狩人と舞う白銀の翼   作:睦月透火

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突如現れた怒り喰らうイビルジョーに強襲されたマサト一向。
しかし、横合いから放たれた熱線によって吹き飛び……1人の男性ハンターが白銀の古龍を従えて加勢に入る。

男の名はレクス、彼は白銀の古龍シオンを連れてマサト達を探していたのだ。

怒りに燃えるイビルジョーと、合流したレクスを含むハンター4人……そして、転生古龍のシオンとマサト。

激闘の幕が……今、切って落とされた。


共闘

 グオォォォォァァッ!!

 

 どんな生物も怯ませる程の恐怖を煽る咆哮……しかし、ハンターならば止まらない。

 ……否、止まれない。

 

 怒り喰らうイビルジョーは、放置すればその場全ての生態系を根本から狂わせてしまう存在……尽きぬ食欲の権化であり、全てを喰らい、消し潰す……必ず止めなければ全てが狂う。

 

「シオン、タマ……援護を頼む、まず俺が前で注意を引く!」

 

 レクスは背中から『双剣リュウノツガイ』を抜き構え、イビルジョーへ向けて走り出す。

 

「ニャ! 攻撃力アップが来たニャ!」

 

 タマの持つオトモ道具『はげましの楽器』による演奏でハンターに付与されたのは、攻撃力強化【大】……ランダムに引き当てられる能力上昇効果、運良く攻撃力上昇が真っ先に引き当てられたようだ。

 レクスの身体を赤いオーラが包み、彼の瞳が一瞬だけ光る……

 

『ゴーヤは苦いから嫌いです……!』

 

 私は私怨混じりの言葉とともにブレスで援護攻撃……単発の光弾はイビルジョーの左右に着弾し、僅かな隙を作り出す……

 

「ッ! 私達も……天羅さん!」

 

「了解! 食事の邪魔する奴は、アックスに殴られて倒れてなッ!!」

 

「私も御供致します!」

 

 新大陸には生息していないモンスター、ネルスキュラのチャージアックス『アラクネサイズ』を構え、勇ましい台詞と共に天羅と呼ばれた女性ハンターが駆ける……続くのはナルガクルガの狩猟弓『闇夜弓【影縫】』を持つアミラ……どうやら彼女は竜人族の様だ。

 最初に声を上げた女性ハンター……ミラルダも自らの得物、セルレギオスの素材を用いた太刀『シミターアルナジト』を抜き放ち、イビルジョーへ一撃を加えようと走り出す。

 

「「「落ち着きすぎっ!」」」

 

 突然、3人からのツッコミが入ったのには少し驚いたが……何を話していたんだろう?

 

(いや、好きだって言われた時点で離れる訳ないでしょ? これを逃したら婚期が……)

 

『え? 気にするのそこですか?!』

 

 何故にそんな単語を口にしたのかは分からないけど、古龍なのに婚期を気にするって……

 

──────────

 

 マサトさんはクシャルダオラ特有の風ではなく、両前足と頭の一部が、普通の()()()()()()()から……()()()()()()()()()()()()()()へと変化していた。

 

(……凄い、クシャルダオラにはない能力……あれはマサトさん固有の能力かな)

 

 本来は動的に変化する事のない筈のクシャルダオラの金属質の甲殻……それを更に異質な能力で変化させているマサトさん。

 

 クシャルダオラの甲殻……それは金属並の硬度と生物的挙動を妨げない柔軟性を併せ持った、鉱物的近似物質だ。

 普通なら組成変質など有り得ないのだが、マサトさんの身体は通常のクシャルダオラと同じ黒鉄色のままなのに、変化した所だけは光沢の度合いが明らかに違って見えた……これは推測だけど、マサトさんの甲殻には見た目以上に凄まじい量の「黒鉛」と呼ばれる物質を含んでいるのだろう。

 黒鉛とはいわゆる「鉛筆の芯」だ……そして()()()()()()の「同素体」でもある。

 同素体というのは主成分がほぼ一緒であり、元素構造が違う物質……つまり、マサトさんの身体の光沢の変化は、甲殻に含まれる大量の黒鉛を超硬密度で表面に固め()()()()()()()()()()()()()()()()……『ダイヤモンドコーティング』を施しているのではないだろうか?

