渾身のスライムギャグがスベり、俺は傷心の身だった。
だが、教師としてそういう所は子供達に見せないようにせねばと思う。
というかウケるスベるというより、そもそも次郎さんはスライムギャグを知らなかったらしく、前の世界でもゲームというものとも無縁だったらしい。
何と、グルメ時代という食を探求する時代を生きてきたのだとか。
しかも、宇宙が5つ存在し、地球の直径が22万km、しかもそれは人間が暮らす『人間界』という場所だけでらしい。
『人間界』というワードが気になったので聞いてみたが、次郎さんのいた世界では『グルメ界』と『人間界』に分けられているらしく、人間界の大きさは地球の3分の1にも満たないらしい。
その話を聞いて俺は恐らく......いや、確実に俺と次郎さんの前の世界は違うところだと思った。
そもそも、次郎という名前にも関わらず日本を知らないこと。
前の世界での有名な場所を教えてもらったが、全く知らないものばかりだった。
まずはIGO。こんな名前は聞いたことがない。
さらに、ジダル王国にウール大陸、アイスヘルにリーガル高原。
ネルグ街にバロン諸島、洞窟の砂浜にベジタブルスカイ、モルス山脈などなど。
俺の知る場所は1つもなかった。
俺のいた世界ではグルメ時代など無かったし、歴史上存在しなかった。
未来にはあるのかもしれないが、正直信じ難い。
そもそも、占いのお姉さんの水晶に映った七体の獣。あんな化物は俺の世界には存在していない。
だがテレビやマンション、カジノやビル、ヤクザはいるという、何とも奇妙な共通点もある。
この時点で同郷だと思う方が無理というものだ。
その辺の詳しいところは後々じっくり聞くとして......今はあそこに隠れてる奴だな。
「......おい、さっさと姿を現せ」
「隠れとる場所はバレてるぞい」
『はいっ!はいはいはい!恥ずかしながらやって参りました!』
瓦礫の中から出てきたのは金髪の妖精のような羽の生えた女だった。
そいつは次郎さんを見た後、手を伸ばして顔に触れた。
そして優しい笑顔を向け、次郎さんの肩に乗った。
「どうかしたかの?」
「っ、ううん。なんでもないの......ごめんなさい」
そしてすぐに離れて悲しげに目を伏せた。そして、気を取り直して俺の方に向いた。
「我こそは偉大なりゅ───」
そして早々に噛んだ。
舌を押さえて震えてる。いやー、あれは痛いな。
同情する。
「......大丈夫か?」
そう聞くと妖精は問題なさそうに手を振り、茶目っ気のあるポーズをして名乗り出した。
「我こそは偉大なる十大魔王が一柱!”迷宮妖精”のラミリスである!さあ、跪くがいい!」
アリスとクロエは少し興奮した目で見ているが、男子達はUMAを見ているようだった。
俺は正直ハエかと思った。
次郎さんに至っては座ったままランガと話してる。
このラミリスだっけ?が周りの小さい妖精たちに何やらもてはやされてポージングしているのを他所に、ケンヤが捕まえようとしたりしていた。
ゲイルとリョウタが止め、クロエとアリスがそのラミリスを守っている。
っていうか......
「お前が十大魔王の一柱?もっとマシな嘘つけよ」
「はあああーーーーーっ!?何ですってー!?......ああ、はいはい!いるのよねー!よく知らないからとりあえず否定するやつぅー!」
腕を組んでプンプンと怒るラミリス。
「あのな、確かに十大魔王のことはよく知らないけど、友達にいるんだよ。ミリムって魔王が。あいつのデタラメさを見てるとどうもな......」
ラミリスの方をチラッと見ると、あわわわわと震えてこっちを見ていた。
「ミ、ミリムの友達......!?ももももしかしてアンタ、魔国連邦だとかいう国を興したリムルとかいうスライム!?」
ラミリスは有り得ないものを見る目で引きながらこっちを見る。
スライムで悪いか。
「......そうだけど」
その言葉を皮切りに、ラミリスはタガが外れたように叫びまくった。
周りの妖精達に宥められるが、治まる様子はない。
「あああやっぱり!!この前久々に来て友達が出来たとか自慢しやがったから鼻で笑って追い返したのに!!」
キッ、とこちらを睨み、耳に向かって大声を上げてきた。
「ばぁーーか!バカバカバカ!!アンタはバカじゃ───」
ふんっ!
