魔法少女まどか☆マギカ外伝 ~エピソード・オブ・マミ~ 友情のティロ・フィナーレ   作:soranora

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筋道

 夕闇の廃墟ビル。黄色く光るソウルジェムを掌に乗せたマミが歩く。キュウべえもその後をついて歩いた。

ソウルジェムは魔法少女の契約の際に生み出される宝石状のアイテム、魔法少女の魔力の源であると同時に魔女の感知を担うアイテムでもある。

辺りには割れたガラスや瓦礫が散乱し、崩れた鉄筋コンクリートの中からひしゃげた鉄筋がむき出しになっている。マミはソウルジェムの信号を頼りに静かに歩き続けた。

 

「近いわね」マミは静かに呟く。

 

闇の中をソウルジェムの光と信号を頼りに進んだ。やがて空間を切り裂いたような光の切れ目が目の前に現れた。魔女の結界の入り口だ。マミは掌のソウルジェムをかざすと、まばゆい光を放ったソウルジェムがマミを包む、気持ちよさそうに光のシャワーを浴びるマミ、その飛散した光の粒が変身衣装や装飾を象りマミの体に装着されていく。変身を遂げたマミは魔女の結界の中へ飛び込んだ。

 

               【鳩時計の魔女】

 

入った結界はあちこちで巨大な歯車が大きな音を立てて回る世界。マミは歯車でできた壁や床の中を魔女の本体がいる奥へと向かい走った―――

 

しばらく進むと突如大きな音を立てていた歯車の回転が急に止まった。奇妙に思ったマミは思わず足を止めて、怪訝な表情で辺りの様子を窺う。

 

「………」

 

すると歯車の隙間から木人形の小人が土から這い出てくるゾンビのように湧き出て来た。マミは床や天井から湧き出る木人形にたじろいだ様子で周囲に目線を配る。

突然、その内の一体がマミに飛びかかって来た―――

 

マミは素早く召還したマスケット銃を向けて撃ち落とす。しかしすぐさま次の一体が襲い掛かる。マミは持っていた銃で木人形を払いのけた。だが木人形たちは攻撃の手を緩めない。マミは次から次へと襲いかかる木人形にマスケット銃で応戦するが、倒しても倒しても小人の木人形が湧き出てくる。マミは足元にいるキュウべえに向かって叫んだ。

 

「このままじゃラチがあかない!駆け抜けるわよ!」

 

キュウべえは素早くマミの肩に乗る。マミはマスケット銃で襲って来る小人を打ち落としながら、駆け足で走る―――

 

しばらく走ると目の前に木の扉が現れた。マミは扉をけ破って中へ入った―――

 

 

 

するとたくさんの鳩時計が飾られた広い空間に出た。飾られていたたくさんの鳩時計がマミが侵入して来たことを誰かに知らせるように一斉に鳴き始めた。その鳴き声を合図に地響きが始まる。ゴーン、ゴーンと振り子時計の音が大きく響く。肩に乗っているキュウべえがマミの耳元で囁いた。

 

「来るよ」

 

マミは小さく肯く。

 

地面から地響きをあげて魔女の本体が姿を現す、それは巨大な鳩時計、木造の家の中心に時計があり、その前で二体の小人が歯車を回す為にクランクを漕いでいる。家の周りには守るように大きなフクロウの装飾が五体とまっていた。そして吊り下げられた大きな振り子が揺れている。屋根の小窓がバタンと開き鳩が飛び出して合図を送った。

 

突如揺れていた振り子がマミめがけて飛んでくる―――

 

マミは横に飛んでそれをかわす―――

 

「マミ!気をつけて!」キュウべえの声。

 

突き刺さった振り子は素早く引かれ、再びマミをめがけて飛んできた。飛んできては引かれ、飛んできては引かれ、まるでおもちゃのヨーヨーのような動きでマミを翻弄する―――

 

マミは軽快な動きで振り子の殴打をかわしていく―――

 

すると再び小窓が開き鳩が次の合図を送った。

今度は装飾の五体のフクロウが飛び立ってマミを襲ってきた―――

 

