魔法少女まどか☆マギカ外伝 ~エピソード・オブ・マミ~ 友情のティロ・フィナーレ   作:soranora

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ティロ・フィナーレ

均衡の魔女は全身を震わせて、耳をつんざくような音を放った。その突き刺すような音にたまらず杏子は耳を押さえて顔をしかめる。魔女は両翼を大きく広げてマミを威嚇した。均衡の魔女はマミを危険な存在として認識したようだ。対峙するマミは微動だにせず、均衡の魔女を真っ直ぐ見据え続ける。それからマミは瞑想するように目を閉じると、心の中で唱えた。

 

香織、力を貸して―――

 

香織の声が聞こえる。

(押しつぶされそうな緊張と重圧の中、逃げたくなるような感情を抑えて、覚悟の構えでスタートを待つ―――)

 

マミがスカートの裾を持ち上げて上品な挨拶をすると、スカートの中からマスケット銃が二本こぼれ落ちた。二本の銃を手に取ったマミは耽るように目を閉じてスタートを待つ。

 

緊迫の沈黙………

 

耐えかねて声を上げたのは魔女だった。均衡の魔女はつんざくような悲鳴をあげた。マミはその声を合図にカッと目を見開く。

 

香織の声が聞こえる。

(流れ出す音楽に身を委ねるように滑りだす―――)

 

マミは緩やかに身を翻して地面を滑るように動き出した。滑った地面に光のトレースが線を描いていく。その様相はまるで氷の上をスケート靴で滑っているようだ。マミは氷の女王から力を借りた。その機動力は空中を飛び回る使い魔を迎撃する力となる―――

 

香織の声が聞こえる。

(ゆるやかにターンとステップを乗せながら自分が作りだす世界をリンクに染めて行く―――)

 

マミは踊るようにターンとステップを交えながら、その能力を体に馴染ませるように滑りまわる。使い魔達は空中を旋回し戦闘機のようにマミを追尾した。しだいにその距離を縮めた使い魔達は手に持った日本刀でマミに切りかかった。マミは襲いかかる攻撃を軽やかなステップとターンでかわしていく。ヒラリヒラリとかわすマミはまるで闘牛士のマントのようにその力をいなす。マミは前方に数匹の使い魔が待ち受けていることに気付いた。後方からの追尾もその手を緩めていない。挟み撃ちの形となった。

 

香織の声が聞こえる。

(そして最初のジャンプ。ここでいきなりトリプルアクセルを飛ぶの。難易度が高いゆえに失敗する確率も高いわ。でも私は跳ぶ。着地を成功させて一揆に会場全体を私の世界に引き込むの―――)

 

マミは加速するように地面を蹴ると、待ち構えている使い魔に立ち向かう。そのスピードをぐんぐん上げて突っ込んでいく。使い魔達も正面から刀を構えてマミを迎え撃つ。マミは力強く踏み切ると、迎え撃つ使い魔達の群れの中に飛び込んだ―――

 

マミは回転しながら斬りつけられる無数の刃を紙一重でかわしていく。刃の群れを切り抜けたマミは綺麗な着地を決めると、マスケット銃で二体の使い魔を撃ち落した。

 

香織の声が聞こえる。

(切れのあるスピンでその高ぶる思いを花として咲かせて行く―――)

 

マミは浮遊する使い魔達を睨みつけた。

「今度はこっちの番よ」

 

マミは帽子を取って薙ぎ払うように腕を振る。帽子の中から無数のマスケット銃がこぼれ落ちてマミを包囲していく。マスケット銃に囲まれたマミはその一つを手に取り、銃口を使い魔達の群れに向けた。

 

「さあ!かかって来なさい!」

 

使い魔達は全方向からマミに切りかかる。まず前方から襲いかかった使い魔に一発。その銃を持ち替えて後方から来た使い魔を殴り飛ばす。ローキックで二本のマスケット銃を蹴り上げてそれぞれ手に取ると、左右から襲って来る使い魔を回転しながら殴り飛ばす。更に反転して前後から来る使い魔を同時迎撃。マミは反転とマスケット銃の蹴り上げを繰り返し、襲って来る使い魔を殴打と射撃のコンビネーションで撃退していく。最後の二本を同時射撃で撃ち終えると、使い魔達の攻撃の手が止まった。マミはシニカルな笑みを浮かべて言った。

