家庭は荒れに荒れてきました。

お父さんは毎日酒や煙草に興じ一日中家にいます。

お母さんはたまに暴力を振られるようになりました。私は必死にそれを隠し、なるべく家にいない様に行動するようになりました。

 

そして最悪に日が訪れました。

 

晩秋に差し掛かった11月の終わりごろ、今までに見た悪夢よりも酷く残酷な現実が、崩壊の音を立ててやってきたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はつまらない授業を寝ない様に真剣に聞いていました。

あまねさんともお姉ちゃんともクラスが離れたため、私は一人です。いや、ちゃんと友達はいますよ?

授業は進み、折り返しの時間を過ぎた頃、教室のドアが音を立てて乱暴に開かれました。

私は勿論、クラスの皆や先生までもが一点に視線を合わせると、そこに立っていた人物が私を激しく呼びました。

 

「ゆかり!」

 

その人物とはお姉ちゃんの恋人であり、私の想い人である信楽周さんその人でした。

私は驚き、状況を掴めずにおどおどとしているとあまねさんは私の手を強引に引っ張ってお姉ちゃんたちのクラスに連れていかれました。

教室は青ざめた顔をしている生徒や、教師が一人の生徒に群がっていました。

その人物は浅い呼吸を繰り返して、教室に倒れていました。

 

「お姉ちゃん……」

 

お姉ちゃんが倒れていました。ありえない、ありえないと思いました。

私の声にも返事がなく、お姉ちゃんは苦しそうにしていました。

急に時間が遅くなったり、早くなった気がしました。

意味が解らない、なんでお姉ちゃんがこうなっているの?

私は自分の意識がハッキリしないまま、気付けば外に出ていました。

 

「あ、あ、あまね、さん。い、痛いです……」

 

私はとっさにあまねさんに叫びました。痛かったというよりも、自分の状況を把握したかったのです。

あまねさんはごめんと謝ってから手を放しました。

暖かさが、急に奪われる感覚に陥りました。

 

 

「これからどうしよう……」

 

「学校抜け出してきちゃいましたしね……」

 

あまねさんは必死のあまり、勢いで病院に向かおうとしたらしいです。

冷静ではありませんがその姿には少しお姉ちゃんに嫉妬してしまいます。

 

「ごめんゆかり、連れてきちゃって」

 

「いえ……私もお姉ちゃんのこと心配でしたから……」

 

「とりあえずここまで来たし俺は行こうと思うけど、どうする?」

 

「私も行きます……。ただ……少し、少し歩いている間手を握ってもらいません……か?」

 

私は俯きながら言います。

別に人見知りとかそういうのではありません。涙をみせたくなかったわけでもありません。

私は、不安定である私はあまねさんの優しさに付け込んだのです。

こんな時だというのに私は自分の事を優先しました。

最低な女です。

あまねさんはジッと握っていてくれました。

本当に彼は優しい人です。

 

 

私は身勝手で心の醜い私の事が嫌いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんが入院しました。

今は家族でも面会拒絶だそうです。

家はさらにぎずぎずし始め、お父さんの暴力もひどくなってきました。

そして私はお母さんからある事を聞かされました。

私が学校から帰ろうとすると、一本の電話がかかってきました。

お母さんからの着信であり、近くのカフェに来てというものでした。

 

「ゆかり、私達であの家を出ましょう」

 

到着したお母さんが初めに言った言葉です。

驚きは以外にも少ないものでした。

 

「あの家に居ては私たちは壊れてしまう。離婚して遠くに行くのよ」

 

お母さんは淡々と私に告げます。

もう覆すことのない決定事項のように。

 

「お姉ちゃんは……どうするの?」

 

「置いて行くわ。どの道ついてくるのは不可能だもの」

 

「でも! 私お姉ちゃんと一緒がいい!」

 

「無理よ……ゆかりには言ってなかったけど、実はもう由里は死ぬの」

 

