岩崎 花(♀):今作で何か常に文句言ってる人。少し前にアナゴの蒲焼きを食べながら『やっぱ本物のウナギはモノが違うわ』と得意気に言っていた。
上田 進(♂):今作で岩崎の何の身にもならない話を延々と聞かされる可哀そうな人。一度財布を落とした際、それをジュース片手の岩崎に届けられたことがあり、その時は珍しく感謝したが財布の中身が百四十円減っていた。
「……足りない」
「どうした? お前の頭がか?」
「これだけじゃ絶対に足りない!」
「何がだよ、いつもならもう既に突っかかってきてんじゃねえか」
「上田、やっぱりもっと増やさないとダメだ! これだけじゃ足りないもん!」
「うっせぇな! 今のお前言葉足らずで何も分かんねぇよ!」
「何で分かんないんだよ……」
「何で分かると思ったんだよ……んで何のこと言ってるんだ?」
「アレだよ、鍵」
「鍵? それと足りないってどういう繋がりがあるんだ?」
「ウチの自転車の鍵って数字のダイヤル式のヤツなんだけどさ、アレの話だよ」
「あぁ、最初に設定した数字で解錠するやつね」
「ウチの自転車に付けてるヤツは四桁のモノなんだけど、アレそれだけじゃ絶対足りないんだよね。もっと確実に開けられないようにすべきだと思うんだ」
「足りないか? 単純に考えて四桁なら当たる確率は一万分の一だから、そうそう当てられることはないだろ」
「いや、分かんないよ。それこそ超能力とかで見破られるパターンだったら一万分の一なんかすぐバレるだろうし」
「その前提なら桁数多くても意味無いだろ。透視されるんなら絶対バレるし、てかそもそも何でそんな大層な超能力持っといて、やることそんな世知辛いんだよ、もっとなんか色々有るだろ」
「……まぁ確かに超能力はアレか。でも何も知らない人でもひょっとすれば一発で当たる可能性はあるんでしょ?」
「言ってもそれはよっぽどの確率だがな、文字通り万に一つな訳だし」
「それでも安心できないよ。だからもっと桁数増やすか、もしくは数字が合っててもそれだけじゃ開かないようにするとかさ」
「前者はまぁ分かるが、後者はどういうことだ?」
「例えば開けるときにその人が深層心理で何を考えているかで判断するとか」
「何だその超技術は。そうなったらもう数字の方の鍵必要無いじゃん。てかそんなハイテクセキュリティ自転車なんぞに付けるなよ」
「いや、分からんぞ。例えば深層心理のパスワードを『カレー食いてぇ』に設定してるとしたら、たまたま自転車泥棒が同じこと考えてたりするかもしれないし」
「その泥棒アホだろ。そのタイミングで何でそれ考えてるんだよ、それこそ他人が知らない自分の個人情報とかにしとけよ、それなら心配ないだろ」
「ウチのスリーサイズは上から――」
「OK分かったから口を慎めガバガバセキュリティ野郎」
「何でだよ! これなら絶対バレないじゃん!」
「何でそれをここで詠唱しようとしてるんだよ、チャリのセキュリティより自分の方優先しろや」
「しょうがないなぁ……それならやっぱ桁数増やす方がいいのかな?」
「まぁそっちの方が現実的だろ」
「でも増やしたところでバレる時はバレるし……」
「さすがに杞憂だろ、四桁でもかなりパターン多いし。そもそもお前にとって安心できる桁数ってどのくらいなんだ?」
「うーん、円周率くらい?」
「詰みじゃん。何だよ開かずの自転車って訳分からん都市伝説みたいじゃねぇか」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「どうするもこうするも無いだろ、心配し過ぎだっての」
「だって前に買ったその自転車のロックめっちゃカッコよかったんだもん! 結構高かったしアレ盗られたら立ち直れないよ……」
「愛着あるのそっちの方かよ」