あれは、俺が他国との条約を結ぼうと馬と兵を連れていた時───
「......妙だな」
「......ええ」
異変に気づいているのは、俺と兵数名だけだった。
本来ならば豊かな緑が広がる自然そのものだったその場所。
だが、見てみれば焼け果てていた。
何かで焼かれたような跡が至る所にあり、酷いことに動物や魔物までもが大量に殺されていた。
「......一体誰がこんなことを......」
《ン?何デコンナトコニ人ガオンノヤロ?》
荒れ地を調べていると、貴様の言うGTロボが出てきた。
その手に動物たちの死骸を抱えてな。
奴は妙な喋り方で、独特の訛りがあった。
そして奴最大の驚異となる所は、戦う時の温度差が途轍もなく大きい所だ。
《マ、トリアエズ死ンデモラオカ!》
「っ......はあっ!!」
普段あれだけ飄々としているなら、戦う際に迫られれば回避しようがない。
俺は端から警戒していたから奴の初撃を受けきることが出来た。
だが、防御できたとはいえ奴の攻撃速度、威力共に凄まじいものだった。
《オッ、避ケタ!結構強イナ、アンタ!》
そして奴は上機嫌にこちらへ距離を詰め、五指を俺の鎧に当てた。
そして思い切り下に指先を下ろしたかと思えば、俺の鎧は奴の指が通った場所だけ、綺麗に剥がれていた。
《”ピーラーショット”......結構ヤルヤロ、自分!》
「鎧が......」
《今ノハピーラーショット言ウテナ、相手ノ部位ヲ剥グコトニ特化シタ技ヤ!》
「なるほど。俺の鎧を剥いだのはそういう訳か」
《マ、アレダケ近距離デ使エバ流石ニ剥ゲルワナ!》
俺は奴の言葉を聞いて推測を立てた。
今の”ピーラーショット”という技、近距離で使えば、と奴は言った。
ということはつまり、遠距離ならば攻略出来るのではないかと。
《......何考エテルンカ知ランケド、続ケテ行クデ!》
そう言うと奴はピーラーショットの構えに入った。
先程立てた推測通り、奴から距離を取ろうとする。
奴は少し驚いた様子を見せながらも、そのまま技を放った。
《ピーラー......ショットォッ!!》
奴が両腕を勢い良く振ったかと思えば、俺に向かって斬撃が2つ飛んできた。
そしてその斬撃を1つは剣で流し、もう1つは回避した。すると、斬撃は俺の後方へと飛んでいき、残った木々を、それもかなりの数の大木を、枝のように軽く切り裂いた。
「......あの切れ味なら、俺の鎧を剥げるのも納得だ」
奴に向き直ると、何故か大笑いしながら拍手していた。
《ハハハハッ!アンタヤルナ!コノロボット使ッテ戦ッタ中デ1番ヤルワ!》
おそらくピーラーショットを避けられるとは思っていなかったのだろう。驚きながらも楽しそうだった。
「それだけ余裕を残しておきながらよく言うな」
《ソラアンタモヤロ?マ、ソウ邪険ニセントイテヤ!仲良ク行コ───ヤッ!!》
「ふんっ!」
奴の体は随分と頑丈らしくてな。俺の剣で幾度となく斬られてもまだまだ耐えて見せた。
だが、斬れば斬るほど動きが鈍っていた。
そして、隙も大きくなっていた。
「かなりの耐久力だ......そしてその耐久力は体全体に行き渡っていると見た......だが、機械ならば弱点は同じ!」
奴自身、体が途轍もなく硬い。俺の剣と同じ位な。
そしてまだまだ奴には余裕があった。
このままでは埒が明かないと思い、奴の関節部分を狙ったんだが───
《ヤッパ誰デモソコハ引ッカカルカ!》
「チッ......関節までもがその硬度とは......中々の代物だな。その機体」
《機体ヤノウテ”GTロボ”ヤ!》
そいつはその時、狙ってか狙わずか名前を言った。
恐らくは知られても大丈夫だと思ったのだろうな。
「GTロボ......その名、覚えたぞ」
《マァ覚エトキヤ!忘レラレンヨウニナルデ!ンデ、オッサンハ?》
「貴様のような悪党に教える名など無い」
《......良イナアンタ。ホンマニ楽シイワ!......死ンデモ、恨マントイテヤ?》
そこで奴の雰囲気が一気に変わった。その感情に楽しむ様子は一切なく、殺気だけが伝わって来た。
「......ところで、このまま終わりでは無いだろう?」
《上等......》
俺は奴をどうにか破壊しようと頭を回していると、ある違和感に気づいた。
それは、奴にどれだけ斬りこんでも、微塵も怯まないことだ。
俺の剣戟が、奴にダメージを与えるに及んでいないのだろうが、あまりにも異常だった。
「痛覚が無いのか......?おそらく遠隔操作......となると、あの機体はかなりの技術の持ち主によって作られた物だな......」
遠隔操作しているということは、操作する上で必要不可欠な物を壊せば良いと考えた。
その部分を壊し、操縦不能にするというのがその時の狙いだった。、
