大長編 STAND BY ME ゼロえもん ――僕の新世紀・新エロマンガ島―― 作:ぽんこっこ
本筋の日野くんの物語はここで終わりですが、あと一話だけあります。
(本日お昼頃投稿します)
翌朝、部屋に差し込んだ日差しで、僕はごく自然に目を覚ますことができた。
昨日と違い、もう、夢を見た記憶はなかった。あれをやると眠りが浅くなるというのが一般的な通説のようだが、不思議と眠りが深く、久々に頭の中がすっきりとした気分だった。
珍しく昼前に起き上がってきた僕に姉は大きく目を見開き「……大災害でも起きるんじゃないでしょうね?」と怪訝そうな顔をした。
だが、時計をちらりと見ると「昼飯の準備でもしててよ。私、伸介(しんすけ)を迎えに行ってからそのままパート直行だから」と例によって雑用を言いつけられる。甥っ子は僕がグースカ寝てる間、塾の夏期講習に行っていたらしい。
「駅に迎えに行くのは何時頃?」
「十二時半だけど」
「車貸してくれる? 僕が行くよ」
「……ニート、どういう風の吹き回しなわけ?」
いつの間にか『ニート』に改名されている名前のことはスルーし、僕は相変わらず勘の鋭い姉の追及に取り繕った笑みを浮かべる。
「い、いや、別に。無職だからできることを積極的にしようかと……」
「ふーん……まあ、いいや。じゃあ、私このままパート行くからよろしく。昼飯は伸介と適当に済ませてよ」
と言われ「りょーかい」と僕が身支度を整えるために洗面台に向かおうとした時、姉が「そういえばさぁ」と僕の背中に投げかける。
「あんたもだけど、伸介、昨日の夜、部屋に戻ってゲームしてたでしょ」
「ああ……そうだね」
「最近、あんまり居間にいないですぐに部屋に引っ込むし……ついに反抗期って感じ? あの年頃の男の子って何考えてるのかなぁ? あんたわかんないの?」
「うーん、まあ――」
彼と同じくらいの頃。何を考えていたか。
1%ぐらいは将来や自分のこと。9%は漫画やアニメやゲーム。となると、残りの90%は――決まっている。
「ほぼ9割は、エロいことだな」
「あのさぁ……私、わりと真面目に話してるんだけど」
一応これでも大真面目だと反論しそうになったが、後が怖いのでここは大人しく「さーせん」と引き下がる。それに呆れ返ったのか。姉は「あんたに聞いた私が馬鹿だった」とパートに行く準備を始めていた。
僕は疎らに伸びた無精ひげにシェービングジェルを付けて剃りながら、少しくすんだ実家の鏡。そこに映る大人の男の顔をじっと見た。
僕は子供もいないし、結婚どころか彼女すらいないが、子供だったことはある。
そう。確かに、あったのだ。
その時の感情をまた少しだけ思い出しながら、刈り取られた髭たちをジェルと共に洗い流した。
普段は寂れているであろう夏の駅前は、帰省を終えて都心部へと戻っていく人たちで珍しく賑わっている。流れていく人の流れの向こう――自治体の観光ポスターが貼られた出口近くで、マスクをつけた甥っ子はスマホをいじりながら手持ち無沙汰に立っていた。
「よっ」
目の前まで来て僕が蒸れたマスク越しに話しかけると、甥っ子は少し意外そうに目を見張る。
「何やってんの、おじさん?」
「君を君のお母さんの車で迎えに来ました。昼飯、どっかで食って行こうよ」
なんだか迷惑そうに繰り出された質問に、僕は苦笑しながら状況説明する。それに甥っ子は「ふーん」といつも通りの不愛想な返事を寄越した。