召還したマスケット銃で一体を撃破するが、二体目の攻撃をかわしきれずに弾き飛ばされた―――

 

「!」

 

そこへ再び振り子が飛んでくる―――

 

マミは瞬時に起き上がり振り子の連続攻撃を体操選手のような連続技でかわした―――

 

さすがにあれを貰ったら一貫の終わりだ。

襲ってきた二体のフクロウを素早く撃ち落す。振り子の攻撃をかわしながら残りの二体もかたづけた。キュウべえが何かに気が付いたように叫んだ。

 

「マミ!小人だ!小人が動力源だよ!」

 

「小人?」マミの視線が鳩時計の中心でクランクを回す小人の姿を捉える。

 

「OK!」

 

マミは小型の拳銃型マスケット銃を両手に召還して、襲って来る振り子の攻撃を素早いフットワークでかわしながら魔女の本体に接近する――――

 

振り子の攻撃をスライディングで掻い潜ったマミはそのまま持っていた二兆拳銃で二体の小人を破壊した―――

 

するとしつこい攻撃を続けていた振り子の動きが止まり鳩時計の魔女が完全に停止する。マミは高くジャンプして腕を大きく振るとマスケット銃の隊列を召還し、魔女本体へ弾幕の雨を降らせる。轟音をあげた爆発と共に鳩時計の魔女が消滅した。

 

 

魔女の空間が蜃気楼のように歪み、元の廃墟ビルの造形が姿を現した。変身を解いたマミは直立のグリーフシードをゆっくり拾う。

 

「今回のは手強かったね」キュウべえがマミの肩から降りる。

 

「最近、魔女が強くなっているような気がする」拾ったグリーフシードを見つめるマミ。

 

「気のせいだと思うよ、たまたま強い相手が続いているだけさ」

 

「そうだといいけど」

 

「攻撃が当たればマミがやられることなんて考えられないよ」

 

「折り紙の魔女?」マミはキュウべえに唐突にぶつけた。

 

「あの魔女は特別だよ」

 

「特別?」

 

「そう、特別さ」

 

そう言い残すとキュウべえはそれ以上語らずに闇の中へ消えた。キュウべえは何かを知っているようだった。

 

                   ◆ ◆ ◆

 

 

 乾燥された茶の葉が粉砕されて入った円形のアルミケース。そのアルミケースが数十種類並んでいる。その一つのアルミケースからスプーンにすくわれた葉がガラスのティーポットへ移される。今度は別のアルミケースから、先ほどより少量分の葉がティーポットへ入った。そこへお湯が流れ込む、透明なお湯は茶の葉から出る色素によって褐色に変化した。白い湯気が立ち昇り香ばしい香りが病室内に漂う。

 

「いい匂い」目を閉じた香織が鼻腔で茶の葉を味わっているようだ。

 

マミは持っていたポットを静かに置いて湯気が立ち昇るガラスのティーポットに蓋をした。

「これで数分待つ」

 

「紅茶ってティーパックで濾して作るものだと思ってた」

 

「パックだとカップ1杯分しか作れないから、リーフティーだと手間はかかるけどたくさん作れるしアレンジがきくの」マミは笑顔で答える。

 

「こんなにたくさんある葉をブレンドして作るの?」並んだアルミケースに視線を移す香織。

 

「これを全て使うわけじゃないわ、せいぜい二から三種類、相性もあるし、分量のバランスも重要。本当は一種類で使うものがほとんどだけどオリジナルを作ってみるのもおもしろいから」

 

「む、難しそう~」香織は眉根を寄せた。

 

「あら、もう怖気づいたのかしら?」マミはニヤリと香織をうかがう。

 

「ち、違うよ!ちょっと種類の多さにうろたえただけよ!すぐに凄い紅茶を作ってやるんだから!いい香りのするやつ!そう!なんたって私の名前はカオリなんだし、作れないはずがないんだ!」

 

よくわからない根拠を言って強がっている香織が、なんだかかわいく見えてマミは「クスッ」と笑った。

 

「笑ったなぁ~」香織はムッとした表情でマミをにらんだ。

 

