次郎、第二の人生   作:フェンネル

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リーゼントはかっこいい

お姉さんに頼んで精霊の住処を占ってもらった。

その場所は予想通りだった。俺じゃなくてお姉さんの予想だけど。

 

聞くところによると、ウルグレイシアという精霊信仰のさかんな国があり、国民は十歳で精霊と契約する決まりらしい。

所謂契約の儀式をするのだ。

つまり、子供達に上位精霊を宿すってのもあながち突拍子のない話じゃなかったわけだ。

 

お姉さんは占う直前、俺にこう言ってきた。

 

「精霊の住処へ向かって、帰ってきたも者はいないの」

 

必ず帰ってくるという条件付きでお姉さんに占ってもらった。

水晶に映ったのは、木と同化しているような神々しい扉だった。

 

お姉さんが言うに、ウルグレイシアの国民が契約の儀式を行うのは大抵が待ちの中央にある祭壇だという。

そしてその祭壇に上位精霊が現れることは無いのだとか。

上位精霊と契約を結びたいのならば、精霊の住処に行くしかない。

トレイニーさんも魔素を制御するなら上位聖霊でなければダメだと言っていたし、行かない理由はない。

 

「精霊の住処に行くのは、私はおすすめしないわ。でも、それはスライムさんにとって、とても大切なことなんでしょ?だから、どうしても行くのなら見せてあげる。でも、必ず帰ってきて」

 

そういえば、あの後お姉さんが気になること言ってたな。

しかも、結構何かを心配してるみたいだった。

 

「スライムさん、あのお爺さんも精霊の住処に行くのかしら?」

「......俺としては来てくれると心強いかなって。なんで?」

「あのお爺さん、すごく強いでしょ?」

「......まぁ、うん」

 

空泳巨大鮫を一撃で倒して食べてたらしいしな。すごすぎて言葉が出ない。

トライアさんもミリム級って言ってたな。

考えただけで恐ろしい。

 

ミリム級というのは、あくまで魔王級ということかもしれない。まぁ、ミリムくらい強くても、魔王並みに強くてもヤバいけどな。

 

「多分、スライムさんが思ってるよりもずっと強いわよ」

「......マジで?」

「うん、マジで」

 

てことは、そこらの魔王よりも強いってことか?少なくとも、手加減してる時のミリムよりは強そうだな。

いや、ヤバいって。

 

「次郎さんは良い人だから、いたずらに力を振りかざしたりしないと思うよ。お姉さんは何かを心配してるみたいだけど、大丈夫だ」

「そうだと良いけど......」

 

あの言葉が気になったな。次郎さんが今よりもっと強いっていうのは、すごい話だと思うけど......人助けをする次郎さんがそんな悪人みたいなことしないと思いたいな。

 

だが、それよりも気になるのはあれだ。

暴風大妖渦戦の時に見えた狼のようなものは、次郎さんの中に眠る何かなのか......?

 

まぁ、考えても仕方ないか。

 

「さて、下見も終わったことだし帰るか」

 

その日はベスターから教わった「拠点移動」の魔法陣を設置してひとまずイングラシアに戻った。

 

帰ったあと、自由学園の寮にて読書をしていると、部屋のドアがノックされた。

 

「はい......?」

 

人型に戻ってドアを開けると、アリスとクロエが不安そうな眼差しで俺を見ていた。

 

「どうしたんだ、こんな夜中に」

 

なんてこった。まさか人生初の夜這いがされる側で、しかもこんな幼女2人からとは。

 

「先生、私たち......明日も大丈夫......だよね?」

 

「明日も大丈夫か」何が言いたいのかはもちろん分かっている。

 

「明日も生きていられるか」だ。仕方ない。2人はまだ子供だ。元々死ぬために召喚されたようなものだし、大丈夫だと言われても、そう簡単に信用出来ないだろう。

 

「食堂に行こう」

 

まずは安心させるところからだな。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

2人を食堂へ連れて行き、ホットコーヒーを出した。

牛鹿の乳を温めたものに、ヨシダ店長からもらったチョコもどきを溶かして混ぜたものだ。

 

2人はふーふーと覚まして口に入れると、衝撃が走ったように跳ね、コクコクと飲んでいた。不安な夜はホットチョコレートに限るな。

 

ドアの裏に隠れているゲイルとケンヤとリョウタにもホットチョコレートを注いだカップを渡した。

3人とも気に入ってもらえたようで何よりだ。

 

