仮面ライダーガングニール   作:露海ろみ

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五話目となります。

お疲れ様でございます。
風都編をまた一話更新いたします。


5.猫を探すよ、どこまでも

「左さん」

 

響が揺り起こそうとしているのは自称・ハードボイルド探偵。彼は帽子を顔に乗せて横になっている。揺すっても揺すっても起きる気配が無い彼を更に強く揺する。

 

「ねぇ、さっさと起きて依頼を片付けないと」

「・・・んん」

 

僅かに反応はするのだが、一向に起き上がる気配のない探偵に苛立ちを覚えはじめた彼女。同じく彼を見下ろしていた亜樹子がとある物を手渡してくる。

それは一足のスリッパ。ご丁寧にも現状にぴったりな『起きんかい』と書かれている。手に取ると妙に手に馴染む感覚。

思わず亜樹子の顔を見ると、彼女は怖い顔で頷く。『やれ』ということらしい。

所長の命令なら仕方がない。響はスリッパを振り下ろした。

 

「いってぇ! って・・・おいコラ響!」

「おはようございます」

 

跳ね起きた彼の叫びにスリッパ片手に淡々と答える響。その横で腕組みしながら部下を睨みつける亜樹子はその口元を引き上げた。

 

「お・は・よ・う!」

「お前の差し金か!」

 

この事務所に居候を始めて二週間。何度となく繰り返されたやり取りを見ながら響はため息をついた。

 

 

家族と話し合った結果、響は実家に帰らなかった。自分が戻れば何が起こるかは想像にかたくない。だからこそ、今は戻る訳にはいかなかった。

だがそれでは行く場所がない。

そんなどうにもならない状況に手を挙げたのは亜樹子だった。

 

『なら響ちゃんは一時的にうちで預かります!』

 

突拍子もない宣言ではあった。

しかし彼女は響の家族を拙いながらもしっかりと説き伏せる。

家に帰りたくない響と彼女を心配する家族。すれ違う両者を取り持つ案を打ち出した亜樹子は言い放った。

 

『絶対に響ちゃんに負担はかけません。定期的に連絡もいたします。だからどうか・・・響ちゃんを預からせて下さい! お願いします!』

 

彼女の夫、照井が現役の警察官である事も味方した。妻にならい頭を下げる彼の姿に響の家族達も言葉を失う。何故彼らがそこまでするのかはわからない。でも打算も計算もなく二つの頭が下げられているのはわかった。

 

『無茶言ってるのは分かってます。でも俺からもお願いします』

『・・・なら僕も、お願いしなくてはいけませんね』

 

次いで下げられたのは帽子を外した探偵達の頭。四つの頭を見て、困惑しながら響の父は娘に問うた。

 

『響・・・お前はどうしたい?』

『私は・・・』

 

そして・・・大事な家族を守る為、立花 響は自らの意思でここに留まった。

 

 

 

「ったくよぉ。頭叩かれすぎて推理できなくなったらどうすんだ」

 

風都の街を歩く翔太郎と響。

今日の依頼はいつも通りの迷い猫探し。ここに来てから事務所来る依頼といえばこれだ。

というかこれしか来ていない。

 

「翔ちゃん! 今日も仕事かい?」

「しょーたろーにーちゃん、どこいくの?」

「お疲れ様、探偵さん」

「良い豆入ってるぜ。ほら少し持っていきな」

 

彼が街を歩くと老若男女問わず、多くの人々が親しげに語りかけてくる。その度に探偵は嬉しそうに街の住人達に会話を楽しんでいた。その中で隣を歩く自分はどこかそのノリについていけずに黙るしかない。

何人は彼の隣にいる響を見て、関係を聞いてきた。すると翔太郎はこともなげに答えるのだ。

 

「こいつは『探偵見習い』ってとこだな。ほら響、挨拶しな」

 

確かに亜樹子の家で世話になっているとはいえ、いつから自分は探偵見習いになったのだろうか。だが渋々挨拶をする響であった。

どこか釈然としないまま響は彼と共に街を進んでいく。住人達との雑談をしながらも依頼を熟すべく、聞き込みを進めていた探偵は路地裏にあたりをつけるとそこに滑り込んだ。

 

