「ふわー・・・・・・よく寝た・・・・・・」
俺はあくびを一度してベットから起き上がる。
今は朝の7時。11時間ぐらい寝ていたんだろう。
「本当によく寝ますね」
「ああ。寝るのは好きだからな」
俺は坂柳の言葉に返事をする。
(うん?坂柳?)
声のした方を見ると、椅子に座っている坂柳が見えた。その隣には女装した橋本がいる。
それでだいたいの理由を察した。
(あー、うん。次の言葉は「昨日の約束は覚えていますよね?」で、俺が返事をした次は「酷い人ですねシクシク」だな)
「昨日の約束は覚えていますよね?」
「もちろんだとも」
俺は用意していた言葉で返す。
「覚えていたのにそれを破ったあなたには更なる罰が必要のようですね」
「は?」
予想外の言葉につい呆気を取られてしまう。
それを見た坂柳はテーブルに置いてある1枚の紙をこちらに渡してくる。
俺はそれを読んで、本当にやらかしてしまったと思う。
その紙にはこう書いてあった。
私は下記に書いてあることをこの船を降りるまで守ります。
・容姿だけでなく言葉や仕草まで女性にすること。(名前も黒瀬
これを破る、もしくは同じ過ちを繰り返した場合、1年生の間、坂柳有栖の忠実な下僕になること。
その下にはサインする部分があり、空白のままである。
「先生方からも許可を貰っています。それにサインしてください」
ものすごい圧を出してくる坂柳。
それはまるで、これには逃れられないとでも言うかのよう。
「サインします・・・・・・」
逃げればもっとキツくなるので、ここはしっかりと自分の名前を書いて坂柳に返す。
「では今からお願いします」
「分かりました。私は今から着替えてくるので、覗かないでくださいね」
俺はカツラとスカート等を持って、バスルームに入った。
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「黒瀬六世です。よろしくお願いします」
バスルームから出てきたのはあからさまに男と分かる俺ではなく、黒髪ロングでお淑やかそうな女性。
声もかなり女性に近く胸もあるため、一瞬誰か分からない。
現に待っていた2人はあまりの変わり様に目を丸くしている。
(あの施設で女装の仕方を教え込まれてて良かった...昨日は女装する時に道具が無かったからやらなかったけど、今日は持ってきておいた道具で女装できたからかなりのクオリティだと思う。
ネタばらしすると女性ホルモンを急激に増やして、女性の体形にした。これもあの施設のせいなんだが)
「どうせ風呂場に本人が居るドッキリだろ」
そう言った橋本はバスルームに俺がいると思い確認をする。
「誰もいない・・・・・・逃げれる場所もないってことは本人か?」
「はい」
俺は微笑みながら返事をする。
「これは想像以上でした・・・・・・まさか黒瀬くんに女装癖があったとは・・・・・・」
あまりのクオリティのせいで坂柳に誤解されてしまう。
「私に女装癖はありませんよ。ただの一般人ですから」
「いや、ただの一般人はそんなに女装が上手くないから!俺みたいに!」
「橋本、うるさいぞ」
「外まで聞こえてたぞ」
外に出ていた司城と鬼頭が部屋に戻ってくる。
(鬼頭が話してるところを久しぶりに見た気がするな...それよりこの状況は面白いことになりそうだな)
俺が2人の方に顔を向けると、司城がこちらに気が付く。
「橋本、その可愛い女子は誰だ?」
「こいつはな、く────いってぇー!」
橋本がばらしてしまうと思い、俺は近寄って橋本の太ももを抓る。
かなり強めに抓ったせいで、橋本は床に膝をついて抓った部分を押さえている。
「私は黒瀬六世といいいます。神威の姉になります」
「へー。黒瀬の姉さんだったのか。俺は司城
司城は本当に俺だと分からず、自己紹介をする。
「六世ちゃんはどこのクラスなんだ?学校で一度も見たことがなくて知らないんだ」
「え・・・・・・えーっと・・・・・・」
俺は質問の返答に少し悩んでしまう。
(下手に出てバレても面白くないからな...しっかり考えて答えないと...)
頭を悩ませていると、坂柳が助け舟を出してくれた。
「彼女は2年生です」
「2年生?2年がなんでこの船に乗ってるんだ?1年だけのはずだろ」
「弟の様子が気になりまして。それで先生に言ったら同行を許可されました」
絶対に有り得ないことだが、俺たちはまだこの学校のことをあまり知らない。だからこそできる技だと思いたい。
「弟思いのいいお姉さんだな・・・・・・お前もそう思うだろ?」
司城の言葉に鬼頭も首を縦に振る。
「俺もこんな美人なお姉さんが欲しかったな~」
(司城の中で黒瀬六世という人物が出来上がった。この辺にしとかないと収集がつかなくなるからばらすか)
「それは嬉しいです。男である私を褒めてくださって」
「へ?男?」
司城はそんな気の抜けた声を口にする。
「はい。私は黒瀬神威です」
満面の笑みでそう答える。
「・・・・・・六世ちゃんは黒瀬で、黒瀬は六世ちゃん・・・・・・あ、あぁぁ・・・・・・!」
六世が俺であることがショックだったのか、司城は頭を抱えて膝から崩れ落ちる。
「そろそろですね」
俺たちを見ていた坂柳がそう言うと、メールが届く。
それを確認するとこう書いてあった。
『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの1人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。兎グループの方は2階兎部屋に集合して下さい』
(試験の優待者じゃなかったのはありがたい。優待者だったら面倒事が増えそうだし、責任感を感じてボロを出してしまうかもしれないし。それよりもどうやってこの格好で試験を乗り越えるのかを考えるか)
おそらくというか絶対、グループトークの時に言及してくるはずだ。そこで変な返事をしてしまうと良くない噂が流れてしまうだろう。
(それは避けたいが、正直言ってどう返事をしても良くないことが流れてしまう気がするんだが)
悩んでいると、坂柳が今回の試験について話始める。
「皆さんが優待者ではないことを前提に話をします。今回の試験は前にも言った通り葛城くんの指示で動きます。葛城くんは今回、最初から最後まで話し合いを持たない、そうすれば絶対に勝てるとおっしゃっていました」
それを聞いて、葛城らしい作戦だなと思う。
「そうなれば必然的に結果は1、もしくは2になるグループが多くなるでしょう。そこで私は龍園くんにAクラスの優待者を当ててもらうよう話しかけてみようと思っています。もし優待者である場合は私に言ってください。龍園くんに流しますので」
「今回、私たちは特にやることがないということでよろしいでしょうか?」
そう坂柳に質問すると微笑み返してきた。
(何かやれってことか?やることなんて優待者を把握することぐらいしかないと思うんだが意味があまりないしな...)
