「さて、ああは言ったものの......ここにはあまり美味そうな生物はいなさそうじゃの」
ジュラの大森林から抜け出したは良いものの、周りを見る限り食べられそうな生物はいない。
やはりグルメ時代に生きていない者故だろうか。
食用ではない生物というものも案外いるものである。
「随分と大きな蟻じゃの」
目の前の体高10mはあろうかという蟻をノッキングし、散策を続ける次郎。
だが、周りには肉食の動物というよりも、虫系統の魔物が多かった。
「トレイニーは虫とか食うかのう?アゲハコウモリ位美味ければ良いか......」
などと呟きながら美味そうな魔物を探し続けるが、中々見つからない。
魔物自体はよく見つかるが、食べられるとしても美味か分からないので、次郎が試しに食ったりしていた。
その殆どが食用と言うには無理のある味で、言ってしまえば不味かった。
それもそのはず、次郎が見つける魔物は全て虫系統なのだから。
「サソリゴキブリもビックリじゃ......遠出しようかのう」
ふと思いついたこの案。
そして次郎はある美食屋を思い出した。
《思い立ったが吉日だ》
「......よし、ひとまずこの森を離れるべきか」
ジュラの大森林から抜け出したとは言うものの、それはあくまで”離れた”というだけ。魔物がうじゃうじゃいるその場に、普通の動物が寄り付くはずもなかった。
「根本的に間違っていたか......こういう時、”食運”が欲しいのう......」
グルメ界に行けばそういった猛獣が溢れんばかりにいるので、言ってしまえば食い放題なのである。
だが魔物が中心として生きるこの世界。
主なエネルギーは食事によるものではななく、魔物の体を作る”魔素”というものだった。
仮に食すことが出来たとしても、美味とは言えない味なのだ。
「ふむ......もっと遠くか。魔物が極力いない所を目指していこうかの」
どんどんと足を進める次郎。
だが、心做しかジュラの大森林を離れれば離れるほど魔物が多く、強くなっているように感じる。
「どういうことじゃ?」
とりあえず思い切り飛び上がって辺りを上から見下ろす。
すると、一部凍っている場所があった。
次郎はそこで何かを掴めると踏んだ。
「......行ってみようか」
《誰だお前?》
すると、脳内に直接語り掛けてくる声があった。
「おぬし、あそこの主だな?」
《ああ。よく分かったじゃねぇか》
男とも女とも取れるその声の主は、次郎の脳内に情報を送り込む。
「どういうことじゃ?おぬしに会いにいけということか?」
《ああ、ちょっと会って話をしようぜ?》
「構わんが......手短に頼むぞい」
《ああ》
会話が終わり、次郎は送られた情報を頼りに相手のいる場所へと向かう。
途中、行き止まりがあったが、壁を破壊して進んで行った。
そして、その壁がまた塞がったことを、次郎は知らなかった。
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──氷土の大陸/白氷宮──
その玉座に座る1人の男と、隣に立つ女。
「ねぇ、ギィ」
「何だ?ヴェルザード」
会話の相手は、魔王ギィ・クリムゾン。
最強最古の魔王である。
赤い長髪、男とも女とも見て取れるその容姿に、妖しい色気すら感じてしまう。
その魔王に話しかけた深海色の瞳に長い白髪の女は、世界に4種のみ存在する竜種が一体、氷を司る竜種。
”白氷竜”ヴェルザード。
今は人間の姿でいるが、竜の姿になればたちまち恐ろしい強さを発揮する。
魔物としての危険度が最大級の”天災級”なので、正直人間態だろうが竜の姿だろうがすごく強いのである。
「何故急にあんな男を呼び出したの?」
「お前には分かんねぇか?」
首を傾げるヴェルザード。
ギィははっ、と笑って教えた。
「あいつ、強いぞ」
「......それだけ?」
「いや?あいつから、知ってる奴の気配がしてな」
「......随分と索敵範囲の広いこと」
「褒めるな褒めるな」
「......ええ」
と言った感じで会話しているが、ヴェルザードはギィの規格外さに正直引いていた。
それと同時に、次郎に嫉妬していた。
(ギィに興味を持たれるなんて......)
