魔法少女まどか☆マギカ外伝 ~エピソード・オブ・マミ~ 友情のティロ・フィナーレ   作:soranora

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魔法少女

 夜の闇が立ち並ぶ高層マンションを永久に繋がれた奴隷のように見せた。雲の切れ目から月が顔を覗かせて、闇の世界に注がれた断片的な光の祝福が巴マミと記された表札を照らしだす。月の光は大きな窓から薄暗い部屋に差し込み、ぬいぐるみ、コーヒーカップ、化粧台などのインテリアを闇から浮き上がらせる。祝福の光が届かない奥の部屋から女の子の啜り泣く声が聞こえてくる。

 

小ぶりのクッションの上で、丸くなったキュウべえがムクッと体を起こして能面のような平坦な表情を後ろ足で掻いた。そして事もなげに丸くなった。

 

光の祝福に見放された黄色い髪の女の子はベットの中ですすり泣いている。闇は女の子に光が射すことを許さない。女の子は光の届かない冷たい水の底に一人取り残されたようにただ震えるしかなかった。宿命や運命と呼ばれる闇が女の子の見据える光を奪っていた。

 

交通事故で両親を亡くした女の子。女の子はいつも一人ぼっち。泣いている女の子は両親を失ったことで嘆いているわけではなかった。逃れようのない運命が女の子を絶望へと引き摺り込もうとしていた。魔法少女として生きる女の子は、課せられた運命に挑むしかなかった―――

 

  『花のように儚いのなら、あなたの元で咲き誇るでしょう。

              

               そして笑顔を見届けたなら、そっと一人散ってゆくでしょう』

                

 

巴マミは交通事故で死ぬはずだった。しかし魔法少女となることで生きることを許されていた。

 

魔法少女――

一つの奇跡を起こす代償に魔女との戦いを課せられる存在。それは恒久的に続く戦闘と、この上ない孤独に身を投じること。奇跡を起こし運命を捻じ曲げた罪、今まさにその報いを受けている。召還したマスケット銃を飛び交う使い魔に向ける巴マミに、そんな思いが去来していた。

 

                 【折り紙の魔女】

 

 鏡が何枚も張り巡らされた空間、その鏡一枚一枚にカラフルなビーズや細片が美しい模様を作り出す。それが一定のリズムでカサッカサッっと乾いた音を立てながら模様を変化させる。まるで万華鏡の内部にいるような美しい空間だ。結界内はオハジキのような丸い宝石が煌びやかに舞っている。そこはノスタルジックな日本のおもちゃを詰め込んでいるような世界。和のテイストを基調とした静穏な美しさがある。

 

マミを取り囲んだ文化人形のような使い魔が、回転する風車を持ちながらブラブラ浮遊していた。文化人形とは大正から昭和初期に作られた布製人形で、頭にボンネットを被せられた女の子の人形だ。通称ブラブラ人形。この使い魔達はその可愛らしい姿とは裏腹に恐ろしい側面を持っていた。

 

マミは包囲された使い魔へ再三マスケット銃の弾丸を撃ち込む。けれども使い魔を捕えることができない。弾道の道筋を知っているかのように使い魔はヒラリヒラリとかわしていく。

 

「どうして!」

焦りの表情を浮かべてマミが叫んだ。

 

マミがこの結界に入ったのはこれで三回目。突然見滝原に現れたこの結界の居住者達は、不思議なことにマミの放つ攻撃を全てかわしてしまう。マミがこれまでにこの結界内で撃退した使い魔の数は――――――ゼロ。

 

マミは決して戦闘能力が低い魔法少女ではない。歴代の魔法少女を知るキュウべえの目にも、マミの戦闘能力は歴代屈指の強さを誇る魔法少女として映っていた。しかし、彼女の攻撃は魔女はおろか、その取り巻きの使い魔でさえ捉える様子を見せない。その見通せない戦闘は魔女を消滅させることなど、夢のまた夢のような不死身度をマミに感じさせていた。

 

この魔女は倒すことができないのでは?

