狩人と舞う白銀の翼   作:睦月透火

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前回の続き……
イヴェルカーナの必殺技、「絶対零度」(アブソリュート・ゼロ)が炸裂!
ゲームでよくあるアタリハンテイ力など関係なく、物理法則に従い防御不能という文字通りの必殺技と化しました。
そもそも大気中では温度というもの自体があらゆる物体を伝播してくるので当前です。

しかし、イビルジョーは死を免れた様ですね……瀕死ですけどw
取り敢えず放っときましょう!



伝承

 極低温の領域に晒され、瀕死の重症を負った怒り喰らうイビルジョー……

 

 イヴェルカーナ必殺の「絶対零度」(アブソリュート・ゼロ)を至近距離でマトモに浴びたのに……まだ生きているのは不思議でならなかったが、もはや虫の息ともなればこれ以上邪魔は出来ないだろう。

 

 マリナさんに連れられ、私達は洞窟から反対側のエリア9を抜け……外の見えるエリア3へと移動した。

 彼女がこの龍結晶の地に来たのは、その身体を包む防具とも呼べる……灼熱のマグマを急速冷却し、それに含まれる成分と急激な温度差を利用した「水晶装甲」(クォーツメイル)を交換しに来ていたのであった。

 この行動は種族(イヴェルカーナ)特有のものであり、極低温の冷気を自在に操るイヴェルカーナでなければ不可能な生態である。

 

『……そういう訳で、この地で交換をしようかと訪れたは良いですが、奴が私に気付いてから何度も何度もあの様に下僕をけしかけて……』

 

 恨みがましくマリナさんがそれまでの経緯を語ってくれた。

 まさか、あの黒鋼龍にストーカー癖があるなんてね……私も狙われてたら、なんて思うとゾッとする。

 

 クリスはポーチから奇妙な金属片を取り出すと、マリナさんの身体にある「水晶装甲」と見比べた。

 

「やっぱり……同じです!」

 

『あら、古い欠片ですわね……』

 

「祖父が十数年前にこの地で見付けた、謎の結晶です……やはりコレは」

 

『私達が昔に纏っていたモノの欠片ですわね……この光沢といい、つや具合といい……良く似てますもの』

 

 とうとう見付けたのだ……彼女の祖父が唯一、解けなかった謎……それがようやく、十数年越しというこの時……ついに解決をみたのである。

 

「……何だか、釈然としませんが……お祖父様からの課題はクリアした、という事ですかね?」

 

 

 祖父の代から取り組まれた謎が、こうもあっさりと解けたのは果たして良かったのか……心なしか不満気なクリスだったが、それを断ち切るかの様にマリナさんが動き出す。

 

『それにしても、あの黒鋼龍は……まだ私の事を諦めていませんのね……

 さすがにもう我慢なりませんわ……!』

 

『待って、マリナは黒鋼龍……アイツの居場所を知っているのかい?』

 

 我慢の限界を迎え動き出そうとするマリナさんをマサトさんが止め、奴の居場所を聞こうとしていた……奴は彼の同族とはいえ、愛する人達を見下し、共に生きる人間を不要だと切り捨て、あまつさえ滅ぼそうとしている黒い鋼龍……

 

『知っているもなにも、彼が来いと言ったのですわ……「俺の考えに賛同するならば来い、陸珊瑚の台地で待つ」とね』

 

 どんな因縁かは分からないけど、奴も彼をこのままには出来ないと考えているのだろう……

 

『……マリナさん、彼は……僕が止める……止めなくちゃダメなんだ』

 

「マサト……」

 

 恐らくだけど……あの黒鋼龍が行おうとしている所業は、きっと犯してはいけない「罪」のような気がする……今ならまだ、止められるかもしれない。

 

『アナタは……奴の目的を知っていますの?

