次郎、第二の人生   作:フェンネル

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狼と狼

「アカシア」

「どうした?三虎」

 

あの世にて、次郎の様子を見守っているアカシア家は今日も平和だ。

雲の上にてのどかに暮らし、フローゼの料理を毎日食べ、笑顔が溢れている。

 

そんな時、末っ子三虎はある疑問を思い浮かべた。

 

「さっきのラミリスという女は、昔次郎に会ったことがあるような雰囲気だったが......知ってるか?」

「......いや、私は知らないな。フローゼは知っているか?」

「知らないわね......一龍は?」

「知りません」

「私もだ」

 

次郎をも含めた全員が知らないというのもおかしな話である。

アカシア達が知らずとも、次郎だけでも知っていれば納得がいった。

だが、次郎自身もラミリスとは初対面の様子だった。

 

「......三虎」

「兄者、どうした?」

「次郎がワシらの前から消えたのは何時だった?」

「......確か、かなり前だった気がするが......」

「......ああ、数百......もしかすれば数千年前かもしれん」

「食霊として過ごしていれば時間が無限のように感じていたから、それ程意識することは無かったが......」

 

考えれば考えるほど謎は深まるばかり。

 

「そういえば、私達が次郎を見ることが出来るようになったのは、最近だろ」

「そうじゃな」

「そこでどんな力が働いているのかは知らないが、少なくとも邪なものでは無いと私は思う」

「......三虎、お前の今言おうとしていることは、恐らくワシと同じじゃ」

「......ああ。そしてこれは仮説だが───」

 

そんな時、ぐぎゅるるるるる、ごるるるる、と轟音が聞こえた。

一龍と三虎、アカシアまでもが腹を押さえて蹲っている。

 

「ど、どうしたの皆!?」

「は、腹が減った......」

「フローゼ、料理を......」

「い、急いでください......!」

「分かったわ!」

 

急いでキッチンに駆け込むフローゼ。かくして、次郎とラミリスの接点に対する疑問は、3人の空腹により、秒で忘れられたのだった。

フローゼは覚えていたが、まぁいいかと思い、水に流した。

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

「へぶしっ!」

「次郎殿、どうかされましたか?」

「どこかで誰かが噂でもしとるんじゃないか?」

 

ズビーと鼻をすすり、風邪か?などと思う次郎。

隣にはランガがおり、リムルや子供達と少しばかり距離をとっていた。

特に理由はなく、単純に次郎が壁際で休んでいたらランガが来ただけだった。

 

「そういえば、次郎殿」

「ん?」

「あの妖精と面識がある様に見受けられましたが......」

「いや、ワシは覚えとらんよ。ただ、初対面の気がしないんじゃがな......どうにも思い出せんのじゃよ」

「思い出せない、ですか......」

「どうしたものかのう......」

「そういえば、それとは別なのですが、我は次郎殿とお話したかったのです」

「話?」

 

ランガは体のサイズを小さくし、次郎の掌から肩へ、肩から頭へと場所を移し、頭上に落ち着いた。

 

「前々からここに座りたいと思っておりました。ですが、ここは聖域のような気がしてならないので、降ります」

 

ぶるりと身を震わせて飛び降りるランガ。次郎としては別に構わなかったが、特に乗せる理由も無いので流した。

そしてランガは元の少し大きいサイズに戻り、次郎に少し真面目な雰囲気で話しかけた。

 

「リムル様からも聞いているかと思われますが、我らの国では次郎殿を受け入れようという話が出ています」

「ほう、それはそれは」

 

初耳の情報にへっへっと笑う次郎。

 

「理由としては、主に3つ。

1つ、リムル様がいない際、あなたに緊急時に指揮を執って頂きたい。

2つ、トレイニー殿が次郎殿に会いたがっており、日に日にその感情は増しているようです。こちらも少し冷や冷やしています」

 

ミョルマイルと同じく、ランガは若干トラウマを負っている様子だった。

一体トレイニーが何をしたというのか。次郎は想像しないようにした。

 

「そして3つ、単純に魔国連邦の者達は次郎様に会いたいと言っていました。

関わった時間こそ短くとも、あなたの人間性やその優しさは皆を惹きつけるは充分です。特に、鬼人の者は何故か次郎殿をとても慕っています」

 

ランガが言うに、暴風大妖渦の件が解決した後、しばらく魔国連邦は復興に時間を費やしており、その時次郎が来た際に手を貸してくれたことや、警備隊に少しだけ訓練したこと、狩りの部隊に食への感謝を教えたこと、それら全ての行動は、次郎が皆に慕われるには充分だったらしい。

 

理由を述べ終えたランガは、次郎からの返答を待つ。

次郎はいまいち納得しきれていない様子だった。

 

「関わった時間か......ワシはトレイニーが凄まじく推すから行った、いわば旅行なんじゃがな......それに、おぬしらが思う程ワシは出来た人間ではないし、とても指揮を執る器にはなれんよ」

「......そうですか。ひとまず、この話はここまでにします。ですが、気が変わった場合はこのランガにいち早く報告を!」

「気が変わったらの。というか、リムル君の許可は得とるのか?」

「ご心配なく。この提案をされたのは誰あろうリムル様ですので!」

 

リムルとしては、次郎と敵対するのを避けたかったので体のいい理由を作っただけなのだが、魔国連邦の面々の反応が想像以上に好意的だった為、その理由で押し切った、というのが事の顛末である。

 

「リムル君も物好きじゃのう」

「ですが、我らはそんな所に惹かれました!」

 

