あれ?なんでバレてんだろ?
「......って、これウチの回復薬じゃん」
「やはり......あなたがリムル様なのですね」
「あ、やっべ......!」
......まぁ、今から誤魔化すのは無理......だな。
「ということは、あなたは間違いなく次郎さん!」
「おお、いかにもワシが次郎じゃが......おぬしとどこかで会うたかの?」
「あっ、分かった!あんたうちで回復薬買ってくれた商人だろ?名前は確か......」
「ミョルマイルです」
「やっぱりそうか」
ミョルマイルは、改めて頭を下げてきた。
「あの上位回復薬のおかげで、2人の親子を救えました。ありがとうございます」
「あー......どういたしまして......?」
使ったのはミョルマイルだが、俺に礼を言う必要はないと思うけど......善良な人なんだな。
「上位回復薬?」
「あ、次郎さんは知らなかったんですよね」
「まぁ、ワシは基本薬は必要無いからの。酒飲んどけば治るわい」
恐ろしい......この人ってもしかしてアルコール中毒だったりする......のか?
「コホン、えーと、まず回復薬っていうのは3種類あります。
一般的な物が”下位回復薬”です。多分1番馴染み深い物ですよ。安価ですけど、治せる傷には限度があります。
その上がこの”上位回復薬”。欠損した箇所以外ならばどんな傷も治せる万能薬です。
更にその上にあるのが、”完全回復薬”です。使えば、ちぎれた足とかも生えてきますよ」
「とはいえ、完全回復薬なんて殆ど存在しませんがね」
「ほう、凄いんじゃな。”療水”とは違うの」
次郎さんが興味深げに回復薬を見る。
療水ってのが気になるけど、これも後回しだ。
「ふむ......ミョルマイル君」
「はっ、はい?」
「1本貰って良いかね?」
「あ、構いませんが......」
次郎さんは回復薬を取ったかと思えば、自分の腕に傷をつけた。
あれくらいなら上位回復薬ですぐに治るな。
お試し的な感じか?どれくらい聴くのか、みたいな。
「リムル君」
「あ、はい?」
「これは飲めば良いのか患部にかければいいのかどっちじゃ?」
「どちらでも効きますけど......」
「なるほど」
そう言って次郎さんは回復薬を傷口にかけた。
普通ならば傷がみるみるうちに消えていく回復薬。
だが、どういう訳か次郎さんには効果がなかった。
「......やはり、細胞単位で違うとこうなるか......」
次郎さんから気になるワードが聞こえたが、今は聞き流す。
後々聞いておこう。
と、徐に次郎さんはミョルマイルを見た。
「そういえばミョルマイル君」
「はい?」
「何故ワシらの名前を知っとったんじゃ?」
「ええと......魔国連邦に行った時、お2人の名前をよく聞いたものです。特にトレイニーという樹妖精の方からの次郎さんの話が止まらなくて......」
「......トレイニーがすまんの」
「他にも鬼人の方々も次郎さんについてお話していましたよ」
まあ魔国連邦では次郎さんについての議論は度々白熱してたしな。
っていうか......あれ?トレイニーさんと次郎さんってそんなに仲良かったのか?
まぁ次郎さん連れてきたのトレイニーさんだし、交流する機会が多かったのか。
「次郎さん、トレイニーさんとは親しいんですか?」
「ん?トレイニーとは......どうだろうか......表現が難しいんじゃが......強いて言うなら......」
強いて言うなら?
「......”コンビ”......というか、何と言うか......」
コンビ?トレイニーさんと次郎さんが?