 

「もうおしまい?」

 

マミは再び滑りだした。使い魔達は倣う様にマミを追尾する―――

 

香織の声が聞こえる。

(前半が終わると後半よ。私はブレードを力強くさばきながら、鳥のように羽ばたく―――大技の連続よ。ダブルアクセル、トリプルトゥループ、トリプルサルト、何種類もの大技を跳ぶたびに魂は躍動する―――)

 

マミは香織の演技を思い出し、そのイメージを体に乗せていく。溢れ出す歓喜の感情を表現したあの演技だ。マミは香織の動きをイメージして軽やかに銀盤を舞う。襲って来る使い魔の攻撃をかわしながら、香織のイメージに身を任せる。体の一部のように動くマスケット銃は的確に使い魔を捉えて撃退していった―――

 

少し離れた所で茫然と見つめる杏子が横のキュウべえに訊いた。

 

「おい、あたしたちじゃあ、倒せないはずじゃなかったのか?」

 

「ありえない、こんなことって………」キュウべえはいつにもなく取り乱している。「僕は何を見ているんだ、これじゃあまるで神への叛逆だ。法則から完全に逸脱している。マミはいったい………」

 

「神への叛逆?」杏子はキュウべえの言葉を反復して訊いた。

 

しかし、キュウべえからの返答はなかった。

 

杏子はマミの戦いを見ながら嬉しそうに呟いた。「それよりマミの奴、なんであんなに楽しそうなんだ?」

 

マミは笑顔を浮かべながら戦っていた。イナバウアーのように体を反って後方の使い魔をマスケット銃で撃ち落す。地面を蹴って体を地面と平行にするバタフライステップで使い魔の攻撃をかわしながら殴打で打ち据えた。追尾してきた使い魔の後方へ素早く回り込み撃墜する。香織の滑りは舞い上げられた砕氷がダイヤモンドダストの世界を作り出した。マミの場合は結界内のオハジキの宝石が煌びやかに舞い、虹色の輝きを辺りに散りばめた。それは香織が語った奇跡の世界を具現化した姿なのかもしれない。

 

マミの姿に目を奪われていた杏子は、不穏に動く均衡の魔女を捉えた。均衡の魔女は苦しくなる戦況に痺れを切らしたように、巨大ビー玉の弾丸を辺りに召還していく。杏子は警鐘を鳴らす。

 

「マミ!気を付けろ!」

 

杏子の警鐘を受け取ったマミは均衡の魔女に視線を送る。魔女は両翼を大きく広げて、つんざく音を轟かせた。召還した巨大ビー玉が至る所から音速となってマミに襲いかかる―――

 

マミは急加速で弾丸をかわしていく―――

 

香織の声が聞こえる。

(そして最後の山場を迎えるわ、大技ジャンプの三連続)

 

執拗な弾幕がマミを追い込んで行く。光のトレースを描きながら急旋回で回避するマミ。弾幕の的は徐々にマミとの距離を縮めていく。マミは内在するパワーを爆発させてソウルジェムを燃した。そしてトップギヤの更に上へとギヤをシフトする。

 

限界突破だ!

 

途方もない速度がもたらされた。高速移動するマミの体は襲いかかる加速重力に悲鳴をあげだした。一千馬力のエンジンを載せた自動車が力を受け止められずに破綻するボディーのように、マミの体は軋みバラバラになろうとしている。激しい空気摩擦が肌を焦がす。意識が何度も遠のく。体内の内臓物が体を突き破り外へ飛び出しそうだ。吸い込む空気が燃えるように熱い。不意に使い魔の群れが待ち構えているのが目に入った。弾幕はマミを使い魔達の袋小路に追い込もうとしている―――

 

香織の声が聞こえる。

(踏み切る瞬間に躊躇う感情を全て吹き飛ばすの!その時心の中で叫ぶのよ、私なら―――)

マミは目をカッと見開いて叫んだ。

 

「絶対にできる!跳べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

マミは高速のまま使い魔の群れの中へ突っ込んでいく。瞬時に両手のマスケット銃を銃身に持ち替えた。力強い踏切でジャンプ―――

 

