アーマード・コア ~The answer of infinity~ 作:ジギタリス
プロローグ―answer talker―
「私が蒔いた種だ……刈り取らせてもらうぞ」
大規模エネルギー施設《アルテリア・カーパルス》。そこで待ち受けていたのは、嘗て最も信頼していた女性だった。
命の恩人にして自分の師匠でもあり、同時に相棒でもあったその懐かしい声に、首輪付きは自身の複雑な心境を溜息と共に吐き捨てる。
「……セレンか」
クレイドル03を落とし1億人もの命を奪った首輪付きの暴走を止める為、リンクスとして再び戦場に舞い戻ってきたのだ。
そして間もなく、カーパルスの高い防壁の外から次々にネクストが姿を現した。
「あなた達にはここで果てていただきます」
「どうせ確信犯なんだろう? 話していても仕方ない」
ランク2のリリウム・ウォルコットの無感情な口調とは逆に、ランク4のローディーの言葉の端々からはどこか物悲しさが伺えた。
「所詮は獣か。人の言葉も解さんだろう」
皮肉に満ちた嘲笑と共に現れたのは、ステイシスを駆るORCA旅団長マクシミリアン・テルミドールにしてカラードランク1のオッツダルヴァであった。
ラインアークでの戦いの折り、テルミドールとして生まれ変わった筈の彼が何故企業連の代表オッツダルヴァとしてここにいるのか。『怒り』か、それとも『侮蔑』か――彼にとっては、あるいはその両方なのかもしれない。オッツダルヴァという人間性自体、テルミドールという男の『見え方』の一つに過ぎないのだ。
「戦争屋風情が、偉そうに……選んで殺すのが、そんなに上等かね……!?」
首輪付きの唯一の僚機にして一億人殺しの共犯者であるオールドキングは、微かに怒りめいた口調で愛機リザに装備したライフルを飛来するネクスト達に向けて放つ。
それがそのまま、戦いの始まりを告げる号砲となった。
「殺し過ぎる、お前らは」
ランク3のウィン・D・ファンションが発した言葉には、二人に対する憤怒が露骨なまでに込められていた。
そしてなんの躊躇もなく、搭乗するレイテルパラッシュの背武装デュアルハイレーザーキャノンを首輪付きに放つ。
「…………」
5対2。
加えて相手は企業連最高の戦力。ある意味絶望的なこの状況においても首輪付きはことのほか平静を保っていた。もはや殺戮機械のパーツでしかない首輪付きからしてみれば、嘗て同僚であった彼らへの思い入れや情が付け入る隙は無いに等しかった。無論それは今の相棒オールドキングも同等の扱いでしかない。
首輪付きはレイテルパラッシュからのレーザーをQBで躱すと、その推力で背後へと回るように旋回しながら背装備の分裂ミサイルSALINE05を敵の密集地帯目掛けて放つ。
五機は散開するように斜線から一斉に外れると、ステイシスが単騎で首輪付き目掛けて突撃しはじめると、追従するようにアンビエントがECM妨害で援護を行う。
「貴様は、ORCAの名を貶めた」
個人回線で発せられたその冷酷な声は、彼がかつてのオッツダルヴァではないことをそのまま形容していた。ここにいるのは熱っぽい扇動家であり、また革命家でもあるORCA旅団団長の男。その男が首輪付き達を殺す為だけに企業連と徒党を組み、オッツダルヴァになったのだ。
そう悟った首輪付きは、ステイシスとアンビエントの猛攻を回避しながらあえて挑発するように一笑に付す。
「レイレナードの亡霊風情が……成仏もできず、道化にもなれきれないとはな」
「!! 貴様……!!」
テルミドールは崇高な理想を持つ革命家である。しかしそれと同時にそんな理想主義な自分に酔うロマンチストでもあった。それ故理想を汚したという事実に対する怒りとは別に、『世界再生における道化としての存在』という大義名分を奪われたことへの怒りもあった。
結果、今まで最強を誇ってきた男はそのたった数瞬の激情によって生まれた隙を永遠に後悔する事になった。
「オッツダルヴァ様、出過ぎで――」
リリウム・ウォルコットのその警告は、テルミドールに届くことはなかった。
一気に距離を縮めたテルミドールは突撃型ライフルとレーザーライフルを浴びせに掛かる。本来、機体の装甲の脆弱さを素早さでカバーするのがステイシスの戦い方であるが、にも関わらずそれをたった一瞬だが放棄してしまった。
首輪付きがその一瞬を見逃す筈もなく、QBを吹かしこちらからも距離を詰める。そして背武器のスラッグガンKAMALの至近距離射撃でPA《プライマルアーマー》を削り、回避させる間も与えずに左腕に構えたレーザーブレード07‐MOONLIGHTをコア目掛けて振り抜く。ブレードによる一撃をPAなしの状態でモロに受けたステイシスは、あっけなく真っ二つに分離した。
「母さん……」
「……まず一人」
切断面から火花を散らすステイシスの残骸は力なく海中に落ち、二度目の水没を迎えた。
奇しくもステイシスにとどめを刺したレーザーブレードは、テルミドールの護衛でもある真改が乗るスプリットムーンの得意武器であった。
「馬鹿な……あの天才坊やが、こうも簡単に」
「アンビエント、援護する」
ローディーが思わずそう言葉をこぼしたのとは対照的に、ウィン・D・ファンションはオッツダルヴァが海中に没するのを見ると、即座にオールドキングを離れてアンビエントのもとへと移動した。
『オールドキングを3対1で素早く撃破してからアンビエントの援護につく』
『首輪付きとオールドキングそれぞれに対して2対1の布陣を敷く』
――どちらがより確実に倒せるかを瞬時に判断しての行動だった。
1人欠けても多数対1の態勢をを敷けるなら、それに越したことはない。当然ながら最良の判断だが、それ以上に彼の潜在能力を恐れての行動だったのはウィン・D・ファンション自身も気づいてはいない。
「I'm thinker トゥートゥートゥー」
オールドキングはいつものように鼻歌を口ずさむ。セレンとローディーを相手に劣勢ともいえる状況でありながらも、なお自分のスタンスを崩すことなく楽しそうに戦っていた。その姿は狂気じみたものさえあった。
「お前か……あいつを狂わせたのは……!!」
「……さあな。だがこの狂ったこの世界じゃ、今の姿こそ正常だと思わないか?」
セレンの怒涛の攻撃を受けながらも、飄々と受け切ったオールドキングは逆関節を生かした高所からショットガンを二人目掛けて放つ。
「それにあいつは、選んでこっちに来たんだぜ?」
「貴様……この屑が」
「よせ、霞スミカ。平静を失えば勝てる戦いも勝てなくなる」
ローディーはセレンを窘めつつも、リザが離れたのを確認すると自身もQBで後退しながら背部の高速ミサイルと追尾型ミサイルを空中にいるオールドキングに放った。
「くっ!!」
直撃を受けたリザは、逆関節部から火花を散らしながら高度を落とし始めた。
「すまねえな相棒……このあたりが俺の器らしい」
目の前に迫るフィードバックによる武器腕の砲撃を眺めながら、オールドキングはこと満足そうに呟いた。
「ああ……」
首輪付きはなにか気の利いた言葉をかけるわけでもなく、ただ泰然とそう呟く。
そしてリザの中枢部分が貫かれるとほぼ同時に、首輪付きはレイテルパラッシュの中枢部分にブレードを突き立てた。