どさくさに紛れて惚気け出すランガの様子を見て、リムルは本当に好かれているのだなと次郎は思った。

 

「そうだ、次郎殿にお聞きしたいことがあるんでした」

「聞きたいこと?」

「先程申しましたが、鬼人の者達をご存知ですか?」

「確か......ベニマル君にシュナちゃん、シオンさんとソウエイ君、クロベエとハクロウ......じゃったか?」

「ええ、そうです。その者達は、次郎殿が暴風大妖渦と合間見えた際、こんなことを言っていました」

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

「ランガ......あの方は......?」

 

次郎殿が魔国連邦へ来た時、一番最初に反応を示したのはシオンでした。

最初は見間違いかと思ったのか、何度も目を凝らして見ていました。

そして見間違いでないと気づいた時、涙を流していました。

 

「良かったっ......生きて......いたのですね......!」

「......どうかしたのか?」

「......いえ、何でも......ありませっ......!」

 

空泳巨大鮫を倒した後、我らはリムル様と暴風大妖渦の一騎打ちを見守っていたので、偶然近くにベニマル達も集まっていました。

 

クロベエ殿はあの時いなかったので知らなかったと思われますが、ベニマルとソウエイは無反応のように思えました。

ですが、よく見ると口角が僅かに上がっていました。

 

「信じられん......まさかあの人が......」

「あの状況からよく逃れられたな......流石だ」

 

シュナは袖で口を押さえ、シオンと同じく涙ながらに嬉しんでいました。

 

「次郎様......!」

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

「といったことがあったのですが、次郎殿は鬼人、ひいては大鬼族と面識があったのですか?仮にあったとして、それ程の力をお持ちなら豚頭族に遅れを取るとはとても......」

「確か、ベニマル君達以外の大鬼族は豚頭族に蹂躙されたと聞いたが......」

「ええ。それは豚頭帝が軍を率いたのが大きいかと。そして、その豚頭帝はゲルミュッドという魔人が名付けしたもので誕生したと思われます」

「......ワシは、ベニマル君達とはトレイニーと初めて魔国連邦に行った時が初対面だったと思うぞ」

「そうですか......」

「......妙じゃな」

 

次郎は考える。

ラミリスといい、ランガが言ったベニマル含め鬼人勢。

自分の記憶が正しければ初対面のはずなのに、ラミリスは遠い昔に、ランガによれば鬼人達は最近に会ったような態度を見せている。

 

「ワシが出会った記憶はないのに、向こうにはある......一体どう言うことじゃ?」

「確かに......」

「ワシがこの世界に来てすぐに会ったのはあの魚じゃ。大鬼族の里や豚頭族など知らん」

「暴風大妖渦です」

「だが、ベニマル君達の里が壊されたのは魚が来るより随分前と聞いたが......」

「暴風大妖渦です。ええ、我の記憶が正しければ、大鬼族の里が壊された後、リムル様から名を貰い、豚頭族の軍勢と戦いました。そしてその件が終わり、平和な日々を過ごしている時に暴風大妖渦は来ました」

「ということは、ワシとベニマル君達には時系列の食い違いがあるの」

 

話に聞いた限りでの鬼人達の時系列

 

里が壊滅させられる→リムルに出会う→名を貰う→豚頭族の軍勢と戦う→その件が終わる→暴風大妖渦襲来

 

次郎の時系列

 

アカシアに殺される→トリコ達の結婚式出席→食霊として過ごす→気づいた時には異世界→トレイニーと出会う→暴風大妖渦と対峙

 

「といった感じかの」

「......先程は聞き流しましたが、次郎殿は異世界から......」

「まあ色々あっての」

 

次郎は、自分とは鬼人達の主であるリムルも暴風大妖渦の時に自分と初対面であることも含め、里が壊滅してからリムルに出会うまでの間に自分と出会ったことになると推測を立てた。

 

この際自分が鬼人達に会った記憶が無いのは除外して考える。

 

「たしか、あの状況から逃れられたと言っていました」

「あの状況......」

「恐らく、死を覚悟するような状況でしょう。ベニマルは信じられないと言っていましたし、シオンも生きていたことに驚いていました。生きていることを知っていたら、あのような反応にはならないはず」

「......ふむ。だが、ワシがこの世界に来た時間とはどうも噛み合わん......」

 

追求すればする程、結論は絞られていく。

次郎は、最初にその結論が浮かんだ時、有り得なさすぎる、突拍子もなさすぎると候補から消し去った。

 

だが、段々とその結論なのではないかと思い始めてきた。

いや、そうとしか思えないほど、この謎と結論は辻褄があっていた。

 

「ランガ君」

「はい?」

「こう考えるのはどうじゃろう?ワシが───」

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

「あ、ラミリス」

「ん?」

「子供達はまだおやつ食べてるから、ちょっと待ってくれ」

「......アンタね、これから召喚する流れだったでしょうが!」

「いやあ、俺としてもこのお菓子が美味しくてついな」

「まったく、召喚させないでやろうかしら......」

「次郎さんと話してきたらどうだ?」

「......初対面の人間に何でわざわざ話しかけなきゃなんないのよ」

 

今露骨に間が空いたな。やっぱりこいつ、次郎さんのこと気になってるだろ。

 

「リムル君、少しいいかの?」

「あ、はい?」

「少しこの子を借りたいんじゃが」

「うぇ!?アタシ!?」

 

次郎さんはそう言ってラミリスを摘み、離れていった。

さて、俺達はもう少しお菓子食べとくか。

 

「ランガも一緒にどうだ?」

「喜んで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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