窮地に焦るシオンは消耗したまま向かおうとするが、エイデンの機転でおやすみなさい……
……それから半日後。
『……、……ぅ……。……ッ!?』
気だるさの残る身体を奮い起たせ、シオンが頭を起こす……
そこはセリエナに増設された龍用の小屋だった。
『……全くもう、ムチャし過ぎだよ?』
藁葺きに獣の毛皮で整えられた、ふかふかベッドの中で目覚めたシオン……声のした方には、サイズ違いで同じベッドを誂えて貰ったマサトが座っていた。
先程の声は呆れた雰囲気でシオンを軽く睨み、溜め息と共に出したものだった。
『……本当、なんですね……夢じゃ……』
『……本当だよ、彼は行方不明になってる……明日にも捜索隊が組まれるって』
本来ならば彼等に任せた方が良い……古龍とはいえシオンはまだ幼く、成龍であるマサトから見れば明らかに無茶苦茶動き過ぎていた。
ゼノ・ジーヴァと呼ばれる未知の種族といえども、本来はもっと巨大な体躯に凄まじい力を秘めた存在……生誕当時より成長してきたとはいえ、シオンはまだまだ本来の大きさに遠く及ばず、体力も言うに及ばず……雰囲気は大人びていても、間違いなく幼龍である。
しかし、子供であるが故に我慢など出来ず……シオンは回復しきってない身体を引き摺って外へと向かおうとする。
『は、やく……見つけないと……私は……!』
『ダメだよシオン、今日はココで身体を休めなきゃ!』
『
『何がなんでもダメだ! 君は今までの活動で回復を疎かにしている……ちゃんと体力が戻るまで、ココで待つんだ!』
この世界で生きてきた先輩古龍として、マサトはシオンを純粋に心配していた。
しかし、マサトの思惑は何も価値観の近い古龍だから……としてだけではない。
今までの言動から、その精神構造を鑑みていたマサトは……確証こそ無いものの、目の前の幼龍に「ある疑い」を持っていた。
(やっぱり、この子は……いや、そうでないと説明の付かない事だって)
頑なに助けに行く事を貫こうとする幼龍……体格は言わずもがな、力の差も有りすぎる為か、頑強な鋼の翼1枚に歯が立たないシオンの姿を見て、マサトはそれまでの事を思い返した。
初めて出会った時こそ大人っぽさを感じたが、会話を重ねる度に、時を追う毎に、内面の素の部分を垣間見る事ができた。
それに、周囲の人間達から見聞きしたこの子の評価を含め……
(この子も……間違いなく転生者だ、それも……転生先の知識を知らないタイプ)
『マサトさん……! 行かせて……下さい……』
体力が底を付いたのか、部屋への出入りを阻むマサトの翼に、力無くすがり付きながらへたり込むシオン……微かに啜り泣く子供の様な声もまた、自分の考えを肯定する様に感じられるマサトだった。
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『……すみません……ご迷惑をお掛けして……』
小一時間ほどだろうか……マサトの翼の影で泣いたシオンは、それまでずっと見守っていたマサトに謝りながらゆっくりと元のベッドへと戻った。
『……聞いておくべきか、ずっと迷ってたけど……やっぱりこのまま有耶無耶にはしておけない』
『え……っ?』
『シオン、君も……
『……ッ……』
突然の提言に狼狽え始めるシオン……マサトは周囲を見回し、誰も居ない事をシオンに耳打ちすると、複雑な感情を込めた瞳でマサトを見つめている。
『前から疑いは持ってた……確証が持てなかったから、黙ってたんだけどね……』
『え、ちょ……ちょっと待って下さい!? 君も……って事は、マサトさんも……!』
『うん、ミラルダ達は既に知ってるよ……私が元々、人間だった事も』
改めて、目の前に居座る先輩古龍が元・人間……何らかの出来事を境に、古龍として生きる事を定められた存在だというのに驚くシオン……そして、自分もそう定められた存在だと告げられた事に。
『私は最初から、転生前の記憶を引き継いでいるけど……シオンはどうなんだい?』
マサトは当初から前世の記憶も残っていると語る……だが、シオンは返答に詰まった。
前世の記憶? 過去の知識? そんなものなどほとんど無い……引き継いだのは人らしい感情と価値観のみ、あくまでも自分はそういう古龍なのだと思っていたから。
『……シオン?』
『……分からないんです。
私は前にどんな人だったのか、過去に何をしていたのか……自分の名前すらも……』
『……そうかのか……』
『ただ1つ……マサトさん達が来る前に、龍結晶の地で実験した「龍脈干渉」で……断片的な事は思い出したんです』
