最高傑作は今日もAクラスで過ごす   作:クリッピー

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前回から4ヶ月後に更新・・・
次は3ヶ月以内に・・・!


(活動報告に『ようこそ2人の最高傑作がいる学校へ』の今後の予定みたいなのを載せておきました)


六世ちゃん奮闘記part3

 私こと黒瀬六世は、現在困っています。

 

 突然ブラウスのボタンが弾け飛んだと思えば、その後なぜか坂柳さんが行く場所を伝えずどこかへ行ってしまったのです。それも私と真澄さんを残して。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 残された私たちはどうすればいいのか分からず、この部屋にはただ沈黙が流れた。

 だがそれも一瞬のことで、真澄さんは私に話しかけてきた。

 

「とりあえず座る?」

 

「そうします」

 

 私たちは近くにあったベットの縁に、隣り合うように座る。

 そして真澄さんは私の方を向くと、だんだんと難しい顔になっていく。

 

「えーっと、黒瀬?いや、何か違う。六世・・・・・・でもない。なんて呼べば・・・・・・」

 

「六世でいいですよ。真澄さん」

 

「じゃあ六世で。いきなり下呼びって思ったけど、そう言えば私まだ名乗ってなかったわね。私は神室真澄、よろしく」

 

「よろしくお願いします。それで呼び方はどうすればいいですか?」

 

「私も下でいいわよ」

 

「分かりました、真澄さん」

 

 そう言って笑顔を送ると、少し照れたように頬を赤くする。どうやら真澄さんは少しツンツンしているが、照れ屋さんなのかもしれない。

 それを見られたのが嫌だったのか、誤魔化すように話しを振ってくる。

 

「そう言えば六世って、Aクラスの人でいいんだよね?」

 

「合ってますよ。ちなみに、先ほどの話し合いにもAクラスとして参加しているので」

 

「へー。いきなり試験とか言われてビックリしたでしょ」

 

「うーん、ビックリしたとかそういうのは全くでしたね。参加したら案外退屈でしたし」

 

 私が生まれて初めて思ったことは胸がキツいということ。それ以外も試験とは全く関係ないことばかり思っていた。

 試験については紙を見て一通りの理解はしているし、実際に参加してみても特に思うことはない。グループの中にいる優待者という存在を見つけるということ以外は。

 

「そういうところがあいつに似てるわね・・・・・・」

 

「黒瀬神威ですか?」

 

「そうよ」

 

「それは仕方ないですよ。私の人格は彼の過去の部分から形成されたので?」

 

「そこ疑問形になるとこなの?いや、そもそもそんなの有り得ないでしょ」

 

 真澄さんは両手を上に向け半分呆れ混じりに言う。それは私が彼であることを真澄さんが受け入れてくれないから仕方ない。

 だがそれ以上に、私すら知らない人格のことを口にしたのはそのまま放置しておくわけにはいかない。自分のことなのに、理解出来ていないのというのは気持ち悪いものだ。

 とりあえず、このことを知っていそうなおれさんに尋ねてみることにした。

 

(おれさん、これはどういうことですか?)

 

(「────ホルモン剤んあ?それはまあ、お前は俺の過去の部分から引っ張りだして形成したんだから。そのことを知ってて当たり前だろ?」)

 

 どうやら私は、本当に彼の過去から形成された存在のようだ。

 

(・・・・・・何となくですが分かりました)

 

(「それならよろしい」)

 

 あまりにも信じ難いことだが、実際に自分の中にある記憶は彼の小学生低学年までのもの。父親に連れられて飛行機に乗るところまでは憶えているが、それ以降は全く分からない。もしおれさんの言っていることが本当ならこれに合点がいく。

 そうなれば、私は黒瀬神威の小学生低学年までの部分から知識などを受け継いだ存在。彼に支障がないのか気になるが、そこを気にしたら負けな気がする。

 そんなことを思っていると、真澄さんの声が聞こえたので現実に戻ってくる。

 

「────ぜ、どこかボーっとしてるけど大丈夫?」

 

 声のする方を見ると、真澄さんの顔が鼻と当たるぐらいまで近くにあった。私のことを心配してくれているのだろう。

 

「大丈夫ですよ」

 

 そう言って真澄さんの頭を優しく撫でてあげる。何故か今の様子を見たら無性に撫でたくなったので撫でてみたのだが、これは彼の影響なのだろうか。

 身体は女性と瓜二つになっているが、元は男である黒瀬神威のもの。もしかしたら彼が取ってきた行動や感情のいくつかが身に染みていて、今のように無性に撫でたくなったりするのかもしれない。

