魔法少女まどか☆マギカ外伝 ~エピソード・オブ・マミ~ 友情のティロ・フィナーレ   作:soranora

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修羅

                  【コミューンの魔女】

 

 不気味な薄暗さの中をマミは彷徨っていた。ぶ厚い雲が日光を遮断して昼間の街に異様な暗さを作りだすような、非日常的な感じを持たされる空間だ。灰色の霧が立ち込めており、視程は五〇メートル程。辺りにどんな建物があるのか?どんな地形をしているのか?ここはどこなのか?マミには見当もつかなかった。気が付けばこの異様な空間に足を踏み入れていたからだ。それまでの記憶が無い。大きな事故を起こして病院のベッドで目を覚ますみたいに。

 

この場所はもう、元いた世界とは異なった世界なのかもしれない。知らないうちに生と死の分水嶺を跨いでしまった、マミはそう思った。あの楽しかった日々が随分昔のように思える。仲間たちと催した喫茶店がノスタルジックに蘇った。古い八ミリテープを回すように、ダストとスクラッチノイズを加えた赤茶けた映像に和美や姫野、香織の姿を映しだした。和美が愛くるしい笑顔で笑っている。姫野が凛として仲間たちに指示を出す姿。病室で悪戯っぽく笑う香織、まだ元気だった頃のものだ。香織は私に高揚感と安逸の日々を与えてくれた。もう彼女達と顔を合わせることは無いのだろう。私は何人も及びもつかない、果てしなく遠い所へ来てしまった。瑠美の制止を振り切り、杏子に見放された私は、永遠に誰にも気づいてもらえない闇の世界へたどりついた。地球の裏側へ回っても私はいない。月の岩塊にも、見上げた星の光を一つ一つ探した所で私の影もない。あの世界の森羅万象から私という存在は消滅したのだ。きっと…………

 

空っぽになった心を抱えながら、虚ろな目であてもなく歩くマミ。ふと自分が魔法少女となってマスケット銃を握っていることに気が付いた。自分の意志ではなく、まったく別の何かが抜け殻となったマミに変身を遂げさせた。人間に具わる防衛本能のようなものが無意識的に作用したのかもしれない、忘我時に働くセキュリティーのような機能の類が。けれどもそこにははっきりと、何者かが居座っていた残留感の痕跡が感じ取れた。

 

「!?」

 

突然、左肩に痺れのようなものを感じた。電気のような尖った信号だ。緩慢になったマミの神経が告げた。

 

これは痛覚だ………

 

マミはゆっくり空っぽの瞳を上げて確認する。ホログラムのような淡いブルーの人影が、ビームサーベルのような武器でマミの左の肩を袈裟切りの形で斬りつけていた。マミは平淡な表情のまま斬りつけられた肩に目をやる。サーベルは骨で止まっていた。それはひどく脆弱な攻撃に思えた。それでも斬りつけられた肩からは鮮血が流れている。

 

目の前の影は手からサーベルを召還してもう一度マミに斬りかかった―――

 

マミは瞬時に手を伸ばし、サーベルを素手で受け止めた。

影は両手持ちであらん限りの力でサーベルの柄を握っているように見える。しかしこの上なく脆弱だ………

マミはサーベルを掴みながら思った。

それでも手からも鮮血が流れていたが、それほど大きな脅威には思えなかった。

 

影は信じられないといった感じで首を横に振りながら、怯えたように後ずさりを始めた。マミは無意識にマスケット銃を影に向けた。そして引き金を引く―――

 

「!」

 

ホログラムの影はトマトのように弾け飛んでブルーの体液をぶちまけた。ブルーの飛沫はマミの体に降りかかる。

 

「………」

 

マミは辺りを一瞥すると、いつの間にか集落のようなところに足を踏み入れていたことに気が付いた。ドーム型のような灰色の住居が点在し、ヒッピー的なコミューンのような印象を持った。世俗的な社会や文化といったものから離れて暮らし、独自の習慣を持った共同体。そこには確かな文化が存在している。

 

