魔法少女まどか☆マギカ外伝 ~エピソード・オブ・マミ~ 友情のティロ・フィナーレ   作:soranora

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勇気

 新垣和美は幼少の頃から小柄で気の強い方ではない。不穏な事態となるとすぐにたじろいでしまう性格だ。以前にこんなことがあった―――

 

小学校のドッチボールで、最後の一人となってボールを持つ和美に、仲間達は過大の声援を送った。しかし和美には声援がプレッシャーとなった。頭が真っ白になって、どうしていいのかわからなくなった。怯えた和美はとうとうその場でへたり込み、泣きだしてしまったのだ―――

 

そんな和美にはこれといって得意なこともなく、何をやっても中の下といった所だった。だからマミに憧れ、姫野を頼り、香織を尊敬した。一緒にいれば私も三人のようになれるのかもしれない………

 

でもそれは間違っている―――

香織が見せた涙が、和美の心得違いを気づかせていたのだ。

 

調理実習室ではマミを中心に紅茶作りの実習が行われている。メンバーはマミを含めた和美と姫野だけとなっていた。以前として瑠美による影響が仲間の参加を拒んだ。

 

和美は思った。二人がいなければ私はとっくにあきらめている。私だってみんなと同じように瑠美先輩が怖い。紅茶を口にする和美には、もはや味覚を堪能できるような余裕はなかった。今にも逃げ出そうとする気持ちを必死に抑えている。

 

出来上がった紅茶を三人で飲んでいると突然校内放送が流れた。

内容はマミと姫野に対し職員室への呼び出しだった。二人は呼び出される節が見当たらないようで訝しげに顔を見合わせていたが、不承不承といった感じで、和美一人を残して実習室を出て行った。

 

「…………」

 

一人になった和美は座った状態から机に突っ伏した。私は二人にとってどういう存在なのだろうか。ただの腰巾着?あながち当たっているのかもしれないと、和美は心の中で嘆息した。

 

突然ドアの開く音がした―――

 

和美はもう帰って来たのかというような感じで入り口を見る。だがそこには信じられない光景があった。驚愕する和美は体中から血の気が引いていくのがわかった。

なんとそこには腕を組んで酷薄に笑みを浮かべた瑠美と、取り巻きの二人が立っていたのだ。恐怖のあまり体中が硬直していく。

 

「あら、あなた一人のようね?」

殊更にほのめかして言う瑠美が近寄って来る。

 

これは瑠美の罠だ。和美は瑠美のわざとらしい振る舞いで瞬時に読み取った。私を一人にするために二人に嘘の呼び出しをかけたに違いない。でも、どうして私を一人にしたのだろうか?和美はそう考えると体をガタガタ震わせた。

 

「後の二人はどうしたの?仲間割れでもしたのかしら?」

瑠美は薄笑みを浮かべて和美を見下ろす。

 

和美は目を逸らすように俯いた、視線など合わせられるものではない。

 

「どうしたの?そんなに震えて、別に私たちはあなたを取って食おうなんて思ってないわよ」

 

そう冷ややかに話す瑠美は、調理台の上に置いてあった茶の葉のアルミケースおもむろに取って、和美の頭にふりかけた。その様子を見ていた取り巻きの女生徒は嘲笑をあげる。

 

「ごめんなさい、リーフティーなんて生意気な物作ってるから、つい振り撒きたくなったの。それにあなたがそこにいるなんて、小さすぎてわからなかったし」

瑠美は冷笑する。

 

ここまで侮辱されて何もすることができない自分の情けなさと、あまりの恐怖から、和美はシクシク泣きだしてしまう。

瑠美はそれを合図とばかりに、呑み残して置いてあったカップもろとも床へ払い落とした。カップは大きな音を立てて割れる。

 

「ごめんなさい、手が滑ったみたい」

 

瑠美は取り巻きの二人に目で合図を送る。二人は調理台にあったポットやカップを叩きつけて割り出した。

 

たまらず和美はすがるように瑠美をつかんで懇願した。

「ちょ、ちょっと、お願い、やめて!」

 

瑠美は和美に掴まれたことで頭にきたのか、凄い剣幕で振り払うように和美の頬を叩いた―――

和美はその勢いで隣の調理台に激しくぶつかり倒れ込んでしまった。

 

和美は一瞬何が起きたのかわからなかった。頭が真っ白になる。今までひっぱたかれたことなど無かったせいかもしれない。キーンという耳鳴りと共に、左頬がジンジンと痛んだ。ふと見上げると、嘲笑いながら破壊の限りを尽くす三人が踊っている。床に散らばった割れたカップ、それは自分が作った紅茶だ。けれども、それがなぜだか心血を注いで作った香織の紅茶に見えてならなかった。嘲笑う声の中をスローモーションのように茶の葉が舞った。

 

声が聞こえる………香織が病室で放った声が、

(この取り組みに全てをかけると決めた!私は今を生きているんだよマミ!)