「居るとすればこの辺だな」

「・・・ホントに?」

「この街は俺の庭だぜ。絶対にここにいるさ」

 

帽子を弄びながら格好つける探偵に疑惑の視線を向ける。だが彼は確信めいた横顔で笑っている。どこからその自信が来るのだろうか。

 

「よし。いつものやるぞ」

 

いつもの。それは・・・。

 

「にゃあ〜ん。にゃんにゃん」

 

猫の物真似である。

この一週間、響は目の前でいい歳した男が猫の鳴き声を出す姿を見せられてきた。しかもジェスチャー付きである。

『猫を探すには猫の気持ちになるんだ』という謎の説明を受けたとはいえ、流石に初回はドン引いた。だが不思議な事に探していた猫はちゃんと姿を現すのだから困る。

翔太郎は自分を見つめる響に向き直ると努めて真剣な目で言った。

 

「ほら響。お前もやれよ」

「・・・嫌だ」

「『嫌だ』じゃねぇの。やるの!」

 

依頼は依頼人の笑顔の為に達成するもの。街を守る彼はその為には手は抜かない。なんだかんだ言いながらも全身全霊でぶつかるのが彼の信条だ。

そして今日もその視線に気圧され、仕方なく彼女は猫の物真似をはじめた。

 

「にゃ、にゃーん」

「違う! もっと猫の気持ちを持て!」

「にゃにゃーん。にゃーにゃー」

「そうだ、お前は友達を探してる猫だ! その気持ちで友達に呼びかけろ!」

「うぅ・・・。にゃ〜。にゃ〜?」

「にゃー!!」

「にゃにゃにゃ」

「うにゃ〜ん」

 

路地裏で成人男性と未成年の少女が猫の物真似を繰り返している。これは傍目から見れば立派な事案である。他の街でやったら翔太郎は警察にしょっ引かれるだろう。しかしここは彼の庭、風都。街の人々からしたらいつもの光景だ。誰も通報したりしなかった。

そうして。無事に目当ての迷い猫は姿を現し、無事保護する事が出来た。

 

 

「ほら。ご主人様だぜ」

 

猫を抱き抱えていた翔太郎は依頼人の少女に探し猫を渡してやる。猫は彼の腕を抜け出すと少女に飛びついた。

 

「シェリー! もう、どこに行ってたの?」

 

彼女の腕の中で一声鳴いたシェリーは嬉しそうにその身を擦り付ける。やっと帰ってきた家族を優しく撫でた少女は探偵を見上げる。

 

「ありがとう。探偵さん!」

「いいってことよ」

 

感謝の言葉にその頭を撫でながら返す翔太郎は笑みを浮かべる。

 

「困った事があったら、いつでも言いな」

「うん!」

 

大きく手を振りながら家族と一緒に事務所の扉を出て行く少女は去り際、響に告げた。

 

「お姉ちゃんもありがとう!」

「う、うん。よかったね」

 

辛うじて返答をする。

その純粋な笑顔は響が忘れてしまったもの。

その素直な眩しさは彼女が置いてきたもの。

去りゆく少女の中にかつての自分を見た響は大切な家族と家に帰る彼女を見送る。

困惑しながら、羨望しながら、戸惑いながら、沢山の感情が響を襲ってきていた。

自然に翔太郎は彼女の頭に手を置く。

 

「おつかれさん」

「お疲れ様です」

 

短く返してくる響に、探偵はその髪を少し乱暴に撫でる。すると毛を逆立てて距離を置いた。

あぁ、それはまるで猫のようだ。

それでも新しい家族に、歯を剥き出しにこちらを睨む少女に、ハーフボイルドな探偵は笑いかけた。

 

 

 

 

 

「で? 今回の依頼料は?」

「・・・すまん」

 

事務所にスリッパの音がまたもや鳴り響く。




猫!
可愛いですよね。

でも私は犬派です。
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