言葉も漏れませんでした。

頭の中で死という言葉が反響し、私は思考をほうきしていました。

 

「それって……どういう、こと?」

 

「そのままの意味よ」

 

叫ぶことすらできませんでした。

そんな私を慰めることも、気遣うこともせず、お母さんはテーブルにお金を置いて出て行ってしまいました。

私はその後、ふらふらとおぼつかない足取りで帰宅して、涙が枯れるまで一日中泣きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とおまねさんはいつも一緒にお姉ちゃんの見舞いに行っています。

今日も病院に来ており、先ほどあまねさんは帰って行きました。

 

「お姉ちゃん……」

 

「どうしたんだい? 僕の顔になんかついてる?」

 

おどけた様子でお姉ちゃんは顔を触って変顔を作ります。

私を笑わせるためでしょう。

しかし、今日こそはキチンと言おうと決めていたのですっと涙をこらえて質問しました。

 

「お姉ちゃん、余命の事、あまねさんに言わなくていいの?」

 

「……いいんだよ。心配かけさせたくないからね」

 

「お姉ちゃんはそれで本当にいいの?」

 

「しばらく、黙っておいてくれないか? いう時は自分で決めるさ」

 

「分かった……」

 

私はこれ以上質問できませんでした。

しかし、私は嘘が下手です。顔に直ぐに出てしまいます。

バレル日はいずれ訪れるのです。

 

それは寒い寒い冬の日でした。

 

「最近元気ないけど大丈夫?」

 

お姉ちゃんの看病に行くにつれ、私はあまねさんに敬語で話すのをやめていました。

 

「大丈夫だよ……ちょっと疲れてて」

 

「ゆっくり寝た方がいいよ。荷物は俺が運ぶから家までついていく――」

 

「それはダメ!」

 

いきなり大声を上げてしまいました。それでも今日はダメなのです。

今日はお父さんの機嫌がとても悪いです。

それに家の事を知られたくありません。

 

「ずうずうしいけど、家庭で何かあったの?」

 

「なにも、ない」

 

私はは嘘が下手です。

下を向いて言ってしまったことでばれてしまいました。

 

「本当の事、俺には話してほしい」

 

私は沈黙のままずっと耐えていましたが、涙を堪えきることが出来ずぐちゃぐちゃの顔

のままさけびました。

 

「おねえ、ちゃん、が――――死ん、じゃう!!」

 

この時のあまねさんの顔はこの世の終わりのような顔をしていました。

私はお姉ちゃんの事、家の事、離婚の事、全て吐き出すように伝えました。

弱音を吐いて慰めて欲しかったのかもしれません。

実際にあまねさんは私の背中をずっとさすってくれていました。

そして話し終えると、私はあまねさんの強い瞳に気おされ、家まで連れて行きました。

 

 

そこからの光景はまさに地獄そのものでした。

 

 

 

 

訴えるあまねさんにお父さんは暴力を加え、非力な私では止めることもままならず、あまねさんは最悪な約束をかわしてしまいました。

 

あの事件以来、あまねさんはほとんど学校に来ませんでした。

当然私も関わりが少なくなり、たまに会う時も会話という会話をほとんど出来ずにいました。

 

 

そして、この地を旅立つ日が近づいてきました。

 

私はお姉ちゃんの病室に行き、最後の別れをこれから行います。

 

「お姉ちゃん……ごめんね……」

 

「ゆかりは悪くないさ。誰も悪くないんだよ」

 

「私にもっと力があれば……一緒に行けたのに」

 

「また今度会おうよ。僕が退院した後にでも。どうだい?」

 

「うん……そう、だね。また会おうね」

 

私はお姉ちゃんの抱きついて泣きました。ずっとずっと泣きました。

私はいつまでもお姉ちゃんに甘える妹のようです。

 

 

 

病室から出て公園にあまねさんを呼び出すと、意外にも素直に来てくれました。

背も伸び、大きくなったあまねさんからは前のような温かみはなく、ただ怖いと思いました。

 