パンと小気味いい音を立ててラミリスはダウンした。
とりあえずその辺に放置しておこう。
「何すんのよ!」
復帰早っ!
「あ、そろそろ時間だな。そうだ、お前もおやつ食うか?」
「......毒とか入ってないでしょうね」
「あっそ、じゃいらないな」
「あぁぁぁ嘘嘘!いるっ、いるからあ!」
5分後。
「ってわけで、アタシとミリムじゃジャンルが全然違うの!」
「でも同じ「魔王」なんだろ」
「そうだけど全っ然違うの!ドラゴンとスライムくらい違う!っていうか魔王全員が力自慢だったらキャラ立たないでしょ!そんなの1人で良いじゃない!」
「わかったわかった。じゃあ君は何に特化した魔王なんだ?」
「知恵と美貌!」
ドヤ顔でそう言ってきた。
そして思いっきり叩こうとしたが空振った。ちっ、すばしっこいヤツめ。
「何すんのよ!」
「いや、ドヤ顔にイラついた」
ドヤ顔も含め、さっきからなんか妙にイラつくんだよな。
《解。個体名ラミリスの「精神支配」に抵抗している影響です。》
「......精神支配?」
「ギクッ!!」
こんにゃろ......そういう事だったのか。
「や、やめまーす......」
舌を出し、目を逸らしながら距離をとるラミリス。そうは問屋が卸さないんだ。
「そもそもお前、魔人形で俺達を殺そうとしてたよな?」
「ちょっとちょっとまだ怒ってんの!?驚かせようとしただけだって!妖精の可愛いイタズラだって!!」
「精霊の住処に行って帰ってきた者はいないって聞いたが?」
「迷子にでもなってんじゃないの?」
遠い異国の出口に放り出してるから、と付け加え軽い調子で言う。
そりゃ戻ってこられないわけだ。
まあ、それはそれでヒドイ話だけどな。
「だいたいねぇ、アタシばかり責められるってひどくない?アンタが壊した魔人形ってアタシの最高傑作だったんですけど!?」
チビ妖精がそーよそーよと野次を飛ばしてくる。
ラミリスに比べて見れば可愛いもんだ。
「あのな、そっちが試練とか言い出して襲ってきたんだろ」
「なにも消し去ることないじゃん!相手の気持ちも考えなさいよね!」
誰が言ってるんだ誰が。こっちの気持ちも考えず魔人形で問答無用で殺そうとしてきたのはどこのラミリスだ。まったく。
「そういえば、あのロボットもお前が?」
「いや、あれは違うわ。どうやら随分前から紛れてたみたい。待ってたって言ってたから、誰かを殺すつもりだったのかもね」
「そうか......」
次郎さんはあのロボットを知ってるようだったし、後で聞いてみようかな。
「そういえば、ラミリスは次郎さんを知ってるみたいだけど......」
「......いや、知らないわよ」
「本当に?」
「しつっこいわね!本当よ!」
「なら信じるけど......」
ラミリスは次郎さんと昔に会ったことがあるんじゃないだろうか。
さっきからチラチラ次郎さんを見てるし、出てきた時すごく驚いてたようにも見えた。でも次郎さんはラミリスのこと知らなさそうだったしな。さっきの一瞬、ラミリスが次郎さんに触れてから俺の方に向き直るまで、ラミリスの顔は泣きそうに見えたんだけどな。
まあ、そんなことないだろうけど。
そのラミリスは地面にへたり込み、あの外殻が手に入ったのはラッキーだのと呟いている。
「なんだ、最高傑作とか言ってる割に外殻はどっかから盗ってきたのか」
「ちょっ......人聞きの悪いこと言わないでくれる!?あれはドワーフ王国の研究所で作られた魔装兵ね試作品だったの!残骸が捨てられてたからアタシが再利用してあげたわけ!」
なるほど。資源ゴミ泥棒か。
それにしても「魔装兵」か。そういえば前にカイジンが言ってたな。
ベスターが項を焦ってポシャった計画もそんな名前だったはず。
......ってことはドワーフの技師ですら失敗した「魔装兵計画」を自己流で完成させたのか。この自称魔王は。
「胴体はいい線いってたけどね、心臓部の精霊魔導核がもーだめだめ。あれの動力は火の精霊が制御してるんだけど、そもそも通常の鋼材じゃ精霊に耐えられないわけよ」
やけに詳しいみたいだし......ひょっとして本当に賢いのか?