数十体の影達が集まりマミの様子をひとしきり窺っていた。目や鼻といった表情を読み取れる要素はないが、マミに対して酷く怯えている有様が手に取るようにわかった。よく見ると男女の区別や年齢の重ね具合も識別できる。子供の姿もあった。子供たちは母親の影に隠れるようにマミを覗きこんでいる。

 

マミは新大陸を植民地と目論んだ、侵略者のようだ。

 

マミはそのまま生気の無い体をただ黙って立たせていた。水面から顔を出したくたびれた杭のように………

 

すると村の屈強な影たちは侵略者から村を守ろうと、武器を携えてマミに襲いかかってきた―――

 

「!!!」

 

マミは反射的にマスケット銃で応戦する。マスケット銃から放たれた弾丸によって脆弱に弾け飛んでいく影達。飛沫した体液をかぶりながら、マミは奇妙な高揚感を持った。

それは不思議とぽっかり空いた心を埋めてくれた。穴が塞がる瞬間の刺激はこのうえない快感をもたらしてくれる。すべての感覚が性感帯へと変わり、刺激される感覚は天にも昇る気分だ。しかし塞がったはずの心は瞬時に穴を開けてしまう。高温のフライパンの上に落ちる水滴のように一瞬で気化した。立ち昇る焦げた臭いが次への快感を促す。

 

マミは自然とその快感の虜となっていった。襲って来る脆弱な影達を欲求を満たすために打ち殺していく―――

次第に襲って来る影はいなくなった。

 

「………」

 

それはこの集落が無抵抗になった事を意味した。マミは足元に倒れていた、下半身を失って悶える影を踏みつけると、歪んだ笑みを残された影達に向けた。残っているのは女性や老人、子供の影だけだ。マミはサーベルで傷つけられた掌を気色の悪い表情で舐める。

 

「もっと、ちょうだい…………」

 

マミはニタリと笑った。

 

コミューンの影達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。マミはゆっくりとした足取りで影達を追う。逃げ遅れた老人の影がいた。マミは露ほどの躊躇いも見せずに背後からその影を打ち抜いた。飛び散った体液が濁った眼をしたマミの顔にかかる。マミは訪れた快感に歪んだ笑みを浮かべる。

 

マミは「キャハッ!」と気持ち悪い笑い声をあげた。

 

辺りから影達の気配が消えた。恐らくこのドーム型の住居のような所へ逃げ込んだのだろう。そう見当をつけたマミは愉快に囁いた。

 

「もう、みんな恥ずかしがり屋さんなんだからぁ~」

 

マミは住居の扉を蹴破ると、抑場のある愉快な声であいさつした。

 

「お邪魔しま~す」

 

中へ入ると、壁際に母親のような影が二人の子供を守るように両手を広げて立っていた。マミは見当が当たった事に酷く喜んだ。

 

「見~つけた!」

 

マミは冷酷な笑みでマスケット銃を母親のような影に向けると「バンッ!」と愉快におどけて打ち殺した。マミは訪れた快感にゾクゾクと身を震わせて甲高い声で笑い声をあげる。

 

「キャハハハハハハハッッッッ!!!気持ちいィィィィィ~!」

 

壁際には震えて怯える子供の影が二人いる。マミは気持ちの悪い足音を立てながら、震える二体の影に近づいた。マミは可愛いものでも見るように小首を傾げてニッコリ笑った。そして震える影にマスケット銃を向ける。そして引き金を引いた

 

「………」

 

しかしカチッという乾いた音を立てて弾丸が飛び出さない。マミは「あれ?あれ?」と言いながら何度も引き金をカチカチ鳴らした。けれども弾丸が飛び出さない。マミは苛立ったようにしきりに引き金を引く。

 

「なんで撃てないのよ!えいっ!えいっ!故障かしら?えいっ!えいっ!」

 

マミは何かを思い出したようにすっとんきょうな声を上げた。

 

「そっかぁ~これ単発銃だったっけ?私としたことが」舌を出すとへへっと笑った。

 

「もうめんどくさいなぁ~」マミは溜息にも似た声を漏らすと二体の影を見下ろす。そして頭の電球を光らせた。

 

「そうだ!」

 

マスケット銃を逆さに持ち替えて、銃身を握った。そして小首を傾げてニッコリ笑った。

 

「お待たせ」

 