「あまねさん。まだ続けているの?」

 

「そうだよ」

 

「やめようとは思はないの?」

 

「思わない」

 

「犯罪なんだよ!? 誰かを傷付けて、自分も傷ついて! そんなのおかしいよ!」

 

私は擦り切れた手を掴み、強引に説得しようとします。

乾ききった瞳からさらに雫がながれました。

泣いている私を慰めてくれると思っていました。いつものように慰め、もう無理をしないと言ってくれると思っていました。

しかし、私の声は届かず、あまねさんは手を振りほどいて帰って行ってしまいました。

この土地で手に入れた幸せはもうどこにも残っていません。

私は人形のようにお母さんの言われるままに行動し、そして、この土地を後にしました。

お姉ちゃんの死を知ったのは病院からの電話であり、お墓には一度も訪れませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから歳月は流れて今は高校一年生。

私は完全とは言わずとも、立ち直り始めていました。

身体の成長も著しく、胸も大きくウエストもしっかりしています。

自慢ではありませんが告白もされていますが誰とも付き合ってはいません。

私の好きという感情はあの日、あの場所に、あの人のままに置き去りになっているからです。

 

そして偶々友達と遊びに行った日に運命の再会を果たしたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が友達三人と千葉に遊びに行った日の事でした。

すれ違う人々は忙しそうに歩いていて、私たちも流れにそって歩いています。

すると一人の友達が指を指して嬉しそうに叫びだしました。

 

「見て! あの人かっこよくない!?」

 

「ほんとじゃん!」

 

私もつられて視線を動かしました。

そこにいた人物は確かにイケメンでした。

すっとした顔つきで髪も染めているのにチャライイメージはなく爽やかに笑っていました。

しかし、その人物の横には金髪にユルフワウエーブをかけた女性がいてさらに何人も他に居ました。

 

「うわ、なんだあの集団」

 

「イケイケ集団って感じだねー、イケメンもいるし」

 

私は会話に混ざらずに興味もなかったので適当に視線を動かしました。

そして、一点で止まりました。

その人物は黒に少し茶色がかった髪、コートをだらしなく来た人物でした。

 

私はその人を知っていました。

 

直ぐに疑問は次から次へと生まれてきましたが、私はただぼうっと見つめていました。

 

成長して背は伸び、顔も前よりかっこよくなっていたその人物は間違いなく信楽周でした。

向こうはこちらに気付く様子はなくどこかに行ってしまいました。

 

 

私は家に帰り押さえられない興奮を抱いたままずっと考えました。

 

もし、お姉ちゃんが目の前に現れたら喜ぶかな?

もし、生き返ったと分かれば付き合えるのかな?

 

私はお姉ちゃんと同じ顔をしています。

私はお姉ちゃんを良く知っています。

 

 

――――ならば、私は佐島由里になれるのではないか?

 

 

私はベッドから起き上がり、美容院に行って髪をばっさりと、記憶の中のお姉ちゃんに合わせるようにカットしてもらいました。

私はお姉ちゃんの喋り方の真似をして過ごすようにしました。

学校では普通に会話していましたが、髪は誤魔化しきれません。変な噂がたったり面倒な質問もされましたが、私はそれを全て無視してお姉ちゃんになりきる努力を始めました。

 

そして月日が流れ、私は彩華ちゃんとばったり遭遇しました。

彩華ちゃんは目を丸めて驚き、私を『由里さん』と呼びました。

何故だかとても嬉しい気分になり、私は本性を伝えた後、協力を得ることに成功したのです。

彩華ちゃんと一緒に尾行したり、計画を練ったりそれとなくあまねさんの気持ちをリサーチしてもらったりと、色々お世話になりました。とても力強い味方です。

 