嘘だぁ。
「どういう事ですか?」
「いや、ワシは結構長くトレイニーと過ごしていての。色々あったんじゃが、トレイニーには隣にいて欲しいんじゃ」
「あれ?確かトレイニーさんも同じようなことを言ってた気が......」
「同じようなこと?」
「はい。コンビがどうとか言ってましたよ」
確かシュークリームを届けに戻った時、次郎さんに会ったか聞かれたな。会ってないって言うとヘコんでたし。
トレイニーさんも何だかんだ次郎さんのこと好きだよな。
「あのー......」
「ん?」
「私は商談があるのでここらでお暇させて頂きます。次郎殿、これを」
「む?」
ミョルマイルが話しかけてきたと思ったら王国に入れるようになっていた。
聞くところによると、次郎さんと話している間に聴取を済ませ、俺と次郎さんの事を護衛と称し、正体がバレないように手を回してくれたとか。
助けに来たつもりが助けられちゃったな。
「先生ーーーー!!」
いつの間にか子供達もここまで来ていた。
なるほど、ランガに乗せてもらったのか。
「ご苦労さん、ランガ」
「はっ!お褒め頂き光栄です!ところで......何故次郎殿がここに?」
「それは俺も知らん。でも助けて貰ったのは事実だ」
「なるほど!恩に着ます、次郎殿!」
「おお」
次郎に撫でられしっぽを振るランガ。
次郎さんって何かに嫌われるタイプじゃないよな。どちらかというと、何にでも好かれるような感じがする。
「リムル君」
「はい?」
「ミョルマイル君からこれが」
「名刺......ですね」
ん?裏に何か書かれてる。
「......住所、だな」
書かれている住所の地区を大賢者に脳内マップで見せてもらうと、その辺りは高級な店が並ぶ地区だった。
なるほど。随分なやり手らしい。
ガルド・ミョルマイル。善良で強かな大商人。
彼とは今後も付き合いが続きそうだ。
「......「是非次郎さんも一緒に!」ですって」
「......どうしようかの」
「なになに......特上の酒をご用意します......?」
「行こうか」
「え”っ」
次郎さんに酒を絡ませてはいけないってトレイニーさんが言ってたけど、もしかしてとんでもない酒豪なのか......?
っていうか次郎さんチョロくね?
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
という訳で、暴れていた天空竜を倒した日の夜、俺達はミョルマイルの招待を受けて王都の一等地にある高級酒処にやって来た。
彼の口利きで今夜は貸し切りだそうだ。
......料金表を見て思わず吹き出してしまったが、仮面のおかげでバレなかったと思いたい。
「いやはや、ワシとしても酒が飲めるのは嬉しいのう」
「......あれ?でも次郎さんってかなりの酒好きなんじゃ......ココ最近飲まなかったんですか?」
そう言うと、次郎さんは若干くたびれた様子を見せる。
何かを思い出したようで背筋を震わせたりしていた。本当に何があったんだ?
「......いや、飲もうとしたらトレイニーが泣きそうになるもんでな」
「えっ!?トレイニーさんって泣くんですか!?」
なんてこった......衝撃の事実だな。あのトレイニーさんが泣くなんて。
経緯も気になるが、次郎さんの話に耳を傾ける。
「ああ。......ワシは、トレイニーの涙には弱いらしいんじゃ」
「尻に敷かれるってやつですか?」
「そんなことはないと思いたいけどのう......何かこう......似とるんじゃよ......」
「......似てる?」
酔っているからか、はたまた別の理由か、懐かしむ表情を見せて少しだけ笑う次郎さん。思い出深い何かなんだろうか。
「......昔のコンビ、にのう」
「昔の......コンビ?」
次郎さんのコンビ......気になるな。トレイニーさんみたいな美人なのかな?
