リバウの若鷲(ストライクウィッチーズ×大空のサムライ)   作:小山の少将

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本日2話目の投稿になります。
前話をご覧になってから本編にお進みください。


終章 君を忘れない

 1944年9月。

 第五○一統合戦闘航空団の活躍により、ガリア方面のネウロイが消滅。人類は史上初めてネウロイに全面的な勝利を収めた。

 扶桑皇国海軍の若きエース・ウィッチ、笹松一子中尉が惜しくも未帰還となってから、四年後の出来事だった。

 

『終章』

 

―― 君を忘れない ――

 

「――――怪我を癒した私は、台南航空隊から再編された二五一航空隊の一員として、再びリバウに戻った。そしてバルバロッサ作戦に従軍し、今に至るわけだ」

 全てを語り終え、私は口を結んだ。

 リバウの情景が、脳裏に浮かんでは消えていく。

 それを懐かしく思えるのは、ただ記憶が薄れただけか、それとも私が成長したということか。

 しかし、笹松分隊長にだけは、私は冷静でいられない。

 湧き上がる後悔に、強く歯を食いしばる。

「今でも思うのだ。あの日、私がついてさえいれば……。私が負傷さえしていなければ……。笹松分隊長は死なずに済んだかもしれない、と」

「それは……、結果論だわ。戦場に“もし”は存在しない」

「それでも、だ……!」

 そう、ミーナの言うことは正しい。全面的に。

 だが、それでは収らないのだ。

「私は私が許せなかった……。分隊長だけではない。多くの戦友がリバウに散り、私だけが、おめおめと生き残っていることが……!」

 みんな、みんな死んだ。

 同じ釜の飯を食べ、血肉分けたる戦友たちが。

 それを悲しいと思う以前に、私はそれが口惜しく、そして寂しい。

「私だけが、私だけが取り残された。置いていかれたのだ! 今でも思い出す。今でも目で追おうとしてしまう! 分隊長がいた場所を。あの白いマフラーを!!」

「美緒……」

 ミーナが私の名を呟いた。

「笑ってくれ。過ぎたことをくよくよと……。我ながら女々しくて情けなくなる」

「笑わないわ。あなたはずっと苦しんできた。それを、笑えるはずないわ」

「お前は優しいな、ミーナ」

「私は優しくなんてない」

 ミーナの顔が曇る。

「私は醜いわ。私、その娘に嫉妬しているの。死して尚、あなたの心を独り占めにしている、その娘に」

 その顔を見て、フッと表情を弛めた。

「そんな顔をするな。おまえが恋人の死を乗り越えられたように、私もいつか彼女のことを乗り越えるだろう。今はまだ、すこし時間が足りないだけだ……」

「美緒……」

 涙に潤んだ瞳で見上げてくるミーナを、そっと胸元に抱き寄せる。

 抱いたミーナは、普段思っているよりもずっと小さい。

 一癖も二癖もある部隊を取り纏め、軍の上層部とも対等に渡り合う彼女の肩はこんなにも細く儚い。

 きっと彼女も――――ミーナよりも小さかった彼女も、その儚い身体で戦場の重圧に耐え続けていたのだろう。

 だから、安らかに眠らせてやらねばならない。こちらに悔いが残らぬよう、私が掃き清めなくてはならない。

「分隊長、お飲み下さい」

 小さなバックルの前に置かれた椀に酒を満たす。

 酒を飲めなかった私は、彼女とほとんど酒を飲んだことがない。

 だが今日だけは……。

「分隊長、私は千里を越えて帰って参りました。あなたとの約束を果たし、ついにこうして勝利をお伝えすること叶いました。どうぞ、祝い酒です。共に杯を干しましょう」

 とくとくと自分の椀も満たし、掲げて飲み干した。

 酒の味は少し塩辛かった。

 


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