お久しぶりです。
未だ風都編四話は書き上がっていないのですがお待たせしてしまってもアレだな、と思い無印編を先に投稿いたします。
小日向 未来の朝は早い。
寮のベッドで目を覚ますと手早く身支度を整えて簡単な朝食を摂る。その際、昨晩多めに炊いておいたごはんをおにぎりにするのを忘れない。昔から「好きなものはごはん&ごはん!」と言っていた彼女のためだ。
一つ握る度に昨夜の彼女を思い出す。
自分を救けてくれた響の姿を思い返す。
正直なところわからない事は多々あった。
何故彼女は『仮面ライダー』というものになったのか。
何故彼女はその力を手にしたのか。
そもそもあれはなんなのだろうか。
疑問は尽きない。だが確かなことがひとつだけ。
また、響と会える。
それは未来の胸を支配する唯一のものだった。
「よし!」
五個のおにぎりを作り終えた彼女はその一つ一つを丁寧にラッピングすると、鞄に詰める。
彼女との約束は昼だが、それが待ちきれない未来はいつもより幾分早く寮室を後にした。
私立リディアン音楽院高等科。
未来の通うこの学校は小高い丘の上にある。
普段より早い時間ではあるが部活の朝練がある生徒達が次々に校門を潜っていく中、その少女は大切な相手を待っていた。
もしかしたら昨日の事は自分の夢だったのではないかと思うと居ても立っても居られない。未来はそわそわと所在なさげに辺りを見回す。
その時。
甲高い音が遠くから響いてきた。徐々に大きくなるその音は坂の下から近づいてきている。登校中の生徒達が驚いた顔で音の方向を向く中、未来の顔が晴れていく。
その音の正体は一台のバイクであった。前後を黄色と白色の二色に色分けた特徴的なバイクが学校へと続く坂を登ってきている。
それは校門の前でブレーキをかけると、タイヤを削りながら停車した。ライダーはヘルメットをとると、その短い髪を揺らす。
「ふぅ」
息を吐きながら若干潰れた髪を撫でるその姿を見た未来の胸が高鳴った。
嗚呼、彼女だ。
会いたかった彼女が今ここにいる。
「・・・響!」
声を上げて走り出す未来だったが、その声が彼女に届く事はなかった。
それより先に響に近づく影が一人。
「なにをしているんですか!!」
きっとこれは偶然だろう。
生徒の登校を見守るために立番をしていた教師が響に駆け寄っていた。怒りを露わにした彼女はバイクに跨ったままの響に駆け寄ると怒声をあげる。
あまりの剣幕に響は若干引いた。
「え・・・あの」
「なんですか、この派手な改造バイクは⁉︎」
「その・・・」
「当校はバイク通学を禁止してはいませんが、許可制です。申請書類のコピーと駐車場シールは?」
無論。今日が初登校の彼女にそんなものはない。答えに窮した響が口籠っていると目を釣り上げる教師は叫び、掌を差し出した。
「学生証!」
「うぅ・・・」
おずおずと唯一手にしていた学院の身分証を差し出す。それを受け取り、一瞥した教師は息を吸うと声を張り上げる。
「たぁちばなさんッッ!」
「はいッ!」
自分の名を呼ぶ声に背筋を正し、答える響は昨夜の活躍とは別人の如く身を縮こまらせる。そんな彼女に教師は言い放った。
「一緒に職員室まで来なさい!」
「・・・はい」
ガンボイルダーを押しながら教師の後についていく立花 響は萎縮した様にその体躯を更に小さくした。
「それに貴女! 指定のスカートはどうしたのですか⁉︎」
「スカートは・・・恥ずかしくって・・・」
「なんですってぇ⁉︎」
響はスカートを穿いていなかった。
なんというかそれが恥ずかしく、彼女の下半身を包むのは黒色のパンツスタイルだ。それは僅かにリディアンの制服にミスマッチかと思われたが、響が着るとすらりとした色気を醸し出している。
「兎に角! 来なさい!」
「は、はい!」
すごすごと教師の後を歩く響は、何処となく気を落とした表情で親鳥の後ろを歩く雛鳥の様に教師の背を追っていく。
そんな彼女を目で追いながら、未来は微笑んでいた。
雰囲気は違えど、やはり彼女は彼女だ。
それを感じ、そして苦笑しながら未来はその場を後にした。
「立花 響です。・・・よろしく」
唐突な転入生の挨拶にクラスメイト達は色めき立った。しかもそれが何処か男性らしい雰囲気を持っていたら尚更だ。
校則を振り切ったパンツスタイルを着こなすクールな目元の響は、女性だらけのリディアンにて異彩を放つ。時期が時期ならチョコレートが彼女の靴箱を埋め尽くしていたに違いない。
そんな事は露知らず、響の目は一人の少女に釘付けだった。
小日向 未来。
教室の後方で席に座る、大切な彼女を見据える。その視線に気がついた少女が小さく手を振るのを見て、響は微笑んだ。
そんな彼女の笑顔に黄色い声をあげる生徒達。教師がそれを押しとどめるのには少しの時間がかかってしまったのは仕方がない事だった。