それから語られた過去の大部分は、シオンには意味すら分からない単語や土地の名前……だが、マサトには聞き覚えのある、懐かしむ様なものばかりだった。
『うん、やっぱりシオンは転生古龍……私と同じか、近い時代の生まれだったと思うよ。
……その、一部の記憶が関係無いのは引っ掛かるけど』
しかし、シオンから語られた内容……その一部はマサトとは無関係の、完全に違う時代の情報も多く含まれており、そこはマサトも多少気になっていた……断片的というより、ぐちゃぐちゃに混ざり過ぎている……少し躊躇ったが、シオンは全てを吐き出す想いで語り出した。
『……多分、混ざってる記憶は……違う時代の私が生まれてまだ幼い頃……今とそう変わらない感じの扱いを受けていた頃の記憶だと思います……時折見える光景は、今の時代に近いものですし……
でも私が一番気になったのは、この記憶の中に……何故か服装とかは今と違うけど、レクスとクリスが出てくるんです……それも私を、まるで1番大切にしている我が子の様に……』
『……え、どういう事? レクス達とは、アステラに来てから出会った筈だよね?』
『その筈です……少なくとも、私がレクス達と出会ったのは……デュークさんの手で、アステラへ連れて来られてからですし』
それが本当に転生前の記憶だとすれば、シオンは過去に転生したという事になる……
少なくとも古龍としてのシオンが生まれ、初めて見た人はデュークであり、アステラへ運び込まれてから他の人達と交流を始めた……だがマサトと同じ現代から転生した古龍なのに、人としての過去の記憶にまでレクス達が出てくるのは明らかにおかしい。
その記憶が混ざりあっているのも奇妙だ……例え記憶が転生時に消えたとしても、転生先に何らかの形で影響を及ぼしていたり、唐突に復活する事は多々ある。
だが、それを加味したとしても……2つの過去が混ざりあって復活するなんて普通じゃない。
『……結局、私は何処から来たんでしょうか……?』
マサトは返答に困る……語られた内容からすれば、マサトとほぼ同じ時代からの転生は間違いない。
だが、それ以外の時代の記憶も確かにあるのだ……推測でしかないが、マサトの頭では他に思い当たるものも無い……『あくまで仮説だけど……』と前置きをして、マサトは言葉を紡いだ。
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『……つまり、私はマサトさんの過去と同じ世界の転生者……その前か後に、この世界で1度産まれている……という事ですか?』
『そうとしか思えない……多分、時代的には今よりも未来で一度、人として生を受けたんだと思う……そこから何故再び転生して古龍に変わったのかは、全然分からないけどね』
『…………』
筋は通っているし、他に違う説を示す証拠も具体的な情報も無い……詳しくは謎がまだ多いものの……シオンが
『……だからなんだね、レクスの安否が気になるからあんな事を』
私のあの行動の理由、その確認を取るマサトさん……
復活した記憶が正しいのなら、私は
『……今思えば、産まれた直後の私に記憶が無かったのは……もしかしたら悲しい出来事があったのかもしれません……それこそ、記憶を封じたい程の事が……』
『今はそれを考えちゃダメだ、過去の記憶に引っ張られちゃダメだよ!』
マサトさんは、過去の記憶をいつまでも引き摺ると「また同じ轍を踏む」と忠告してくれた……気にしすぎると、過去と今の判別も付かなくなって状況を悪化させ……過去よりも更に悲惨な事になるのだと。
大切なのは過去と今をしっかりと区別し、過去の客観的事実から対抗策を練り、改善を図る……一時の感情に惑わされる事無く、鍵となる情報を集めるのだ。
『とにかく、君は消耗しているんだから、今は休んで……明日の捜索隊に同行して探そう』
『……はい、ごめんなさい……ありがとう、ございます……』
我儘な私を包み込む彼の言葉が、不安に押し潰されそうな私の心をゆっくりと解きほぐしていく……その暖かさに一縷の望みを託し、泣き疲れから再び襲い来る睡魔に身を委ねた。
シオンの記憶はぐちゃぐちゃに混ざっています。
その中には、自身の子供としてシオンを可愛がるレクスとクリスの姿が……
しかし、それ以外にマサトと同じ世界の情報も……?
一体どういう事なのだろう……
この翌日……編成された捜索隊と共に、シオン達は陸珊瑚の台地へ赴く。
痕跡と目撃者の情報からレクスは「瘴気の谷」へと転落した事が判明し、一行は別ルートから谷へと向かう事に……
その頃、谷の最深部では……蠢く何かが彼等の気配を察知しているのであった。