マミは咳ばらいをして「いいえ」と視線をそらして横を向いた。

 

「笑った!」詰問する香織。

 

マミは黙って首を横に振った。チラッと香織の顔をうかがうと膨れた顔をこちらに向けている。それがなんだかとてもおかしくてマミは吹きだした。

 

「ほら、笑ってるじゃん」膨れた顔をさらに膨らませた。

 

「ご、ごめんなさい、だってそんな顔するんだもの」マミはクスクス笑う。

 

笑っているマミを見ていた香織は膨れた顔を笑顔に変えて言った。

「とっても楽しそう」

 

「え?」

 

「マミのそんな楽しそうな顔初めて見たかも」

 

学校の屋上で和美に言われた言葉と同じだった。まさかここでもその言葉を耳にするとは思わなかった。魔法少女でいることが人との距離を置いていた。最近は人と接する機会が多くなったことで本来の自分を取り戻しているのかもしれない。

 

「そうだ、マミの料理教室はどうだったの?」

 

マミは黙って下を向いた、あまり思い出したくない数々の出来事。

 

香織はマミの表情から察したように「もしかして、うまくいってないようす?」

 

マミは香織のその質問に答えるのは億劫だったが話すことにした、あの惨劇を………。

 

 

 

飲み終えた空のカップが二つ並んでいる、ゲラゲラ笑う香織の横で今度はマミが顔を膨らませて言った。

 

「笑い事じゃないんだから」マミは膨れた顔をいっそう膨らませた。

 

「ごめん、ごめん、でも生クリームを頭からかぶるなんて芸術的!マミのあたふたした顔が見たかったな」ベットを叩きながら腹を抱えて笑う香織にマミは腕を組んでそっぽを向き「フンッ」と鼻を鳴らした。

 

「で、これからどうするの?」笑って出た涙を擦りながら香織が尋ねる。

 

マミはそっぽを向いたまま「特に、考えてないわ」

 

「さっき私に紅茶を作って見せたように、その時もマミが作って見せたの?」

 

「いいえ、簡単に説明しただけよ」

 

「それじゃあダメね」

 

マミは香織に向き直った「どうしてそう思うの?」

 

「だってイメージを持てないじゃない、完成の形がわかっていてもその過程にイメージが無いと人間はうまくは動けないものよ、宝を見せておいて、地図を渡さないのと同じ」

 

フィギュアスケートの選手だっただけにイメージを形にするプロセスの場数を踏んでいる。どんな事でも目的を達成するためには過程があって、その中に修練や創意工夫がなされる。香織には幼少の頃から目標達成の習慣があり、その経験がマミへのアドバイスとなって表れた。

 

「きっとみんなケーキなんて作ったことが無いから、どうやって作られるのかなんて見たことがないんじゃない?道具の動かし方だったり重要なポイントがまったくイメージできない、それじゃあ完成を形にすることなんて無理だと思う」

 

たしかに香織の言うとおりだ。ひっくり返ったボウル、飛散したクリーム、煙を上げたレンジ、全ては道具の使い方やポイントを誤ったミスから発生した出来事。

 

「どうしたらいい?」マミは藁をも掴むように聞いた。

 

「簡単なことよ、今さっき私に見せたように、マミがみんなの前で調理して見せればいいんだよ。作ることの楽しさを伝えながらね」強調するように最後の言葉を付け加えた。

 

「楽しさ?」

 

「うん、楽しさは重要だよ。ケーキを作ることは楽しい、魅力がある、その事に対して感動しないと人は動いてくれないし、良いものはできないよ。マミがどれだけみんなに魅力的なイメージを残せるか、マミ自身が楽しくなければそれだけのものにしかならないし、逆に楽しさを表現した分だけ素敵なものができあがるんじゃないかな」

 

香織の言っていることはよくわかる。けれどみんなを感動させられるような魅力を伝える事が私にできるのか?自信がなかった。そんなマミの気持ちを見透かしたように香織が言った。

 

「マミだったら大丈夫だよ!あなたには不思議と周りを魅了する力がある」

 

