リバウの若鷲(ストライクウィッチーズ×大空のサムライ)   作:小山の少将

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3期の放映に合わせてブレイブウィッチーズから視聴して、久々にストパン熱が高まったので再投稿です。


序章 あの日を思う

 今日もまた、夏の赤い夕陽が水平線に沈もうとしている。

 その夕陽を背景に、私――坂本美緒は手にした竹刀を肩に担いで声を張り上げた。

「よし! 今日の訓練はここまで!!」

『あ、ありがとうございました!』

 号令と共に倒れるように座り込む宮藤芳佳軍曹とリネット・ビショップ軍曹。

 両肩で大きく息をし、疲労の具合が手に取るように分かる。

 それでも、ここ――ストライク・ウィッチーズ基地に配属になった当初を思えば、気力・体力共に格段に上昇していると言えた。

 当初など身体を起こすこともままならないほど疲労困憊になったのだから、その差は歴然だ。

 そして何より、彼女たちはもう私の手が必要ないほどの、立派なウィッチに成長したのだ。

 その証拠に、つい十日ほど前に偶発的に発生したネウロイとウィッチの決戦で、単独にて敵に乗っ取られたウォーロックから赤城を守り、その後のネウロイに侵食された赤城迎撃戦において艦内部に侵入しコアを破壊するという華々しい活躍を遂げている。

 この活躍により、長くブリタニアを苦しめていたガリア上空のネウロイの巣が消え、ブリタニア本土防空戦――バトル・オブ・ブリタニアが終結した。

 私たち古参ウィッチが成せなかった悲願を、ついに彼女たちが成就したのだ。

 そんな彼女たちを見るにつけ、彼女たちを教導する栄誉に恵まれた私は誇らしい気分でいっぱいになる。

「よく頑張ったな宮藤、リーネ。だがまだまだ気を抜くなよ。ガリアのネウロイは消えたが、大陸にはまだまだごまんとネウロイがいるんだからな」

『は、はい! これからもよろしくお願いします!!』

 宮藤とリーネが慌てて身を起こして答えた。

 あれだけ華々しい戦果を挙げても決して驕らず、新兵のように直向きに訓練する宮藤とリーネ。

 そんな優秀な二人を見て、笑みがさらに深くなる。

「あははは! そうだ、その意気だ!!」

 愉快な気分のまま、私は深い紫に染まりつつある空を仰ぐ。そこにいる姉妹より深く繋がった戦友に向け、声よ届けとばかりに大きく笑う。

 

――――見ていらっしゃいますか分隊長。あなたの姉妹たちは今日も元気です。

 

 

『序章』

 

―― あの日を思う ――

 

 食堂に入った瞬間、いきなり視界いっぱいに紙吹雪が散った。いきなりの事態に、柄にもなく驚いて固まったしまう。

『誕生日おめでとう! 坂本少佐!!』

 続いてブリタニア語圏で一般的なハッピー・バースデイの大合唱。ニコニコと笑ったウィッチーズの隊員たちが声を合わせて歌う。

『Happy birthday to you! Happy birthday to you!! Happy birthday dear Maj.Sakamoto!! Happy birthday to you!』

 割れんばかりの拍手に続いて、大きな花束を抱えた宮藤とリーネが進み出てくる。

 この期に及んでようやく硬直の解けた私は、混乱をそのまま口にした。

「な、な、何の騒ぎだ、これは?」

「もちろん坂本さんの誕生日会ですよ! みんなでこっそり準備したんです! ねぇ、リーネちゃん!!」

「はい!」

 宮藤とリーネは顔を合わせ、花束を差し出してくる。

『お誕生日おめでとうございます。坂本少佐!』

「あ、ありがとう」

 花束を受け取り、もう一度拍手の嵐。やっと思い出した。そう、今日は8月26日。私のちょうど二十回目の誕生日であった。

 花束の重さにようやく実感が湧き、それを我が事のように祝してくれる部隊のみんなに目頭が熱くなる。

「ありがとう、みんな。こんな嬉しい誕生日は……生まれて初めてだ」

 温かい拍手に包まれ、万感の思いで花束を掻き抱いた。

 パンパンと二度それまでと違う拍手の音がして、全員が音の主に注目した。

「はい、皆さん席について。せっかくの料理が冷めてしまうわ。美緒は特等席ね」

 ミーナの号令でそれぞれが思い思いの席に腰を落ち着ける。

 私はミーナに引かれるまま長いテーブルの端に特設された誕生日席に腰を下ろした。ここからは隊員たちの顔一人一人が見渡せた。

 テーブルの上には各国の手料理が所狭しと並べられ、ワインとビールのボトルが林のように乱立している。

 コホンと咳払いしてミーナが立ち上がった。

「今日は坂本少佐の誕生日です。そしてガリア方面のネウロイが排除され、ついにブリタニア本土の警戒レベルがグリーンに引下げられた目出度い日でもあります」

 ミーナの言わんとすることは常に無い量のボトルが示していた。隊員たちそれぞれの手元には並々と満たされたグラスが置かれている。

 ミーナが私に目配せして私のグラスにワインを注いだ。私も頷いてグラスを片手に立ち上がる。

 席を見渡せば、隊員たちが期待に満ちた目で私を見ていた。

「今日は私のためにこのような席を設けて頂き感謝の言葉もない。今日は無礼講だ! みな思う存分楽しんでくれ!! ――――乾杯!」

『カンパーイ!!』

 グラスがぶつかる音が響き、宴が始まった。

 

