アーマード・コア ~The answer of infinity~   作:ジギタリス

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ISの世界ー2

「信じられんような話だな……」

 

 『情報交換』という事を条件に、首輪付きからネクストとリンクスの世界、その世界でどんな事があったかをあらかた聞いた女性はほとほと呆れた表情でそう呟いた。

 

「それはそうだろう……俺自身もそうだからな」

 

「では貴様が乗ってきたあれがネクストという兵器なのか?」

 

 はじめ首輪付きは女性が何を『指して』そう言ったのか分からなかった。しかし次の瞬間、それが何を『表している』かを理解した彼は自身の体から一気に血の気が引いていく感覚をおぼえた。

 

 『コジマ』――この世界では彼しか知らない、死の汚染を撒き散らす存在。

 ネクストに動力の一部として搭載されている『コジマ』は強大な力の代わりに大地とそこに住まう人々を殺す。首輪付きのいた世界はそのせいで地上に人が住めなくなった。もしそのコジマがこの世界で兵器に用いられれば、彼がいた世界と同じ運命をいずれ辿ることになってしまう。

 

「待て……まさか俺はネクストに乗っていたのか? どこにある!?」

 

「今は誰にも触れられないように厳重に保管してある。なんせあれはISとは全く違う技術によるものだからな、慎重に扱う必要があった」

 

 首輪付きは女性の言葉を聞いてひとまず安堵の息をつくもその表情はいまだ晴れない。

 コジマは兵器利用されずとも、存在そのものが害である。もし誰かが不用意にジェネレーターを解体するなどして残存した粒子が空気中に広まれば、それだけで未曾有の大災害になりかねないのだ。

 

「ならば俺をそこに連れて行ってくれ。……あれはお前たちが触って良い代物じゃない」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

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 IS学園の地下に備え付けられた保管庫につくと、首輪付きは嘗ての愛機を前に複雑な表情を浮かべた。

 戦いによってボロボロとなった愛機『ストレイド』は水中で大破した影響で脚部と腕部が失われ、ジェネレーターはむき出しになっていた。戦いを知る者が見れば誰でも、どれだけ首輪付きがしてきた戦いが苛烈だったか分かるほどにネクストはネクストとしての形をとどめてはいなかった。

 

 そしてそれは、かつてIS操縦者として世界最強を誇り、今はIS学園の教師として首輪付きの隣に立つ織村千冬も当然ながら理解していた。

 

「お前がそちらの世界で、どのような事をしてきたかは聞かないでおこう」

 

「……そうしてもらうと助かる」

 

 千冬の気遣いに感謝しながら、首輪付きはセレンに初めてこの機体をもらった時の事を思い出す。

 『これがお前の機体だ』――そう言ってセレンから渡された、レイレナード製の標準機体03‐AALIYAH《アリーヤ》。ストレイド《迷い猫》とセレンに名付けられた時からずっと使い続け、手心を加えてきたネクスト。そして首輪付きはこの機体で一億人もの人を手にかけた。

 人としてもネクストとしても許されることではないのだろう。もはや、この機体の存在そのものがこの世界にとっても天敵足りうるのかもしれない。

 

 首輪付きはおもむろに隣を一瞥する。

 もうセレンはいない。自ら選んで隣にいることをやめ、次に会った時は互いを向き合っていた。そして今はセレンに似た、しかし全く違う人間である。 

 首輪付きは頭に廻る記憶を一心不乱にかき消しながらむき出しのコクピットに乗り込む。そして首にあるプラグのような差込口からAMSを接続し、機体のコアとしてストレイドの現在の状態を調べ始めた。

 

「……なるほど。動力は辛うじてあるが、KPがない以上コジマによる汚染の心配はない、か」

 

 ジェネレーターがむき出しなのを見た時は首輪付きも肝を冷やしたが、KP反応がない以上この世界にコジマに汚染される心配はひとまずなくなった。そして一通り機体の安全性を調べ終えると、二度と機能しないように動力を完全にを落とした。

 AMSを解除してコクピットから降りると、千冬が訝しげな視線で完全に死んだ機体を見つめる。

 

「ひとまずこれで安全だ」

 

「そうか……それで、これはどうすれば良い?」

 

「……廃棄してくれ」

 

「分かった。私もそんな争いに加担したいとは思わん」

 

 いくらKPが空っぽといえど、それでもこの手の技術がほしい人間は山ほどいる。そうなればいづれ同じ技術が再現されてしまう可能性は大いにあった。

 そんな訳有りの意をどことなく汲み取った千冬に、首輪付きは軽く一礼した。

 

「感謝する。えーっと……」

 

「そういえばお互いに自己紹介がまだだったな。私は織村千冬、このIS学園で教師をしている」

 

「千冬か。俺は……好きに呼んでくれて構わない。少なくとも前の俺はそうだった」

 

 名前という概念は彼にとってさほど重要なものではなかった。

 依頼もセレンの名前を介してくるものが殆どで、そのセレンにもいつも指示語で呼ばれていた彼にとって名前という個を表す存在は、『セレンの傭兵』として、『人類の天敵』として邪魔なものでしかないのだ。

 

「私にお前の名付け親になれと? あいにくだが私はお前をペットにする気はないぞ?」

 

「別にそこまで重要なものじゃない。なんなら識別番号でも構わないさ」

 

「私は教師であって刑務官ではないのでな。遠慮しておこう」

 

『じゃあじゃあ、私のペットになるのはどーお?』

 

 突如二人の背後から聞こえてきた新たな声とただならぬ気配に、首輪付きだけがすさまじい反応速度で振り向く。

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