毎年繰り返される蝉の合唱を頭上から浴びながら、僕らは連れ立って停めていた軽自動車まで歩いた。車内はものの数分でサウナのように熱されており、マスクを外して一度窓を全開にして熱気を逃がしつつ、クーラーをつけてから車を発進させる。
昼飯はどこでもいいと言うので適当なチェーン店に行こうと県道沿いを走っていた時、ふと地元に昔からある書店が目に入る。僕は助手席に座る退屈そうな横顔を見て「本屋寄ってもいいかな?」と尋ねる。
「え? なんで?」
「なんか……超エロい漫画が、僕を呼んでいる気がするんだよ」
当然甥っ子から出た問い。僕は牽制するように冗談っぽく笑う。
「……勝手にすれば」
それに甥っ子は呆れた調子で答えた。
「好きな漫画ない? 昨日かくまってくれたお礼、してなかったからさ」
「いいよ、別に。てゆーか、おじさん、大人だからエロい漫画無料で見れるサイトとか行けるんじゃないの?」
甥っ子の指摘に「うーん、そうだな」と笑う。海賊版とかを無断アップロードしているエロサイトのことだろう。
僕だって普通の人間だ。キリスト的な清廉潔白な者だけが罪人に石を投げなさい理論に準じ、そういうサイトを一回も見たことがないかと問われれば、嘘になる。
だけど――これからは、ちゃんと正規の手段を使い、手に入れて、読みたいと思う。そうやって作っている人にちゃんと還元できる手段が、子供の時と違って、今はあるのだから。
「大人ってのはね、ちゃんと金を出してエロ漫画を買うもんなんだよ」
「なんで? 無料で見れるのに」
ハンドルを右に切りながら、僕は甥っ子の率直な質問に口元を上げる。
「スケベな大人だからルールを破っていいんじゃない。スケベな大人だからこそ、ルールを守らなくちゃいけないんだ」
「なんか……おじさん、かっこつけてるけど、言ってることめちゃくちゃかっこ悪いからね?」
広告料で賄われる動画サイトとか――身近な娯楽は無料の方が多いこの子には、理解し難い感覚かもしれないけど、まあ、いつかわかってもらえればいいや。僕はどこかに無責任に笑うと、なるべく日陰の場所を選んで本屋の駐車場に車を停めた。
本屋に入ると店頭の出入り口でマスクをつけて、足踏み式のポンプスタンドで手にアルコールをプッシュし、「ちゃんとウイルス殺さないとな」と甥っ子にも促す。
「ウイルスって生き物なの?」
「さあ……確か無性生殖とか子孫をつくるとか……そういうふうに遺伝子を残してないから、生物の定義から外れるんじゃなかったか?」
「じゃあ、おじさんも彼女いないから生物じゃないね」
「……」
僕は皮肉染みた甥っ子の言葉に――軽く頭上目がけチョップを浴びせる。
「何すんだよー」
「おじさんの場合は自分の怠慢だから仕方ないけど、色んな事情で子供ができなかったり、結婚を諦めちゃう人だっているからね。僕にはいいけど、他の人にはそういうこと言うなよ」
「おじさん以外には言わないよ」
「……それはそれでどうなの?」
まあ、なんて偉そうに説教してみたけど、正直なところ、今のチョップは自分の私怨が9割だ。あの頃は気づけなかったけど、子どもの時に親や教師のような周囲の大人がそうであったように――僕だって、完璧な人間になんてなれないのだ。
「さっきからだけど、おじさんって、そういう説教するタイプだった?」
「こう見えておじさんも大人だからね。いろいろ考えてるんだよ」