 真澄さんは撫でられることに嫌悪感を示すかと思っていたが、特に表情に出したり行動に移すことなく、今では耳まで真っ赤に染めて俯いてる状態だ。

 

「あら、私がいない間にお2人はそんなに仲良くなっていたのですね」

 

 そんな中、坂柳さんが帆波ちゃんを連れて部屋に戻って来た。

 その瞬間、先ほどまで俯いていた真澄さんはすぐに私から離れものすごい形相で、今の状況を見て微笑ましい笑みを浮かべている坂柳さんを睨めつける。

 

「真澄さんが私以外の人と仲良くしているところを初めて見た気がします」

 

「あんたと仲が良いなんて一度も思ったことがないから」

 

「私は真澄さんと仲が良いと思っていましたが、それは私だけだったようですね・・・・・・。悲しいです・・・・・・」

 

「真澄さん・・・・・・」

 

 真澄さんの辛辣な言葉に心を傷ついた坂柳さんが悲しそうな表情をする。

 そんな様子を見て、そんなことを平気で言ってしまう真澄さんを少し幻滅してしまう。

 

「ああもう!さっきのは照れ隠しで私も思ってるから!これでいい!?」

 

「はい」

 

 怒りながらも先ほどの言葉を撤回する真澄さんに、坂柳さんは先ほどまでの表情が噓のように微笑ましい顔で返事をする。

 

「あ、あのー坂柳さん。私が呼ばれた理由はなにかな?体操服を持ってくるよう言われたけど」

 

「それは彼女、黒瀬六世さんの制服が関係しています」

 

「あー、確かにその状態じゃ試験に出られないよね。けど、体操服を着て試験に出てもいいのかな?」

 

「そのことなら大丈夫です。一之瀬さんに会う前、星之宮先生に確認を取りましたので」

 

 坂柳さんは帆波ちゃんから服を借りるだけではなく、先生にまで確認を取ってくれたようだ。

 それを聞いた帆波ちゃんは、手に持っていた体操服を渡してくれた。

 渡された体操服は凄く綺麗で、しわなどが1つも見当たらない。

 

「今回もしものため、余分に一着持って来てたんだ。だから汚れとかはないと思うよ」

 

「ありがとうございます、帆波ちゃん」

 

「困った時はお互い様だから。全然大丈夫だよ」

 

 帆波ちゃんはいい人なんだと思いながら、その場で着替え始める。

 

「改めて思うとすごい大きさよね・・・・・・。なんか見てたら恥ずかしくなってきた・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「あはは・・・・・・」

 

(「おれは何も見ていない・・・・・・。見ていないぞ・・・・・・」)

 

 着替えている間に色んな声が聞こえたが、何とかブラウスから体操服へと着替えることが出来た。

 先ほどより胸あたりはキツくないが、それでも締めつけられている感覚はまだある。

 

「少々あれですが、これなら大丈夫でしょう」

 

「目線とか凄そうだけど、さっきのよりマシよね」

 

「問題は解決したようだし、私は戻るね」

 

「帆波ちゃん、体操服ありがとうございます」

 

「全然大丈夫だよ。それじゃあまた後で」

 

 もうここへの用がなくなった帆波ちゃんは手を振って部屋から出ていった。

 それと入れ違いで、橋本くんが戻ってきた。

 

「一之瀬がこの部屋から出て来たが、何か────そういう意味か」

 

 何かを言おうとした橋本くんだが、私を見た瞬間に何かを理解したようだ。

 橋本くんが近くの壁に背を預けると、坂柳さんが先生から許可を取れたのか確認する。

 

「橋本くん、真嶋先生から許可を取れましたか?」

 

「そのことなんだがな、黒瀬を真嶋先生のところまで連れてきてほしいとのことだ。なんでも携帯を確認したりして、黒瀬であることを証明しないと参加は認められないとさ」

 

 橋本くんの話を聞く限り、私が持っている端末を確認して、それで黒瀬神威であることを確認しないと参加は出来ないらしい。

 携帯の意味は分からないが、何かよく分からない機械のようなものがブレザーのポケットの中に入っている。

 もしそれが端末で黒瀬神威であることを証明出来れば、

 

(試験に出ることが出来て、尚且つ黒瀬神威の誤解を解くことが出来る!まさに一石二鳥です!)