そのまま私の中で佐島由里が定着してきた頃、匿名のメールが私に届きました。

タイトルは無し、差出人も無し、ただ本文は私の気を引くものでした。

『信楽周、暴力事件を起こし自宅謹慎中、今が事を起こすのに好機。』

騙されやすい私とてはいそうですかと信じる馬鹿ではありません。所々ぼやかして彩華ちゃんに聞き、本当の事だと分かると私は決心して、彼の家に行きました。

 

何やらすっきりしたあまねさんは私を見た後、直ぐに顔色を変えると驚きの表情を作りました。

第一段階成功です。私を佐島由里ときちんと認識したようです。

私は急ぐように、それでいてわざと周り諄く話を進めていきました。

あまねさんならまた付き合いたいと言ってくれる。

だってあんなにも必死だったのだから。

しかし、そう上手くは行きませんでした。

 

「俺はファンタジー、ご都合主義を信じない。由里、お前は一度死んだんだよ、その時点で俺はお前を認められない」

 

あまねさんの瞳には澄んだ光は色あせていました。

私は動揺をすぐさま隠し、話を続けました。

 

「へー、でも君は僕に生き返ってほしいと思ったことがあるはずだ」

 

「それは否定しないよ」

 

「ならば。その望みは成就され、僕はこうして生き返ったってことではダメなのかい? それとも、僕が死んだ後にゆかりにでも恋をしたのかい?」

 

「ゆかりとは転校して以来合ってないよ」

 

「そうなのか……。さて、ならば僕はもう一度君に恋してもらうしかなさそうだ」

 

人差し指を立たせて、すっと俺をさして片目をつぶりました。

とても恥ずかしいですが、こういったことを当然にやってのける姉だったために我慢しました。

それにしても、私はやはり異性として見られていなかったようです。

 

「俺はお前の事がずっと好きだったよ。だから、俺はお前と付き合えない」

 

「難しいことを言うな。それなら、一つ頼みがある」

 

「なに? 成仏かい? 俺に出来ることなら協力するけど」

 

「ふふふ。日曜日、一度だけデートしてくれないか?」

 

「それで成仏できるというなら」

 

「それしか考えにないのかい? それにほら、ちゃんと実体があるではないか」

 

椅子から立ってくるりと一回転。

可愛らしくポーズまで決めてみました。反応がなかったので諦めて話します。

 

「まぁいいや。ではそういう事で、日曜日楽しみにしているよ。……たしかに幽霊が消えるかもしれないしね」

 

「ん? 最後なんて言った?」

 

「なんでもないさ」

 

踵を返して階段を降ります。

確かにある意味での成仏かもしれません。私の好きという気持ちがお姉ちゃんの体を偽って使っているのですから。

この気持ちが叶わないとするなら、せめて、せめて、最後に気分だけでも味わいたいのです。たんなる我儘なのです。

 

 

私は諦めきれず未練がましい私の事が嫌いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は待ち合わせの30分前にはもうついていました。

緊張と恥ずかしさから、私は人気の少ないとこでうじうじとしています。

今日の服装はとても恥ずかしい。恥ずかしいのです。

いつもとは違うロングはどこへやら、ショートパンツという物を始めて着ています。

上の服にも防御力を削った服着用し、お姉ちゃんはよくこんな服を着れていたなと呆れるを通り越して恥ずかしさに埋もれました。

時間はずるずると経ってしまいどうにでもなれと私はあまねさんの前に走りでました。

仮面を被り何事もなかったことを装います。

 

「少し遅れてしまったかな?」

 

「そこまで待たされてないよ」

 

「うむ。それで……どうだい? 僕の服装は?」

 

恥ずかしさの中必死にポーカーフェイスをしながら少しズボンをつまんで伸ばそうとしますがほぼ意味ありません。

 

「うん、似合ってるよ」

 

「本当かどうか気になる所だがまぁいいとしよう」

 

エッチい目線であまねさんは見てきましたが、褒められたことに私は舞い上がってしまいました。

 

「さて、意外と広いものだな。どこから見て回るかー?」

 