 

マミの胸にあきらめのようなものを僅かに覚えさせる。それと共にこの魔女からほとばしる奇妙な感覚が、普通ではない存在としてマミに印象を残した。

しかし、そうも言っていられない状況がマミを戦闘にかりたたせていた。この魔女はすでに数人の人命を奪っている。このまま放置すればこの魔女による被害者は後を絶たない。どうにかして阻止しなければならなかった。生来具わる正義感がマミをこの魔女の元へ向かわせていた。それが勝つ見込みの薄い戦いだとしても………

 

使い魔はブラブラ揺れる状態から、持っていた風車をマミに向かって投げつけた―――

 

ダーツの矢のように飛んでくる風車、マミは体操選手のようにバク転、ロンダートを織り交ぜた連続技でそれを回避した―――

 

外れた風車は次々と地面に突き刺さる。

 

マミは着地と同時に地面に立っているマスケット銃を蹴り上げ、キャッチと同時に使い魔を撃った―――

 

しかし使い魔はヒラリと弾丸をかわす。

 

「また!」

 

そう声を発した刹那、背中に受けた強い衝撃で呼吸が止まったかと思うと、重力を無視したマミの体が空中に投げ飛ばされた―――

 

気が付けば粉砕した瓦礫の中に埋もれている。そこへ何十発もの巨大ビー玉の弾丸が、畳み掛けるようにマミめがけて弾幕の雨を降らせる―――

 

舞い上がる粉塵。

「……………」

 

粉塵の煙幕が薄れ、魔法のリボンを覆ってガード形態をとったマミの姿が現れる。苦渋の表情で睨みつける先に色鮮やかな折り紙で折られた巨大な鶴の化け物が佇む。魔女の本体だ。

 

「マミ!やっぱりこの魔女は君には無理だよ!」

勢いよく駆け寄ってくるキュウべえ

 

「このまま放ってはおけない!」

 

そう叫ぶとマミは両手を広げ、マスケット銃の隊列を召還し、魔女めがけて一斉掃射する―――

 

折り紙の魔女はその体を紙ふぶきのようにバラバラにして、マミの放った銃弾の雨をかわす。それはマミにとっては見慣れた光景となっていた。外れた弾丸はむなしく結界の壁を叩いた。

そしてバラバラになった紙ふぶきが一つに集積して、魔女は折り紙で折られたダイヤモンドの形態に復元した。

 

「マミ!」

 

説得ともとれるキュウべえの声に、マミは悔しそうな表情で魔女を睨みつけた。少しためらった空白を置くと、渋々魔女に背を向けて走り出す―――

 

逃走をはじめるマミ。追ってくる使い魔の執拗な攻撃をたぐいまれなる身のこなしでかわしながら、いつの間に逃げ方が上達していることに自嘲的な苦笑いを浮かべる。しだいに結界が薄くなり、追尾した使い魔達も深追いをやめていた。マミは構うことなく全速力でそのまま結界を駆け抜けた―――

 

 

 

外へ出て安全を確認するとマミは膝に手を当てて荒れた呼吸を整えることに努める。光のシャボンが弾けるように変身がとけて元の制服姿に戻った。出た所はたくさんの車が停まっている地下駐車場のようだ。

 

「あの魔女は君には無理だよ」

キュウべえが声をかける。

 

「犠牲者はもう出てる、誰かが止めないと」

 

「君の他にこのテリトリーを守る魔法少女はいないんだ、魔女はさっきのやつ以外にもたくさんいる、君が倒れたら犠牲者がもっと出ることになるよ」

 

「わかっているわ」

 

マミは呼吸を整えるとゆっくり歩きだした。その後をキュウべえが追った。

 

 

                   ◆ ◆ ◆

 

 にぎやかな通りに出たマミは、歩道を俯きながら歩いた。すっかり暮れ落ちた街には街灯が灯る。車道にはヘッドライトの光が激しく往来した。手をつないで楽しそうに歩く親子が、はしゃいだ声をマミの耳に残してすれ違った。前から自分と同じぐらいの女子グループが談笑しながら向かってくる。マミは視線を逸らしながら道を空けた。視線の先にお店のショーウインドウが自分の姿を映しだす。

 

立ち止まったマミの姿………

 

その後ろでは人々が歩みを止めることなく行き交った。常に流れながら交錯する世界から、はじき出されて立ち止まっている自分の姿。これが運命を捻じ曲げた私の代償。私は生きているはずのない人間だ。あのまま死んだ方がよかったのかもしれない。生きていくことがこんなにも苦しく、寂しいものになるのなら………。

 

契約と一緒にはめられた指のリングを擦りながら、マミは目を細めた。

 

 

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