鬼ごっこが終わり、フローゼを何とか3人で宥め、アカシアの土下座でこの1件は解決した。
そしてしばらく5人で話していた。
「そういや、何で急にこんな所に?」
「......ああ、お前に絶対に話さなければならない事があってな」
「話さなければならない事?」
「ああ。ここから先は一龍と三虎から聞いてくれ。フローゼ、行くぞ」
「......うん」
アカシアとフローゼが立ち上がり、二狼を優しく見た。
その目はまるで、”別れ”を惜しんでいるようだった。
だが、今の次郎にアカシアとフローゼの心情は分からなかった。
「......元気でな、二狼」
「......また、皆でご飯食べようね!」
アカシアとフローゼが去った後、一龍、二狼、三虎の3人だけがそこに残った。
「......で、話ってなんだ?」
「......お前は、”異世界”というものを信じるか?」
「オメーの口からそんな単語が出るとは思わなかったな」
「真面目に聞け」
二狼は一龍と三虎の2人から”異世界”というものについて聞く。
「異世界ってのは、人間界とグルメ界とは違うのか?」
「あれは同じ地球の中にあるだろ?俺達は簡単に行き来出来ただろ?」
「ああ」
「だが、異世界ともなると地球どうこうの話じゃなくなるんだ。今兄者が言った通り、オレ達の知る地球には人間界とグルメ界、この2つがある。
だが、今言った異世界というのは、地球も、生命も、宇宙も、何もかもが全て違う場所のことを言うんだ」
三虎の説明に自分のいた世界について納得した二狼。
彼自身、元々の世界と違う場所にいることは気づいていた。
「......なるほどな。だからあの世界にはあまり俺の知っている猛獣はいなかったのか......」
「気づいてたんだろ?」
「もしかしたら、とは思ってたけどな」
「それでな、二狼は元いた世界で死んで、結婚式の後、恐らく向こうの世界に行った。それで間違いないな?」
「おう」
「何故お前が向こうの世界に行ったかは分からないが、本来「別の世界からその世界に来る」ということは、イレギュラーの侵入を意味するんだ」
「俺がイレギュラーってか?」
三虎の表情に少し影が差した。
一龍も三虎の気持ちを汲み取り、俯く。
「そうかもしれない。ただ、広大な世界の中に1つなら問題はなかった。だが、あの世界自体が異世界から来る人間が多いんだ」
「確か......”異世界人”って呼ばれてるらしいぜ」
トレイニーから聞いたのだが、実際二狼はよく分かっていなかった。
だが三虎の話により、今は大体理解していた。
「そしてお前があの世界に行ったところで、どれだけ強かろうと膨大な数の”異世界人”の中ではその他大勢にしかならない」
「おう」
「そして、それだけ異世界人が多い世界だ。”俺達の世界”から来たのは”お前だけでは無い”のかもしれない」
この言葉に二狼はハッ、と何かを勘づいた様子になる。
そしてその予想は当たることとなる。
「......まさか」
「つまりだ、お前以外にも”別の何か”があの世界に行っていると考えても良いだろう」
「一龍」
「ん?」
「その何かってのは、ニトロとかじゃねぇよな?」
問うと共に、そう願う二狼。彼自身、戦う分には問題無いが、いない方が良いに決まっている。
だが、一龍としても何とも言えない。
「......分からない」
「......そうか」
「二狼」
「ん?」
「ニトロでなくとも、危険であることは間違いない。......気合い入れろよ」
「......わーったよ。三虎」
「何だ?」
「お前ら、”そろそろ”だろ?」
「......気づいていたか」
一龍と三虎は、体が消えかかっていた。
「......アカシア様とフローゼ様の2人も......」
何故なら、今は食霊としてではなく、生きている人間として話をしている。
だが、2人は本来死んでいる身。存在してはならない。二狼は別の世界とはいえ、生きて肉体を手にしている。故に体は消えない。
言ってしまえば、2人は魂で肉体を作り、二狼と話していた。
そしてそれはアカシアとフローゼも同じであり、二狼にその事を知られない為に足早に去ったのだ。
「......あの2人は、俺達よりずっと前から待っててくれたんだ」
「......ああ」
「......そうだな」
「......お前らもだろ?」
「......さあな」
「......フン」
既に2人は、体がほとんど消えていた。
一龍は肩から上までしかなく、
三虎は腕から上までしかなかった。
そしてどんどん消えていく。
生存者から、食霊に戻ろうとしているのだ。
一龍は元から決まっていた事実に乾いた笑い声を零した。
「......時間か。二狼」
「何だ?」
「死ぬなよ」
「あったりめーだ」
二狼は拳を強く握る。
守りたいものを絶対に助けるという意志を込めて。
「......フッ。またな、二狼」
「......ああ。またな、”兄貴”」
一龍が食霊としてその場から消え、残った光が昇っていく。おそらくアカシアとフローゼの元へ戻ったのだろう。
そして、その場に二狼と三虎だけが残った。
「......二狼」
「お、三虎も別れの挨拶か?」
「......精々余生を謳歌しとけよ」
「るせー!見た目は若いだろうが!」
「ハハハハ!語尾に「じゃ」を付けておいてよく言うな!」
「今は付けてねーだろ!」
「俺達と接しているからか?」
「ああ。それに見た目も昔に戻ってるしな。つられたんだよ」
「そうか。......楽しかったぞ、また会えて」
この言葉に、二狼は照れくさそうに頭をかく。
一龍には明るく接しようとも、自分には基本的に喧嘩腰だったのだ。
そして2人でよくふざけ倒したりもした。
故に、あまりにも唐突な不意打ちだった。
二狼は、ぶっきらぼうに目を逸らして短く言った。
「......ありがとよ」
この言葉に三虎は少し口角を上げた。
「......死んだら、また5人で一緒に飯を食おう。節乃も入れるか?」
「縁起でもねーこと言うな!さっきからちょくちょく失礼だなお前!」
「......だが、今に始まったことでもないだろ?」
「......まあな。そういや、食霊になったらまた、4人で集まってるのか?」
「......ああ。お前の世界の様子を見て楽しんでるぞ?」
さすがに想定外な発言に、二狼は一瞬固まった。
そかて若干くたびれながらボソリと呟いた。
「......マジかよ」
「ああ、お前がトレイニーという女を泣かした時、フローゼが怒っていたぞ」
「......またフローゼ様に会ったら土下座しとこ」
「まあ、その後に「仲直りしたなら大丈夫」と言っていたがな」
「お前......俺の緊張を返せ!」
などと軽いやり取りをしている間に、そろそろ三虎も完全に消えようとしていた。
「......じゃあな、三虎」
「......ああ。生きろよ、”兄者”」
三虎も消え、その光が上へ上へと昇っていき、一龍と同じ場所へ向かっていった。
「......いつか、5人で......」
次郎が三虎達の光を見ていると、何かが落ちてきた。
それを見て二狼は目を見開いた。
「こいつは......」
《ささやかな贈り物だ。デロウスから貰ってきた》
「誰だ......?っまさか......!」
《お前に託しているぞ、二狼》
それきり謎の声は聞こえなくなった。
そして、二狼はその贈り物をしまい、最後の挨拶を口にした。
「......またな、皆」