「買いたいものとかあるならついて行くけど……その様子じゃなさそうだね」

 

「流石! よく分かってるじゃないか」

 

「そりゃどーも」

 

私はそのままの浮かれ気分の中で、自分が行っている事すら忘れかけるぐらいに会話をしながら服を見ています。

後になってもっと防御力のない、いつも見ないような服屋に行けばよかったと後悔しました。

私は買いものを済ませると、外で待っているあまねさん目がけて少し走り、声をかけましたがなにやら先客が居ました。

その人物は見た目中学生ぐらいの人懐っこい少女で、頭からアンテナが出ていました。

アンテナちゃんは私を見て驚いた後、あまねさんと何かしらのやり取りをして走って去って行ってしまいました。

私のからかいにもあまねさんは乗ってくれるようになり、少しは希望が出てきたのかな? と思いながら喫茶店に入りました。

 

私は飲み物を飲みながら今日一日の楽しい時間を思い出して笑みを零しました。

そんな私の姿をあまねさんはジロジロと見てくるので恥ずかしくなり顔を横にずらしました。

私の機嫌を取ろうと頑張るあまねさんを可愛いなと思いながら提案を飲んでサンドイッチを食べていると、いきなりあまねさんが奇抜な行動に出ました。

 

「いきなりメニュー表で自分を隠すなんて……どうかした?」

 

「いや、ちょっと今合い辛い知り合いが居て」

 

視線の先には二人でぎこちなく歩く男女が一組。

私服に纏った男と女が色々な店を覗き見るように歩いていました。

デートでしょうか? 女性の方はクールな外見の超絶美少女、男性の方も顔はいいのですが、目が完全にアウトでした。

その目が腐った男性の目蓋は少し青黒くなっていたので私は一つの可能性を導き出しました。

少し経つと二人はまた違う店を見に行ったのか、喫茶店付近からいなくなったのであまねさんは落ち着きを取り戻していました。

 

「ふー、危なかった」

 

「あれが被害者さん、か」

 

「よく分かったな」

 

「そりゃあ、言い方と彼の外見から推測できたさ。なんてったって殴られた人の顔をしている」

 

「ご名答、さすがだよ」

 

「褒めても何も出ないさ」

 

私はこれからの予定を考えつつ、日ごろ不器用な私が一生懸命の練習した鶴を折ります。

これでさらに私が佐島ゆかりだとばれることはないでしょう。

そして話題振りも忘れません。

 

「懐かしいじゃないか、昔からこうやって折り紙をしたよね」

 

「そうだね……。由里話がある、外に出よう」

 

まさかのあまねさんからの提案。私は素直について行きます。

 

「ふむ。何だかよく分からないが……着いて行くとしよう」

 

意外にも時間は経ち、青いがうっすらとオレンジ色がさしていました。

ショッピングモールを出て少し歩いた所にある人気のない公園に入り、あの時のようだと私は感慨にふけます。

 

「さて、今日は楽しかったね。それで? 話とはなんだい?」

 

「確かに楽しかったね、夢だとしても良い時間だったよ」

 

「んーどうしたら現実だと認めてもら……」

 

「もう、分かったから。演技はしなくていいよ」

 

息が詰まりました。なんでばれたのかわかりませんでした。しかし、前の私よりはポーカーフェイスを身に付けています。

 

「演技……? 何のことだい?」

 

「そろそろネタバラしだよ。由里……いや――――ゆかり」

 

ばれると思っていなかったため驚いた表情を作ってしまい。私はお姉ちゃんのニヤリとした笑みではなく、ゆかりで笑いました。

 

「どうして……分かったの? あまねさん」

 

「うん、確かに似ていたよ。顔も声もそっくりだ」

 

「なら、なんで……?」

 

「ゆかり、折り紙練習したんだね。鶴、前より上手くなってるよ。ただ、由里の作るやつよりはまだ下手かな」

 