マミは勢いそのままに体をコマのように高速回転させて使い魔の群れをマスケット銃で薙ぎ払った。

 

「!!!!!!」

 

弾き飛ばされた使い魔達は次々と結界の壁に突き刺さり、一匹残らず絶命していく。

 

着地したマミは肩で息を切らせた。無理をした反動が体に圧し掛かってくる。体中が軋んで膝がガクガクと震える。空気摩擦によって焦げた煙が仄かに体から浮かび上がった。今にも崩れ落ちそうな体を精神が必死に支える。マミは使い魔を殲滅させた。しかし、心の中で鞭を打った。

 

まだよ、本当の勝負はここから―――

 

香織の声が聞こえる。

(この頃には会場が一つとなって私のステップに手拍子を送る)

 

マミは均衡の魔女に狙いを定めるように見据える。

「仕上げよ」

 

マミは片腕を横へ広げて均衡の魔女を中心に円を描くように滑りだす。そしてマスケット銃を等間隔で配置していき、均衡の魔女を包囲していく。マスケット銃は銃口を均衡の魔女へ向けながら発射の合図を待った。ちょうど一周したマミは腕を横へ振り発射の合図を送る。マスケット銃の隊列は一斉掃射して、均衡の魔女に弾幕の雨を降らせた―――

 

しかし虚しい弾幕の轟音、魔女を捉えることができない。魔女は例のごとく紙吹雪のようにその体を分裂させて消滅を逃れた………

 

杏子は悔しそうに言った。「やっぱりダメか………」

 

バラバラになった紙吹雪は元の場所へ再び集積して形態の復旧を始める―――

 

香織の声が聞こえる。

(そして演技の最後に全ての思いを込めたスピンでフィニッシュを決める)

 

マミは高く飛び上がった―――

 

魔法のリボンを取り出して頭上にリボンを翻す。リボンが覆い隠す形でマミの頭上に何かを形成していく。そしてサプライズのプレゼントを見せるようにマミはリボンを引いて、中身を披露した。そこに現れたのは大砲のような超巨大マスケット銃だ。

 

杏子は思わず声をあげた。

「で、でかい!」

 

マミは巨大マスケット銃を抱えるように掴むと、集積するポイントへ照準を構える―――

 

杏子はマミの狙いを読み取ると叫んだ。

「あいつで、集まった所をやる気か!」

 

不意に杏子の目に地面に埋もれたビー玉の弾丸が浮き上がるのが見えた。最後の悪あがきだ。マミはそれに気づいていない。

 

「マズイ!」

 

杏子は咄嗟に飛び出した。浮かび上がった巨大ビー玉は音速で無防備なマミに襲いかかった。駆けつけた杏子が瞬時に割って入りマミの盾となる。身を挺して弾丸を抑えた杏子はマミの真横で弾き飛ばされる―――

 

「!?」

 

咄嗟に起こった出来事にマミは照準を外して、被弾した杏子を案じた。

 

「杏子!」

 

杏子は巨大ビー玉と共に力なく落下していく。杏子は落ちながらカッと目を見開くと叫んだ。

 

「ぶちかませぇぇぇぇぇ!マミィィィィィィ!」

 

マミは杏子の発破に促されるように涙を浮かばせた目を再び照準に合わせる。マミは巨大マスケット銃を構えながらある記憶を思い返した。あの楽しかった病室での一場面だ―――

 

 

―――「てぃ・ろ・ふぃ・なーれ?」マミと和美そして姫野は怪訝な表情でその言葉を棒読みでリピートした。

 

香織は「そう」と一つ肯くと嬉しそうに説明した。「ティロ・フィナーレ。イタリア語で直訳すると究極の一射という意味よ。パンチの効いた紅茶にできなかったから、せめて名前だけでもと思ってね、一生懸命調べたんだから!」

香織は胸を張って自慢げに話していた。

 

「ねえマミ」咄嗟に香織がマミを呼んだ。

 

マミは香織に視線を向ける。

 

笑顔の香織は手で作った銃をマミに構えて「ティロ・フィナーレ!」とおどけたように一射した。

 

それを見た和美は私もとマミに向けて「ティロ・フィナーレ!」と一射する。

 

姫野も続けとばかりに「ティロ・フィナーレ!」とマミに一射した―――

 

 

マミは溢れた涙で均衡の魔女を上手く見ることができなかった。

 

外れるものか!この究極の一射には私たちの思いが込められている!