時間は流れ、約束の昼がやって来る。
響の姿は食堂にあった。彼女は色々と迷った末、券売機で一枚の食券を購入していた。
『カツ丼』
それが大好きな師匠の顔を思い浮かべながらも、ついボタンを押していた響はお釣りと食券を手に列に並ぶ。
彼には風都で沢山の店に連れて行かれた。
それこそ拉麺やスイーツ、喫茶店と様々だったが生来米好きの彼女には忘れられない一店があった。
そこは路地裏にある『めしや』と書かれた小さな店だ。のれんを潜ると無愛想な主人の出迎えるそこは、響にとってパラダイス。
米の量は通常の店の三倍はあり、各種定食や丼の具は他店の更に倍。まさに米を愛する人向けの一店といったそこは彼女の心を掴んでいた。
列に並び、食券を差し出した彼女の前に見事な半熟玉子のカツ丼が出されたのは券を差し出してから僅かに五分後のことだった。
サクサクのトンカツをトロトロな卵に包み、響の前で湯気を立てる立派なカツ丼。それを見た響の腹が鳴る。
「いただきます」
「はいよ」
食堂のおばちゃんに礼を言い、トレイ片手に約束の彼女の元へ向かう。窓際の席に座る彼女は陽の光を浴び輝いて見えた。
「お待たせ」
向かいの席に座るとトレイを置く。湯気を立てる丼越しに見る未来の顔は笑っていた。目尻には光るものもある。
でも本当に泣きたいのは自分の方だ。
「うん」
「・・・とりあえず、食べようか」
「そうだね」
言うと響は割り箸を割り、目の前の丼を手にし食べ始めた。そんな彼女を見ながら未来も自作の弁当を口にする。
二人は暫し無言で目の前の昼食を摂った。食べるスピードは人それぞれだ。だけれど二人が食べ終わるのはほぼ同時だった。響と未来は箸を同じタイミングで置く。
「「ご馳走様でした」」
言うタイミングも同じ。
そうして二人は会話の機会を得た。しかし互いに遠慮しているのか、言葉を発しない。空の器を挟んだ二人はどうしたものかと視線を泳がせる。
そんな微妙な空気を破るのは可愛らしい腹の音。
「あ・・・」
鳴った腹を押さえた響は恥ずかしそうに頬を染めるとそこを押さえる。その姿に微笑んだ未来は持参したおにぎりを取り出した。
「・・・変わらないね」
「う・・・」
「よかったら食べて」
差し出されるおにぎりは大ぶり。未来が、彼女の事を想い握られたそれに響はおずおずと、だが遠慮無く手を伸ばす。包まれたラップを剥がして口にすると絶妙な塩加減が舌に響いた。味わい咀嚼して、飲み込む。
「未来のおにぎり、久しぶりだ」
「ふふ・・・まだあるからね」
口いっぱいにそれを含む彼女はまるで小さな齧歯類の様だ。
変わらない。
やはり彼女は変わっていない。
それが未来には嬉しい。
五種類の握り飯はあっという間に響の腹に収まった。
「・・・御馳走様、未来」
「お粗末様でした」
満足げな彼女の顔に未来の心も満たされていた。
二人は未だに机を挟んで座っている。
二年ぶりの再会。
何を話せばいいのだろうか。
いや、何から話せばいいのだろうか。
そう考え込んでいた響に未来は謝った。
「・・・ごめんね」
ハッ、と顔を上げると顔を伏せた少女は続ける。
「響が大変だったのは解ってた。でも、私は貴女の力になれなかった・・・」
ポツリと光の雫が落ちるのが見える。
「未来・・・」
「でも!」
顔を上げ、こちらを見つめる小日向 未来。
「生きていてくれて、ありがとう」
潤んだ瞳でこちらを見据える彼女を見て、響の目にも涙が浮かぶ。
私は、一人だと思っていた。
あの街で、あの人達と出逢うまで、一人で生きなくてはと思っていた。
でもそうではなかったんだ。
確かに一人、目の前には私の帰りを待ってくれている人がいた。
あの日の家族と同じ顔をした幼馴染の顔に自分の居場所を再確認した響は涙を拭う。そうして、自分の噺をし始める。
「未来。少し長くなるけど、聞いてくれる?」
「うん。響の事を、教えてほしいな」
涙の浮かぶ笑顔は陽に照らされ、響に光を齎した。
胸元から取り出すのは一本のガイアメモリ。
かつて彼女の身体に宿り、そして今彼女の手にある『ガングニール』のメモリ。
それを机に置くと響は語り出した。
「私はこの一年、ここから離れた『風都』って街で暮らしてたんだ」
少女の目は過去に想いを馳せる。
今話の最後で響が語り始めたのが風都編のお話となります。
お知らせ。
来たる12月27日。東京都大田区蒲田の大田区産業プラザPiOにて開催『絶唱ステージ14』に参加致します。
当サークル『キャッスルロック』の配置は『絶唱44』と相成りました。前作『僕のヒーローシンフォギア』の第二巻を販売する予定です。
こんなご時世で外出を控えていらっしゃる方も多いとは思いますが会場でお会いして、お話出来るのを楽しみにしております。