香織の言葉に根拠なんて何も無い、でも香織に言われるとできそうな気がしてくる、なんだかいてもたってもいられなくなったマミは急に学校の手提げカバンを手に持った。

 

「私、やってみようと思う!」マミは決意した。

 

香織は「うん」と笑顔で返す。

 

急に帰ろうとするマミに、驚く様子もなく向ける香織の笑顔。それは言葉を交わさずともお互いがわかりあっている後押しの笑顔だった。

 

 

                   ◆ ◆ ◆

 

 実習室にカチャカチャと小気味良い音が響く。ボウルの中に入った具材を泡だて器でかき回すマミ。それをクラスメイトが見守った。その軽快な器具捌きと手際の良さにまるで一つのショーを見ているかのように、ところ所で「おー」という驚きの声をあげる仲間達。生地を型に流し込み、オーブンで焼く、生クリームでデコレーションをつけた。焼いている時間などの待たなければいけない工程は、あらかじめ作っておいたものを用意して次の工程へすぐ移れるように工夫した。マミのそんな献身的な工夫とほれぼれするような手捌き、何より楽しそうに調理するマミの姿がクラスメイトの心を掴んでいった。

 

「すごいなぁ」

 

「ほれぼれしちゃう」

 

「私もあんな風に作ってみたい」

 

見守っていた仲間たちは感想の声を漏らした。出来上がったショートケーキを切り分けてマミが言う。

 

「さあ、食べてみて」

 

仲間たちはマミのケーキを口に運ぶ。

 

「おいしい!」

 

「これ、凄いよ!」

 

「こんなにおいしいケーキはじめてかも!」

 

「お店で買うものとはまた違う味!」

 

学級委員長の姫野が分析する。「しっとりと焼き上げられたスポンジケーキと口当たりなめらかなホイップクリーム、それに真っ赤なイチゴの甘酸っぱさ。この三位一体のバランスの取れた味わい、すばらしい」

 

和美が目を輝かせながらマミに尋ねた。

「巴さん、わたしにもできるかな?」

 

マミは「もちろん!」と笑顔を見せる。

 

「よーし、私もこんなおいしいケーキを作ってやる!」和美は握りこぶしを上にあげた。

 

それに誘発された他の仲間たちが私も私もと次々に意気込みの言葉を口にする。

マミはやってみて本当によかったと思った。正直、私が調理するところを見せるだけで効果があるのか、逆に面倒な作業を目のあたりにしてやめようとする仲間が出るのではないかという不安もあった。しかしクラスの仲間たちに感動を与え、強いイメージを残すことができた。私を後押ししてくれたあの笑顔に感謝の思いが募った。

 

 

 

 マミが調理を披露した実習の後、和美と姫野に誘われてファミレスに行った。学校帰りの誘いにはほとんど応じなかったマミにとってはめずらしいことである。今までは魔法少女としての顔がそんな機会を奪っていたのだが、マミは仲間たちと時間を過ごすことが楽しくなっていた。

簡単なデザートと飲み物をテーブルの上に並べた席に、マミの向かい合わせとなる形で姫野と和美が並んで座った。夕方のファミレス、食事時ではない時間だった為それほど人は入っていない。マミ達のような学生の姿が多く目立った。雑多の音が充満する中でメガネをキラッと輝かせた姫野が口を開く。

 

「まさか巴さんが付き合ってくれるとは思いませんでした」

 

「姫野さんがこういう所に来るとは以外」

 

「こう見えて意外とフレクシブなんです」

 

「そのようね」

 

そう言葉をかわした二人は、黙って目の前にあるコーヒカップの飲み物を啜った。クリームソーダを目の前にした和美は、おどおどした様子で二人をキョロキョロと交互に見ている。

 

(よーく考えたら凄い二人と来てしまった気がする、厳格で凛々しい委員長、才色兼備な巴さん………)

 

挙動のおかしい和美にみかねた姫野が訊いた。

「どうかしましたか?和美さん、私たちの顔に何か?」

 

「い、いや~、存在感が……」

 

「存在感?」

 

「え、あ、大人っぽいというか、何と言うか………」

 

