大長編 STAND BY ME ゼロえもん ――僕の新世紀・新エロマンガ島――   作:ぽんこっこ

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第20話:東京アンダーグラウンドにようこそ!

 

 

 

「「「「うおおおおおおーーーーーー!!!!」」」」

 

 

 

 僕らは勝ちどきを上げた。

 

 正直言うと、エロえもん以外はほぼ何もしてないのだが、上げずにはいられなかった。さながら、ロケット打上げ成功時の管制室と化した蒸し暑いパソコン室の中でひとしきり興奮を分かち合った後、「早く見ようぜ!」と再び画面に戻っていく。

 

「……なんだこれ?」

 

 しかし、そこに映っていたのは、最初に見た質問サービスより殺風景な灰色の画面だった。左端には上から順に数字が並び、その横には『最果ての名無し』と同じ名前と今日の日付、数時間前の時刻、IDというアルファベットの羅列が並んでいる。

 

 

 

「これ……2ちゃんってやつじゃね?」

 

 

 

 それを見ていた細川が少し不安そうにつぶやき、エロえもんが「だな」と頷く。僕は思わぬ単語に驚き「アクセスして大丈夫なのかな……?」とうろたえた。

 

 インターネットやPCについて、0と1の組み合わせで動いていることしか知らない(デジモンの進化シーン参照)くらい音痴の僕でも、『2ちゃんねる』を含む――いわゆるネット掲示板と呼ばれるものが存在することは知っていた。

 

 以前、エロえもんから、『ジョン・タイター』という2036年から来たタイムトラベラーを自称する人が、アメリカの掲示板に書き込んでいった予言をまとめたサイトを見せてもらったことがあった。

 2ちゃんねるも少し前『電車男』というドラマがあり、お父さんがそれを笑いながら観て「こいつお前に似てるけど、こんな大人になるんじゃないぞ」と僕に言っていたので、良くも悪くも印象に残っていたのだ。

 

 ドラマの中で掲示板を使っていたのは、『キタ―――(゜∀゜)―――!!!』とか叫ぶ大人になってもアニメや漫画、ゲーム、プラモなんかが大好きな――いわゆるオタクの人たちが多かった。本来のオタクって、もっと広い意味で使われる言葉らしいけど、少なくとも僕の周囲はそういう人を指す蔑称のような感じで使われていたのだ(僕は、大人になってもそういうのが好きでいちゃいけないのがなんでかわからなかったけど)。

 

 ただ、バスジャックの犯行予告や個人情報が特定されて晒される事件もあったりしたので、テレビや新聞では「犯罪の温床」、「嘘の情報しか載っていない」と攻撃されてたり、学校でもそういう掲示板は絶対に使ってはいけませんと教えられていた。

 

「ああいうのって、オタクのひと以外誰か使ってんのかな?」

 

 と僕が聞くと、細川が「そりゃあ、あれだね。都心のIT企業とかに勤めてるネットのプロみたいな人じゃね?」と一泊の間を開け、なんとも曖昧な返事を寄越してくる。

 

 まあ、とにもかくにも、ネット掲示板に関しては、そんな「ウェルカムトゥ東京アンダーグラウンドなヤバイやつらの集会所みたいなもん」という認識を持っていた僕らだが、もう入ってしまったもんは仕方ないと腹をくくり、その掲示板を読んでみることにした。

 

 

 

 

 

女子小学生だけど、エロ本買う方法ありますか?

 

 

1:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:56:21 ID:2NbStxiQe

だれか教えてください。おねがいします。

 

2:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:56:39 ID:QfnIc4K3i

糞スレ立てんな 氏ね

 

3:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:56:51 ID:dPskIK1ey

こんな時間から消防の振りしてスレ立てとかWWW

 

4:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:56:57 ID:1Fyk4ZCRg

エロゲばっかしてないでちゃんとハロワ行けよ おっさん

 

5:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:56:59 ID:I57BIU44g

釣りスレ乙 逝ってよし

 

6:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:57:12 ID:DNJttlg9O

ググれカス

 

7:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:57:18 ID:fMnwz6lSe

名前のとこにfusianasanって入力してみ? エロ画像見放題のサイトに行けるから

 

8:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:57:18 ID:F6yDSVfSL

おうちや学校の住所はわかるかな? 買えるとこ教えてあげるよ

 

9:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:57:29 ID:2NbStxiQe

>>8

ごめんなさい。わかんないんですっ(><)

 

10:最果ての名無し 200×/8/×(金) 10:57:37 ID:DNJttlg9O

詳細キボンヌ   (;´Д`)ハァハァ

 

 

 

 

 

「……」

 

 やっとのことで入れたそのページを、僕らは呆れ半分の目でジトーと見ていた。

 

 さらにスクロールしていくと、最初の話題は脱線していき、最後には猫みたいなキャラクターの絵と『ちんこもみもみ もーみもみ』という小学生みたいな言葉が書かれているところでページは終わっていた。

 

「ネットは広大だぜ……」

 

 幸田がなんだか逆に感心したようにつぶやいていたが、僕も同感だった。

 

「この線はダメそうだな」

 

 ぶっきらぼうなエロえもんの言葉に他の三人も頷く。

 

 リスクはあるが仕方ない。僕らは「エロ本を安全に買う方法」と「音成市にあるエロ漫画屋を探す」という二つの目的のうち前者を破棄し、多少の危険を冒しても手に入れる方向へと舵を切った。なるほど、これがリスクヘッジってやつだな。

 

