「......っ!」
男が目を覚ましたのは、野原の上───などではなかった。
鳥が飛んでいたり、雲がゆっくりと揺れていたりする訳でもない。
辺り一面が骨で埋め尽くされていた。
そして、寝ている男を3人の女が見ていた。
1人は幼く、紫の髪を片側に纏め、金の瞳を光らせる少女。
1人は軍服を着た成長途中といった肩までの金髪に青い目の少女。
最後の1人は手入れの行き届いた綺麗な長い白髪に赤い瞳の女性。
「......どういう事だ?」
「何で人間がこんな所で寝てるの?」
「ここらは上位悪魔が多いというのに......生身の人間じゃ勝てないだろ」
「まあ、考えても仕方ないわ。黒の所に連れていきましょう。そこの方、我々についてきて下さる?」
この問いかけに男はただ一言。
「断る」
女達は大して驚く様子もなく、冷静に理由を聞いた。
「見たこともない奴らについて行くほど、ワシは耄碌しとらんよ」
「......そう、分かったわ。それじゃ」
3人が帰ろうと足を進め、ふと止めて振り返る。
「あなた、名前は?」
男は少しの思考の末名乗る。
「次郎じゃ」
白髪にリーゼント、体中にボルトをはめ、腰の低いファンキーな老人の名前は次郎。
かつて”美食人間国宝”節乃とコンビを組み、”ノッキングマスター次郎”として世界に名を轟かせた伝説の美食屋である。
「......そう、私は白よ。こっちの金髪は黄、子供は紫よ。よろしく」
「おお」
「よろしくな、爺さん」
「ああ」
「よろしく、おじいちゃん」
「ホッホッホ、孫が出来たみたいじゃの」
「......呑気なものね」
「ハハハッ、面白くて良いじゃないか」
黄が興味深げに次郎を見て笑う。
「ま、ここで生きられる人間ってのも結構珍しいよね」
「結構どころか彼一人だけよ」
紫が軽く言うので白はため息を吐く。人間が入れば即死のこの地獄で平静を保つ目の前の老人は何なんだと。
「次郎さん、私達は帰るわ。後は頑張りなさい」
「ん?おお、分かった。3人とも元気での。また会えたらその時は一緒に酒でも飲もうかの」
「......そうね」
「またな!」
「バイバイ、おじいちゃん。元気でね」
3人が去り、次郎はこの場がどういう場所かを整理する。
「さっきちらっと聞こえた「悪魔」という単語......それはグルメ細胞の「悪魔」なのか......それとも......」
顎に手をやりしばらく考える。
そして周りに目を向ければ、黒い何かが大量に生息していることが分かる。
「ふむ......あいつらはグルメ細胞とは関係なさそうじゃの......だが、それなら「悪魔」と言うのは一体......」
するとその時、1匹の悪魔が二郎に襲いかかる───
───シュコン。
「ガッ......グァッ......!?」
どこからかそんな音が聞こえたかと思えば、悪魔はその場で崩れ落ちた。
周りの悪魔達が死んだと思って1匹を見るが、僅かに震えているところを見て気絶しているだけだと分かったので、1匹をどこかへ避難させた。
そして、目の前の男を”敵”と認識し、最大限に警戒する。
動きがまるで見えなかったこと、手法は分からないが悪魔を一瞬にして気絶させる力を踏まえ、数で押そうと考える。
悪魔達は団結力を見せ、戦闘態勢に入る。
「悪魔といっても、「ノッキング」は効くみたいじゃの。じゃが、ノッキングと言うよりは気絶か?」
次郎は指をパキ、と鳴らして自分の体をノッキングで操作する。
するとどうだ、白髪は黒に染まり、体躯は先程とは比べ物にならない程筋骨隆々になった。
「ふぅ、少しは動きやすくなったか?」
次郎は上着の内側に手を入れ、2つのアイテムを取り出す。
「さて......ノッキングライフル、ハードタイプじゃ」
次郎が手を動かし、ノッキングライフルの引き金を引いた。
すると、ドンと音が聞こえ、悪魔の一体が気絶した。
その一体の気絶が、開戦の合図だった。
「「「ガァアアアアアアアッッッッ!!!!!!!」」」