俺が頭を悩ませているいると、坂柳が口を開く。
「そうですね。今回は休んでおいてください」
「分かりました」
(それならそうと早く言いやがれ!俺が頑張ってひねり出そうとした意味なかったじゃねえか!)
心の中で思いっきり叫ぶが、表情で悟られないように愛想笑いをする。
「私はこれから龍園くんに会おうと思っています」
坂柳はそう言って、こちらをチラッと見てくる。
(来いってことなんだろ。めんどくさいなー)
「ついていきます」
「ありがとうございます。それでは行きましょうか」
部屋に鬼頭と膝をついている2人を置いて、坂柳の左斜め後ろをついて行く。
「あの、坂柳さん。龍園くんがどこにいるのか知っているのですか?」
部屋を出て少し経ち、あまり行くところを考えていないようなルートだったため、坂柳に聞いてみることにした。
「いえ、彼がどこにいるのか全く知りません。ですが、このようにぶらぶらしていると会えると思いますよ」
「偶然だな、坂柳」
声のする方を見ると、そこには龍園とCクラスの生徒がいた。
(龍園の出てくるタイミング良すぎだろ!予言したのかよ!)
「あら、お久しぶりですね。龍園くん」
坂柳が平然としているあたり、本当に予言したように思えてしまう。
「てめえの後ろにいるやつは新しいしもべか?随分と可愛いやつを連れてるじゃねえか」
「可愛いなんて嬉しいですね」
俺がそう言って微笑んでいると、坂柳がこちらを見てニヤニヤしてくる。
(坂柳の顔を見たら無性に殴りたくなってきた...まじで憶えてとけよ...)
心の中で怒りながらも、表情を変えずに頑張る。
「私、先に戻るから」
「別にいいぜ」
それを聞いたCクラスの女の子は踵を返しどこかへ行ってしまった。
「それでなにか用か?」
勘のいい龍園はそう聞いてくる。
「龍園くんに協力してほしいことがありまして」
「ほう?そいつはどんなのだ?」
「私と協力して、Aクラスの優待者を全員当ててほしいのです。もちろん、全てのポイントはそちらに差し上げます」
龍園はそれを聞いて笑い出す。
「葛城がそんなに気に食わねえのか。クク、いいぜ、やってやるよ」
「ありがとうございます」
ここに葛城を潰すための協力関係が結ばれる。
「それではこちらの優待者が分かり次第、そちらに連絡しますので」
「噓の情報を流した時は覚えとけよ」
「分かってますよ。それでは私たちはこれで」
坂柳が歩き出したので、すぐに坂柳の横側に移動して歩幅を合わせる。
龍園の隣を通った時は止められるかと思ったが、スルーしてくれた。
「それにしても案外すんなりと了承してくれましたね」
歩いていると、坂柳がそんなことを言ってきた。
「前回の無人島試験で負けましたからね。それを巻き返せるぐらいのものなら龍園くんは乗ってくれると思いますよ」
「確かにそうですね。前回分のポイントを回収出来て、尚且つCクラスにメリットしかない条件なので乗ってくれたと」
話していると前から綾小路が歩いて来た。
綾小路は俺らを気に止めることなく横を通って行ったが、坂柳は何かを感じたのか綾小路の方をずっと見て、歩みを止めてしまう。
「坂柳さん?」
坂柳が誰かに対して興味を示しているのは初めてのことで、俺は止まって振り向く。
「・・・・・・彼もこの学校でしたか・・・・・・突然止まってしまいすいません。それでは行きましょう」
再び歩き始める坂柳を見ながら、なぜ止まったのか考える。
(綾小路と坂柳。共通点がいまいち分からないが、「彼もこの学校でしたか」というので坂柳は綾小路を知っていることになる。だが、綾小路は坂柳を見ても何も反応しなかった。ということは坂柳が一方的に綾小路を知っていることになる。
そこから分かるのは学生時代にクラスは違えど綾小路を知っている、もしくは片想いだったになるが、ホワイトルーム出身である綾小路が小学校と中学校に行っていたとは思えない。それに坂柳はホワイトルームの存在を知っている。
いつか分からないが、坂柳はホワイトルームで綾小路をただ見ていた。そうなるだろう)
「────世さん、六世さん」
考えるのを終えて前を向くと、いつの間にか坂柳が目の前にいた。
「すみません」
「大丈夫ですよ。考えている時の顔が良かったので」
後半部分は聞き流して、坂柳の隣にいき手を取る。
「フフ、意外と大胆なんですね」
「こういう行為は女性間で普通だと思ったんですが」
「言われてみればそうかもしれませんね」
その後、手を繋ぎながら船内を歩いていたら、すれ違う生徒に結構見られたことは内緒である。