 

(「良かったなー」)

 

 おれさんが棒読みなのは少しがっかりだが、上手くいけば誤解を解くチャンスである。この好機を逃すわけにはいかない。

 私はベットから勢いよく立ち上がり、坂柳さんに向かってこう言う。

 

「それなら行きましょう!真嶋先生のところへ!」

 

 その様子を見て目を白黒させる坂柳さんだが、すぐにクスクスと笑い始める。

 

「そこまで六世さんを奮い立たせるものなら、行かないわけにはいきません。それに、六世さんが言わなくても行く予定でしたから」

 

「ありがとうございます!」

 

「それでは早くこの件を終わらせるとしましょう。行きますよ、橋本くん、真澄さん、六世さん」

 

 私たちは部屋を後にし、真嶋先生のいるところへと向かった。

 

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「やっぱりというか、視線が凄い・・・・・・。ねぇ、私部屋に戻ってもいい?」

 

「ダメです」

 

 真嶋先生のところへ行く途中、何度目か分からないやり取りを繰り返す真澄さんと坂柳さん。

 私たち一行は真嶋先生のいる部屋へと向かっており、今のところ何人かの生徒や船のスタッフの人とすれ違ったのだが、そのほとんどの人が私と橋本くんへ視線を向けてきた。

 私も視線を向けられるのは好きではないが、誤解を解くためのチャンスを棒に振るわけにはいかないので頑張って耐えているのだ。

 

「なあ神室、六世ちゃんは視線を集めてしまう状態なんだから仕方ないだろ?それに、この状況はもうしばらく続くんだから、慣れとかないと大変だぜ」

 

「私はこういった視線に慣れてないのよ。あんたは慣れたかもしれないけど、私は全然で慣れるのに時間が掛かるし。何より視線が気持ち悪いから無理」

 

 私の前を歩く橋本くんの言葉に、腕を組みながら答える真澄さん。

 

「六世さん、真澄さんは一緒に外に出ることが嫌だそうですよ」

 

「ちょっ────!」

 

「真澄さんはそんなことを言ってないので大丈夫ですよ。私も視線が嫌なのは分かりますし」

 

「・・・・・・・」

 

 真澄さんをからかうように坂柳さんが私に聞いてきたが、それを知っていたため私は真澄さんに同情する。

 見られているのは私のようだが、隣にいる真澄さんにも視線はいくため仕方がないことだろう。

 

「フフ、六世さんは真澄さん想いなんですね」

 

「友達?みたいな感じだからですからかね?って、言っても()に友達なんていないので、その感覚は分からないですが」

 

「いやいや噓だろ?そんな感じで友達がいないなんておかしいぜ」

 

「私も同意見。普通は友達がいてもおかしくないはずよ」

 

 それを聞いた橋本くんと神室さんは驚いているが、坂柳さんだけは違った反応を示す。

 

「そうとは限りませんよ。真澄さんには分からないと思いますが、女性というものは怖いもの。陰で妬まれていてもおかしくありません」

 

「ひと言余計だけど、そう言われてみればそうかも」

 

「そうなるのか?」

 

 坂柳さんの意見に、真澄さんは思い当たる節があるようだが、男子である橋本くんには分からないようだ。

 ちなみに私にはそんな経験がなければ、その現場に遭遇したこともない。単に友達がいないだけだ。

 

 それから少しして、職員専用の部屋がある一角に着くと、1つの部屋の扉に坂柳さんがノックをする。

 

『開いているぞ』

 

 中から男性の声が聞こえ、橋本くんがその扉を開ける。

 中にはスーツを着た男性2人、そして女性2人がパソコンの前に座っていた。

 

「真嶋先生、黒瀬六世さんを連れてきました」

 

「その子が黒瀬六世か。この椅子に座ってくれ」

 

 1番奥に座っていた男性、真嶋先生が近くにある椅子を指し、私は言われた通りその椅子に腰掛ける。

 坂柳さんたちも真嶋先生の周りに集まり、真嶋先生が話を始めようとした時、真嶋先生の隣に座っていた女性の先生が話しかけてきた。

 

「あなたが黒瀬さんだよね?」

 

 それに肯定すると、その先生はいきなり私に近づいてきて、頬を触り始めた。

 

「話で聞いてた通り大きい胸で、頬もぷにぷに~。それに肌も綺麗だし、いいなぁー」

 

 先生は手で頬を上げたり下げたり、押したりして、頬を味わうかのように触り続ける。

 

(だ、誰かこの人を止めて~!)