「それだけ、なの?」

 

私は必死に泣きそうに溜まる涙を堪えます。

 

「それと由里には悪いけど、ゆかりはまだポーカーフェイスが出来てないよ。由里は感情を表に出しても分かりやすくないからね。ゆかりは恥ずかしがり屋が残ってるし」

 

「それはあまねさんがジロジロ人を見るからだよ……」

 

「あともう一つ、由里は胸が小さいからね。急にそんなあ成長するとわ思えないし」

 

「あまねさんのエッチ……」

 

私が唯一お姉ちゃんに勝てたもの。身体の特徴。それが仇になってしまいました。

私の声は段々と小さくなっていき、ついには俯いてしまいました。

ふっきれたとでも言いましょうか、私はぽろぽろと溢れ出てくる涙を我慢せず、泣き顔をみせました。

 

「あーあ、折角色々と頑張ったのに結局ばれちゃったなー」

 

「ゆかり……」

 

「ねぇ、あまねさん。お姉ちゃんが無理なら、私と付き合ってくれるの?」

 

私は大きくなったあまねさんの胸板に顔をうずくめます。

甘えているのです昔のように、私はまた彼の力を借りて自分の気持ちを全て吐き出します。

 

「私、本当はずっとあまねさんの事好きだったんだよ。初めて会った時からずっと。でも、お姉ちゃんと付き合ってるって知って、諦めた。だって敵わないんだもん」

 

私の涙はあまねさんの服を濡らしていきます。

 

「私が転校して、もう会えないと思っていたら、あまねさんを町でたまたま見つけたの。その時に私思っちゃったんだ。お姉ちゃんになりきればあまねさんと付き合えるのかなって。だから長かった髪も切って、コンタクトにして、普段しない服装までして、喋り方も変えて、彩華ちゃんにも協力してもらって……ねぇ、あまねさん。お姉ちゃんじゃない、由里じゃなくて、ゆかりで会いに行ったとした付き合ってくれた?」

 

たった今私は初めて私であまねさんと会話しています。

仮面を外して私は最後に質問します。

 

「ごめん、それは出来ないよ。実は俺、好きな人出来たんだ」

 

「そ、そうなんだ……。結局無理だったってことかー。あーあー私なにやってるんだろー」

 

私は一度でもそう見られたことがなかったうちに、お姉ちゃんしか見えてなかったあまねさんに新しい好きな人が出来たようです。

悔しさと共にお姉ちゃんに同情してしまいました。

 

「それでも、嬉しかったよ。由里にも、ゆかりにも会えた。入れ替わりだったけど昔のように三人で

遊んでいる気がして本当嬉しかった、ありがとう」

 

騙してたというのに彼は私を罵倒したり蔑んだりしません。

そうされた方がまだましでした。だってその方が諦めがつくから。

それでもあまねさんは優しく私に話してくれます。

 

 

そして――――される資格がないお礼まで。

 

 

「あまねさん、ほん、とうに、ずるいよ……。最後に、ゆかりでキチンと告白させて。結果が分かっているとしても、最後に」

 

私は最後に、本当の最後に小学生の時に言いたかった気持ちの全てを今ここで伝えます。結果が分かっているからしないという前の自分との決別と共に。

散ると分かっていても咲く花のように満面の笑みを浮かべて。

 

「あまねさん。ずっと、ずっと好きでした。付き合って下さい」

 

私は笑顔で出ている解にたいする質問をします。

一縷の希望持っていないといえば嘘になりますが、私はどんな答えでも待ちます。

 

「ごめんなさい。本当に嬉しいですが、好きな人がいるので付き合えません」

 

「あはは、振られちゃった」

 

私は我慢して笑て見せましたが、その場にパタリと座り込み、笑顔を必死に崩すまいとしながらも涙を流してしまいました。

その間、あまねさんは私の手を握っていてくれました。

いつものように、その大きく暖かい手で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が泣きやむ頃にはもうすでの太陽は消えていました。二人で夜の街を歩きます。