「ふっ、若いな」
次郎は襲ってくる悪魔の一体一体を確実にノッキングしていく。
対する悪魔達は仲間が落ちていくのを見ながらも次郎を殺そうと向かっていく。
「それにしても多いの」
次郎は一時弾切れになる。
「「「!!!!!」」」
悪魔達はその隙を見て一気に向かう。
一瞬、弾の補充のために片手が空く、そう考えて全速力で。
「甘いぞ」
だが、次郎は片手を空ける事無く、袖の中に仕込んでいた弾を補充し、撃ち続けた。
悪魔達は想定外の自体に動揺する。
だが、それでも殺らなければ殺られる、そう考え、突撃していく。
だが、向かっていく傍から落ちていく。
その間、ライフルの音は止むことなく、ドンドンドンドンドンと悪魔達を撃ち抜いていく。
向かう、落ちる、向かう、落ちる、向かう、落ちる、向かう、落ちる、向かう、落ちる、向かう、落ちる───
「───こんなものかの」
全ての、数百は軽く超えている量の悪魔を気絶させ、次郎はノッキングライフルをポケットにしまい、この場から出る方法を考える。
「ガ、ガガ......」
「......ん?」
気絶した悪魔達はすぐに目を覚ました。
だがそれでも体は動かない。
そして、その中のリーダー格の悪魔が言葉は通じずとも、次郎に問いかける。
次郎は直感で悪魔の言葉を聞き取った。
『何故、自分達を殺すことなく気絶させたのか......教えてくれ......』
「......ふむ......ワシは基本、無益な殺しはしないんじゃ。ワシが殺すのは害を及ぼすもの、自分が食いたい物、そんなものだけじゃよ」
『な、なら......自分達も害を......』
「......お前達の場合は、しょうがなかったと言えるんじゃないか?殺らなければ殺られる、そう思ったんじゃろ?」
『あ、ああ......』
「それに関してお前達は悪くない。ワシが勘違いさせたのが原因だからの」
そう話している内に、悪魔達は起き上がりつつあった。
「......さて、そろそろここを去ろうか」
『ま、待ってくれ......!』
「何じゃ?」
『あ、貴方の名前を......』
「......次郎じゃ」
『......次郎......』
「それじゃあの、若いの。また会う時まで」
『......!ああ!』
リーダー格の悪魔は表情を引き締める。
次郎という男は、このリーダー格の悪魔の考え方に大きな影響を及ぼすこととなった。
『......最後に礼を......っ!?』
気づけば次郎は消えていた。
いなくなったのだ。
『......どこまでも、敵わない男だ』
リーダー格の悪魔は大勢の悪魔達に告げる。
次郎は自分達を殺すつもりはなかったと。
自分達が殺そうとしたにも関わらず、自分が悪いと謝罪をしたこと。
無益な殺しはしないという考え方。
悪魔達はその言葉を聞いて、いつか次郎の様に強く、大きくなろうと、雄叫びを上げた。
「......ワシの知っている悪魔とは違うの。真っ当な思考を持つタイプじゃ」
消えたと言うより、その場から見えない程上空に飛び上がった次郎は、悪魔達を見て少し喜んだ。
まるで、洞窟の砂浜でトリコと小松に会った時のように。
「さて、ワシもそろそろ出ないとな」
次郎は悪魔達と離れた地面に降り、拳を握る。
そしてその拳を地面に叩きつけた。
「”グランドノッキング”───」
そしてこの場の環境、生物、全ての動きが止まる。
「さて......フンッ!!」
そして、静止した空間を殴る。
すると、空間にヒビが入る。
次郎はヒビに手を突っ込み、広げた。
すると穴が開き、その穴を通して別の場所の景色が映る。
「......やはりの」
次郎はその穴に入り、悪魔達の世界から脱出した。
「ふぅ、ひとまずは出れた。ここからどうするか......まあ、酒でも探そうかの」
見る見る内に小さくなる次郎。
それは、先程白、黄、紫の三人娘が見たヨボヨボの状態だった。
次郎は低い腰のままその場を歩いていった。
次に彼の行く先は───