「なにを?」
そんな具体的に聞かれたら答えに困るな。
「……まあ、あれだ。日本経済の行く末とか世界の平和とか」
「絶対テキトーなこと言ってるでしょ?」
虚言はすぐに看破され、僕はそれをごまかすために「やれやれ」と何の意味もないため息をつく。甥っ子はじとりとこちらを見ていた。完全に痛い大人を見る目だった。
そんなふうに雑談しながら店内に入り、僕は「本当に何もいらないの?」と再度尋ねてみる。すると、甥っ子は「だって――」と顔をうつ向かせる。
「少し前まではキメツとかやってたけどさ……最近、みんな漫画の話とかしないんだもん」
「え? そうなの?」
「うん。ゲームとか多いけど、うち課金禁止だから。そのぶん時間かけなきゃ話ついていけなくなるし……漫画とかアニメも、本当はけっこう好きなんだけど」
――本当は……その時間も、漫画に使いたいんだけど
甥っ子の話を聞き、ふとあの時エロえもんの部屋で話していた会話を思い出していた。
なるほど。やっぱり藤子先生のおっしゃる通り、時代が変わったとしても、意外と人間というのは同じことをする生物するみたいだ。僕は「そっか」と笑いかけ、どう言葉をかければいいか少しだけ考えてみる。
「じゃあ、ゲームは嫌い?」
「そんなことないけど……もっと、自由にやりたいってのは思う。おじさんが小学生の時は、課金とかしてたの?」
「うーん、課金以前にスマホもソシャゲもなかったからなぁ。そもそも、ゲーム禁止されてたし」
「え!? それどうやって生きてたの!? 学校で友達いなかったでしょ!?」
こいつ……なかなか鋭いな。
僕は後ろ頭をかきながら「まあ、でも、うん。課金じゃないけど、似たようなことはあったから、それなりにきつかったな」とマスクの下で苦笑いをする。
「でもね――僕は、人と好きって気持ちを共有するのも大切だけど……一人で好きな世界に浸るのも、周りと違うものを好きっていうことも……たぶん、そんなに悪いことじゃないと思うんだ。たぶんどっちも正しいし、どっちが間違ってるってことはないって、今は思ってるよ」
僕がそう一言に自分の考えを告げると、甥っ子は「おじさん、めっちゃマジレスじゃん」とポカンとする。
「……参考ぐらいにはするよ」
だけど、どこか曖昧な笑みを見せた後、そっぽを向いてぼそりと言った。僕は何を言うべき迷い、結局また「そっか」とだけ返した。
甥っ子がやっぱり漫画を買うというので彼が少年漫画コーナーに行っている間、僕も漫画を何冊か見繕った後、再就職に備えて選考試験用の参考書を1冊手に取り、本来の目的である――趣味・アート本のコーナーへと向かう。
「何それ?」
そうして棚に差さっている一冊――『デジタル時代の漫画の描き方 初心者編』というタイトルの本を手にしてパラパラとめくっている時、いつの間にかコミックスを選んで戻ってきた甥っ子が手元を覗き込んできた。
「君くらいの時にやってたんだけど、また……久々にちょっと描いてみようと思ってね」
「プロの漫画家でも目指すの?」
「まさか。僕みたいなやつが目指したら、プロに失礼だよ」
「じゃあ、今から始める意味ないじゃん」
「まあ、そうだな。あえて言うなら――」
その意見に僕はどう返していいか困ったが――少しして、21ゼロえもん殿下先生の『ジュブナイル』のラストページで少女が見せたように、笑う。
――お前何が楽しみで生きてんだ!?