 狙いは恐らくアナタの方ですわ……それを分かってて、なお行くと言うの?』

 

『…………』

 

 マサトさんをミラルダさん達が見つめている……1人ずつマサトさんは彼女達を見てから、決意するようにマリナさんへと宣言した。

 

『彼のやろうとしている事は間違ってる、人と龍は……争う必要なんてない、少なくとも私はこう信じてる……「人と龍は共に歩める」と』

 

 マサトさんの言葉、そして私の力がトリガーとなったのか……龍脈が低く、鳴動する。

 

「な、何が……?!」

 

「地震?!」

 

『いえ、この揺れは……?!』

 

 私を含む全員が異常事態だと感じ、その場から動けなくなる……数秒後、私達はいつの間にか足元に空いた巨大な“黒い穴”へ……まるで意識が吸い込まれる様に音もなく落ちていくのだった。

 

──────────

 

 その姿は、1体の白い龍だった……

 白龍は数多の龍達を率いて、土と炎と血が混じる焦土に佇んでいる……

 

 ……そこから見下ろしていたのは、惨劇の坩堝と呼ぶに等しい光景。

 

 巨大な竜を模した兵器の群れと、数多の竜達の激しい戦い……

 

 見下ろす白龍は、独り……呟く。

 

《人は愚かだ……だが、ココで彼等を滅ぼして良いものか?》

 

 人は禁忌を犯した……

 

 竜を狩る為に竜を殺し、その(むくろ)を利用して命を持つ『兵器』を生み出した……

 

 それは命を弄ぶ禁忌の行為……

 

 故に、(しもべ)達は怒りに燃えた……

 

 それ故に、人に罰を与えた……

 

 だが、滅ぼす事までが……自然の摂理なのか?

 

 なまじ高度な知性を持つが故に、白龍はその思考を止められない……

 

 

 我々は過ちを犯した……だから彼等が動いたのだ。

 

 愚かにも程がある……

 

 だが、このまま滅ぶのが自然の摂理なのか?

 

 救いは、赦しはないのか……?

 

「我々は、己の愚かさ故に……滅ぶ運命……か」

 

 焦土に倒れる男は、力無く呟く……

 

──────────

 

 それから見せ付けられたのは俗に『竜大戦』と呼ばれた……忌まわしき過去の過ち。

 

 繰り返さぬ為に、起こさぬ為に秘匿された……禁忌と過ちの過去であった。

 

「……人間は、こんな過去を持っていたというの?」

 

『……これは……こんな事が……私は、もう少しで過ちを犯す所でしたのね……』

 

「何処の歴史書にも、こんな事なんか記されてないわ……秘匿された過去……忌むべき過ちという事ね、これは……!」

 

 マリナさんや、ミラルダさん達の意識が驚愕に染まるのが分かる……私だって、こんな過去があるなんて初耳だし、そもそもこれ程の技術……禁忌ならば、継承される筈もない。

 

 これは警告だ……人と龍が争う事に対しての、龍脈に遺された()()()()()()()()()()()()()()()()

 やはり、あの黒鋼龍を止めないと……今度こそ人類も、龍達も滅ぶ。

 

 

『……ッ?!』

 

 いつの間にか、私達は元居た場所で倒れていた……どうやら、先程の落下したような感覚は幻覚やら催眠作用の影響だったらしい。

 この場で全員が同じ幻覚を見るなど、普通では有り得ない……少なからず、龍脈の力が働いていた、と見ても良いだろう……と思考を巡らし、周囲を確認する。

 

 目覚めたのはまだ私だけで、マサトさんやミラルダさん達……カルラさんやクリス達もまだ気絶していた。

 

 途中、初めて感じる気配を察知し、振り向くと……崖の足場に立っている1人の小柄な人を見付けた……この雰囲気、たぶん人間じゃない……竜人族に似ている。

 

《おお……目覚めたか、ことわりを外れし龍よ》

 

 え、なに……(ことわり)を外れし……って、どういう意味だろ……?

 

『……貴方は……?』

 

《我等は故き民の末裔……そなたの目覚めを待っていた》

 

『良かった、お主は起きていたか……』

 

 声と共に降りてきたのは、溟龍(ネロミェール)……スイレンさんだ。

 

『スイレンさん、貴女はこの現象が何か知っているのですか?』

 

『……うむ、恐らくだが……これは「龍脈」干渉の逆流であろう……最も、お主の力では無さそうだが……』

 

 確かに、私の干渉ではさほど多くの情報は取り出せないし、仮にも複数人へ同じイメージを送るなどやれる筈もなく……この龍結晶の地という立地と、何らかの干渉が働き……私の能力が引っ張られて発動した様な感じがする。

 

『兎も角じゃ……少しの間、妾が辺りを警戒しよう。

 その間、彼等の話を聞いてやっておくれ』

 