俺は奴の核となる部分を一撃で壊さなければ勝機は無いと思い、こうげきを”斬る”から”刺す”に変えた。
やり方が出来た時に相手は急に動きを止めた。
《チョイチョイ、コレカラ良イトコナンヤカラ止メントイテヤ!》
「......?」
奴は誰かと《思念伝達》を行っているのか、外部からの者と連絡を取っているようだった。
《ア、オッサン。チョット待ッテナ。......ハアッ!?ホンマカイナソレ!ワカッタワカッタ!スグ戻ルワ!》
そして言い残して奴はその場を去っていった。
俺は仕留め損なったとその時後悔した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「とはいえ、今思えば、助かったのかもしれんな。
俺としても、あのまま戦い続ければ不味かったやもしれん。
やり方が出来たとは言ったものの、ほぼ賭けだったからな」
「なるほどのう。操縦している輩はワシの時と同じ......か」
この言葉に王は僅かに反応を示した。
「同じ......と言ったか?」
「ああ。ワシが会ったロボットも、おぬしが言う独特の訛った喋り方じゃった」
「もしあんな物が量産されれば、ここら一帯の魔物や動物は狩り尽くされるぞ」
「おぬしが見た機体の特徴は?」
「体毛が黒いだけだ」
「......ワシは白じゃった」
ここから察せる結論に、王は歯噛みした。
「......チッ、手遅れか......」
「......おぬしの伝えられる限りで、GTロボのことを他の国にも教えてやってくれ。ワシは魔物達に伝えてくる」
「魔物達......?」
王はまさかという眼差しで次郎を見た。
「つい最近樹妖精というのと知り合ったんじゃよ。名前は───」
「......トレイニー殿か?」
「お、知っとるのか」
「ならば、リムル=テンペストも......」
「ああ、知っとるよ」
「......なるほど、ならば信用出来るな。下がれ」
王は未だに武器を構えている兵達を、全員退室させた。
次郎はまだ警戒されていたのかと思い、心外だと思った。
王はすまんなと一言。
「そういえば、名前を言っていなかったな。俺の名はガゼル・ドワルゴ。リムルとは、同じ師に剣を習った同士でな。俺の弟弟子なんだ」
「それでは改めて。ワシは次郎。美食屋じゃ」
「そうか。よろしく頼むぞ、次郎」
「ああ」
2人は握手をしてから、互いについて話した。
次郎はGTロボの攻略方法、核の形、圧覚超過について。
ガゼル王は、この世界の人間や魔物の種族、歴史、危険度について。
「そういえば、さっき”天災級”という危険度の魔王がいると言っていたが......」
「ああ、それがどうかしたか?」
「ギィ・クリムゾンという魔王を知っとるか?」
ガゼル王の動きがピタリと止まる。
そして、何故か凄い顔をしていた。
「どうした?」
「......ギィ・クリムゾン......」
「知っとるのか」
「奴は、最強最古の魔王にして、魔物、ひいては魔王の頂点だ」
「で、ギィ君は”天災級”か?」
「お前が”君”付けで呼んでいる理由については問わん。そして質問の答えだが、当然”天災級”だ」
「それでは、ヴェルザードさんもか」
その名を聞いて思わずため息が漏れるガゼル王。
次郎は不味かったかと思ったが、先に口を開いたのは向こう側だった。
「......ヴェルザード......白氷竜の名を持ち、世界に4種のみ存在する”竜種”が1体......”天災級”だ」
「そうか......知らんことが多いの」
「そいつらは知らなくて良かったぞ......」
ガゼル王は若干窶れていた。
今2人の名前を聞いただけでここまでの反応を示すということは、どれだけ世界にとって危険な存在かを次郎に印象づけた。
「......ところでおぬし、先程リムル君の兄弟子と言っていたが......」
「それがどうかしたか?」
「詳しく教えてくれんかのう?」
次郎としては結構無理やりな話題転換なのだが、ガゼル王はリムルの名を聞くと共に元気を取り戻し、リムルのことを自慢げに語り始めた。
共に酒を飲んだ中だの、1番仲が良いだの。
その表情に、微塵も侮蔑の意は無かった。
それどころか、嬉しそうに、楽しそうにリムルのことを話している。
(......変わった男じゃ)
次郎は、魔物に対して良い感情を抱かない人間をよく見てきた。
故に目の前の男が珍しかった。
人の姿をしているとはいえ、スライムのリムルが主となっている魔国連邦と盟約を結んでいるとは驚いた。
(こういう男がワシらの世界にいれば、三虎はああはならなかったろうに......)
願わくば、この男のような人間が、世を統べる者になって欲しいと。