岩崎 花(♀):今作で何か常に文句言ってる人。少し前に自作の恋愛漫画を描いたらしいがそれを読んだ母曰く『この作品に人間はいなかった』らしい。
上田 進(♂):今作で岩崎の何の身にもならない話を延々と聞かされる可哀そうな人。言うまでもなく彼の好みの異性のタイプはどちらかと言えば寡黙な女性である。
「ウチだってこんなことは言いたくないさ、だってタコ焼き大好きだし」
「じゃあ言わなきゃいいじゃん」
「だがこれはウチがタコ焼きを愛するが故に言わなきゃならないことなんだ」
「お前の頭がタコだから共食いになってしまうってことか?」
「上田から見たウチって何なんだよ。そうじゃなくてウチはタコ焼きがタコ焼きって名乗るのがおこがましいって思うってことなんだよ」
「また無生物にアイデンティティ見出したのか。もう思想家にでもなればいいんじゃないの?」
「んなもん安いヤツがSNSでいくらでもいるだろ」
「お前極稀に手痛い正論突いてくるよな。宝くじで前後賞含めた一等が当たるくらい」
「今のうちの発言そんなプレミアなのかよ」
「んで何だ? タコ焼きがタコ焼きを名乗るのがおこがましいって何だよ」
「だってタコ焼きのタコ要素って主役張れるほどのものじゃないじゃん。せいぜい冷やし中華のキュウリレベルだろ」
「さすがにそこまで小さくはないだろ、中の具のメインはちゃんとタコなんだし」
「でもその理論で言えば中華丼が『ウズラの卵丼』ってなる訳じゃん」
「中華丼の主役はウズラの卵にはならんだろ、あれ基本的に三つか四つくらいしかないし」
「でもウズラの卵が多めの中華丼って嬉しくね?」
「言いたいことは分からんでもないしそこは共感できるけど、それとネーミングとは話が別だろ。タコ焼きだって生地とタコが全体のほとんどなんだしさ」
「いやでもそれにしたって生地がほとんどを占めてるんだから、二番手とはいえタコはライバルが少ないことに甘んじてる気がするね」
「何で企業の業界シェアみたいになってんだよ」
「だからウチはもっとタコ焼きのタコをプッシュしていかないといけないと思うんだ」
「んなこと言ったって今の状態でも十分に美味しいしあのままでいいだろ。プッシュするってどうするんだよ」
「シンプルにもっとタコを入れるとか、もういっそタコそのまま焼いちゃえばいいんじゃない?」
「タコの素焼きって文字通りだとタコスじゃねぇか。何だタコス焼きって」
「ウチが言いたいのはタコス焼きじゃなくてタコ素焼きなんだってば」
「口頭じゃどっちも変わんねぇよ。にしてもタコの素焼きって何だよ」
「そんなもんやったことないから分かんないよ、でも今のままじゃタコ焼きって駄目だと思うんだよ! ウチはタコ焼きが好きだからこそより良いものにしていきたいんだ」
「そんなに言うならまぁアレだが、岩崎はタコ焼きのどこが好きなんだ?」
「そうだなぁ、あのふんわりした生地はもちろん味がピッタリと調和したソース。それに加えて青のりもまたいい味出してるんだよねぇ……」
「タコ要素皆無じゃねぇか。てかそれまとめたらもうお好み焼きだよ」
「でもお好みって言うくらいだし、もういっそウチにとってのお好み焼きってタコ焼きでいいんじゃない?」
「んなもん俺の知ったこっちゃねぇよ。んでそのお前のお好みの中にもタコ入ってねぇんだよ」
「……つまりウチのタコ焼きへの愛は偽物だったというのか?」
「知るかアホ」
「ちょっと上田薄情すぎない? ウチは真剣にタコ焼きが好きか否かを今考えてるっていうのにさ」
「知らねぇよ、別にお前が好きって思ってんのならもうそれでいいじゃねぇか」
「そうかも知れないけど……でもウチはこれまでタコ焼きという概念に囚われてその魅力に吸い寄せられてたのかもしれない……まさしく吸盤に吸い寄せられるかの如く!」
「脈絡も無ぇし別に上手くもねぇんだよ。今のクオリティの口上よくそのノリで言えたな。俺ならもう顔が茹でダコになると思うけど……第一タコ焼きという概念って何なんだよ。ハッキリしたものを概念に退化させるんじゃねぇよ。どんな概念だよそれ」
「そりゃあもう! えっと……何かあの紙の箱と……あと何かつまようじが刺さってる感じとか」
「もうタコ焼きからタコどころか食べ物としての概念すら無ぇじゃねえか。お前今まで何が好きだったんだよ」