次郎が美食屋として活動を始めた同時刻、魔国連邦にて主、リムル=テンペストは目の間の女、トライアからある話を聞いた。
「異常事態?」
「はい......」
「......で、何が異常事態なんだ?」
「実は、先程トレイニーから報告が入りました。暴風大妖渦が引き連れる空泳巨大鮫の1匹が、謎の男によって殺されたと」
「......それは、敵を減らしてくれたからラッキーじゃ......」
「問題はその方法なのです、リムル様。その男は、地面から空泳巨大鮫の頭に飛び乗ったそうです。空泳巨大鮫は少なからず上空にいるというのに......」
「へえー、すごい奴もいるもんだな」
「さらに、空泳巨大鮫の頭に拳を突き刺し、一瞬にして意識を刈り取ったのです」
「えぇ......」
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俺ことリムル=テンペストは、これから暴風大妖渦と一戦始めようかという時に、トライアから驚くべき事実を告げられた。
「その空泳巨大鮫っていうのは、強いのか?」
「......暴風大妖渦に比べれば、やはり劣るかと思われます。ですが、一撃で殺すというのは、殆ど無理なのです。恐らく、リムル様の秘書の方でも......」
シオンでも無理か......ウチでは1番力が強いと思うんだけどな......。
「それこそ、ミリム様クラスでなければ......」
えっ、マジで!?それは流石にヤバくね?
「確か拳を突き刺したって言ってたよな......ってことは、そいつは素手で空泳巨大鮫を殺したのか?」
「......そういう事になります」
......ってことは、少なくとも素手でミリムと互角なのか......?そんな奴がウチに牙を向けてきたらと思うと......うう、胃が痛い......。
「そして、その者なら暴風大妖渦を倒せると踏んだトレイニーは、今交渉中にございます」
頼むぞトレイニーさん!ここで共闘してそこから仲を深めたい!!
ミリムクラスがもう1人とか完全に無理ゲーだよ!
と、俺は最大級の祈りをトレイニーさんに込めたのだった。
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「......で、ワシにその暴風大妖渦とかいう魚を倒せ、ということで間違いないかの?」
「......はい、お願い出来ないでしょうか......?」
トレイニーは、次郎に賭けていた。この男ならば被害を抑えた上で、暴風大妖渦を倒すことができると。
「その暴風大妖渦というのは、おぬしらから何か恨みを買ったのか?」
「......そういう訳ではございません。ただ、暴風大妖渦が暴れ出せば、ここら一帯の生物が全て殺されます......」
「......それは無益な殺生か?その暴風大妖渦が殺した動物達を食うのか?」
「......暴風大妖渦は、ただ本能のままに殺戮と再生を繰り返します......」
この言葉に次郎は反応した。
そして何かを決断したようにトレイニーを見る。
「......トレイニー、だったかの?」
「はい......?」
「その暴風大妖渦というのはどこじゃ?案内を頼みたいんじゃが」
「......ありがとうございます......!では、私の手に触れてください」
「ああ」
トレイニーは瞬時にその場から消えた。
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暴風大妖渦との戦闘が始まってからしばらくした頃、ガゼル王からの援軍が来たことで、魔国連邦の戦力は十分以上だった。
だが、あまりにも早い再生と、鱗の攻撃のせいで迂闊に手が出せない。
そんな中、トレイニーさんが来た。
「皆様、お待たせしました!」
彼女の後ろにいるのは、黒髪リーゼントの男だった。
結構ムキムキで、正直ビックリした。
大賢者、解析頼めるか?
《解。解析した結果、相手に魔素は含まれていません》
マジで?
《解。マジです》
うわぁ......やばっ。
「それでは次郎様、お願いします」
「おお。凄まじい被害じゃの」
お、どうやら戦うらしい。情報収集しないとな。
次郎と呼ばれた男は、暴風大妖渦の前までジャンプして飛び乗ったと思えば、一瞬触れて、すぐに引き返してきた。
「......お」
......目が合った。向かってくる。
何だ何だ!?
「”ミリム”という名に聞き覚えはないかのう?」
ミリム?ミリムって......。
「ミリムなら、俺の後ろにいる奴のことだよ。何でだ?」
「いや、あの魚がミリムと言っているんじゃ」
「ワタシを?何で......ん?そういえばこの感じ、覚えがあるな。確かフォビオとかいう魔人なのだ」
てことは......もしかしなくても俺達は関係ないのでは!?
「......ミリム」
「ん?」
「......あれ、やっつけて良いぞ。お前の客だからな」
「......!うむ!」
「ただし、フォビオの体は残してくれ」
ミリムは笑顔で暴風大妖渦の方へと向かっていく。フォビオには後で色々聞きたいからフォビオが死なない程度にやって欲しい。
ただ、それでも心配になる。
ミリムというのは、結構力加減がバカなのだ。
「ワタシも最近、手加減というものを学んだからな!」
......それが本当に手加減と呼べるレベルなのかどうかはさておき、ミリムも学習しているようで何よりだ。
とはいえ、次郎って爺さんの力が見れないのは残念だが、またの機会を狙おう。
ミリムは某戦闘民族漫画のキャラが使いそうなえげつない技で暴風大妖渦をぶっ飛ばした。暴風大妖渦から煙が出た後、爆発した。
その時、煙の中から何かが地面に落下してきた。
......あれって、フォビオじゃね?
《解。対象の魔素を確認した結果、個体名:フォビオである確率、100%》
マジかよ......ミリムナイス!!......やべっ、とりあえず捕まえねぇと!
「まったく、この若造があんなことをしでかしたのか」
「っ!?」
俺が気づいた時には、フォビオは次郎が担いでいた。
速過ぎるだろ......。
まったく見えなかった......どうりでミリムと同格扱いされる訳だ。
「そこのお嬢さん、これが必要かの?」
「あ、ああ......ありがとう」
「ほんじゃ、ワシは帰ろうかの。トレイニーさん」
「わかりました。トライア、帰りますよ」
「はい」
「ではリムル様、また」
「またな、トレイニーさん。あんたもまたな」
「ああ、お嬢さんものう」
トレイニーさんと一緒に消えた次郎を見送った後、俺はその場にへたり込んだ。
この後色々やることがある。けど次郎と相対して分かった。俺じゃ絶対勝てない。
成長すれば話は別だが、ミリムと同格というのはあながち間違いでは無いらしい。
さらに、錯覚であれば良いと何度思ったか分からないが、次郎の中に獣を見た。それはまるで、狼の様な。