「思ったよりも時間かかるし、君らも各自パソコンで調べてくれ。もしフィルタリングでブロックされたら、さっきの方法でいけるはずだから。わからないことがあれば、私に声をかけてくれ」

 

 エロえもんの提案に今まで見ていた僕ら三人も「おう」とそれぞれ周囲のパソコンに散り、夏休みの宿題をする時の十倍以上は集中してリサーチを開始した。

 

 僕も含めて全員気合が入っていて、必要な情報交換以外は無駄なおしゃべりもしなかった。ひたすらカチカチ、カタカタとパソコンを操作する音とくぐもった稼働音が響き、宿題や塾のことも普段の学校や家での息苦しさも――何も考えずに、動作が遅いパソコンに向き合っていた。

 

 考えていることはエロ漫画を買う店を探すことだけだった。

 

 そうすること、約30分ほど。エロえもんが有力な情報を手にした。音成市の中心街から少し外れた場所にそれらしき店があることを特定したのだ。

 

「いい感じの店じゃねえか」

 

 その一言に尽きる。幸田の言う通り、店舗の大きさもそれなりにあって、中心街から少し外れてるから補導の危険性も少なそうだし、完全なエロ漫画屋というわけでもないっぽいから僕らでも店内を様子見することもできる。

 

 まさに僕らのために用意されたようなエロ漫画屋――その名は、『みんなのジパング ガンダーラ 音成店』だ。

 

「で、どうする?」

 

 エロえもんが地図サイトにその住所を打ち込み、十五分ほどかけて印刷した紙をひらひらさせながら僕らに問う。

 

「エロ漫画の相場がわかんねえから、なるべくお金は使いたくないよな」

「となると、移動は……自転車か」

「みんな持ってる?」

 

 細川の提案を僕が拾うと、全員問題ないようで首肯する。

 

「でも、音成市だぜ? 本当にたどりつけるかな?」

「大丈夫だよ。どんな道のりや乗り物を選んでも、方角さえ正しければ」

 

 細川の弱気な声にすっかりいつもの調子を取り戻したエロえもんが得意気に言う。

 おいおい、そんなセワシ理論で大丈夫か? と僕は聞きたくなったけど、エロえもんは「大丈夫だ、問題ない」と自信たっぷりだ。

 

「よし! 決まりだな! あとは日時だが……今週末はどうだ?」

 

 と幸田が聞くが、

 

「僕は明日夏期講習が……」と細川。

「僕はじいちゃんの法事と親戚の集まりが」と僕。

「あー……すまんが、今週末はちょっとな。来週はどうだ?」とエロえもん。

 

「あー、来週お袋いない日多いし、親父も店だから妹と犬の面倒みなくちゃいけねえんだよ。水曜日か木曜日ならいいんだけどよ」

 

 それを聞いたエロえもんは善は急げとばかりに一番近い「じゃあ。水曜は?」と僕と細川に聞く。僕は幸いなこと(?)に塾以外の予定はこの夏休み真っ白なのでいつでも問題ない。

 

「僕はだいじ……問題ないけど」と僕。

「僕は夏期講習が……」と細川。

 

「じゃあ、木曜日は?」

「僕は問題ないけど」と僕。

「僕は夏期講習が……」と細川。

 

「またかよ! いい加減にしろ!」

「そ、そんなこと言われても~」

 

 幸田に詰め寄られ、細川は泣きそうな顔で僕とエロえもんを交互に見て助け舟を求めるので、「まあまあ」と二人がかりで胸ぐらを掴む腕をほどく。

 

「仕方ないなー……塾はさぼるよ。家を出た後、携帯で体調不良だって電話かける」

 

 幸田の腕から解放された細川はまるで僕みたいなやれやれといったため息をついた後、苦笑いをこぼした。

 

「本当にいいの? 細川?」

「……僕だって、そういう気分の時もあるよ」

 

 僕の問いに細川は微笑んだ。幸田はそれを見て「……悪かったな」と謝ったけど、「別に。いっぺんさぼってみたかったしさ」と吹っ切れたように言い放った。どこかすっきりとした笑顔だった。

 

「よし。じゃあ、大人たちには言うなよ? 言ったら絶交だからな!」

「ああ、このチームドスケベに参加したからには、選択肢は二つ……! エロ漫画を手に入れて生きるか! エロ漫画を手に入れずに死ぬかだ!」

「エロ漫画を買うのってそんな命がけなの?」

「どうせまた変なアニメでも見たんでしょ」

 

 幸田の宣言にエロえもんがまた妙なことを言い出し、それに僕と細川がツッコミを入れつつも、先日僕の家でやったように再度奮起を誓う。

 

 そんな中で、僕はエロえもんが手に持っている地図に記されているその名前――僕らが木曜日に冒険へと向かう『みんなのジパング ガンダーラ音成店』に、そこで待っているであろうエロ漫画たちに想いを馳せる。

 

 

――エロマンガ島

 

 

 頭の中を過ぎったのは、やはりあの言葉。

 

 大変恐れ多いというか、めちゃくちゃ失礼というか、こんなこと言ったらご本人は激怒されるかもしれないけど……藤子先生にとって、『新宝島』がそうであったように。

 

 

 この時――確かに僕らにとっては、『みんなのジパング ガンダーラ』が、まだ見ぬエロ漫画という財宝が眠る夢の島だったのだ。

 

 




作中に出てくるちんこ音頭の歌詞に関しては、作曲・作詞の方が個人的権利を放棄されているとのことでしたので、特に申請などなく使わせていただいております。

参考URL
https://www.chinko-ondo.org/outline/right.html
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