 

マミは再び記憶の声を聞いた―――

 

記憶の三人は相槌を打つと、せーの!で声を合わせた。

 

マミはその声を合図に、天まで届く声で叫んだ!

 

「ティロ・フィナーレ!!!!!!!」

 

引かれたトリガーは思いを込めた弾丸を轟音と共に撃ち出した。弾丸は難攻不落の運命を呑み込んで大爆発を起こす。発生した灼熱の炎は全てを燃やし尽くした、決められた運命も、訪れるはずの悲劇も、炎は分裂を許す間もなく均衡の魔女を消滅させた。

 

マミは綺麗に着地を決めると手元に紅茶を召還させる。香織が作った奇跡の紅茶、ティロ・フィナーレだ。マミはソーサーからカップを上げると紅茶を口に運んだ。そして静かにカップをソーサーに戻す。

 

「ありがとう、香織」

 

マミの頬には感謝の涙が一筋流れた。

 

歪んでいく結界がマミに均衡の魔女の消滅を告げた―――

 

                    ◆ ◆ ◆

 

結界が消滅すると空き家となった古びた洋館の中に出た。杏子は倒れた状態から身を起こすと、痛みで顔を歪ませた。

 

「イテッテッテッ」

 

そこへ手が差し伸べられる。笑顔のマミだった。杏子は安堵の表情で言った。

 

「やったようだな」

 

「ええ」マミは笑顔のまま答えた。

 

杏子はマミの手を掴み立ち上がった。

マミは心配そうに訊いた。

 

「大丈夫?」

 

杏子は口元を斜めに上げて答える。

 

「この程度でやられるか」

 

その横でキュウべえはひとしきりにマミを見つめていた。

キュウべえ(インキュベーダー)の目的は宇宙の寿命を延命させることだ。その方法とは、少女の希望が絶望へと変わる瞬間に生じる感情エネルギーを搾取して、目減りする宇宙にエネルギーに注ぎ込むことだ。キュウべえは小さなかかりを残した。マミの起こした奇跡はその法則から逸脱していたからだ。

 

人間の感情を利用することは危険なのではないか?

 

いつかこの法則を呑み込むような巨大なエネルギーにその手綱を奪われる。白い悪魔はそんな懸念を抱いた。しかしその懸念は現実となる。この後に紡がれる、鹿目まどかと暁美ほむらの物語によって―――

 

 

 

洋館の外へ出ると東の空が明るくなっていた。不意にマミは孤高に光る明星の星に目を止めた。

 

「夜明けだ」杏子が告げる。

 

風見野のランドマークと呼ばれた高台から、二人は昇りゆく朝日を正面に受けた。荘厳な日の出は孤高の明星をその光の輪の中へ招き入れる。マミは荘厳の光を受けながら、感慨深く朝日を眺めた。マミの心にも日が昇り、胸が高鳴った。美しい朝日はマミをドラマチックなムードに浸らせた。

 

グ~~~

 

横で杏子の腹の虫が鳴った。

マミは唖然とした表情で杏子を見ると声を怒らせた。

 

「ちょっと信じられない!」

 

「は?」杏子は無神経な表情を見せた。

 

「なんでこんな時にお腹を鳴らせるわけ?!」

 

「腹が減ったから、腹が鳴るんだろ?何怒ってんだよ」杏子は当然のように答える。

 

ムードをぶち壊されたマミは「フンッ」と鼻を鳴らすと、腹に据えかねた。

「もう知らない!」

 

ヘソを曲げたマミは膨れた顔で高台の坂を下って行く。杏子は鈍感にマミの後を追った。

 

「ちょっと待てよマミ!何怒ってんだよ!」

 

「ついてこないで!」

 

「オイッ!訳がわからねーよ!」

 

二人の様子を見ていたキュウべえはボソッと呟いた。

 

「杏子、それは僕のセリフだよ………」

 

二人に少し遅れる形で、キュウべえは足早に二人の後を追った。

 

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