アーマード・コア ~The answer of infinity~   作:ジギタリス

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プロローグ~行き着く選択~

「お前には山ほど説教がある」

 

 海中に沈みゆくストレイドに、怒りとも悲しみとも取れるセレンの声が響いた。

 こうなることをどこかで望んでいただけに、首輪付きは口をつぐんだ。

 

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 アンビエントとフィードバックを落とし、残すはセレンの乗るシリエジオただ1機。

 ストレイドはすでにレーザーライフルとスラッグガンを打ち切り、分裂ミサイルも残り少し。加えて機体の耐久値もほぼ限界。

 

 そんな圧倒的にセレンが有利な状況にも関わらず、セレンは殊の外攻めあぐねていた。

 

 かつての関係がセレンに引き金を引くことを躊躇わせていたのも事実だが、それ以上に、彼女はストレイドに異常なまでの動きの悪さを感じていたのだ。まるで弾を打ち切る為にわざと避けやすい場所で射撃を繰り返しているようにも見えた。

 

「お前、一体何を考えている……?」

 

 思わず口走ったセレンのその問いに、首輪付きが答えることはなかった。

 首輪付きは分裂ミサイルを打ち切ると、07‐MOONLIGHTだけとなったストレイドで突撃を始める。

 

 今のストレイドを倒すことはセレンにとってさほど難しくない。セレンはまだレーザーライフルを打ち切っただけで余力は十分にある。加えてオールドキングと戦っていた時はフィードバックが盾になってくれたお陰でネクストの耐久値も雲泥の差。もはや勝負になるわけがなかった。

 

「お前は、まさか――」

 

 結果、終始攻めあぐねたセレンはストレイドのAA(アサルトアーマー)をもろに受ける。しかし辛うじて耐えきったことが生死を分けた。

 AAを使い無防備なストレイドの装甲に、シリエジオのレールガンが突き刺さる。

 

 そうして一億人を殺した獣はその動きを止めた。

 

「……言っただろう、アサルトアーマーは諸刃の剣だと」

 

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「覚悟していろよ……」

 

 セレンの声はそこで聞こえなくなった。首輪付きは海の中から海上を眺めながら、どこか寂しげだったその声を頭の中で反芻する。

 

「死ぬ……のか」

 

 首輪付きは思わず嘲笑を浮かべた。

 夥しい数の人を殺めておきながらいざその状況に置かれたら、えも言われぬ恐怖と安堵に襲われている自分がいるのだ。

 

 機体が海中の水圧に耐えきれずに悲鳴を上げ始める。AMSの過負荷による反動が脳を伝って全身に響く。もはや痛みはなく、ただ『自分がなくなっていく』そんな感覚が首輪付きを襲っていた。

 

 薄れゆく意識の中で、脳細胞が最後の力を振り絞って首輪付きに走馬灯を見せ始めた。

 

 最初はセレンの期待に応えたいところから始まった。

 その為にSoM《スピリットオブマザーウィル》を落として見せた。

 しかしラインアーク襲撃で、自分が何をしたいのか考えた。

 そしてアルテリア・ウルナを襲撃し、革命の使徒となった。

 自分がすべきことを見つけ、クレイド03を襲撃した。

 最後にここ、カーパルスでかつての仲間を殺し、また自分も死ぬ。

 

 どこから道を間違えていたのか。

 そもそもこの歪んだ世界に正しい道など存在しない。

 ならば自分の信じた道を行くしかなかった。

 

 例え彼女と袂を分かっても。

 

「ひとまずは、達成できたか……」

 

 クレイドル03を破壊したことで怯えきった企業連のトップを懐柔するのは容易くなっていた。

 

『今すぐ死ぬか、いずれ死ぬか』

 

 頭のいい人間、臆病な人間から地上に降りていった。

 恐怖や痛みを知ったことでようやく三竦みではない『企業連』となった。ORCAのやり方では、やがて『宇宙』という新しいフロンティアを開拓する為の醜い争いが生まれる事は避けられない。いつだって企業が手を取り合う時に考えるのは打算、そしてその犠牲は罪のない一般人に他ならない。

 

 革命で犠牲を生むなら、最初だけに留める。

 最初だけにしたいなら、犠牲のある革命を。

 

 人が未来に生きるためには何かを捨てなければならない。蜥蜴が尻尾を切るように、人が手術で壊死した部分を切除するように。オールドキングには感謝しなければならない。彼のおかげで図らずも最も腐った部分を排除することができたのだから。ただ、それ以外の多くの命を奪ったことにも変わりはないが。

 

 アルテリア・カーパルス襲撃の依頼を受けた時、すでに首輪付きは覚悟していた。それはオールドキングも同様だった。

 

 ――そしてセレンに討たれた。

 

 計画で言えば、ここでの「幕引き」は志し半ばに違いない。首輪付きという枷がなくなれば、企業達の争いが再び始まるかもしれない。しかしいずれ「幕引き」をしなければしない自身が、誰かに討たれることで解放されることを望んでいた彼にとっては、何よりもセレンに、かつての相棒に討たれたことに満足していた。

 

「さようなら、セレン……もし今度生まれ変わったら―――」

 

 彼は泡沫の夢を見ながら、海の黒さに溶けて消えた。

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