暴風大妖渦を倒してから、次郎らトレイニーとよく絡むようになった。
絡むと言っても、トレイニーが次郎に魔物の討伐や捕獲を依頼しているだけである。
「トレイニーや」
「はい?」
「ワシによく依頼するが、そのほとんどはおぬし1人でもこなせるのではないか?」
「......たしかに、私1人でこなすことは容易ですが、樹妖精というのは結構忙しいんですよ?」
「いや、ワシに言われても......」
「......それなら、報酬を増やしましょうか?」
「いや別に───」
次郎自身、別にトレイニーからの依頼が気に食わない訳では無い。何なら満足している。害になるものを討伐でき、それを食せるのなら、次郎にとっては十分だった。
だが、何を勘違いしたのか、トレイニーは自分の依頼における報酬が次郎にとっては不満だと思ってしまい、他の報酬を考える。
そもそも、報酬というのが殺した魔物を自由にしていいというもので、別にトレイニーが直接何かをしなければならないという訳でもなかった。
「大丈夫ですよ?大方の要望なら応えられますが」
「ワシは食べるために殺してるんじゃ。それは生物としての本能。トレイニーが恩を感じる必要は無いんじゃ」
「でも……」
心做しか不安な表情をするトレイニー。
「というか、ワシの方が感謝しとるぞ?」
「え?」
「だって魔物を見つけることでそこら一帯を守れて、ワシも腹を満たせる自分から食料を探しに行く必要が無いからの」
「......そうですか。ならば、私は何も言いません。これからも、よろしくお願いしますね?」
トレイニーは笑いながらそう言った。
「ああ、任せい!ところで......」
「はい?」
「あのお嬢さんは元気かのう?」
「......ああ、リムル様ですね。変わらずお元気です」
「そうか、なら良かったわい」
「急にどうしたんです?」
「......いや、あのお嬢さんの中に、蜥蜴の気配を感じての」
「蜥蜴、ですか」
「結構強い奴だったな。まだ出てくるとは思えんが、いざという時は止めようかと思っての」
「その時は、私も」
「おお、頼もしいわい」
と、次郎はふと立ち上がって周りを見る。
トレイニーがどうしたのかと声をかければ、少し猛獣達を静めてくると言ってとてつもない速度で走って行った。
「猛獣?......っ!?これは......!」
瞬間、トレイニーは全身で獣の殺気を感じた。
その気配は離れているにも関わらず、全身が震えてしまう程濃密だった。
「はぁ......はぁ......次郎さん、大丈夫でしょうか......」
次郎を探してトレイニーは消えた。
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「......ふむ、なるほど」
次郎が駆けつけた時、そこは既に荒野と化していた。
木々はなぎ倒され、生物の気配が目の前の獣以外に1つもない。
その獣の様子を少し見てみれば、原因はすぐに分かった。
「ギャアアアアアッ!!!」
「少し落ち着け」
「ギャッ......!!」
次郎は、その獣の四肢にノッキングガンを撃ち込む。
すると、獣は動きを止めた。
そして座り込む。
「どれどれ......これか......ほっ!」
次郎は彼の体に刺さった「針のようなもの」を抜き取る。
抜く途中に獣が吠えかけたが、次郎が諭して何とか声を抑えた。
「......ワシはこういった傷口の治療は出来ん。あとはおぬしに頼もうかの、トレイニー」
「......気づいていましたか」
木の陰から出てきたトレイニー。
獣の傷口を治療した後、野生へと返した。
獣は次郎トレイニーを、じっと見つめ、大きく雄叫びを上げた。
まるで礼を言っているように。
「もしかしたら、と思って見に来ましたが、やはり心配は無用だったようですね」
「まあ、静めると言っても、原因が原因だからの。闘わず済んだのはワシとしても楽じゃ」
「......それにしても、手際が良かったですね」
「まあ、ノッキングマスターの名は伊達じゃないってことじゃよ」
「ノッキング......マスター?」
「ああ、ノッキングというのは───」
次郎の話を一通り聞き、トレイニーはなるほどと深く頷いた。
「動きを止めるのは、そのノッキングという技術を使っていたんですか......そのノッキングガンというアイテム......凄いですね」
「まあ、やろうと思えば指でも出来るがの」
「......凄いとしか言えません」
「おぬしらも魔法が使えるじゃろ」
「でも、ノッキングを使えるのは次郎さんくらいですよ?」
「そうなのか?」
「はい。少なくとも私はそうだと思います」
「ワシのいた世界にはありふれてたけどのう」
「......次郎さんのいた世界?それはこの世界では?」
トレイニーが首を傾げて次郎を見る。
次郎は何と説明すれば良いのか考え、出来るだけ簡潔に説明する。
「ワシは死んだと思った時、別の世界にいた。そしてそこからここに移動したんじゃ」
「......別の世界?」
「何か地獄とかいう感じだったかの?悪魔が沢山いたが......」
「......悪魔って......まさか......」
トレイニーは胃が痛いと言いつつも、次郎をジト目で見る。
「ん?何か知っとるのか?」
「......コホン、良いですか?
この世界において、悪魔という種族は戦闘にとても特化した種族なのです。
ですが悪魔にも階級があります。
1番下の下位悪魔。
そこから上に上位悪魔。
そしてその上にいるのが国を滅ぼすレベルと言われている上位魔将なのです」
「物知りじゃの」
「それはどうもっ!そんなことより、悪魔が沢山いる所ってそこ冥界ですよ!何考えてるんですか!?」
次郎の肩を掴んで揺さぶろうとするも、ビクともしないので手を離した。
「気づいた時にはいたんじゃ。考えても無駄じゃないかの?」
「......次郎さんだからこそ言えることでしょうね」
「ワッハッハ!」
「笑って誤魔化してもダメですよっ!」
「ハーっハッハッハ!!」
次郎の笑い声は、とても大きく響いていた。
そしてその声はトレイニーの声をかき消し、無理やり誤魔化していた。
トレイニーが次郎の口を塞ごうとしたが、身長差があったので不可能に終わったりしていた。
トレイニーがぴょんぴょん跳ねていたが、服の都合上全く飛べなかった。