「本当ですか?」
「ワシは記憶力には自信があるんじゃ」
「酒を樽5つ分も飲んでおいて説得力無いですよ。?記憶が曖昧なんじゃないですか?」
これをトレイニーさんに言ったらどうなる事やら。
とはいえ......次郎さんは酒が好きだけど強いって訳でも無さそうだな......人並みに酔ったりしてる。
「そういえば次郎さん、何でトレイニーさんと行動しなくなったんですか?」
次郎さんはピクリと反応した。
「......ワシは、トレイニーに美味いものを食わせるために食材探しに出かけてるんじゃ」
「食材探し......ですか。もしかして、トレイニーさんが言ってた約束ってそれですか?」
酔った次郎さんはこくりと頷き、肯定の意を示した。
その後、すぐにため息を吐いた。
「......とはいえ、ここはグルメ界のように食材が豊富にある訳でもない......探したところでトレイニーが生で食えるかどうか......元なる食材を見つけても、そもそも調理が必要だからのう」
グルメ界って何だ?この世界にはそんなのもあるのか?
まだまだ世界は広いな。
っていうか、想像しただけで楽しそうだな。グルメ界......
そこら中にお菓子とか肉があったりして。
お菓子の家はもちろん、植物の葉がベーコンだったり......別々の甘みが何度も口の中で広がる果物とか......よだれが止まらなくなって、口に入れた瞬間に笑顔が止まらなくなるスープとか......あったらいいなぁ。
「リムル君?」
「......ハッ!」
いかんいかん。グルメ界の想像がこうも捗るとは......恐ろしい。
「......すみません。それで、そもそも調理が必要っていうのは......」
「いくらすごい食材を調達しても、それを”調理”できなければなんの意味もないんじゃ」
確かに、生で食える食材なんて殆ど無いよな。元の世界で言う果物なんてこの世界ではあんまり見ないし......他の国にはあるかもしれないけど......トレイニーさん達しか持ってる人知らないし......ドワーフ王国にもあったな。
「あ、ウチの国ならシュナ達が調理してくれますよ?」
「......本当かの?」
「ええ。頼んでみます」
「助かるわい」
「ああでも」
「?」
「多分トレイニーさんが譲らないと思いますよ。以前帰った時、次郎さんが持ってきた食材は自分が調理するとか言ってたんで」
何か見たことない包丁持ってたな。ギザギザのやつ。
カッコよかったな......あの包丁。形を自在に変えられるんだから凄いよなぁ。トレイニーさんも包丁握る姿は様になってたし。
まぁ、まだ料理してるとこは見たことないけど。
「......トレイニーって料理出来るんかのう」
「信じましょう。シオンのようにならない事を」
「シオン......ああ、紫の髪の鬼の娘か」
何だかんだで、飲み会は結構長く続いた。
そしていつの間にか酔いが覚めた次郎さんと、キレイなお姉ちゃんが沢山来た。
ミョルマイルはというと、手短に話を済ませた後、さっさと席を外した。気の利く男である。
長時間おっさんの顔を見るのはもったいない。(一緒に来ている次郎さんを除く)
あと、次郎さんがミョルマイルに何か頼んでいたけど、おそらく私的な用事なのだろう。俺はノータッチに徹した。
「して、リムル君よ」
「はい?」
「何故こんな所に?」
「あれ?次郎さんってこういうとこ初めてですか?」
「まあの。というか、酒を飲んで目が覚めたらこんな状況じゃ」
「元々ここはそういう店っぽいですよ」
しかし俺も贅沢になったもんだ。
こんなにキレイなお姉ちゃんがいるというのに、どうしてもエルフを求めてしまう。
「......あそこのお嬢さん、耳が長いのう」
「どこですか!?」
「お、おお、あそこの色黒の方じゃよ」
次郎さんの指さした方向には、ドワーフ王国で世話になったダークエルフのお姉さんがいた。
懐かしいな。あの人の占いには助けられた。
あの人がいなかったら、シズさんとの出会いも無かったんだよな......本当に感謝しないと。
挨拶したいけど、この姿じゃ誰かわかんないよな。
っていうかドワーフ王国のエルフの人が何でこんな所に?
「......何かこちらに来たぞい」
「お爺さん、こんばんは」
「おお、こんばんは」
「ちょっと向こうでお話ししません?スライムさん」
あらぁ......