同時に昨晩の叔父からの問いを思い出して、自分の中で答えが見つかった気がした。
「人生の楽しみ……ってやつだね」
「ふーん」
僕の中では小さくて、大きな変化も。甥っ子はさして興味もなさそうにいつもの「ふーん」で返すだけだった。
「どんな漫画描くの?」
「スぺクタルな冒険もので、笑いと感動とラッキースケベを盛り込んで250ページ読み切り」
「絶対途中で挫折するね。間違いない」
「……そうだな」
なんかそういうフレーズのお笑い芸人いたなと思いつつ、真っ当な指摘を受け乾いた笑いが漏れる。まず1~2ページくらいのショートストーリーからやってみようと思いつつ、僕はそれを棚に返すことはなく、甥っ子が持ってきた漫画を預かり、そのままレジへと向かった。
レジで会計をしている間、天上からぶら下げられた透明なビニールシートの向こう側で立っている店員さんを見て――ふと、あの時の店長さんのことを思った。
あの人は――そういうものを売ってる大人だから。夢に打ちのめされた大人だから。
だからこそ。僕たちの前では、ちゃんとした大人でいようとしていたのかもしれない。夢の裏側もひっくるめて全部伝えようとしてくれたのかもしれない。
僕は紙袋に包まれた本の束を受け取り、出口で待っている甥っ子のもとに向かう前にちらりと書店の中を――本棚に並ぶ漫画やラノベ、小説たちを見た。
ライバルとなる娯楽やコンテンツが溢れかえり、紙の本が売れなくなる時代。
WEB雑誌や投稿サイト、アプリのおかげで作品を発表したり、デビューできる窓口は広がったけど、1日に1店舗の本屋がつぶれ、年々業界規模は縮小している。
ゼロ年代と違い、出版も、コンテンツも。サブカルチャーはもてはやされてはいるけど、一部を除いて全体的にはジリ貧だ。昔から厳しい世界ではあったのだろうけど、たぶん今後作家専業で一生飯を食っていける人なんてのは、たぶんほとんどいなくなっていくのだろう。
でも――そんな世界の終わりみたい場所でもがいて、戦っている人たちがいる。
僕は、21ゼロえもん殿下先生とも、あの店長さんとも違う。挑戦することもしなかった――敗北者を名乗る資格もない僕にできることは、決まっている。
「なにぼっーとしてたの?」
「いや、ちょっとね」
甥っ子の問いにためらいがちな笑みを浮かべつつ、その横顔をちらりと見た。
もしかしたら、この子もいつか知るかもしれない。
現実は――マンガみたいにはうまくいかなくて、アニメの世界のようにキラキラもしていなくて、ラノベで使われる明るい言葉より罵倒に溢れていて、ゲームより不公平なシステムに支配されていて、JPOPやアニソンでよく語られるほど愛も夢も溢れちゃいないってことに。
きっと、漫画とかアニメとかゲームとか音楽とかエロとかは……どこまで行っても低俗な娯楽で、余暇時間を消費されるために存在するエンタメで、世界を劇的に変えたり、救ったりはしないだろう。
でも、それでも。
いつだって僕らの傍にいて、ほんの少しだけ――誰かが生きるのを助けることはできる。21ゼロえもん殿下先生のエロ漫画を読んだ僕が、そうであったように。
きっとそれは、世界の救世主みたいな立派なやつからしたらとんでもなく小さくて、下劣なことなのだろうけど……でも、それに負けないくらい素晴らしいことだと、僕は思う。
「ほい、これ」
「……なにこれ?」
書店から出た後、強烈な日差しに目をクラクラさせながら車に乗り込むと、甥っ子が先ほど購入した漫画と僕が個人的に見繕ったコミックスを渡した。
ひとつは『幽霊荘の宇宙人さんは漫画のためなら!?』というタイトルで、もうひとつは『なぜここにドメスティックな先生が!?』。二つともいわゆるスケベ成分多めのエロコメだ。
もちろん成人向け漫画ではない。少年漫画のプロたちが考えたぎりぎり少年向けのエッチな漫画である。
「帰省中暇だから買ったけど、明後日には東京の方に戻るし……やっぱり重ばるから部屋に置いといてくれない? 悪いんだけどさ」
「えー、嫌だよ」
「まあ、そう言わずに頼むよ」
「……しょうがないなー」