「皆、飲みながら聞いてくれ」

 

そう言うと皆はしっかり俺の方を見てくれる。

 

「明日の課外授業について」

「明日はどこで?」

「ウルグレイシア王国、ウルグ自然公園」

 

ゲイルは突然の言葉に混乱した様子を見せた。そりゃそうだ。俺も初めて聞いたら訳が分からなくなるようなややこしい名前だ。

 

「ウルグ......え?外国ですか?」

「ケンちゃん知ってる?」

「知らね」

 

リョウタは少し関心を示してはいるが、ケンヤは課外授業よりホットチョコレートに夢中だ。少しくらい興味持ってくれても良いだろ。

 

「先生、そこに行って何をするんですか?」

「ああ、精霊の住処だ」

 

さて、明日はこいつらの運命が決まる日だ。

ああ言った手前、必ず成功させて見せる。見ててくれ、シズさん。

 

俺はそう思いながら、子供達を寝かせた後、形見の仮面に思いを馳せた。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

翌日、俺は子供達とランガと共に、精霊の住処と言われる迷宮に足を踏み入れた。

 

特に何事もなく足を進めていると、俺は目の前の人を見て驚いて開いた口が塞がらなかった。

その人は、酒を飲みながらボーッとしており、白髪リーゼントに小柄という、見覚えのありすぎる風体だった。

 

「じ、次郎さん」

「おお、リムル君、待っておったぞ」

 

待ってた?ってことは......俺達がここに来るのを知っていたってことか?

 

「どういうことですか?」

「実は色々あってのう、地獄にいたんじゃ」

「地獄?」

「たしか冥界とも言ったかの」

「すごく軽く言いますね」

「とは言っても、悪魔がいるだけじゃよ」

「俺も少し前に下位悪魔と戦ったことありますけど、あまり強くなかったですよ」

 

とはいえそれは下位の話だ。地獄ともなればもっと強いやつもいるだろう。それを軽く済ませるのは強さ故か、はたまた危機感の無さか。

 

「先生、このお爺さんは?」

「ああ、この人は次郎さん。訳あってたまに行動したりする人だ」

「こんなヨボヨボのじいさんと?」

「ほほ、言ってくれるの」

 

次郎さんはおもむろにノッキングガンというアイテムを出し、自分の体に突き刺した。すると、体は大きくなり、筋肉も膨れ、白髪は黒髪へと変わり、若々しくなった。

 

「すっげぇ!」

「あ、そういえばこのお爺さん前に見た覚えがあります!」

「天空竜からおじさんを助けてくれた人だ」

 

男子達は次郎さんの変化を変身のように捉え、目を輝かせている。

 

「その髪型はどうにかならないの?」

 

クロエは少しかっこいいと思っているのか、キラキラした目で次郎さんを見ている。女の子としては珍しいな。

だが、アリスのような意識の高い女の子となるとリーゼントヘアは気に食わないらしい。

 

「かっこいいじゃろ?」

「ダサいわよ」

 

アリスはいつも正直だな。今回はそれが裏目に出たか。次郎さんはメンタルをやられてる。やれやれ、女は怖いな。

 

「俺はかっこいいと思いますよ」

「私もそう思う」

「......リムル君はええ子じゃのう。黒髪の君も」

「まぁアリスも年頃ですから、しょうがないですよ。あとこの子はクロエです」

 

などとやり取りをしていると、

 

『うふふ......』

『おやおや───』

 

という風にどこからか声が聞こえた。しかも1つや2つじゃない。いいな。いかにも迷宮ぽくて結構好きだ。

 

「聞こえるか?こちらに敵意はない。用が済めばすぐに立ち去る」

 

こちらの話を聞いているのかいないのか、迷宮の中の精霊か妖精が話していると思われる声はずっとからかう様に笑い声を出しており、クスクスと聞こえる。

 

「良ければどこに上位聖霊がいるか教えてもらえないか?」

『あはは、おもしろい』

『いいよ、教えてあげても。ただし───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───試練に打ち勝ったらね』

 

ズズン、と思い足音が聞こえた。頑強そうな外殻を持ち、子供達より何倍も大きなサイズの魔人形が食い気味に俺達を殺そうと攻撃を仕掛けてきた。一撃で地面は割れ、周りにもヒビが入った。

 

初撃は俺と次郎さんで子供達を庇い、何とか怪我をさせずに済んだ。

まぁ初撃を避ければあとはこっちから攻撃するだけだ。

 