ちょこちょこ自慢を挟むのがうっとうしいけど。
「なぁラミリス。そんなすごい君を見込んで頼みがある」
「はぁ?何でアタシがアンタなんかの頼みを───」
ボウッ!
少し黒炎を見せれば、後ろの妖精共々敬礼をしてきた。
「聞いてもいい気がしてきたのであります!」
「いやぁ、助かるよ。あ、もちろんタダとは言わない。協力してくれたら俺が新しい魔人形を用意しよう」
「......聞こうじゃないの」
目に見えてわくわくしている。
フッ、チョロいな。ゼネコン勤務をナメるなよ!!
「それで、何で上位聖霊を求めてるの?」
「ああ、それは───」
とりあえずは子供達について説明しなきゃな。
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一通り説明を終わらせると、ラミリスは子供達をジロジロ見て大変だったね、と労った。
「この子達も苦労してるんだね。勝手に召喚されてあとは死ぬだけってバカみたい」
「そんなわけでどうしても上位聖霊の協力が必要なんだよ。そのために精霊女王に取り次いでもらいたい」
そう言うとラミリスはきょとんとした顔で俺を見た。
そして忘れてたかのように言葉を続ける。
「あれ?言ってなかったっけ?精霊女王ってアタシのことだよ?」
「アタシ?」
「うん、アタシ」
「いやいやいや、子供達の現状話したよな!?そんな冗談言ってる場合じゃないんだけど!?」
「冗談じゃありませーん、本当ですー!」
精霊女王って見た目じゃないだろ!
てか、自分で妖精って言ってたくせに!
「そもそも魔王って設定はどこいったんだよ!欲張ってると信用無くすぞ!?」
「設定じゃありませんー!精霊の女王が堕落して魔王になっちゃったんですー!!」
「堕落!?」
堕落......そう聞くとなんか説得力あるな。自分で言ってていいものなのかとは思うが......堕落してそうだもんな、こいつ......ひとまずは信じるしかないよな。
「わかった。......いや、正直よくわからんけど。とりあえず飲み込むことにする」
「ふふん、よろすぃ!」
「で......?協力してくれる気はあるのか?」
ラミリスが少し離れたかと思ったら、彼女の体が少し光る。
「......精霊女王は聖なる者の導き手。勇者に精霊の加護を授ける役目も担ってるの」
精霊の加護?
「いいよ」
「ん?」
「召喚に協力してあげる」
ラミリスはふわふわと浮かびながら子供達の体を明るく優しい光で照らした。
「せいぜいスゴい精霊を呼び出すといいさ」
......どうやら、本当に精霊女王らしい。
さっきまでの子供みたいな態度とは別に、今はしっかりと役目をこなしているように見える。
「頑張ってね」
この時、ラミリスの姿を見て俺は一瞬、ほんの一瞬だけドキッとした。