さて、俺は普段グレーのカーディガンを愛用している。他にもあるがそのほとんどが黒系のものであり、派手な色のものは持ってはいない。が、今日はグレーを洗濯してしまったため黒色を着ている。
そして、昼休み。
「あれ?シュウ今日は黒色なんだな」
「ああ、洗濯しててな。まぁ、たまには別の色もいいだろ」
「ってかさー、なんで周そんな地味なやつばっかなん?」
「なんでって、特に理由はないけど」
「周は、顔いいんだからもっとオシャレしてもいいっしょ」
「いや、別にそんなことないでしょ」
「いや、意外と周くんに好意抱いてる人っているんだよ?さが」
「ちょ、ユイ。言うのはよくないっしょ」
確かに聞いても俺は困るだけだ。ほんとこれだから天然は……。
「そうだよね、ごめん」
「俺、オシャレってあんまりよく解んないんだよねー」
ここは聞いていないふりをしよう。
「そろそろ夏も近くなったしそれだと暑いんじゃないのシュウ?」
「かもなーこんど薄いやつ買にいこうか」
「オッケーなら部活ないときな」
「え?なになに?葉山くんと信楽くん買い物いくん?」
「ああ、カーディガンを買いにな」
「うっわ、超楽しそうじゃん!俺も一緒にいってバリバリ選んじゃいますよー!」
「おお、なら戸部も一緒ってことで、いいしょ隼人」
「そうだね皆いた方が楽しいし」
でもめんどい時もあるぞ。集団で行ったら、飽きが出るし。
「えーなら、あーしも行くしー」
「いいけど、なんで?ああ、はや」
そこまで言って口を閉じられた。
「はー!?違うし、この前周に言われて少し反省してるっていうかなんというか……」
この女王様が珍しくハッキリしない喋り方をしている。
「とにかく!あーしも選ぶの付き合ってあげるって言ってんの!」
「サンキュー」
取りあえず礼を言っておこう。
「なら、いつにするか」
後は隼人がうまく日程を決めてくれるはずである。
「ってか、放課後でよくなーい?」
急だな、お金あったかなー。
「俺と戸部は部活ないからいいけど……。シュウは大丈夫なの?」
俺は財布の中身を確認する。
「多分大丈夫だと思う、めっちゃ高いやつでなければ」
「オッケ、じゃあ放課後で。ユイはどうするん?」
「あたし、今日行かなきゃだし」
「あっそ、じゃあ、海老名は?」
「わたしは大丈夫だよ、イベントもないし」
なんのイベントだよ……。いや、知ってるけどさ。
「じゃあ、決まりだな。大岡と大和は部活あるし」
「オッケー。じゃ、放課後ね」
こうして、買い物に行くことが決定したのである。奉仕部は……休もう。どうせ依頼者は来ないだろうし。って結衣は来ないんだな。
え? 俺は何残念がってるの? いや、そんなことはないさ。
そして放課後、隼人と主導のもと俺たちは電車に揺られながら目的地に向かっている。
「それで、シュウは薄手以外の要望ってあるの?」
「ん?特には。適当に二、三枚あればいいかなーって」
「ならさ、パーカーとかも買ってみね?俺とオソロ的な?」
「んー金が余ったらな。でも解りやすいオソロはヤダぞ」
「うわー嫌がられたー。傷つくわー」
「なんでそうなる」
「いや!いいと思うよ!というかそのままくっついて!」
海老名さんが興奮しながらそう言ってきた。
「それはないわ、さすがにないよ海老名さん」
「なら、葉山くんと!」
「はいはい、解ったから黙って鼻血ふくし」
ナイス女王様。
「まぁ、色々見てから決めような」
そして目的地に着いた。ここのデパートは若者向けの店舗が多いこともあって人気がある。
「んじゃ、さっそく選びましょー」
戸部の合図で店の中に入って色々探す。
ふむふむ。なかなか揃っている。さて、取りあえず材質がいいのでも探しますか。
「シュウ、これなんかいいんじゃない?」
隼人がすすめてきたのは明るめのグレー色で、これといって派手な部分はないがポケットの入り口部分だけ黒くなっているものだった。
「落ち着きもあって少しオシャレの部分があるんだけど、こんな感じならいいじゃない?」
「そうだね、これは俺の好みの感じだわ。候補として持っておくよ」
