仮面ライダーガングニール   作:露海ろみ

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久方ぶりでございます。


外伝
XX.真夜中食堂


一日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の一日は始まる。

メニューは豚汁定食と酒だけ。

あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんなら作るよってのが俺の営業方針さ。

営業時間は夜十二時から朝七時頃まで。

人は「真夜中食堂」って言ってるよ。

客が来るかって?

それが結構来るんだよ。

 

 

翔太郎と響はへとへとだった。

昨日飛び込んできた依頼はどう聞いてもガイアメモリが絡んでいる案件。翔太郎はガングニールに変身出来る様になった彼女と共に風都の街で手掛かりを探していたのだが、深夜を回ってもロクな成果を得られずにいた。

 

「師匠、今日はそろそろ帰りましょう」

 

いつの間にやら彼を『師匠』と呼ぶ様になった響の言葉に探偵は帽子を被り直す。横目で見ると彼女の顔にも疲労の色が目立った。

無理もない。昼過ぎに依頼を受けてからこの時間まで歩き回っていたのだ。ついついいつもの調子で歩き回ってしまっていた自分を、僅かに反省する。

時刻は天辺を僅かに越えた頃。今日の所は撤退すべきであろう。

その時。二人の腹の虫が同時に音を立てた。音を抑えるかの如く少し顔を赤くして腹を押さえる響。

 

「あ、いや、これは・・・」

 

恥ずかしそうに言う彼女を見て年相応だな、と笑う。その笑みを見、更に顔を染める響に対して翔太郎は弟子の頭を撫で、言う。

 

「仕方ねぇ。今日の所は飯でも食ってから帰るか!」

 

 

二人の脚は風都の歓楽街を進んでいた。煌びやかなネオンが輝く通りを二人は進む。響の年頃なら足を向けることも無いそこは彼女にとってなかなかに刺激的な空間である。

道中。街の住人達は口々に彼らに声をかけて来た。顔の広い翔太郎はその軽口に慣れたように返している。

 

「は? いや、違ぇって。こいつはそんなんじゃねぇよ! 弟子! ウチの探偵見習い!」

 

どうも話題は彼の隣を歩く自分の事みたいで、揶揄される言葉に律儀に言葉を返す師。露出の多いドレスを来た女性や酔ったサラリーマンから言われる言を翔太郎は笑い飛ばしていた。

そんなやり取りをしながら二人は路地を曲がったとある店の前で足を止める。

そこは良く言えば古風な、悪く言えば古ぼけた佇まいの定食屋だろうか。響がそこを定食屋と判断したのは店先にかけられた暖簾の文字だ。

『めしや』

極めてシンプルな三文字が書かれた暖簾が風に揺れていた。

響の師は暖簾をくぐると、店の扉を開く。

 

「いらっしゃい。・・・翔ちゃんじゃないか、久しぶりだな」

 

扉を潜ると馬蹄型のカウンターの向こうで店主であろう男性が煙草の煙を吐きながら声をかけてくる。年頃四十程で顔に大きな疵をつけた彼は探偵を見て驚いた顔をした。

 

「暫くだな、マスター」

「元気そうで何よりだ」

 

手で空いてる席に促すマスターはそこでやっと彼の同行人に気がついた。途端、怖い顔に変わる。

 

「だけどな翔ちゃん。流石にそれは不味いだろ」

「は?」

「年頃の女の子をこんな時間まで連れ回してるなんて、荘吉さんがいたら拳骨じゃ済まんぞ」

「おいおい! マスターまでかよ!」

 

道中散々に言われた言葉に辟易していた翔太郎はカウンターに突っ伏した。彼の師、鳴海 荘吉は風都の顔だ。ある程度の年齢の大人なら誰でも知っている。この店の店主もその一人であった。

 

「だから違うんだっての!」

 

彼はそう叫びつつも彼女が自分の弟子である事をなんとか説明する。

店には何人かの客がいた。OLであろう三人組や、どうみても堅気とは思えない男性。そしてその隣に座る女性みたいな、そこそこいい年齢の男性・・・オカマさんがいる。

彼らも翔太郎と馴染みなのであろう。彼の言い訳、もとい説明に聞き入っていた。

 

「・・・てなわけで! こいつはうちの探偵見習いなの! やましい事はないの!」

 