 ……もし、他の物質へも変化させることが可能なら、マサトさんの固有能力は『元素変換』という事になる。

 そうなれば、事実上マサトさんの甲殻は誰にも破れ得ぬ『無敵の鎧』と化すだろう……

 例えそうでなくとも……ダイヤモンドは天然鉱物の中で最強の硬度を誇り、電気を全く通さず、熱変動にもめっぽう強い……要は「火」「氷」「雷」「物理」といった、ほとんどの攻撃が意味を為さなくなるのだから。

 

 おっと、考察はここまでにして……

 

 マサトさんは先程の能力で、口の端に光沢のある刃を生成している……黒色ではあるが、あの光沢は間違いなく()()()()()()()()だ。

 やはり、彼の能力は「元素変換」で間違いないだろう……マサトさんは生成した両刃を咥えて突撃……私は味方に被弾させない様に、隙を伺いつつ適時援護射撃を入れる。

 

 天羅さんのチャージアックス斧形態がイビルジョーの顔面を横に殴り、怯んだ隙にレクスがイビルジョーの後方からスリンガーを駆使して飛びながら接近……背中から頭へ切り付けながら通り抜ける独特の回転斬り抜け(リ◯ァイ・アタック)でダメージを稼ぎ、そこへアミラさんの貫通矢が次々とイビルジョーの胸へと命中……大きく怯んだタイミングでミラルダさんは太刀をイビルジョーの太腿へと突き刺し、勢いそのままにイビルジョーの身体を駆け上がりジャンプ!

 滞空中に太刀の柄尻にある房紐を利用して手元に戻し、太刀そのものの重量と巻き上げた反動……そして落下エネルギーと遠心力を乗せた渾身の『鬼刃兜割り』を炸裂させた。

 

 即興の4人組み(パーティー)なのに凄まじい連携……ハンターがモンスター対策専門とされる理由はまさにこの集団戦闘能力なのではないだろうか……

 

 しかし、尋常ではないスタミナを持つイビルジョーは、その忌々しさから更なる怒気を孕んだ咆哮を上げていた……

 

 その咆哮にマサトさんは何かに気が付いたのか、威嚇の咆哮と共に声を上げた。

 

(危ない! 避けろッ!!)

 

 その直後、胴体をくねらせてイビルジョーが口から黒煙と紅雷を含んだブレス攻撃を放つ……

 

 イビルジョーのブレスは龍属性……マサトさんは翼全体にコーティングを施し、シールドの様にしてミラルダさん達3人をガード。

 レクスもスリンガーで空中に退避し、タマは足元をすり抜けて範囲から離れ……私も飛び上がって回避し、全員が難を逃れた……かに思われたが。

 

グルアァァァッ!

 

「ニ"ャァァァ!? こっちに来るニャァァァッ!」

 

 足元をすり抜けた所を目撃されていたのだろうか……ターゲットをタマに変え、執拗に脚や顎による攻撃で追い始めた。

 しかも、タマの走るその先は大きな段差が壁の様になっていた……蔦はあるものの、それを昇る暇などイビルジョーは与えてはくれない……

 

『させないッ!!』

 

 タマのピンチに私は脇目も振らずイビルジョーとタマの間に割って入り、タマを前足で掴むと崖の上へ向かって投げ、そのままイビルジョーを前足で引っ掻く……だが、痛みに顔を歪ませたのは私の方だった。

 

『きゃあッ……あぐっ?!』

 

 イビルジョーは私の爪攻撃を逆に噛み付いて止め、そのまま体当たりからの回転攻撃を慣行……身体を振り抜く直前に私の前足が離された事で、私の身体は大きく弧を描く様にして崖とは違う倒木の方へと弾き飛ばされてしまった。

 着地というか、倒木に叩き付けられたというか……全身を走る痛みに、身体が思うように動かせない。

 

 痛む体に鞭打って頭を上げるが、視界にはイビルジョーが再び顎を開き……上から更なる追撃の姿勢……レクスは「やらせるかよ!」とスリンガーを直接イビルジョーに撃ち込もうとしていた。

 

『……レ、クス……っ!!』

 

 焦って怒り状態のイビルジョーにスリンガーは()()()()()だというのを忘れているレクスを止めるべく、私はレクスの名前を呼んでいた。

 だが直後に響いてきたのは、イビルジョーの苦悶混じりの咆哮だった……

 

 マサトさんの、クシャルダオラ特有の風を利用したノーモーションからの飛び掛かり攻撃……咥えられた黒色ダイヤの両刃がイビルジョーの背中を大きく引き裂き、更に風の追撃による巻き上げもあってイビルジョーは大きく仰け反りながら転倒してしまう。

 

「大丈夫か?! シオン、タマも……!」

 

『だ、大丈夫……です、ッく……!』

 

 噛み付かれた右の前足から鋭い痛み……見るも無惨に噛み潰され、複雑骨折は確定……出血もあり、動かす事も儘ならない……

 

(私も油断していた、すまない……!)