「そうか。じゃあ、また新しいの探してくるね」
「ありがとう」
さて、俺もなんかいいのないかなー。うん、これなんかさわり心地いいな。またグレーだけのだが。
「周。こっち来てー」
「はいよ」
「これなんて、どうーよ」
女王様は自慢げに見せてきた。なんというか、ハデハデだった。
「却下で」
「ちょ、え、選択早すぎだし!」
「だって、派手すぎだよ。俺そんなの学校に来て着たくないよ」
「はー、あっそ。選びなおす」
「お願いします」
「信楽くん、これなんてどうかな?」
次に声をかけてきたのは海老名さんだった。
「ん?どれどれ?」
「これなんだけど」
そう言って海老名さんが見せてきたのは、なんてことない普通のカーディガンだった。身構えていたこともあり少し拍子抜けであった。
「普通だね」
「え?どういう意味?」
ベージュ色をしたカーディガンだった。ボタンの所が一個ずつ装飾されていて結構こったデザインだ。
「いや、なんでもないよ。これいいね、候補としてもらっとくよ」
俺の言葉を聞いて少しニヤっとした、海老名さんだった。
「やっぱちょい待ち、海老名さんなんかかくしてるしょ」
「なにも隠してないよ」
「いや、顔ニヤけてるし」
「え!嘘?」
「ほんと、ほんと」
「いや、本当に何もしてないよ、ただ妄想してただけ!」
「それはそれで危ないよ……」
「取りあえず、気に入ってもらえてよかったよ」
「う、うん。ありがとう」
海老名さんは表に出してるけどああいうのって実際は隠すもんだよな……。まぁいいか。
さて、大体見たよな。って皆さん色々行きすぎでしょ、違う店入ってるし。俺は二つのカーディガンを買った後、休憩がてらベンチに座った。
人多いなーなどと考えてると女王様がこちらにやってきた。
「あれ?なんで周座ってんの?」
「ん?休憩」
「あっそ、ならあーしも」
「そーいえば、優美子何で今日付き合ってくれたの?」
「まぁ、色々あるけど、少し手伝ってやろーかなって思ったんだし」
「いや、それって隼人がいたから?」
「は!?ほんとストレートに聞いてくるし!」
「答えたくないならいいんだけどね」
「いや、なんというかユイのこととかあったし。お礼ってかそんな感じで、なんて言ったらいいか解んないからこれでちょっとは役に立てたらっていうか」
何いってんのかよく解らんが大体は解ったきがする。
「よーするに、お礼がしたかったけど上手いやり方がわからず、選ぶのを手伝って役に立ちたいと思ったであってる?」
「そ、そうだよ」
「回りくどいな」
「そんなん言われてもあーしそういうのよく知らなかったし」
女王様なりに色々考えてくれたのだろう、しかし、謝ることに慣れていなかったからよく解らなかったし多分彼女は不器用なのだろう。
「まぁ、その、なんだ。ありがとうね、それと優美子って不器用だよね」
「はぁ!?ちょ、こんなんで得意になってもこまるんだけど!あーしもう行くから!」
「はいはい。ありがとうございます」
俺が言うと女王様は行ってしまった。それでも探してくれるのだからとても優しいのだろう。ただ、不器用なだけである。
その後も色々見たがいいのはあまりなかった。途中戸部が変なドクロのついたやつ持ってきたと思えば、今度は海老名さんがどっから持ってきたんだよって感じのホモってるTシャツを持ってきたり。途中途中、脱線したが最後に女王様が持ってきた控えめの青色のカーディガンは気に入ったので買うことにした。
俺が今回買ったのは三つのカーディガンと一つのパーカーだった。パーカーは言わなくてわかるが戸部が大絶賛したパーカーで見た目もそんなに悪くなかったので買うことに決めたのである。
その後は皆、自分の買いたいやつを探すとなったので女王様の買いものに付き添った後、隼人と戸部がシューズを見に行き、最後はゲーセンでばっちり遊んだのであった。
そして今はカフェに入っている。
「いやー楽しかったし」
「そうだね、俺もだよシュウは?」
「ん?ああ、楽しかったし選ぶの手伝ってくれてありがとう」