 そう言い残したスイレンさんは再び舞い上がり、ゆっくりと上昇していく……

 崖の足場に立っていた人はその間に私の近くまで歩いて来ていた。

 

 私の前にある大きな石の上に座り、手にした杖を肩に掛け、被った帽子の角度を変える……その瞬間に見えた彼の瞳は、人間のソレとは違うものであった。

 

『故き民の末裔……古代竜人……?』

 

《さすがの博識、理外のものだけはある……故に、我等はそなたに請う》

 

 難解な言い回しだが、私に頼みがあるらしい……大した力もないただの幼龍に、一体何が出来るのだろうか。

 

黒き嵐と共に、災いの種が芽吹く……

 

地は砕かれ、深き帳に飲まれ、星光を閉ざし虚に還る。

 

理外の叡智、禍を静める術也……

 

理を外れしもの、力を統べし御姿借りて舞い降りん。

 

……引き寄せし絆こそ、地を護る光とならん。

 

『……何なんですか……?』

 

「……恐らく、何かの伝承だろうね……災いに、理外の叡智……か」

 

 いつの間に起きていたのか、カルラさんが自分の見解を述べた……それを見て古代竜人は傘を被り直し、杖を手に立ち上がった。

 

《此は故き言伝、我等の祖が遺せしもの……我等が役目、此所に至れり》

 

 その言葉で用は済んだのだろうか、一頻り周囲を回ってきたスイレンさんと入れ違いで古代竜人さんは立ち去っていった。

 

『彼は何と……?』

 

『それが……理解が少し難しかったけど、なんか妙なお願いをされちゃって……』

 

『ふむ……彼等が龍に請うとは、余程の事態が来るのじゃろうて……理解は出来ずとも、心に留めておくと良かろう』

 

 スイレンさんからも、忘れないでねと念を押される。

 

 ……この伝承と私とに、どんな関わりがあるのだろうか……?

 

──────────

 

 クリス達の目覚めを待ち、揃ってアステラに帰還した私達を待っていたのは……

 

「……レクスが、陸珊瑚の台地で消息を断った」

 

『……ッ……?!』

 

 総司令から語られた突然の悲報……口下手だが何かと皆を気に掛け、一緒に戦った事もある彼の強さを、皆は十分に知っている……しかし、この報にシオンは言い知れぬ何かに駆られ、踵を返すかの如く疲れた身体に鞭打って翔ぼうとしていた。

 

『シオン?! 何処へ……!』

 

『レクスは……彼は死んでない……きっと生きてます! でないと私が……ッ!!』

 

 マサトが真っ先に気付き、動線を遮る様に止めた。

 

『焦る気持ちは分かる……でも、そんな疲れた身体であの黒鋼龍にまた襲われたら……』

 

『私はどうなっても良い!! 彼が……彼が居なきゃ……うっ!?』

 

 タァン……と、一発の射撃音……直後、低空でホバリングしていたシオンの身体は制御を失い落下……僅かながらその影響に抵抗したものの、疲れきっていた全身を支配していく睡魔には敵わず眠ってしまった。

 

「……やれやれだぜ、あの大人しいシオンがこうも焦るなんてなぁ……」

 

 音の正体はエイデンのヘヴィボウガン……超強力な眠気を引き起こす睡眠弾レベル2を放ち、シオンを強制的に眠らせたのであった。

 

『エイデンさん、助かりました……』

 

「レクスとシオンの間に、何かあったの?」

 

「いえ、私にはさっぱり……2人の仲は普通に良いですし、特別何かあった事は……一度も……」

 

 突然のシオンの急変……勘繰ったミラルダはクリスに訪ねるものの、最も彼等を見ているクリスにも、さっぱり分からない様子であった。




マリナに対して下僕を差し向けた回数はなんと8回!
前にチラリと出ていた氷結アンジャナフも、実は黒鋼龍の下僕だったのです……


そしてレクスが陸珊瑚の台地にて消息不明に……!?
そこには例の黒鋼龍が出没していたらしい。

果たして、彼の運命や如何に……!

キャラ紹介は必要ですか?

  • できればネタも含めて詳細を
  • 名前と原作と違う部分だけでも
  • 大まかに名前だけで良いから
  • 特に気にならないので要らない

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