 

 マサトさんが申し訳なさそうな表情で声を上げるが、覚悟の上で私は割って入ったのだ。

 

『……いえ、貴方のせいではありません』

 

「ニャァ…ごめんニャァ……」

 

『大丈夫……タマが無事で良かった……』

 

 受けたダメージは酷いが、右前足を使わなければまだ動ける……だが既にイビルジョーは怒りの咆哮と共に、再びブレスを吐こうとエネルギーを溜め込んでいた。

 しかし突然、私は全身に凄まじい悪寒を感じた……直後、頭上から抗えない力で全員が大地に押さえ付けられてしまう……

 

 突然の異常事態に、戸惑いを隠せない全員……イビルジョーも同じように地面に縫い付けられており、苦悶の声を上げていた。

 

(……くぅ……っ、何もないのに押さえ付けられ……え……?!)

 

 視界の中にチラリと見えたのは、私とイビルジョーの間にあった岩が……ズブズブと地面にめり込んでいく光景だった。

 最初から半分以上は地面に埋没していた巨岩なのだが、それが不自然な程に下へと沈んでいく……ただ何かが乗っただけなら動く筈のない程の巨岩なのに。

 

 近付いてくる悪寒の元凶……奇妙な力で押さえ付けられた私達の目の前に現れたのは、マサトさんよりも一回り大きく、黒い甲殻は最初から全身が綺麗な光沢を持つが、マサトさんのコーティングほど宝石のような煌めきではない……磨き上げられた金属に近い、独特な艶のある光沢。

 殺気を撒き散らし、無表情のまま低空飛行でこちらを睨みつけている()()()()()()()()()()()()だった。

 

(……ほぅ? お前らも転生者か……)

 

 人間には聞こえない、龍同士のテレパシー的な波動で伝わってくる有り得ない言葉……ミラルダさんだけが、そのテレパシーを拾える体質なのか……マサトさんと揃って顔を見合わせていた。

 

(な、何故それを……!? ……まさか……!)

「マサトっ?! ……それって……!」

 

(……そうだ、俺も転生者だ。

 最も……俺のこの超重力(グラビトン)能力に耐えられない様じゃ、俺の敵ではなさそうだがな……)

 

 尊大な態度をありありと伝えてくる口調で黒いクシャルダオラ……黒ダオラは肯定する、その口元は僅かに愉悦に歪んでおり、動けない私達を見下ろして浸っているようだった。

 

(……っく……何故、こんな事をする……っ!)

 

 苦悶の声混じりにマサトさんは黒ダオラに問いかけていた……

 

(ククク、そう心配するな……今日はただ、偶然見つけた俺以外の転生者の顔を見に来てやっただけだ

 これはほんの挨拶代わりにすぎん)

 

 重力……これでこの光景に合点がいく……巨岩が更にめり込むのも、私達の体が思うように動かないのも、あの黒ダオラが重力を操ってこの(エリア)全体の荷重を増やしているからだ。

 

(どう……いう……事だ……! ぐぅ……)

 

(フン、いずれ分かるさ……せいぜい今を楽しむが良い……)

 

 そう言って黒ダオラは、自らの体躯を超えるイビルジョーの巨体を咥えて軽々と持ち上げたのだ。

 

 恐らく、重力の能力を使っているのだろう、イビルジョー自身も理解できずに暴れようと藻掻きますが……重力の戒めは解けていないらしく、ぎこちない動きしかできていなかった……

 

 黒ダオラはそのままイビルジョーを咥えて上空へと舞い上がり、やがてその姿が完全に見えなくなった所でようやく重力の(くびき)から開放された私達……

 

 転生者が他にも居た……その事実をある一面から見れば、苦楽を共にすることが出来る仲間が見つかったと言える……だが、今起こった現実は……明らかにこちらを敵視している様だった。

 確かに全て丸く収まるほど都合の良い世界なんて無いし、諍いは何処かにあると思っていた……しかし、こんな唐突に……それもマサトさんとの出会いも束の間にやってくるんだから、たまったもんじゃない。

