岩崎 花(♀):今作で何か常に文句言ってる人で先に喋る方。彼女曰く『は?六文銭? 死んだら六文しか持たせてくれんの? せめてウチの全財産持ってかせろよ!』と言って財布をひっくり返すと、五円玉一枚だけが落ちる音が教室に響き渡った。その五円玉はどこに落としたか見つからなかったらしい。
上田 進(♂):今作で岩崎の何の身にもならない話を延々と聞かされる可哀そうな人で先に喋らない方。『普段温厚な人は実は本気でブチ切れるラインが限りなく限界に近い(要約:普段温厚な人ほど怒ると怖い)』といった話があるが、その最たる例である。岩崎がそれを引き出す瞬間は近いかもしれない。
「昔っからよ、餅は餅屋? って言うじゃん。なんかよく知らんけど。そういやしばらく餅食ってねぇな」
「お前の話の本題どこなんだよ」
「いやまぁよく知らんけどそんな言葉あんじゃん?」
「まぁあるっちゃあるな」
「あれってさ、どうなん?」
「いやどうって言われて……そんな言葉もあるとしか言えないだろ」
「本当に餅は餅屋なのか? 餅屋である必要性はあるのか?」
「どうした急に。そんな犬も食わないような哲学みたいな結論に落ち着いてんだ」
「犬に餅って食わせてもいいのか?」
「いや知らないけど、そんくらい実の無い話ってことだよ」
「……餅って実がなるのか?」
「何なんだ今日のお前。餅で頭がいっぱいになってんのか?」
「とりあえず腹一杯は食いたい気分だな」
「もう頼むから勝手にしてくれよ、付き合いきれん」
「あっ、ちょっと待ってくれよ。この相談持ち掛けれるの多分お前だけなんだって……餅だけに」
「……」
「いやごめん今のはウチが悪かった全面的に。この辺の話聞いてくれるの上田しかいねぇんだって。頼まれてくれよ餅屋」
「俺ん家餅屋じゃねぇよ……んで何の話だよ」
「いやさ、餅は餅屋って言葉あるじゃん。なんか……餅は餅屋に作らせろみたいな意味の」
「それじゃことわざにした意味無ぇじゃねぇか。だからアレだろ? 『何か物事で困ったときは、その物事に詳しい人に相談すべき』みたいな……まぁ結局素人はその分野の玄人には適わないみたいな言葉だろ?」
「さすが餅屋は餅屋に詳しいんだな」
「次は無いとでも言っておくか?」
「すまんもう言わん、だから聞いてくれ。んでその言葉なんだけどさ――」
「ホントにゴリ押してくるよな、お前ってホントに」
「倒置法?」
「ちげぇよ、分かったから続き話せ」
「分かった、んでその言葉なんだけどべつにもちやである必要性ってあんのか? 別に美味い餅は餅屋じゃなくても食えるだろ。餅以外売ってる和菓子屋とか、それこそうちらがついた餅だって普通に美味いし」
「まぁそりゃそうだがあくまで物の例えだろ、その例えに使われたのが餅だったってだけで」
「いやでも餅屋って……そもそも餅屋ってそんなに数が無いでしょ多分、ウチの周りにもないし。わざわざ餅チョイスするのないって」
「まぁ昔はそういう店が今より多かったんじゃないの?」
「いやでも餅屋て、絶対なんかあるって他の店」
「何でそこまで餅屋に対する風当たり強いんだよ、食いたがってる癖に」
「だーかーら、あくまで他に候補あるでしょってことだって」
「じゃあ候補って何?」
「ん-……意外と思いつかんな」
「だろ、案外そんなもんだって」
「……あ、カステラ屋とかか?一回土産にもらったのが良いとこのカステラ屋のヤツでめっちゃ美味かったんだよ。『カステラはカステラ屋』だな」
「それなら餅屋も許してやれよ」