未だあまねさんは手を握っていてくれています。これが最後のお願いだと私は何度目か数えられないぐらいの最後のお願いをしました。

駅まではさほどの距離はないため、直ぐに時は来てしまいます。

他人から見たら今の私たちはそういう風に見えているのでしょうか? 多分兄妹かもしれません。

 

「あまねさんが恋した女性ってやぱりお姉ちゃんみたいな人なの?」

 

「んー似ている所と似てない所があるかな?」

 

「へー、一回見て見たいかも」

 

「見た目は由里と全然違うぞ?」

 

「それでも見て見たい」

 

涙はやんで少し元気が戻って来ています。

それとも枯れたのでしょうか?

 

「髪折角伸ばしてたのに……」

 

「いざ切るとスッキリするものだよー。前は長くて鬱陶しかったから」

 

「やっぱり大変なんだ」

 

「そうそう! 乾燥しだすとすぐに!」

 

なーんて、そんな訳ないじゃないですか。

入り口が見えたので私から手を解きました。そして一歩距離を取って見返ります。

 

「ここまででいいよ。今日は我儘に付き合ってもらってありがとう」

 

「家まで送ってあげたいけど、今日はついて行かない方がいいのかい?」

 

「うん……。じゃないとこのまま未練がましくなっちゃうから」

 

「そうか。気を付けて帰れよ」

 

「あまねさんもね! 最後に……あまねって呼んでもいいですか?」

 

私は近づいて、何度目かの本当に最後のお願いを耳下でささやきました。

あまねさんの顔が近く、恥ずかしくて顔が真っ赤になっています。

 

「いいよ」

 

「では、さようならあまね!」

 

私は小さく彼の頬に唇を添えて元気よく走り出しました。

そのまま振り返ることをせずに改札を抜けて、電車に乗ります。

あまねさんにキスをしてしまいました。

最後の別れというわけではないのに変なものです。

そういえばお姉ちゃんはキスできたのでしょうか?

あれで純情乙女回路のお姉ちゃんなので、キスがカップルの到達点だと勘違いしているかもしれません。

となると、私もそれに近づいたのでしょうか? それでも私は正規のヒロインではないので頬っぺた止まりですが。

欧米ではありふれていて特別でなくとも、私の取っては特別です。

なんてったってファーストキスですから。

 

それにしても、あまねさんはなんて惜しいことをしたのでしょう? 

こんなに美人な人が好きと言っているのに断るだなんて。

私ほどいい女はもう現れないかもしれないのに、バカな人です。

 

 

 

 

なーんてね。

 

 

 

 

バカは私です。

あの人ほど好きになれる人はもう現れないでしょう。

 

 

 

私は心の中でお姉ちゃんに伝えます。

 

 

お姉ちゃん、私ちゃんと頑張ったよ。

 

 

自分の気持ちを素直に伝えたよ。

 

 

今度会う時があれば励ましてね。

 

 

『会えたら』ですが。

 

 

電車はこみ始め私は席を譲ってドアによし掛かります。

雨は降っていないのに夜景がにじんで見えます。

 

 

 

 

 

 

私はうじうじする私の事が嫌いです。

 

 

 

私は身勝手で心の醜い私の事が嫌いです。

 

 

 

私は諦めきれず未練がましい私の事が嫌いです

 

 

 

 

 

だけど私は、

 

 

 

 

――――優しいお姉ちゃんを好きな私の事が大好きです。

 

 

 

 

――――私の大好きなあまねを大好きな私の事が大好きです。

 

 

 

 

――――諦めない私の事が大好きです。

 

 

 

 

今度は正々堂々、正面から、素直に、『好き』を伝えていきます。

 

 

 

だから、

 

 

 

 

――――――私は私の事が大好きです。

 

 

 

 

 

 

 

 




楽しんで頂けたのなら幸いです。

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