 

嘲笑う声が香織に向けられている。私が笑われるのはいい、でも香織さんが笑われるのは我慢できない。血を吐きながら飛び続ける彼女を嘲笑することは絶対に許してはいけない。体中に熱いものが駆け巡るのがわかった。泣いてなんていられない!突然、和美は立ち上がって叫んだ、

 

「やめろーーーーーーーー!」

 

和美は瑠美に飛びかかった。しかし小柄な和美には上級生を抑えることなどできるはずもなかった。簡単に突き飛ばされて倒れる。

転がった和美を見下ろして冷笑を浮かべる瑠美は、次の瞬間目を剝いた。

倒れた和美がすぐさま立ち上がったのだ。

そして和美は再び食い下がった。三人に何度も食い下がって行った。倒れては食い下がり、倒れては食い下がり、そのたびに突き飛ばせれて地面に這いつくばった。しだいに擦りむいた両膝からは血が噴き出した。それでも目の色を変えて飛びかかる和美に三人は奇異を感じたのか、その表情から嘲笑は消え狼狽えるものへと変化していた。

 

たまらず息を切らした瑠美が言った。

「行くわよ」

 

瑠美はそう言い残すと、取り巻きを引き連れ退室していった―――

 

和美はその場でへたりこむ。辺りにはカップやポットが割れて散乱していた。散らばった茶の葉はぞんざいに踏みつけられた跡があった。和美は悲しくなった。怖かったからじゃない、痛かったからでもない、ただ悲しかった。和美はただただ悲しくて泣き続けた。

 

                  ◆ ◆ ◆

 

 姫野舞は胸騒ぎがした。マミと職員室へ向かうと、呼び出したという教員は一人も見つからなかったのだ。こんな悪戯ができるのは学校中探しても一人しか見つからない。和美を一人残した。その懸念はマミにもあったようで二人の歩速は自ずと早くなる―――

 

たどり着いた調理実習室のドアを勢いよく開けた。目の前に広がる無惨な光景に二人は言葉を失った。散乱する割れた陶器の破片、踏みつけられた茶の葉、そしてへたりこんで啜り泣く和美。咄嗟に二人は和美の元へ駆け寄る。介抱するように寄り添う姫野、

 

「和美さん!大丈夫ですか!」

 

嗚咽を切りながら和美が答えた。

「ごめんなさい、私守ることができなかった、ごめんなさい」

 

ひたすら謝罪の言葉を繰り返す和美。その膝からは血が滲み出ていた。それを視認するやいなや、頭のキャンバスに憤怒の色が染め上がる。

マミにも同じことが起こったのだろう、震わすほど握りしめられた拳がその憤りを物語っている。

 

「許さない」

 

そう怒気を漏らすと、憤怒の化身にとり憑かれたマミは踵を返して歩き出す。

向かった先でマミは何をしでかすのか?姫野には容易に予測がつく。マミがやろうとしていることは間違っている。そんなことをすれば彼女らと同義だ。マミを止めなければ、

 

「巴さん!どこへ行くきですか!」

 

マミは歩みを止めない。

 

「巴さん!待ってください!」

 

マミは無視して出口のドアに手をかけたその瞬間、姫野は大きく息を吸い込んだ。

 

「巴えぇぇぇぇぇーーーーーーー!」

 

姫野が放った似つかわしくない叫びが実習室に轟く。流石のマミもこれには歩みを止めて振り返った。

 

「姫野さん?」

 

マミの表情は憑き物がとれたようにいつもの表情を覗かせていた。

泣いていた和美も目を丸くして「委員長?」と呟く。

 

「大きな声を出して申し訳ありません」

ゆっくり立ち上がる姫野はメガネを光らせた。

 

「巴さん、ここは私に任せてもらえませんか?」

 

姫野はへたり込んでいる和美を見据える。

「私もこんなことをする彼女らを絶対に許すことはできません、絶対に!」

語尾に憤りが籠った。

 

そして眼鏡の奥から心中を期する眼差しで、マミを見据えて言った。

「私が反旗を翻します。しかしあくまで私のやり方で。そして必ず彼女らを叩き潰してみせます!」

 

姫野のメガネがキラリと光る―――

 

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