狩人と舞う白銀の翼   作:睦月透火

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いよいよ瘴気の谷へと突入するシオン達……

同時期に、谷の最深部で蠢く姿を見てしまったテトルー。
……その前に現れた、この龍の思惑とは……?



捜索(後編)

「……にゃ……ニャ……ッ!!」

 

 目の前に迫る腐肉と瘴気の塊、それを纏う巨大な存在……正しく死を纏うその生き物は、テトルーの存在を認識したのだが……一度鼻先を向け、匂いを嗅いだだけで襲うでもなく、直後に物音がした方へと頭を向けた。

 

 グルルルル……!

 

 物音の正体はギルオス……この瘴気の谷に住まう小型の竜で、ドスギルオスを群れのリーダーとして集団生活をしており、全体的に黒く、後頭部辺りに白っぽい模様……一見すれば、4足のある蛇の様な見た目が特徴だ。

 

 そしてその後ろ……4体のギルオスの向こうからやってきたのは、群れのリーダーであるドスギルオス。

 彼らはテトルーの後を付け、隙あらば襲うつもりで居たようだ……だが、テトルーの前に立つ正体不明の大型生物に出鼻を挫かれてしまった状況である。

 

 グォォオォォォン……!!

 

 獲物を横取りされては敵わない……と、ドスギルオスは手下に激を飛ばし、目の前の存在へと果敢にも挑む……が、テトルーからすれば、自らを狙い、問答無用で攻撃しに来たと感じた。

 

『……た……助けてニャ……!』

 

 2匹の内の片割れの、か細い懇願の声……その直後、真後ろの大型生物は首をもたげ口を開き……

 

 フォォォオォォォォ……!!

 

 独特な鳴き声と共に、言葉に出来ない威圧感を纏う気配が濃密になり……巨大生物の口から、大量の瘴気が噴出。

 ……激しい勢いで噴出する瘴気は、飛び掛かってきたギルオスのうち2体を逆に吹き飛ばし、もう1体の身体を大地に釘付けに……辛うじて瘴気を避けた最後の1体だったが、追撃に振るわれた鋭い爪を持つ前足に弾かれ、敢えなく吹き飛んだ。

 

 思わぬ反撃にドスギルオスは一瞬硬直するものの、チャンスとばかりに大地を蹴って飛び掛かる。

 ……しかし、相手はむしろそれを狙っていた。

 

 飛び掛かり、空中で無防備になるドスギルオス……その身体を、真横から打ち据えたのは、長い何か……それは、相手の長い尻尾であった。

 

 苦悶に喘ぎながらも、ギルオス達はまだ死んでいない……その時、相手の独特な鳴き声が響く。

 

 その直後、ギルオス達の動きが急に衰え始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い、長い咆哮……濃密な気配を放つ大型生物が、その咆哮を終えた時……ドスギルオスと手下達は、その瞳から生気が失われ……身体に傷らしい傷もないまま完全に絶命したのである。

 

──────────

 

『……何なんでしょう、この……言葉に出来ない濃密な気配は……』

 

『う~ん、何か蠢いてる様な……得体の知れないエネルギーと瘴気がメチャクチャに混ざってて、判別が付かないや』

 

 私とマサトさんは、この谷に蠢く奇妙な気配に気を取られていた。

 ……それだからだろうか、目の前の脅威に全く気付いてなかった……

 

「……ン、……オン! シオン?!」

 

 呼び声に気付いた時、全員を取り囲んでいたのは……既に朽ちたはずの死体、動く筈の無い命無き肉塊……それが何故か動いている……中にはかつてハンターだったのだろう、防具を着込んだ人間の姿も少数混ざっており……生者の恐怖心を煽るには、十分過ぎる光景だった。

 

「……ッ……!? く……来るなよ……マジ、止めて……イヤァァァ!!」

 

『え、天羅? どうして……』

「「天羅さん?!」」

 

 どんなモンスターが相手でも、ヤル気と自信に満ち溢れていた天羅さんが……まるで恐怖に怯える子供みたいな情けない声で泣き叫び、マサトさんの後ろに隠れてしまう。

 

 その声に反応したのか、一斉に死体がこちらを向き……ゆっくりと迫って来たのである。

 

(声への反応、そしてこの動き方……まさか、ね……今はそれよりも……!)

 

 マサトさんは何やら気になったのか、思案する素振りを見せる……が、今はそれどころではないと頭を振った。

 

「何だかよく分からんが、コイツら……タダの死体じゃない!」

 

「谷の瘴気がこんな現象を起こすのか? イヤ、それよりも……!」

 

 各自が己の武器で撃退する最中、武器を振るいながらも冷静に相手を分析するレオンさん……デュークさんは瘴気の影響かと一瞬思うが、かつてヒトだったモノがゆらゆらと蠢く中、奇妙な影を見た。

 

「あれは……?!」

 

『デュークさん……!』

 

 私にも一瞬だが、岩影に隠れてしまった小さなシルエットを見た……あの動きとサイズには見覚えがある、接触できたら何かしら良い情報が得られるかもしれない。

 

「シオン、どうしたんだ!?」

 

『あの先に生き物が居ました! 多分、テトルーです!』

 

 屍達がわらわらと殺到し、ひたすら噛み付こうと牙を剥くいてくる……が、私とマサトさんはお互いの長い尻尾を鞭の様にしならせて次々と薙ぎ払い、誰一人として接近を許さない。

 

『ミラルダ、天羅を頼む! シオン、道を作るよ! 良いね?!』

 

『はいっ、ハァァァッ!!』

『そこを退けぇぇえッ!!』

 

