次郎、第二の人生   作:フェンネル

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継承

「あら......ここは?」

 

トレイニーは、次郎と別れた後魔国連邦にいたのだが、気づけば真っ暗な空間にいた。

 

「ふむ......誰かの魔法でしょうか......?にしては妙ですね......気配を感じなかった......」

「お、ようやく来たかの」

「ひゃっ!?」

 

突然声がしたので思わず驚いて後ろを見ると、誰もいなかった。

 

「......あら?」

「下じゃよ、下」

「下?......あら、こんにちはお婆さん」

 

至近距離から声が聞こえたので言われた通りに下を見ると、背の低い腰の曲がった小柄な老婆がいた。

見た感じは優しそうな雰囲気だが、トレイニーは感じ取っていた。

 

自分では目の前の老婆には勝てない。そもそも勝負にすらならないと思う程の威圧感を。

次郎に少し似た感じがする、と。

 

トレイニーは老婆と視線を合わせるためしゃがみ込む。

 

「私は樹妖精のトレイニーと申します。どうぞお見知り置き下さい」

「ほっほっほ。礼儀正しい子は好きじゃよ。あたしゃは節乃。料理人じゃ」

「まあ、そんな方がどうしてこんな所に?」

「おぬしに伝えたいことがあるんじゃよ」

「伝えたいこと......ですか?」

 

先程の優しそうな表情から変わり、節乃は神妙な表情をする。

それを見てトレイニーも表情を引き締める。

 

「おぬしらの世界に、何か得体の知れないものが近づいているんじゃ」

「私達の世界......節乃さん、あなた何故それを......!」

 

節乃の発言は、明らかに異なる世界の存在を知っている言い方だった。

そして、次の節乃の言葉でトレイニーはとてつもない衝撃を受ける。

 

「まあ、”ジロちゃん”がいるから安心じゃろ」

「ジ、ジロちゃん?」

「おぬしで言うところの”次郎”じゃよ」

「何故あなたがその名を......」

「当然じゃ。前の世界であたしゃとジロちゃんはコンビだったんじゃからの」

「コンビ?」

「グルメ界では何度も助け合った仲じゃよ」

「......グルメ界、というのは次郎さ......んん”っ、次郎から聞いたことがあります。随分お強い猛獣がいられるとか」

「おお、そうかそうか」

 

節乃はトレイニーが次郎とコミュニケーションを取れていることに安心し、話を始める。

 

「向こうでのジロちゃんはどうじゃ?」

「どう......とは?」

「また酒ばかり飲んでいるかの?」

「......お酒は、私があまり飲まないように、と言い聞かせました」

「......ジロちゃんは涙に弱いからのう......」

「......涙?」

「ん?おぬし、泣いておったじゃろ?」

「な、何でその事を!?」

「三虎から教えてもらったからのう」

 

聞き覚えのある名前にああ、と合点がいく。

 

「......たしか、次郎の弟さんでしたよね?」

 

節乃は優しい表情で頷く。アカシアやフローゼ達と過ごした楽しい日々を思い出し、頬が緩んだのだ。トレイニーも自然と口が緩み、そこには平和な空気が流れていた。

だが、その空気は次の節乃の発言で消えることになる。

 

「まぁジロちゃんはかっこいいからの。そりゃ惚れるわい」

「惚れる......?......っ!?な、ななな......!!」

「おーおー、そんなに真っ赤にならんでもええじょ」

「ま、真っ赤になど......!」

 

節乃から顔を背け、座り込んで何やらブツブツと言っているトレイニー。

節乃は「若い者は良いの」とか言っていた。

 

「わ、私が次郎を......!?確かに優しくてかっこよくて頼もしくて一緒にいて楽しいとは思いますけど......す、好きだなんてそんな......!ド、樹妖精は恋なんてしないはずなのに......!」

「ほっほっほ。無理もないの。間近でジロちゃんの行動を見とれば、自然と引き込まれもするわい」

 