身の潔白を晴らす為に事情を説明した探偵は演説者の如く立ち上がって熱弁を奮い終えた。荒く息を吐く彼に響はそっと水の入ったグラスを差し出す。それを一気に飲むと腰を下ろす翔太郎。

彼は響の事を話す際に本当の事を語るのを避けていた。彼女が家を離れた理由を詳しくは語らず、うまく誤魔化す。そんな気遣いに響は小さく感謝をした。

 

「あら。あたしったらてっきり翔ちゃんが悪い道に堕ちちゃったんだと思ったわ」

「小寿々(こすず)さん⁉︎」

 

響の隣に座るオカマに翔太郎は異義を唱える。そんな剣幕も何処へやら。飄々とした仕草で小寿々と呼ばれた彼は柔らかい仕草で響に顔を向けた。

 

「響ちゃん、だっけ?」

「は・・・はい」

「あたしは小寿々。この近くでゲイバーのママをやってるの。よろしくね?」

「は・・・はい」

 

本物の女性よりも女性らしく微笑む小寿々に驚き半分小さく頭を下げて答えた。

 

「マスター。あたしのツケでこの子にジュースでも出してあげてよ」

「いいのかい?」

「お酒って年じゃないでしょ」

「そりゃそうか」

 

マスターは苦笑いすると冷蔵庫から瓶のオレンジジュース一本を取り出すと響の前に置いた。勿論、程良く冷えたグラスも一緒にだ。

 

「さ。響ちゃん。乾杯」

「か、乾杯」

 

掲げられたお猪口に慣れぬ仕草でグラスを当てる。小さな音を立てたそれをクイっと煽る小寿々と、おずおずと口にする響。それはきっと歳の差なのだろう。

そんな常連と珍しい客のやり取りを眺めていたマスターは、店主らしく『いつもの言葉』を放った。

 

「で、注文は?」

「いつものやつをもらえるかい」

「・・・あいよ。このお嬢ちゃんには?」

「こいつにも同じやつを」

「わかった」

 

短く通じ合った会話。響にはそれだけで翔太郎がこの店によく通っているのがわかった。

店主が何かの料理を作るために動き出す。

 

「おい。小皿、もらえるか」

「・・・あぁ。これでいいかな」

 

店主の手が僅かに止まった瞬間を見計らって、どう見ても堅気とは思えぬ男性が声を上げた。その声に反応したマスターは棚から一枚の皿を彼の前に置く。

すると男性は自分が食べていた料理を少し取りよそうと響の前に押し出した。

そこに乗っていたのは赤いウインナー。しかもタコの形に切り焼かれた、俗に言うタコさんウインナーだった。突然の事に驚く響がタコのウインナーと目を合わせていると男は短く言った。

 

「食べなよ」

 

サングラスをかけた男性はそれだけ言うと、それ以上何も言わずにビールの入ったグラスを傾ける。

 

「やっぱり竜ちゃんは優しいんだから。じゃああたしの卵焼きもお裾分け。甘いのは好き?」

 

小寿々が軽口を叩くが気にした様子もなく、竜と呼ばれた男性は平然としていた。

響の目の前には赤いウインナーと卵焼きの乗った皿。

好意をおいそれと無碍にするわけにもいかず、彼女は箸を割ると手を伸ばした。先に手に取るのは卵焼き。柔らかなそれは難なく箸で千切られると響の口に運ばれた。噛み締めると甘いそれはホロホロと崩れていく。

その味はかつて母が作ってくれたものによく似ていた。

 

「美味しい・・・」

「でしょ? マスターの料理って美味しいのよ」

 

咀嚼する少女の様子に満足げに微笑む小寿々は手酌で酒を注ぐとまた一杯と飲み干した。続いて赤いタコウインナーを口にする。その味は決して特別ではない。でもその形はよく知っていた。遠足の際に母が弁当に入れてくれたそれを思い出させる。

幼い日。彼女の弁当箱を埋めた二品がその皿には確かにあった。

 

「なんかわりぃな」

「気まぐれだ」

 

竜と呼ばれた男性に笑いかけた翔太郎が礼を言うと彼は仏頂面のまま答えた。目前のビール瓶をグラスに傾けるが雫が一滴溢れるだけ。それを見た探偵は声を上げた。

 

「マスター、竜さんに一本頼むぜ。俺の奢りだ」

「・・・おい」

「可愛い弟子に良くしてもらったからな」

 