 どんちゃん騒ぎとはまさにこのことだろう。

 会場を食堂からラウンジに移して、シャーリーとルッキーニが陽気に歌いエーリカが歓声を上げる。顔の赤いバルクホルンは宮藤に絡んで無理矢理酒を飲ませている。

 みな湯水のように酒を飲み干し料理に舌鼓を打つ。

 普段はおとなしいリーネやサーニャ、エイラなどもそれが酒でないかのようなペースだ。流石はヨーロッパ人。宮藤が早々に撃沈しているのとは対照的だ。

「うーん、目が回るぅ。リーネちゃんの……きい」

「どうした宮藤! これしきの酒で酔いつぶれるとは皇国軍人の名が泣くぞ!」

 宮藤はダメだ。完全に沈んでいる。バルクホルンが檄を飛ばすが宮藤の目には既に理性がない。何故か肉食獣の目でリーネの胸を追っていた。

 私は別に同性の愛を否定はしないが、やはり宮藤は胸魔神だったのか。時々怪しげな視線を感じると思ったがやはり……。

 それにしても。

「あははは!」

 私もアルコールが回り愉快な気分だ。

 普段は飲まない酒も、このような席なら特別だ。

「少佐、お注ぎしますわ」

「お、すまないな、ペリーヌ」

 それまでチラチラとコチラを窺っていたペリーヌが空いたグラスにワインを注いでくれた。

「まったく、今日の主役である少佐を差し置いて。羽目を外しすぎですわ」

「あははは! かまわん、ペリーヌ。こうした祭騒ぎなど滅多にできんからな。今日くらいは思う存分飲ませてやれ」

「坂本少佐が……そう仰るなら」

 ワインが回ったのか赤い顔をするペリーヌ。ふと見れば彼女のグラスは空だった。

 ペリーヌの手からボトルをもぎ取ると彼女のグラスに並々と注いでやった。

「しょ、少佐! 少佐にお酌されるなど……」

「そう畏まるな。今日は無礼講! 貴様も十分に飲め!」

「少佐がそう仰るなら……」

 ペリーヌは戸惑い気味にグラスを仰ぐ。空いたグラスにまたワインを注ぐ。

「良い飲みっぷりだ! それ! もっと飲め!!」

 椀子蕎麦のようにグラスを空け続けるペリーヌを見ながら、私も部屋から持ち出してきた秘蔵の扶桑酒を私物の椀に注いで仰いだ。

「わはははっ!!」

 良い気分だ。酒がうまい。

 

 

 

 どれほどの時間が経ったのだろうか。

 いつの間にか私の肩に頭を預けて寝ていたペリーヌをソファーに横たえ、上着を掛けてやる。

 ラウンジを見渡せば、酔いつぶれた隊員たちが死屍累々と折り重なっていた。エーリカなどビール瓶を抱きかかえて眠りこけ、オヤジ臭いことこの上ない。

 私も酒が回って身体が火照っている。

 夜風に当たろうと思って出たテラスは少し肌寒かった。都市から遠く離れたこの基地から見る空は澄んでいて、振り仰いだ夜天には無数の星が瞬いている。

 月も綺麗で、月見には少々早いがこれもまた風情。

 一升瓶片手に胡座をかいて座り、酒を注ぎ直しチビチビ啜る。

「隣良いかしら?」

「無論だ」

 それまでバカ騒ぎに混じらず、見守るようにワインを飲んでいたミーナが私の横に座った。

「扶桑の酒だ」

「頂くわ」

 別の椀に酒をとくとくと満たす。

 ミーナはそれを受け取ると一気に飲み干した。

「不思議な味だけど美味しい。美緒の国の食べ物はみんな独特ね」

「あははは! そう言えばミーナは肝油も大丈夫だったな!」

「ええ……」

「……」

 それから暫し無言になる。空いた椀に酒を注ぎ直す音と波の音だけが辺りを包む。

「今日は楽しそうだったわね」

 先に口を開いたのはミーナだった。

「あぁ、こんな愉快な気分は久しぶりだ」

 

「だけど悲しそうだったわ」

 

 私は椀を持つ手を止めた。

「酔っているな、ミーナ。言っていることがメチャクチャだ」

「じゃああなたの前に置かれてる椀は何?」

「……」

 答えることができなくて、私は黙り込む。

 私の前に置かれた椀。ちょうど向かい合う誰かのために用意されたような椀が、無人の席に置かれていた。

 止めていた椀を傾ける。

「――――旧き日の……愛する友に」

 視線を落とす。

 無人の席に、まるで主の代わりのように置かれたそれ。

 細かな傷が無数につき、半ばから引きちぎられたベルトのバックル。咆哮する虎の浮き彫りが施された小さな小さなそれ。

 小さくなってしまった友を撫でる。

 ミーナの視線を横顔に感じたが、あえて無視した。

 煌々とした月明かり。静かな波の音。

 思い出すのは遠きリバウの戦場。あなたのいた旧き日々。

 月影の向こうに、私は今でもあなたを見る。軍鶏と呼ばれた苛烈さと、それに似合わぬ細面の美貌の――――あなたの面影を。

 

「……その人のこと、聞かせてもらえるかしら?」

 躊躇いがちに口を開いたミーナに視線を向けることなく、夜天を仰ぐ。幾多の戦友と、彼女のいる天空を。

 

 

 

「名を笹松一子、扶桑皇国海軍少佐。――――今日が、命日だ」

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