仮面ライダーガングニール   作:露海ろみ

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二話目となります。

色々と考えた結果なのですが、風都編と無印編を分けた方が読みやすいかと思いまして章を分けさせていただきました。

今回は風都編となります。


2.伏せられた二文字

翔太郎の拳が事務所を揺らすと階下から足音がした。それは少しずつ大きくなると地下へと続いている扉が開かれる。

 

「今のは地震かい?」

 

現れた青年はさも不思議そうに事務所内を見渡すとその類稀な洞察力で瞬時に理解する。

 

「なるほど。翔太郎、格好つけるのもいいけど、そんな顔してたら締まるものも締まらないよ」

 

青年の視線の先には痛そうに手を振る相棒の姿。よく見ると若干涙も浮かべていた。その彼らしい姿に青年は苦笑する。

 

「優しい君の事だ。きっとこの少女の境遇に憤りを覚えて、壁でも殴ったんじゃないかい? それで痛がってるあたりハーフボイルドな君らしいけどね」

「ハーフじゃねぇ! 俺は、ハードボイルドだ!」」

 

登場したばかりで自分の行動をピタリと言い当てる相棒にお決まりの言葉を返す半熟な探偵は詰め寄った。しかし犬歯を剥き出しに唸る翔太郎を尻目に青年はするりとその横をすり抜けると寝息を立てる少女、立花 響の側に膝をつく。

久方ぶりに安らかな睡眠をとっている彼女の頬を撫でる青年。その顔には優しい笑み。その顔に亜樹子は驚いた猫のような反応をする。

 

「ふ、フィリップ君⁉︎」

 

フィリップと呼ばれた青年はゆっくりと亜樹子に振り向くと笑いかけた。

 

「亜樹ちゃん、どうしたの?」

「いや、なんていうか・・・」

 

彼が様々な方面に好奇心から首を突っ込む癖があるのを亜樹子はよく知っている。だが今日初めて会った少女にこんな対応をする所を見た事が無かった。まるで慈しむというのだろうか、そんなニュアンスが彼から感じられた。

 

「さて。二人とも」

 

そんな彼女の困惑に気がつかない青年、フィリップは至極真面目な顔になると告げる。

 

「彼女の検索が『ある程度』完了した」

 

その言い回しに翔太郎が反応する。気になった事は調べ尽くさずにはいられないフィリップがそういう言い方をしている。

つまり、何かがある。

 

「・・・フィリップ、話してくれ」

「勿論だとも」

 

そう言うと立ち上がった彼は二人を地下へと促した。

 

 

鳴海探偵事務所の地下、壁面を無数のホワイトボードで囲まれたそこはリボルギャリーの格納庫兼フィリップの私室となっている。

ホワイトボードには所狭しと文字が書き殴られている。そこに一際大きく書かれた人名。

 

「立花 響」

 

本のページを捲りながら室内を巡り歩いたフィリップはまるで教鞭をとる教師の如く、ボードの前に立つ。

 

「結論から言おう。彼女には秘められた何かが、ある」

「どういうこと?」

「僕は亜樹ちゃん達が彼女をここに運び込んだ後、すぐに地球(ほし)の本棚にアクセスした」

 

『地球の本棚』

フィリップの脳内に存在する地球に刻まれたありとあらゆる事柄が納められた空間である。ここには地球上全ての知識があるのだが、あまりに膨大な為に読み切る事は困難だ。

そこで彼はキーワードを用いて対象を絞り込むことにより、検索を行なっている。

 

「幸いにして名前がわかっていたからね。本を見つけるのは容易かったよ。だが問題は、その中身だ」

 

愛用の本を掲げる。彼の持つ本は白紙だ。だがフィリップには本棚から取り出した本の内容をそこから読むことが出来る。

 

「ここには対象の人物の身体的特徴や生きてきた歴史が全て書かれている。しかし・・・彼女の本には僕にも読めない部分が存在した」

 

彼は空いたホワイトボードの前に立つとペンで何かを書き始めた。

 

「それは一年前、例のライブの日に彼女が体験した出来事のページだ。彼女はそこで胸に大きな怪我をしたらしい」

「そういえば響ちゃんを着替えさせた時、胸に傷跡があった・・・」

「それだ」

 

決め台詞よろしく、魔少年はポーズをとると亜樹子に指を指し示す。

 

「それが、彼女の謎なんだ」

 

フィリップはクルリと手を回すと人差し指を揺らしながら、自室を歩き回った。

 

「彼女のページにはその瞬間の描写が確かに存在する・・・だが」

 

遊ばれた指はボードに突きつけられる。

 

「書かれた文字は隠されている。僕でさえ読むことができないんだよ」

 

指された先にはフィリップの書き連ねた文字があった。そこには伏字となった単語の頭文字『S』と『G』の二文字が大きく書き殴れていた。

 

「この二つが何なのかはわからない・・・でも、一つだけ言えることがある。謎がある限り彼女は危険かもしれない」

 

その一言に押し黙る三人。フィリップも、亜樹子も、翔太郎でさえも声を出さなかった。沈黙に支配される空間で誰もが声を出そうとしていた。だが一人として続きを紡げない。からからと回るファンの音だけが流れていく。

 

「・・・と、まぁ。僕がそう言っても聞かないんだろう?」

 

つい今の今までの神妙な顔つきを翻し、笑顔になるフィリップ。やれやれ、といった彼の顔はハーフボイルドの相棒に向けられる。

 

「お人好しの君の事だ。僕がここまで言ってもその信念を曲げるつもりがないのは分かっている」

「よくわかってるじゃねぇか、相棒」

 

頼れる相棒に向けられるのは信頼から出る笑み。短い期間だがバディを組んだ二人にはそれ以上はいらなかった。

 

「俺はあいつを信じる。響がどんなものを抱えていようと信じ抜いてみせるぜ」

「それでこそ僕の相棒たる『ハーフボイルド』さ」

 

確かな信頼に結ばれた二人の会話。

そんな言葉に異論を唱える者が一人だけ。翔太郎をしばき倒す当事務所の所長は『教えんかい‼︎』の文字翻るスリッパで半熟な探偵をひっ叩いた。

 

「所長の私にちゃんと説明しなさい!」

「ってぇな! ・・・亜樹子ォ! お前空気読め‼︎」

「空気より大切なものがあるでしょ!」

 

狭い地下部屋で走り回る二人を眺めながら肩を竦めるフィリップは本を閉じるとホワイトボードに目を移した。

かつて鍵のかかった本はあった。

しかし塗り潰された文字というのは記憶にない。

自らが書いた二つの文字。

『S』と『G』

この頭文字から始まる二つの単語とはいったい何なのだろうか。

 

「立花 響。ゾクゾクするねぇ」

 

魔少年は久しぶりの興奮を覚えていた。




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