そしてマスケット銃を振り上げた。マミは振りかぶったマスケット銃を二体の影へめがけて振り下ろす。

 

「えいっ!えいっ!えいっ!えいっ!えいっ!」

 

何度も、何度も掛け声と共にマスケット銃を振り下ろした。その度に飛び散る体液がマミの体に降りかかる。マミは肩で息を切らせながら動きを止めた。

 

「あ~疲れたぁ」

 

マミはしばらく休むと、次の快感を求めて外へ出た。そして次々と住居へ侵入して殺戮を繰り返した。愉快になった気持ちを抑える事が出来ず、鼻歌交じりに虐殺の行進をした。時にはクラシックの指揮者のように手がリズムを刻んだ。集落はマミの虐殺のシンフォニーを奏でた。マスケット銃の発砲音と鼻歌が混じり合った交響曲。

 

不意に足を止めた。点在する住居よりも一回り大きなドーム型を発見したからだ。村の一番奥に居を構えている。きっと重要な何かがあるに違いない。マミは歪んだ期待を胸に、その建物に足を向けた。

 

 

 

 

中に入ると、祭壇のような台座の上に、昆虫のマユのような物体が祀られていた。マユは五、六メートルぐらいの大きさで、全体から淡い光を放っている。輪郭は美しい曲線を描き、真ん中あたりにきれいなくびれがある。しばらくマミはその美しいマユの姿に目を奪われていた。

 

「!!」

 

突然、祭壇を守る女官のような影が二体出現する。二人の女官はサーベルを携えてマミに襲いかかってきた―――

 

マミは涼しい顔で二体の女官の影を絶命させる。そして舌打ちして飛び交う羽虫を払うように、吐き捨てた。

 

「うっとうしいわね!」

 

マミは目の前の美しいマユに惹きつけられ、それ以外の物事に対してどうでもいいような感情を持った。それはひどく偏狭的で自分勝手な気持ち。この美しいマユを自分の物にしたい、他の誰にだってやるものか、これは私だけのものだ。

 

マミの骨組みを無くした心は美しいマユに誘惑されるように、私利私欲を追究した独占欲に形を変えた。マミは美しいマユの姿をひとしきりに見つめながら、束の間の優越感と充足感に浸った。

 

「なんて美しいんだろう………」

 

マミはうっとりした羨望の眼差しで、美しいマユを眺め続けた。骨組みを欠いた心は移ろいやすい。マミの羨望な眼差しは、次第にトゲトゲしく攻撃的なものに変化して行く。黒く染まった胸の中に、刺激的なスパイスが混ざり合う。それはカッカっした灼熱を作りだし、胸の内に焼きついて、こびりついた。容易く落とすことができない頑固な汚れだ!

 

マミは合わせ鏡を見るような面持ちでマユを睨みつける。どこまでも透き通ったマユは、汚染の概念を忘れた海のように綺麗に澄んでいる。私は側溝のドブのように醜く汚れてしまった。美しいマユは私を見て軽蔑している。私は好きでドブのように汚れた訳ではない。マユは私を嘲笑っている。心を弱くした醜い私を馬鹿にしている。

 

あなたの美しさがこの上なく憎い!

 

憎くて、憎くて、しょうがない!

 

マミはみるみる顔を険しくする。そして美しい光を放つマユに向けて、突き刺すようにマスケット銃を構えた。マミは濁った目でマユを睨みつけると、トリガーに添える人差し指に負のパワーを集中させる。そしてつんざくような声で叫んだ。

 

「消えろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

マミはトリガーを引いた。放たれた弾丸は美しいマユの輪郭を歪ませる。マミは狂ったように銃撃を絶え間なくマユに浴びせ続けた。

 

「消えろ!消えろ!消えろ!消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

美しいマユは見るも無残に原型を留めないほど崩れ滅びた。マミは執拗に銃撃を繰り返す。欠片ほども残してなるものか!そんなねちっこい嫉妬の憎悪が轟音と共に、鬼の鳴き声のように轟いた―――

 

 

 

 

その後、歪んだ結界から現実に戻されたマミは、もたらされたグリーフシードによって、そこが魔女の結界だったことを知った………

 

 

 

 

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