 

 私はこの状況から脱するため坂柳さんたちに視線を送るが、全く反応を示してくれない。

 その間にも先生は気持ちよさそうに私の頬を触っており、その幸せそうな顔を見るとやめてほしいなんて言えない。

 思いついた脱出策がなくなり途方に暮れていると、先生の前で仕事をしていた女性の先生が助け舟を出してくれる。

 

「はぁ・・・・・・。星之宮、まだ仕事が残っているだろ?そんなことで時間を取られていると、なかなか終わらないぞ」

 

「もう少しだけ触っててもいいでしょ~。あ、もしかしてサエちゃんも触りたい?」

 

 それを聞いたサエちゃんと呼ばれた先生の目つきは先ほどよりもきつくなる。

 

「馬鹿なことを言うな。こっちはお前のせいで仕事を増やされてるんだ、自分の仕事を早く終わらせてこっちを手伝え」

 

「別に女装して名前を変えたぐらいで、本人が参加してることと変わりないのに、なんでそれに関して送らないといけないのか・・・・・・」

 

 仕事が増えていると聞いて肩を落とし、ブツブツ文句を漏らす星之宮先生。

 それを見てサエちゃん先生が再度名前を呼ぶと、星之宮先生ははいはいと言いながら私の頬から手を離す。

 そして仕事に取り組むためパソコンの前に戻ろうとしたが、何か思い出したかのように真嶋先生の方を向く。

 

「あ、そうだ真嶋くん」

 

「・・・・・・どうした?」

 

「この子が黒瀬くんなの?昨日見た時はもの凄かったけど」

 

「それを今から確認するところだ」

 

「今から確認するのね。あ、生徒にエッチなことしちゃダメだよ」

 

「生徒の前で何を言っているんだお前は・・・・・・」

 

 星之宮先生の言ったことにため息をついて呆れる真嶋先生。

 この2人の話している感じを見ていると、気心の知れた関係という予想がつく。

 それとサエちゃん先生も星之宮先生と同じ、もしくはそれ以上な感じのように見える。もしかしたら、この3人は面識のある関係なんだろう。

 真嶋先生は話を始めるために咳払いをしてから本題へと入った。

 

「橋本から聞かされているかもしれないが、君が黒瀬神威であることが証明されない限り、試験に参加させるわけにはいかない」

 

「もし私が黒瀬神威であることを証明されたら試験に参加できますか?」

 

「それに関しては分からないとしか言えない。我々も今までに例がなかったことで戸惑っているところだ」

 

 それを聞いていた他の先生方も頷く。

 

「分かりました」

 

「早速だが、学生証と携帯を出してくれ。それで色々と確認させてもらう」

 

 真嶋先生に言われた通り、学生証と携帯を取りだそうとしたが、ここで問題が発生してしまった。

 

(学生証は何となく分かるけど、携帯ってブレザーに入っているのでいいんだよね?もしこれで間違えたら・・・・・・。いやいや、それはダメだ。こんなところで出鼻をくじかれるわけにはいかない。けど、携帯がどれか分からない・・・・・・)

 

 そう、私は携帯と言われるものを見たことがないのだ。

 携帯というのがどういうもので何をするものなのか、私には全く分からない。

 ブレザーに入っているものがその携帯と呼ばれるものかもしれないが、間違ってしまえば一発アウトの可能性しかないため、下手に行動するわけにはいかない。

 だからといって、このままの状態だと同じ結末を辿ることになる。

 この状況を打破するための一手を考えていると、おれさんが話しかけてきた。

 

(「携帯はお前のポケットの中に入っている四角い物体だ」)

 

(ほ、本当ですか?噓じゃないですよね?)

 

(「噓をついてもいいことなんて起こらない。むしろ悪いことしかない・・・・・・」)

 

(そ、そうですか。分かりました。ありがとうございます)

 

 思いもよらない言葉に感謝し、私はおれさんに教えてもらった携帯と学生証を真嶋先生に渡す。

 

「・・・・・・見た感じ、いやこれは黒瀬本人のものだな」

 

「そうなんですか?私にも見せてもらってもよろしいですか?」

 

「ああ」

 

 後ろで話を聞いていた坂柳さんが真嶋先生から学生証と携帯を受け取り、ひと通り確認してそれを返す。

 