「いいって、いいて、俺たち友達じゃん?」
戸部の言葉で笑ってその後も優美子が言っていた。
「ってか、あーし飲み物選んでくるわ」
「俺も行くよ、ゆみこ。シュウはいつものでいいしょ?」
「頼んだー。ここは、俺と海老名さんで場所取りしとくから」
「おっけー、じゃ、行こうか」
そう言って三人は行ってしまった。さて、なんの会話をしようか、俺がそう考えてると海老名さんから話題を振ってきた。
「信楽くんはわたしだけ、苗字でさん付だよね」
「うん、そうだね。嫌だった?」
「嫌っていうか避けられてると思ってた」
「そんなこと思ってないよ」
ただ、関わりが少なかっただけだよ
「ってか、海老名さんも俺の事苗字だよね、俺の苗字って言いづらいけど大丈夫?」
「確かに最初は言いづらかったけどもう慣れたよ」
「なるほどね」
ここで会話は終了した。海老名さんも携帯をいじってるし、俺は考えることにした。何を?結衣のことである。
俺はあの時になぜああ思ったのか、俺自身でもよく解らなかったのだ。謎だーと考えてると隼人たちが帰ってきた。
「サンキュー」
俺はそう言って抹茶を受け取る。皆はカップチーノだとかやたら名前が長いやつだかを飲んでいる。
隼人たちは色々話し合っている。俺もそれに混ざったり混ざらなかったりしてゆっくりとした時間を過ごす。
俺は今店の外を見てボートしている。カップルでいるもの、俺たちのように集団で来て服を選んでいるもの、ベンチで寝ているもの、走っている小学生たち、皆様々だ。やっぱり人多いよなーあっちから見たら俺たちも一集団に過ぎないんだよなーなどと思ってしまう。最近比企谷君の卑屈さがうつったのではなかろうか。んな訳あるか。
あ、女子高校生たちがいる、どこの高校の制服だろうか、まぁまぁ可愛い子がいるなー。私服の子もいる、ってかあの子が一番可愛いと思う。顔はよく見えないが。もう少しで見えるなーなどと男子高校生をしている。
そして、顔を見た。見てこう思った。
――――――なんで、なんで
訳が解らなかった、意味不明だった。俺は動揺のあまり、零してしまっていたらしい。そして立ち上がっていた。しかし視線は変わらない、ずっと一点を見ている。しかしどんどん遠くなっていく。追い駆けなければ、人ごみに紛れてしまう。隼人たちの心配そうな声も聞こえず全力で俺は走り出した。
店を出て見渡す、いない。
走って階段の上から見下ろして探す、いない。
なら、まだ走るしかない。そう俺は思ったが止められた。
「シュウ!」
「どうしたんだし周!」
後ろから隼人に掴まれその後から三人がやってくる。俺はそこで冷静さを少し取り戻すことができた。完全に足が笑っている。ここにきて帰宅部だったことを後悔する。
「いや、なんでもないよ」
「なんでもないわけないだろ!あんな表情初めて見たぞ!」
「いや、本当に。ちょっと昔の知り合いに似てる人がいてね。焦っちゃって、ごめん」
「信楽くん、大丈夫なん?」
「ああ、心配ないよ戸部、隼人も優美子も海老名さんも心配かけてごめん」
「信楽くんが大丈夫ならいいんだけど……」
隼人はまだ納得してくれてないようだ。目がそう言っている。
「本当に心配かけてごめん。帰ろうか」
俺はそう提案して店に戻り荷物を持って帰ることにした。
せっかく、いい放課後だったのになー。まぁあれは見間違いだろ。生き返るなんてそんな二次元だけだ、ここは、三次元だろ。
帰りの電車では普段より明るく振る舞ったこともあって皆も普通通りに接してくれた。
そして駅で別れる。
「今日は皆選んでくれてありがとう、大事にするよ」
「ほんと、びっくりしたけど周がなんでもなくて安心したわー。あーし結構心配したんだからね」
「ほんとよー俺もマジびっくりしたわー」
「まぁ、取りあえず、なんでもなかったってことで」
「また、買い物行こうぜ」
「そうだね。それじゃーねー」
俺はそう言って家に帰る。
歩きながら今日見たのは他人のそら似だと結論づける。
ああ、悪夢ならさっさと覚めてくれ。
俺はそう、切実に思った。
ちょっとしたシリアス?をしてみました。