 私は右手を大きく振りかぶり、掌にエネルギーを込めて叩き付ける……その波動は地脈に干渉し、大地からエネルギーを一瞬だけ吹き上げさせ、周囲の死体を吹き飛ばして時間と隙間を稼ぎ……間髪いれずマサトさんの風ブレスが3発放たれ……破壊の意志を持つ暴風は一直線に、進路上の蠢く死体を1つ残らずボロ雑巾の如く粉砕していた。

 

「今だ! みんな走れッ!!」

 

 レオンさんの合図で、クリス達は一斉に風ブレスの弾道で出来た道を駆け抜ける。

 最後尾となって残った私とマサトさんだが、進路の反対側から来る死体の数に、迎撃は埒が明かないと判断……光弾と暴風で敵の最前列ごと地面を抉ってから、クリス達の後を追って走り出した。

 

 

 テトルー達の後を追い、谷の更に奥地へと進む……途中、赤い身体に痛そうな爪を持つ犬っぽい「オドガロン」に見つかったが、ソイツはソイツで引き摺っていた大きな死体に夢中らしく、此方には一瞥しただけで、すぐに荷運びに戻り……そのまま別ルートで奥へと消えていった。

 

 テトルー達の気配が段々と薄くなる……代わりに満ちてくるのは、濃密な命そのものの気配……龍脈という大いなる流れに飲み込まれたかのような、エネルギーの溜まり場だ。

 

『……この辺りは、龍脈のエネルギーが満ちてる……!』

 

『凄い……感知に疎い私でも分かるくらいの凄い密度だ』

 

 人間には分からない特別な感覚……龍脈から漏れ出すエネルギーが、この地下世界には満ちていた。

 更に先へと進むと青白い奇妙な色の水を湛えた、地底湖が見えてきた。

 

「やった、水がある……!」

 

「いや、これはただの水じゃない……よく見ておけ」

 

 デュークさんが走り出そうとするミラルダさんを止め、足元に落ちていた骨の塊を水の中へと放り込んだ。

 

 ヒュッ……ポチャン……ジュウゥゥゥ……

 

 時間にして僅か5秒といった処か……小型生物のものとはいえ、頭蓋骨くらいある骨の塊があっという間に溶けてしまったのだ。

 

「……強酸、ですか?」

 

『……いえ、これは酸ではなく……アルカリ……超塩基水?』

 

 ゾッとする速度で骨を溶かすレベルの酸なら、この大地すらも容易に溶か尽くしている……しかし、溶けているのは骨や肉などのたんぱく質がほとんど……やはりこの水はアルカリ性……

 

 それも恐ろしい濃度だ……王水に溶ける金みたいに骨が溶けたし。

 

『……もしかして、此処が……?』

 

(以前、クリスから教えて貰った仮説……死を迎えた龍達が辿り着く場所……)

 

 青白く光る湖面を尻目に、私達は更に奥へと進む……私はその間、クリスの仮説を裏付ける証拠としてこの地を見ていた。

 

 ……つまりだ、此処は死期を迎えた龍の目指す場所……その生涯を閉じる為の『霊廟』だ。

 この地で死を迎えた身体はあの水に溶かされ、魂は龍脈の干渉を受けながらこの地に寄り集まり……やがて大地を流れる河の様な巨大なエネルギーの流れとなる。

 

 それが、龍脈の起源……間違いない。

 此処こそが龍脈の源泉の1つ……命の始まりと、終わりを体現している場所なのだ。

 

 更に奥へと進んだ私達を待っていたのは……死した骸が折り重なり、小高い丘を形成している場所……崖の向こうには、うっすらと光があり……恐怖感を醸し出しつつも幻想的な雰囲気の場所だ。

 大量に転がる死体、音を立てて流れる塩基水の河、そして……壁や天井に埋もれた巨大な骨と、この谷を覆い尽くす凄まじい程のエネルギー……

 

 最深部へと足を踏み入れた私達は、追っていたテトルーの姿を探す。

 

「あっ、あそこ! 居ました!」

 

 アミラさんの声に皆が振り向くと、そこには2匹のテトルーの姿……そして、誰か倒れている様な影……更にその奥には、巨大なモンスターらしき影が鎮座している。

 

『……誰か、倒れてるのかな……?』

 

『……ッ?!』

 

 あの体格、あの鎧……間違いない!

 

『……クス……レクスっ……レクスッ!!』

 

 すぐさま駆け寄り、鼻先で体を揺り動かす……声に反応してくれない事に不安が募るが、呼吸はしている様で、胸や胴体が一定のリズムで動いている……

 

 私の声に応えてくれたのは、すぐそばで眠っていた大きな影の方だった……

 

『……大丈夫、皆に悪さはさせてない……ボクが手を出させてないから、安心して』

 

『……え、っ?』

 

 ゆっくりと奥の影から、シルエットが明るみに出てくる……

 

 その姿は正しく死を司り、冥府の深奥に鎮座する存在……あらゆる命を喰らい尽くし、万物に等しく終焉を与える古龍。

 

「……何故、奴が……?!」

 

 屍套龍ヴァルハザク……古代樹の森に現れたあの龍だった。




アィエェェェェ?! ゾンビ?! ゾンビナンデェ?!
龍ガシャベッタァァァァァ?!(今更w)

……失礼w その真相は次話にて。

さて、ついにシオン達の前に現れたヴァルハザク……
しかも意志を持ち、レクスは無事だと語り掛けてきた。
新大陸の謎は、まだまだシオン達を惑わせ離さない様です。

黒ダオラ戦も近いというのに……ね。
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