そこに現れたのは……ふわモコの巨大なトナカイだった。
『あら、アナタ達……何処のどなた?』
その巨大な威容に、シオンとレクスは言葉を失った……
猛牛竜バフバロ……巨大な身体に立派な角、全身を覆うそのフワフワな毛並みは、まるでシルクの様な手触りだと見ただけでも理解できる程に綺麗だった。
……モンスターであるという点さえ除けば、斯くも美しい獣だと皆が思うだろう。
『……大きい……ですね……』
「……あぁ……」
『……喋りました……よね……?』
「……あぁ……」
『……何処の誰だと……聞かれましたよね?』
「……あぁ……」
『生返事じゃないですか?!』
「……あぁ、すまん……」
黙ってそのやり取りを聞いていた大き過ぎるバフバロ……シオンとレクスの声が途切れた所で再び言葉を投げ掛けてきた。
『アナタ達、最近越してきたばかりなの?』
『……えぇ、まぁ……あっちの山影に集落を造ったのですが……必要な荷物を運ぶための道が塞がれて……』
道……と聞いたバフバロは、目線を倒木で塞がれた方へと向ける……そこには、バフバロの縄張りを荒らす、縄張り争いの相手であるブラントドスが、倒木に挟まれて動けなくなっているのが見えた。
『あらあら、成る程ねぇ……アナタ達も
アレ? とは何の事だろう……そう思うレクス、シオンは何となく嫌な予感がしてならない……
そして、バフバロの吐息と……声に凄みが出始めた時、その考えが悪い方向に正解した事を知った。
『……っ?! レクス! こっちに!!』
叫ぶシオンの声に反応し、すかさずシオンの元へ緊急回避のごとく飛び込む……シオンも、レクスが近くまで来たのを確認すると、翼でガードするようにレクスとバフバロの間に割り込ませた。
『ちょめぇ! だわこかんと! はよ出ていきね!!!』
凄まじい爆音の如き鳴き声と、方言訛りの台詞……それらを発しながら、バフバロは地面を数回……太く逞しい脚で削り、地響きを伴って……倒木で身動きの取れないブラントドスごと、倒木の山を弾き飛ばすのだった。
『グゥオオオァァァァ……グゥゥ……グフッ……!』
その巨体による突進を否応無く直撃させられたブラントドス……さすがに死んではないものの、その余りの威力に意識を残らず刈り取られ……打ち上げられた魚の様に、温泉が涌き出る山肌の下にある温泉池の岸で微動だにしなくなった。
『な……ぁ……ぇ……はぁ~~~~????』
「……なんて威力だよ……オイ……」
……さすがのレクスや私も、ドン引きである。
輸送ルートを塞ぐ倒木で身動き取れないブラントドスを……その倒木の山ごと完全に弾き飛ばしたバフバロ。
通常よりも大きく、綺麗な毛並みを持つこの個体のパワーは、古龍ですら凌ぐのではないだろうか……?
当のバフバロは鼻息も荒く……再びブラントドスを睨むが、相手が微動だにしなくなったのを確認すると、息を整えた後にレクスとシオンの方へと向き直り……
『……あらやだ、ごめんなさいねぇ……怖かったでしょ?』
その豹変っぷりに、私とレクスは……渇いた笑いをするしかなかった。
ブラントドスごと、倒木を処理してくれたバフバロ……彼女は固有の名持ちだった。
『わて……私は「サクラ」、わめら……ン"ン"……あなた達は?』
「俺はレクス……こっちは相棒のタマ」
「ニャー♪」
『私はシオンです。あの……ありがとうございました、ブラントドス……あのままでは手が出せなくて、どうしようかと困っていた所で……』
『ほやったん? えらんことやない? んならえがったわぁ~』
(そうだったの? 余計な事じゃない? なら良かったわ~)※意訳
どうやら、サクラさんは意識してないと何故か方言になってしまう様だ……ちなみにレクスは、彼女が何かを言っているのは伝わるが、意味の方はサッパリらしい……さすがに私も時々サッパリだけどね。
『……ン"ン"っ……そう言えばアナタ、初めて見る
サクラさんの疑問に、私は何と答えたら良いのだろうか……私の戸惑いを知ってか知らずか、レクスがサクラの問いに答える。
「コイツは俺達が見付けた新種なんだ……自分自身の種族の事も良く分かってないってんで、俺達と今は一緒に居る……まぁ、それ以前にコイツはちょいと臆病なんでな」
『ほやったんけ……ン"ン"っ……まだ子供なのに、親とはぐれた子かしら……』
サクラさんは一目で、私がまだ子供だとすぐに見分ける……何となくだが、そういう事は異種族でもすぐに判るらしい……だが、親とはぐれたとか、そういう所は種族ごとに違うので、慌てて私は生まれた時から単独だったと訂正した。
『そんな……わらびしい子に、てきねぇ事……だらなやっちゃな!』
(そんな……こんな小さな子に、つらい事を……情けない親ね!)※意訳
どう解釈したのか良く判らないが、私の親(?)に対して憤っているサクラさん……
ってか、この方言……私はちゃんと正しく理解できているのだろうか?
……なんとなくしか分からないから難しい。
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それからしばらくの間、サクラさんと色々話をしてから別れ……一旦拠点へと戻って、中間の陸路が通行可能になったと報告。
その足で作業員を連れて再び南下……雪崩で崩壊した中継地点のキャンプまで案内し終えた私達は、雪路で冷たくなった手足を暖めるべく、すぐ側に湧いている温泉の滝へと足を向けた。
「……あ"ぁ"~………………ふぅ……生き返るぜ……」
完全防備とはいえ、数時間も雪道を歩き続けたレクスの手足は冷えきっている……最初の温度差さえ耐えきれば、この温泉の温度はちょうど良いのだろう……
『……なら、私もご相伴に与りましょうか』
周囲は岩肌と崖で囲まれており、私以外の大型モンスターが乱入してくる危険も無いので、躊躇いなく温泉の滝に身体を沈める……その時ふと、人間だった頃の感覚を思い出したのか……レクスが側に置いていた布を前足で器用に掴み、お湯に浸らせて絞る……程よい熱を持った布を頭に乗せた所で、私の意識は満足した。
『……良いものですね、この……温泉というのは……』
一応古龍なので……初めてを装う、だが……頭にタオルを乗せ、ご満悦に温泉に浸る冥灯龍……他から見ればシュール過ぎて絶句間違いなしだ。
「……だろ? 人間だけでなく、コイツら小動物も分かってる」
そう言って指差す先には、数匹で仲良くお湯に浮かんでいる小型の小動物……ギンセンザルが居た。
彼らに逢えるのは……その温泉の効能が極めて高く、浸かるだけで細かな傷など治癒してしまう程の効果に恵まれた源泉から来ている事の証明である……と、先人の知恵が詰まった書物に書かれていた。
なるほど、確かに多少の怪我はこの極寒サバイバルでは必然……でも、この温泉で傷を治せるなら……そう覚えた動物達が集まるのも頷ける。
事実、私の足は温泉に入るまで気付かぬまま凍傷となっていた……だが気付いた時の痛みも、酷く血の気が失せたガチガチの感覚も、もう無い……浸かってまだ数分しか経ってないのに。
……温泉メチャ凄いわ。
レクス、人外娘(古龍)と混浴。
……果たしてコレは倫理的にどう見えるのか……
次回は除雪作業、でも何やら波乱の予感……
次回に現れそうなモンスターは?
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トビカガチ亜種
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レイギエナ
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ティガレックス
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アンジャナフ亜種
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ベリオロス
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イヴェルカーナ