「私たちが老けているとでも?」姫野のメガネがキラッと光る。

 

「へ?……」和美は姫野の詰問に言葉を詰まらせる。

 

「飲み物がってことよね?」陽和な笑顔でマミが言った。

 

和美はほっとしたように「そう、そう、飲み物が大人っぽいなって、思ったりなんかして」

 

姫野が鼻で笑って「クリームソーダがお子様なんです」

 

ムッとした和美が逆襲する。「そういえば何で委員長までついて来たの?いつもはそんな低俗なところは行かないって言ってたくせに、せっかく巴さんと二人だけでお話ができると思ってたのになぁ」

 

和美は可愛らしい顔とは裏腹に、結構ズケズケものを言うところがある。マミに対しても思ったことをそのまま口にするような一齣があった。それは和美のいいところであり、悪いところでもあるのかもしれない。

 

テーブルを強く叩いた姫野が噛みつく。「私が先に誘うつもりだったのに、あなたが抜け駆けするからですよ!そうでなければもっとセンスのあるお店を私が紹介してさしあげたのです!」

 

立ち上がって切り返す和美。「だったらついてこなければいいでしょう!私抜きで別の日に誘えばいいじゃん!」

 

「それはダメです!」

 

「どうして!」

 

「ダメなんです!」

 

「何で!」

 

返答を詰まらせて呻る姫野は、視線を横に向け頬を赤くした。すると、しおらしく囁いた。「だって二人っきりって照れくさいじゃないですか………」

 

和美は立ち上がったままポカーンとしている。学校生活の中で終始毅然と振る舞う姫野からは想像もつかない表情がそこにあったからだ。

 

二人のやりとりをあっけにとられていたマミは固まっている和美に声をかけた。

「と、とりあえず座ったら、みんな見てるし」

 

気がつけば店内のお客や店員がこちらに視線を向けていた。和美はポカーンとした表情のままゆっくり腰を下ろした、姫野の意外な一面によほどの衝撃を受けたのだろう、しばらく無言のまま目の前のクリームソーダをチューチュー吸った。

 

クリームソーダを空にした和美は気をとりなおして言った。

「今日の巴さん本当にかっこよかったなぁ~、私もあんな風に作れたらいいんだけど」

 

「すぐ作れるようになるわよ」

ニッコリ笑ってマミが答える。

 

こちらも気を取り直した姫野がいつもの調子で会話に入った。

「みなさんに作って見せるあのアイデアは素晴らしかったです。あらかじめ作っておいた物を用意しておく緻密さといい、流れるような動きに楽しい気分にさせられました」

 

「委員長の言うとおりだよ、みんなもその気にさせられたんじゃないかな?」和美は姫野に同調して言った。

 

「ところで、あのアイデアはどこから?」姫野は冷静な表情でマミに訊いた。

 

「アイデアなんてものじゃないわ、ただ楽しそうに作れってアドバイスをもらったの」と笑みを浮かべたマミが答える。

 

「誰に?」きょとんとした和美が尋ねた。

 

事故でマミには両親がいないはず、姫野のスーパーコンピューターがある仮定を導き出した。「まさか!殿方!」

 

「巴さん!彼氏がいたの!」驚愕した和美が立ち上がった。

 

「そうに違いありません!あれは愛からくるパワー意外に説明される余地がありませんから!きっと思い悩んだ巴さんに、そっと優しく手を差し伸べてくださる殿方の姿が………」

 

「キャーーーーーー!素敵!素敵すぎる!」姫野の勝手な妄想に、立ち上がってはしゃぎ声をあげる和美。

 

和美はその様相から単純だとしても、姫野も根が単純だった訳で、二人は意外といいコンビなのかもしれない。マミは二人の暴走からその内面的な本質の一部を垣間見た気がした。

 

「お友達よ、女の子の」マミはコーヒーカップを啜りながら静かに答える。

 

「へ?」立ち上がった和美は、いつのまにか周りの視線の的になっていることに気が付いた。後から追いついた恥ずかしさに、和美は静かに腰を下ろした。

 