「確かにこれは黒瀬くん本人のものですね。ですが、これだけでは本人である証明にはなってない、そうですよね?」

 

「そうだ。普通の生徒は学生証と携帯は肌身離さず持っていることが多いが、一部例外の生徒も存在する。黒瀬がどうなのかは分からないが、彼女に託して姿を晦ました可能性もある」

 

「そうなると、六世さんが黒瀬くんであることを証明できるものが他に必要ということですね」

 

 2人の会話を聞いている限りでは、私が黒瀬神威であることを証明するために、今出したもの以外のものが必要だそうだ。

 私の話をしてくれているようだが、右も左も分からない私が加わったところで意味がないので、ここは聞くことに専念することにした。

 

「そういうことだ。だが、そう簡単に本人であることを証明出来る判断材料があるわけじゃない。仮にあったとしても、事前に伝えている可能性だってある」

 

「難しいところですが、1つだけ黒瀬くんかどうかを確かめる判断材料があります」

 

「ほう。それは何なんだ?」

 

「それは字です。字というのは人それぞれ個性の出るもの。彼にはこの船に乗ってから一度だけ自分の名前を書いてもらっています。それを見た限り、綺麗な字ではありましたが少々癖のある字でもありました」

 

 そう言って坂柳さんはブレザーの内ポケットに入れていた1枚の紙を取り出す。

 その紙には色々なことが書かれており、1番下には『黒瀬神威』とサインまでされていた。

 

「今から六世さんに彼の名前を書いてもらい、より良い結果のためここにいる六世さんを除く7人に同じ字であるかジャッジしてもらいます。それで、1人でも違うと言えば証明はされず、全員が同じ字だと言えば証明される。これ以上に良い判断材料はないでしょう」

 

「確かに少し癖のある字だな。これならいい判断材料になるだろう」

 

「ありがとうございます」

 

「では早速だが、この紙に黒瀬の名前を書いてくれ」

 

 真嶋先生は近くにあった紙とペンを私に渡し、文字を書くために机の一角を空けてくれた。

 私はその一角を借りて紙に名前を書こうとしたら、おれさんから待ったがかかった。

 

(「ちょっと待て」)

 

(どうかしたんですか?)

 

(「お前が字を書けば全く違う字になる。ここはおれに代わった方がいい」)

 

(私は黒瀬神威の記憶から出来ているんですよね?でしたら大丈夫だと思いますが・・・。それとおれさんに代わるとは?)

 

 いつもよりも真剣な言葉遣いで話しかけてくるおれさん。だが私にはその言葉の意味がよく分からず、?マークを浮かべてしまう。

 先ほど私は黒瀬神威の一部から出来た存在だと教えてもらったのに、彼と違う字になる意味が分からない。

 もし、その一部が産まれたてのときならいざ知らず、私は幼少期の一部、それも記憶を持っているのだ。それで人が見て違いが分かる字を書くはずがない。

 

(「確かに俺の記憶からだが、それは一部に過ぎない。その一部の記憶にある字の特徴というのが今の俺のとは違う。仮に身体が俺のを覚えていたとしても、無意識の状態では人を騙す字を書くことはできない」)

 

(おれさんは私が黒瀬神威と同じ字を書けないと言うんですか?)

 

(「そうだ。だから俺とほとんど変わらないおれが、代わりにそれをやってやる」)

 

(・・・・・・)

 

 先ほど少し見えた彼の字と、私がおそらく書けるであろう字は遠い目で見れば同じかもしれないが、一瞬で違うことが分かってしまうはずである。

 それなら彼とほとんど変わらないというおれさんが代わってくれるなら、私の目的を達成することが出来るだろう。

 

(・・・・・・少し癪ではありますが、今の私では黒瀬神威の字を書けないでしょう。なのでおれさんに頼みます)

 

(「分かった。なら代わるぞ」)

 

 その瞬間、視覚と聴覚以外の感覚が一気に無くなっていく。

 それは奇妙な感覚であり、自分が()()()2人いることを実感したのであった。

 




おれさんの考えていること

部屋を出る前

(これは面白い展開!)

廊下

(いやぁん~!)

字を書くとなった時

(試験に参加出来なかったら、俺に雑魚だと思われてしまう!)

━━━━━━━━━━━━━━━

黒瀬神威→おれと黒瀬六世→おれになる時は一応違います。
神威は完全シャットダウンに対し、六世は視覚と聴覚が残っているが、あくまで共有(おれと同じ状態)という感じです。
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