トレイニーは、自分の思いを見透かされたような言い方をされ、より顔を赤くした。

事実、彼女はあの世界に来てからの次郎の行動を間近で見ていた。

次郎の”殺す”という行為の中にある深い何か。それが何かは分からないが、トレイニーは2人で歩いたりしている時、気づけば次郎のことを見たりしていた。

 

「で、でも好きなんて感情は......!」

「おぬし、ジロちゃんのことをどう思う?」

「ど、どう思うって......さっきも言いましたけど、優しくて、かっこよくて......頼もしくて、一緒にいて楽しいとは思いますけど......あ、あと!」

「およ?」

 

最後の一言をトレイニーは若干渋りながら、照れながら節乃に耳打ちした。

 

「とっ、隣にいさせて欲しいなー......なんて思ったり......」

「......ほっほっ。良いじゃないか。あたしゃはそういう感情のことを”好き”と言うと思うんじゃがの」

「そ、そんなことは......!」

 

己の気持ちを自覚するのは時間の問題か、などと心の中で思いつつ、節乃はトレイニーに逸れていた本題を話し始める。

その顔は何かを危惧しているようにも見えた。

 

「トレイニーよ」

「......はい?」

「今、おぬしらの世界は平和か?」

「平和......とは言い難いですね。私達の世界は常に弱肉強食。和平を結ぶのは人間の方達だけです。ただ最近、魔物の国も作られたりしますが......」

「まあ手っ取り早く伝えるじょ。おぬしらの世界にジロちゃんとは違うものが来ておる」

「異世界人、という事ですか?」

「その見解は正解じゃ。半分な」

 

節乃は悲しそうな顔をしながらも、トレイニーに伝えるべき大事な情報を伝える。

 

「あたしゃらの世界には、三虎が作った”美食會”という組織があっての。そこには操縦者の動きに合わせて遠隔操作できるロボット、通称”GTロボ”というものがあるんじゃ」

「GTロボ......」

 

オウム返しのように繰り返すトレイニーだが、いまいち聞き覚えのない単語に頭を悩ませる。

 

恐らく節乃のいる世界ということは、次郎のいた世界。

次郎のコンビの節乃が知っているということは、次郎も知っているはず。だが、次郎からはそのGTロボについては聞いていなかった。

 

「そのGTロボがどうかしたのですか?」

「......おぬしらの世界で大量発生しておる」

「......そのGTロボを操縦しているのは、必ず悪人なのですか?」

「......いや、そんなことは無いとは思うがの......ただ、GTロボを作ることが出来るのは、美食會だけだからの。三虎が死んでいるとはいえ、その技術を悪用して生態系を乱すやもしれぬ。警戒しておきなさい」

「......分かりました。こちらの世界の方々にも伝えておきます」

「そしていざと言う時はこれを使いんしゃい」

「これは......?」

 

節乃がトレイニーに渡したものは、小さな石ころだった。

だが、それがただの石ではないことは、見て直ぐに分かった。

持ってみたところ、大きなコンドルの幻を見た。

 

「”拡音石”と言っての。あたしゃらの世界の猛獣の声帯から取れる物じゃ。この石に向かって声を出せば、数倍の大きさとなるんじゃよ。

あたしゃの知り合い達が頑張って作ってくれた、普通の拡音石の数倍の性能じゃから、使う時は気をつけい。これでジロちゃんに助けを求めたりすれば良いじょ」

「何から何まで、ありがとうございます......」

「あたしゃはそちらの世界には行けんからの。これ位はさせて欲しいんじゃ。ああ、トレイニーよ」

「はい?」

「ジロちゃんのこと、”コンビ”として支えてやって欲しいんじゃ」

「......はい!」

 

トレイニーは節乃との話を終えた後、節乃が気づいている様子はないが、後ろにいる色んな料理人達にも軽く会釈をした。

 

そして、次に目を閉じた時には、トレイニーは魔国連邦にいた。

 

「おーい、トレイニーさん?急に立ち止まってどうしたんだ?」

「......ふふっ、いえ、何でもありませんよ」

 

魔国連邦の案内をしていたベニマルは、よく分からなくて首を傾げたが、トレイニーが嬉しそうだったのでまあ良いかと流したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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