粘鋼糸で相手を縛り、体に亀裂を入れ、ベニマルの”黒炎獄”のように黒炎をドーム状に放ち、魔人形を焼き尽くした。

 

『う、うそ!?アタシの精霊の守護巨像がたった一撃で......!?』

「子供達に怪我させたくないんでな」

 

黒炎獄が消え、魔人形は灰になった。これにて一件落着かと思われたが、その後すぐに地面から手のようなものが出てきた。

その手は飛び出してきたアリクイのような姿形をしたロボットの物らしく、地面から出てきた後、体をほぐしていた。

 

『ハァ〜、待チ伏セシテタハ良イガヨ、来タノガコンナガキンチョトハヨ〜......』

 

今この瞬間において相手の情報は少なかったが、一目見て途轍もない殺気がビシビシと伝わってきた。

どうやら、俺達を殺すつもりらしい。

どういうつもりか知らないが、向かってくるなら戦うまでだ。

 

そう思い身構えた瞬間、凄まじい速度で俺の横を何かが通って行った。

 

その後人影と思しきものもロボット目掛けて飛び出して行った。

 

『ハァ〜、今日ハ───ッ!?』

 

途端にロボットの動きが止まる。いや、止められた。

 

『ナ、何───』

 

 

───バゴッ、ブチッ、ベキベキベキッ!!!

 

 

『テ、テメェ......』

「誰にこのロボットを与えられた?」

『シ、知ルカ!!』

「......ふむ」

 

 

───ズンッ!メキッ、バキャッ!!

 

 

気づいた時には、あのロボットは次郎さんの手で粉々にされた。

あまりにも一瞬の出来事だったので俺もよく分からなかったが、『思考加速』と大賢者のお陰で何とか状況について行くことができた。

 

大賢者の解析によると、あの瞬間で次郎さんはノッキングで動きを止め、ロボットの顔を殴って開かないようにさせた後、首を引きちぎったらしい。

あのブチッという音はロボットの線がちぎれた音だったのか。

 

そしてその後、四肢を握り潰して体中のあらゆる場所をへし折ったと。

 

最後に砕いたものは、あのロボットの核と思われる物......らしい。

あれだけ一瞬でロボットを潰した上に、核まで粉々にするなんて......どう考えても次郎さんはあのロボットと戦闘経験があるとしか思えないな。

 

ただ、あの場で子供達でも、大賢者でもなく、俺だけが見た次郎さんの顔は、本気で怒っているようだった。

正直物凄く恐ろしかったし、子供達と一緒にランガと逃げたかった。

 

「じ、次郎さん」

「ん?」

 

でも、ロボットを倒した後に俺達に見せてくる次郎さんの顔は、裏表のない優しい表情をしていた。

 

次郎はロボットを壊した時、どんな気持ちで動いたのか、どんな理由で怒っていたかなど、今の俺には知る由もなかった。

 

「そのロボット、貰っていいですか?」

「構わんが......」

「ありがとうございます」

 

捕食してロボットの”鑑定・解析”を大賢者に頼むと、驚くべきことが判明した。

 

《解。解析した結果、素材はチタン合金です。頭部に大口径のレーザーが搭載されており、開くことで発射可能になります。また、指先から針の様な物を出現させることが出来ます。》

 

「チタン合金だって!?」

「......ん?リムル君、どうかしたかの?」

「......次郎さん、落ち着いて聞いてください」

「あ、ああ」

 

ちょっと息荒過ぎたかな?次郎さんが戸惑ってた。失敬失敬。

ふぅ、深呼吸だ。すーはーすーはー、よし。

 

「次郎さん、チタン合金って知ってますか?」

「そのロボットの素材じゃろ」

「そうです。まさか次郎さんって......異世界人ですか?」

「そうじゃが」

「......やっぱり!」

 

思った通りだ。この世界にチタン合金なんて物があるなんて聞いたことがないし、そもそもリーゼントヘアはこっちの世界の髪型だ!

次郎って名前を聞いて薄々感じてたけど、そんな名前日本人以外には考えられない!

 

「どうしたんじゃ......?まさかリムル君もワシと同じ......」

「はい!刺されて死んでスライムに転生しました。見てくださいこれ!日本人にはバカウケですよ!」

 

シズさんにもユウキ受けたスライムギャグ、とくと見よ!

 

「悪いスライムじゃないよ!」

「......何をやっとるんじゃ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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