 

「マサト……大丈夫?!」

 

「なんて奴だ、ありゃ正真正銘のバケモンだね……!」

 

 ミラルダさんは彼を心配して駆け寄る……その近くで、這い蹲った時に付いた土汚れを叩き落としながら、天羅さんが忌々しく呟いていた。

 

()の者の目的は、一体何なのでしょう……?」

 

 アミラさんも既に冷静さを取り戻し、あの黒ダオラが何を目的にしているのか考え込んでいた。

 

「トンデモない奴が現れたもんだ……」

 

『転生者が……私の他にも居た……でも、なんで……?』

 

 私はすっかり黒ダオラ出現のインパクトのせいで、マサトさんという存在が居る事を忘れてしまっていた。

 

 

 黒ダオラの襲撃後……満身創痍の私達の傷が治るまで森に留まる事を選択し、食料を確保する為にエリア8の東にある最寄りのキャンプへと移動したレクス達。

 エリア8のキャンプは入り口が狭く、龍である私達は入れないので、キャンプ地に一番近い高台の上へと移動し、傷付いた体を休めていた。

 

 マサトさんは例の「コーティング」能力で外傷こそないものの、先程の重力によって内臓の一部がダメージを受けている様で、時折苦痛で声が途切れている。

 

 そして私は見るからに重症……右の前足はイビルジョーの攻撃で指の骨が何本か折れ、更に先程の重力で両腕と翼の骨にも幾つかヒビが入っていた。

 

 骨のダメージを知れた理由はこうだ……

 

 骨の様子が知りたいと思った時に視界が突然白黒になり、まるでレントゲンの写真のように骨が透けて見えるようになってしまったから。

 勿論その唐突な視界の変化に私は驚き……更にその状態でマサトさんをモロに見てしまった為、素っ頓狂な奇声を上げてしまったのは言うまでもない。

 

──────────

 

 右前足のダメージは深刻だったが、使わなければ動けない程ではない……マサトさんのダメージがある程度回復した事を受け、私達は彼らを引き連れてようやくアステラへと帰還した。

 

「……そうか、怒り喰らうイビルジョーに、謎の黒いクシャルダオラ……

 状況は厳しいが、君達が無事に帰還してくれた事の方が私は嬉しい……良く無事に戻ってくれた、ありがとう」

 

 総司令バンの表情は厳しいままだったが、レクスが報告を終えると労いの言葉を掛けてくれていた。

 

「ほぅ……彼が例の外から来た古龍かい?」

 

 アステラの流通エリアの広場で、私と姿合わせの様に鎮座するクシャルダオラを、デュークさんはマジマジと見ていた。

 

(この人は……竜人族? ……あの……彼は?)

 

 デュークさんが竜人族というのも、マサトさんはすぐに分かったらしい。

 

『アミラさんと同じ竜人族でハンターをしている、デュークさんです……私の第一発見者でもあるんですよ』

 

「……よろしく、さすがにクシャルダオラを間近で見る機会はそうそう無いからね……不快にさせてしまったかな?」

 

(いえ、そんな滅相もない! よろしくお願いします)

 

 マサトさんも礼儀正しく返事を返すが、デュークさんには直接伝わってない様なので私が仲介に入った……どうやら、龍気を使う会話方法……ネロミェールのスイレンから会得し、私が「龍の言霊(ことだま)」と名付けた方法でないと、古龍の意志疎通は滞ってしまうようだ。

 

 この傷を治している間に、マサトさんには是非「言霊」を覚えて貰うことにしよう……




シオン、少しずつ新たな能力に目覚める……最初は、レントゲン?

唐突な能力発現にビックリするのはいつもの事と置いといて……

現れた2体の古龍転生者……
片や女性ハンターを3人も引き連れ、半ばハーレム状態で自由な旅をし、その身体をダイヤモンドで強化する能力を持つ、宝石(ダイヤモンド)ダオラことマサト……

片や重力を操り、怒り喰らうイビルジョーすらも雑魚の様に扱う漆黒のクシャル(ブラックオニキス)ダオラこと黒ダオラ……
彼の目的はいったい何なのでしょうか?

さて、次回はようやく合流できたマサト達から事情を聞く話。
怪我の治療もしないとね?

この他、また転生者または転生モンスターが出るのなら……?

  • コラボの転生キャラが見たい
  • オリジナル転生キャラが良い
  • 自分の作品とコラボさせてみたい

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