「その子が言うの、自分が楽しくなかったら、他人に感動を与える事なんてできない。私が楽しんだ分だけ素敵な結果がでるよって。その子は今重い病気と闘っている………」マミは寂しそうに最後の言葉を付け加えた。

 

「うちの生徒ですか?」姫野が訊いた。

 

マミは首を横に振って「今は見滝原の病院に入院してる。その子にね、オリジナルの紅茶を作ってもらってるの。私たちが出展する喫茶店に出す紅茶を」

 

「え?」和美と姫野は驚きの声をあげた。無理もないことである、二人はそんな話はおろか、その子の存在すら今まで知らなかったのだから。

 

マミは持っていたカップをソーサーに戻し、ゆっくり頭を下げた「ごめんなさい、内緒で勝手なことをしてしまって。でもなんとか元気になってもらいたくて約束をしてしまったの。彼女は今、一生懸命メニューに出す紅茶を作ってくれてるいるわ、だからお願い、香織の紅茶をメニューに出すことを許してくれない?」

 

マミは喫茶店の中心者ではあるが、それはクラスメイトの出し物である。マミ一人の物ではない。香織の前では大見得を切ったが、仲間の了解を得た訳ではない。マミは筋を通さなければならなかった。テーブルに手をついて頭を下げるマミ。

 

すると「香織さんって言うんだね」っと和美が呟いた。

 

「頭を上げてください、巴さん」姫野が優しく声をかける。

 

ゆっくり頭を上げるマミ、二人の優しい笑顔があった。

 

「こんな素敵なお願いをつっぱねる奴なんているのかなぁ委員長?」

 

「そうですねぇ、そんな万死にあたいするような方は少なくともうちのクラスにはいないと思いますが。まあいたとしても、この学級委員長である私が力ずくで首を縦に振らせますが」

 

「ってことだから大丈夫だよ巴さん!私たちにもその紅茶作り協力させて!香織さんはもう私たちの仲間なんだから」

 

心からの歓迎の言葉にマミは胸を熱くした。香織が仲間に入れてもらえる。マミはそう思うと胸がいっぱいになった。

 

 

 

 夕闇となったにぎやかな通りを談笑しながら歩く三人。マミはフッといつかの姿を映しだしたショーウィンドウに目が留まった。あの時は一人ぼっちだったけど、マミの隣には和美と姫野の姿がある。私は一人ぼっちじゃない。マミは指にはめられたリングにそっと触れた、その瞬間「!」―――

 

よく知った邪悪な気配をソウルジェムが感知した。

 

(間違いない、あの魔女が近くにいる)

 

一揆に自分の置かれている現実に戻された。いくら仲間を作って楽しく過ごしていても、この運命からは逃れることができないのだ。魔法少女としての運命………

 

神妙な表情を浮かべて立ち止まったマミに和美が声をかける。

「巴さん?どうしたの?」

 

『折り紙の魔女』何度か交戦したもののまったく勝てる要素を見いだせないまま尻尾を巻き続けている。今度戦ったら命の保証はない。マミの中に臆する色が広がる。不意に和美と姫野の姿が目に入った。私はこの大切な仲間を守る為に戦う、こんなところで怖気づいているわけにはいかない。意を決したマミが二人に言った。

 

「ごめんなさい、急に用事を思い出したの、先に帰っててくれる」

 

そう言い残すとマミは踵を返し、来た道を戻るように走り出す。

 

「ちょっと!」

 

「巴さん!」

 

残された二人は驚きの顔を見合わせた。

 

走り出したマミは、にぎやかな通りから人通りの少ない路地へ入った。広げた掌に黄色く光るソウルジェムが現れる。

 

(キュウべえ、いるんでしょう?)マミはテレパシーを送る。

 

暗闇の中から四足歩行で駆けつけるキュウべえが、警鐘を鳴らす。

 

「マミ!ダメだ!君はあの魔女には勝てないよ!」

 

「やってみなければわからないわ!」

 

マミはキュウべえの言葉にまったく耳を貸そうとはしなかった。そのまま『折り紙の魔女』がいる結界へ一目散に駆けた。

 

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