魔法少女まどか☆マギカ外伝 ~エピソード・オブ・マミ~ 友情のティロ・フィナーレ   作:soranora

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奈落

 気が付くと、いつかのショウウインドウの前にマミは立っていた。ショウウインドウはあの時と同じように人々の流れがマミを取り残すように映っている。雲ゆきの怪しい鈍色が、マミの心と同じように澄んだ空を覆い隠していた。今にも大粒の涙を落として泣きそうな空模様だ。

 

降り注いだ罪が枯れた道を彩り、マミはその道を彷徨い続けていた。淡く儚げな美しさに、憂いた口元が絶望への気配に触る。そして逆さまの笑みを眼前のショウウィンドウに映し出した。雲の切れ間から瞬間的に西日が街に差し込む。映し出されたショウウィンドウの構図に終幕の光が切り裂く。幻惑された虚ろな瞳は眩しすぎて未来を見つめることができない。

 

私は行く末を見失った船のように、このまま黒々とした海を永遠に漂い続ける運命………

 

突然、走って来た小さい女の子がマミにぶつかった。

 

「!?」

 

少女は尻餅をついた。

 

マミは女の子をトゲのある視線で見下ろした………

 

女の子はマミが向けた冷淡な表情に怯えた表情で震えている。一瞬、その女の子が、あの結界の中で見たホログラムの子供と重なる。

 

「!!!!!!!」

 

その瞬間、ストロボのような発光の断続がマミの脳裏に激しく突き刺さった―――その断続的な隙間にマミの残虐な行為がスライド写真のように次々と映し出された―――

 

マミの中で何かがカチリと音を立てて入れ替わったような感覚があった。突如に復旧した美徳な精神の欠片が、マミの残虐行為を拒絶する。生理的に拒んだ意識が、胃の内容物を持ち上げた。逆流した胃液に思わず口を手で押さえるマミ。

 

「!」

 

マミは女の子を放置して、口を押えながら路地に駆け込んだ―――

 

そして工事現場にある金網に手をかけると、酔っぱらったサラリーマンのように嘔吐した。

 

頭がクラクラし、意識が朦朧となった。耐えかねた鈍色の雲は大きな涙を降らせて、地面をバシャバシャと叩きだした。マミは崩れるように両手を地面につき、四つん這いの形になる。激しく打ちつけられた大粒の雨の滴がマミの顔に跳ね返った。整えられたマミの髪は崩れて、制服は瞬く間にびしょ濡れになる。

 

もう私は人間ではないのかもしれない。私の中に棲みついていた悪魔は、ほどなく私の意識もろとも食い尽くすだろう。それは私であって、私でない存在。巴マミという肉塊は私の手から離れて悪魔の手に落ちる。

 

私は死んでもいい………

 

この過酷な運命から逃れることができるのなら、あらゆる痛みから解放されるのなら、私は喜んで死を受け入れる。けれどもその逃避の選択を許してくれない。私の奥底にある何かが頑なにそれを拒絶する。

 

私にとって生き続ける事はもう、あらゆる痛みにひたすら耐え続ける拷問でしかないのに………

 

行くも地獄、帰るも地獄。踏み出される私の一歩は全て奈落の底へ通じている。

 

生き続ける事も、死ぬこともできない―――

 

マミは思った。地獄は死後の世界にあるのではない。今生きているこの瞬間、今感じているこの絶望こそ、地獄そのものなのだ。

 

私は八方塞の地獄の壁に閉じ込められた。逃げ場の余地を失って断崖絶壁に取り残された。二の足を揃える事しか許されない足場の絶壁は、四方八方からの絶望という荒波によって今にも崩れ去ろうとしている。

 

マミに形容しがたい恐怖が襲う。真っ暗闇の虚無の世界に置き去りにされる恐怖だ。その世界には何も無い。何も見えない。音も存在しない。何かに触れることもできない。あらゆる要素が全て失われた世界。あるものは虚無だけだ。マミはそこに取り残されようとしている。永遠のひとりぼっちとして………

 

マミは戦慄の恐怖に心胆を寒からしめる。体をガクガクと震わせ出した。打ち付ける雨が体温を奪って震えに拍車をかける。マミはあられもなく泣き出し、震えた声で助けを求めた。

 

「助けて………誰か助けて………お願い………」

 

マミの声は次第に大きくなり、打ち付ける雨の中で叫び声をあげる。

 

「誰か助けて!お願いよ!私を助けて!私を助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

マミは喚くように泣き出した、襲って来る恐怖を振り払うように、大声をあげた。マミのソウルジェムは濁りきり、限界を迎えていた。魔女化へのカウントダウンがはじまった―――

 

マミは地面に突っ伏して、水たまりとなった地面に顔を埋めた。瞳が浸食する闇に支配されていく―――マミは遠のく意識の中で、最後の力を振り絞って囁いた。

 

「香織………助けて………香織………」

 

雨がピタリとやんだ―――

 

豪雨を降らせた鈍色の厚い雲が切れて、西日が街に差し込んだ。太陽の光が、倒れたマミの体を包むように暖める。

 

マミの携帯電話が鳴り響いていた。それがなぜだか雲の切れ間から降ろされた糸のように思えた。闇の浸食は急速に力を弱めて、衰勢していく。

 

マミはその時、生命の声を聞いた―――

 

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