嬉しそうに応える翔太郎は店主から差し出されたビール瓶を受け取り竜のグラスに注ぐ。黄金色の液体が細かい泡とともにそこを満たしていった。竜はグラスを豪快に傾けると一息に呑み干す。

 

「すまねぇ」

「気にせずにやってくれよ、竜さん」

 

空いたグラスに酒を注ぎながら翔太郎は笑った。対した竜の表情に一切変化は無い。だが静かに好物の赤ウインナーを口にした。その口元は、見る人が見ればわかる位に僅かながらに上がっているのだった。

 

 

「腹減ってると思って、大盛りにしといたよ」

 

マスターの両手には二つの丼。

その一つ一つが翔太郎と響の前に置かれた。

響の目前には湯気をあげるカツ丼が置かれている。黄色く半熟の卵とまだふやけ切っていない豚カツ。上に添えられた三つ葉が憎い。三色のコントラストは四色目の白米の上に行儀良く乗せられていた。

 

「翔ちゃんの”いつもの”・・・特製のカツ丼だ。お待ちどうさん」

 

笑顔の店主はそれだけ言うと奥に引っ込み、煙草に火をつけた。一仕事した後のそれは美味いのだろうか。深々と一息吸い込むと、大きく煙を宙に吐き出した。響が白煙が消えていくのを眺めていると隣の翔太郎は彼女の背を叩いた。

 

「ほら響! 食うぞ!」

 

その言葉に視線を落とすと彼と自分の目の前に置かれた湯気を上げる料理があった。

サクリと揚げられたであろう豚カツに絡められたのは黄色と白色をした卵の鎧。そうしたそれは輝かんばかりの白米の上に乗せられている。

 

美事なカツ丼である。

 

腹が鳴った。

暫しの間その芸術品に見惚れていた彼女は自分が奏でた音で我に返る。慌てて辺りを見ると客達には聞こえていたのだろう。微笑ましいものを見た、と笑顔が揃っている。そんな中、本日二度目の遭遇の師匠だけが爆笑していた。笑い続ける彼の背をお返しとばかりに強めに叩いてやる。

赤い顔を隠す様に響は箸を取った。

 

「頂きます」

 

店主への感謝の言葉もそこそこに、腹が空いていたので気持ち大きめに口に運ぶ。火傷しそうな口内に旨味が弾けた。

見た通り揚げられたカツは所々衣の歯ごたえを残しながらも、ツユによって煮られた箇所はしんなりとしている。たまにある味の染み込んだ玉葱の食感が嬉しい。そして何よりも卵だ。あえて混ぜ切らなかった二色のコントラストが全てを纏めている。響は気がつけば手を止めることなく丼を空にしていった。

その様に隣に座った翔太郎も自身の丼を取り、口に運んだ。

変わらない、いつもの味。

昔。自分が師に連れてきてもらった時と同じ味を噛み締めながら、彼もまた箸を止めることはなかった。

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

師弟揃って手を合わせると箸を置く。

米粒一つ無く空になった丼が並んだ。

他の客に料理を出していた店主は思う。

 

『荘吉さん。あんたの弟子も、その孫弟子もそっくりだ』

 

弟子の前では頑なに頼まなかったが、一人の時は同じ料理を頼んだ彼は同じように丼を綺麗に食べてくれたものだ。

 

『あんたの魂はちゃんと引き継がれているんだな』

 

口元を緩めた店主は新しい常連客にサービスの豚汁と新しいジュースを出しながら、嬉しそうに笑った。

 

 

 

なお二人が請け負った事件だが。

その日同卓した竜からの情報提供により、翌日には解決した。蛇の道は蛇とはよく言ったものだ。

その後。二日連続で店に訪れた翔太郎とその弟子は、事件解決祝いで常連客と朝まで騒いだ結果・・・朝帰りを亜樹子と照井、加えてフィリップに怒られたそうな。

ハーフボイルドとはよく言ったものだ。




ふと書き上げられたので、投稿させていただきました。
今作は戦姫絶唱シンフォギア✖︎仮面ライダーダブル✖︎深夜食堂の三作クロスオーバーとなります。

なかなか今作や『僕のヒーローシンフォギア』の続きなどを描かずにゲームばかりしております。
許してください、とは言いません。
ですがのんびりとやらせていただきます。
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