渋々と言った感じで引き受けてくれた助手席の方を見ると、ちらららとエロコメ漫画の方に視線を行っていたが、まあそれを指摘するのは野暮というものだろう。エロサイトはまだ早いしこっちで予行演習しといてくれと思い、僕は何も言わずに車を出す。
「どうせお礼のつもりなら、グーグルプレイカードの方がよかったんだけど」
すると、少ししてエロコメ漫画の表紙を見て甥っ子がそんなことを言い出した。
この子は、どうも姉に似て勘が鋭い節がある。どうやら隠していたこちらの真意もバレバレだったようだ。となると、こちらもあまり隠し立てすることもないだろう。
「健全な少年ってのはね、ラブコメとかバトルで時々出てくるサービスシーンを読んで、ニヤニヤするもんなんだよ。僕が子供の頃はサ〇デーとかボ〇ボンで――」
「えー、今どき雑誌なんて高いし買わないよ。マンガ読むならアプリで無料だし」
「そうなの?」
「うん。それにお母さんが……サ〇デーとかボ〇ボン子供の時に読んどると、おじさんみたいにオタクになるから、読むならジ〇ンプにしなさいって」
「……なるほど」
一理ある。完全なる当社比データだが。
「てか、サ〇デーはコ〇ンがやってる雑誌って知ってるけど、ボ〇ボンってなんなの?」
「え? あー……そういや、もうないんだったな」
今日何度目になるかわからないジェネレーションギャップを突きつけられ、淡い寂しさを覚えつつも、この子に渦巻いている――かつて、自分にもあったはずの感情を思い出す。
あの頃、僕たちは何も知らなくて、バカで――それは今でも変わらないけど、大人たちが思っているほど、何も考えていないわけじゃなかったとも思う。抱いた感情や起こした行動は「正しくなかった」かもしれないけど、決して「間違い」ではなかったとも。
どこかの雑誌編集部が言っていたけど、子供だましと子供向けは違うのだ。だから、僕もテキトーに誤魔化さず、この子の感情と向き合うべきだろう。
だって、今のこの子には――いや、僕には、それが必要で、大切にしたいのだ。
すこしむかし。いつかの夏に感じた少し不思議で、少し楽しく、少し優しく、少し苦しく……そして、少しスケベな気持ちを。正義とか社会とか道徳とか政治とか。どこかの偉い誰かの言葉で語られる――世界を揺るがす大きなテーマや立派なお題目に心を支配されるより、あの頃近くにあった小さくて、くだらない感情を、僕は時折思い出したい。
「姉ちゃん――お母さんには言うなよ。僕が殺されるから」
「言わないよ。共犯者ってことで」
一応釘を刺しておこうとそう告げた時、甥っ子から返された言葉に思わず息が詰まる。
――私たちは……共犯者だろ?
「……ああ、そうだったね」
胸にまだわずかに残る懐かしい響きを奥にしまいこみ、赤信号にブレーキを踏む。
フロントガラスの向こうでは、あの夏と何一つ変わらない青空と入道雲がそびえ立ち、目の前の横断歩道を自転車で小学生たちが通り過ぎようとしていた。どうやら僕らも渡ったあの橋の方向へ行くようだ。
僕は、目の前で切り取られたそんな夏の風景を見て、少しだけ笑う。
今思えばあれは、古い時代が終わり、新しい時代の幕が上がったばかりの――混然としていたあの
そう。僕が子供だった頃、21世紀は諦観と衰退と――ほんの少しの未来を含んだ新世紀だった。
そんな僕らが大人を生きる時代にまだひみつどうぐはないけれど、僕は自転車の代わりに軽自動車を運転できるようになった。自分の金でエロ漫画を買えるようになった。
タイムマシンがないからあの頃には戻れないし、残念ながら立ち止まっている間にも、時間は容赦なく流れ続ける。この街の景色も、漫画の形も、思い出が持つ意味も、全部変わっていく。
そして――僕自身も、きっとそうだ。
信号が青に変わる。前に進むために、ゆっくりとアクセルを踏み込む。
流れていくバックミラー越しの風景に、自転車で駆けていく小学生たちの背中を見送る。彼らの中で生きている――そして、自分の中でひっそりと生きていた夏が、遠ざかっていく。
そうやって、エロ漫画のページ数のように時間は、早く、だけど確実に流れる。自分の欲望をどうしたらいいかわからないあの衝動を、僕はもう覚えていない。
そして、あの夏。友達と一緒にエロ漫画を買いに行ったような日々は……二度と手に入らないだろう。