その時、壁が大きく吹っ飛んで行った。
その壁は2人の目の前で砕け、その奥の穴から白髪リーゼントのファンキーな爺さんが出てきた。
「お、ここかのう?」
次郎は、ノッキングで自分の体を最小限に抑えていた。
何故か。目の前の相手に喧嘩を売られたら面倒だからである。
「よう」
「その声......おぬしか」
「ああ。まあ座れよ」
「......いや、すぐに帰るから大丈夫じゃよ」
「俺が座れと言っている。座れ」
ギィが覇気を出しながら告げるも、次郎はその覇気をものともせず腰を押えたまま立っていた。
「いやいや、お構いなく」
軽い調子で言う次郎だが、これは結構大変な事だった。
(......ほう)
(彼、結構やるわね)
2人は覇気を出しても倒れないところを見て次郎の強さを測る。
だが、それと同時にある疑問も浮かび上がる。
そんな存在を何故、自分達は今まで認知していなかったのか。
その疑問は次郎のすぐに消え去った。
次郎に対する興味の前には、そんなことは些事だった。
「早速だが本題に入ろう。お前、何者だ?」
「何じゃ急に」
「とぼけるな。お前の周りからあいつらの気配がする」
「あいつら?」
「紫、黄、白を知ってるだろ」
この言葉に次郎はああ、と頷いた。
「懐かしいな。3人とも元気にしてるかのう?」
「では質問だ。何故あいつらを知ってる?」
「?地獄だったか冥界だったかで会ったんじゃよ」
「......お前、悪魔か?」
「いや、人間じゃが?」
「そうか......」
ギィは考え込む。その様子を見かねたヴェルザードが『思念伝達』で声をかける。
《ギィ、何をそんなに考え込んでいたの?》
《......冥界は俺達悪魔の住処だ。あそこには悪魔しかいねぇ。逆に言えばそれ以外の生物が住めねぇってことだ。だが、目の前のこの男は人間なのに冥界にいた》
《ええ、そうね。それがどうかしたの?》
《召喚されたと言っていないことから、それ以外の方法で脱出したってことになる。それに紫、黄、白を知ってるってことはあいつらに殺されなかったってことになる》
《彼の方が強かったんじゃない?貴方も言ってたでしょう?》
ギィはそうかもな、と返した。
《だが、あいつらは腐っても原初だ。人間に負けることはないだろう。死なないにしても、人間があの3人と会って無事で住むとも思えない。
なのにこいつは”懐かしい”と言ったんだ。表情に恐怖は見られない......好感触だったのか......あのバカ3人組が......?》
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──冥界──
「へくちっ!」
「くしゅっ!」
「っ......んっ!」
噂の悪魔3人娘達は同時にくしゃみをした。
「何だ?3人一緒とは珍しいな」
「......なんか無性にイラッとしたんだけど......」
「......心做しかバカにされてる気が......」
あながち間違っていなかったりする。
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ギィは話せば話すほど疑問が増えるので言葉を無理やり終えた。
そしてヴェルザードはギィの言葉を整理してまとめる。
《要するに、彼は危険ってこと?》
《......そうかもしれねぇな。だが、それよりもイレギュラー、異常だ》
《あら、あなたが言うの?》
《......うるせ》
《ふふっ、ごめんなさい》
などと軽口を叩きながらも次郎からは目を離さない。
「とりあえず、お前の詳しい話についてはまた後日聞く。今日は少し会いたかっただけだ」
「ほお」
「じゃあな」
「ああ。また会う時は酒でも飲もうぞ」
「おう」
そして次郎は去り際に2人の方を向く。
「お二人さん、名前は?ワシは次郎というんじゃが......」
「ギィ・クリムゾンだ」
「ヴェルザードよ。よろしくね、次郎さん」
「おお......それじゃあの」
次郎は大きく空いている穴から飛び降りた。
その間に体を元に戻して動きやすいようにした。
そして降りた時、あることを思い出した。
「......トレイニーに食わせるものを探さねば。忘れとったわい」
氷土の大陸とは別の場所を目指して、次郎は思い切り飛んだ。