アーマード・コア ~The answer of infinity~ 作:ジギタリス
mission1:入学式
「私の名前は――」
教室内で行われる自己紹介をおぼろげに聞きながら、ヴァンは窓の外を見ていた。
豊かな緑、荒廃していない建物、そして燦々と陽を注ぐ太陽。
まだ幼い頃、一度だけ夢見た世界が目の前にある。名前を付け、学園というコミュニティに所属する自分がいる。悲観する訳ではないが、喜ぶこともできない。
「次、織斑」
「はい!」
今迄とは違う男の声に、ヴァンは考えるのを止めて前を向く。
一番前の席で自己紹介をしている自分を除いた唯一の男――織斑一夏。
IS兵器を使う事の出来るこの世界でたった一人の男でもあり、あの織斑千冬の弟。姉同様凛とした顔つきからは良くも悪くも正義感に溢れた、いかにも『弟』な好青年っぷりが伺える。
自己紹介が終わった所で、拍手と共に嬌声が教室内に響き渡る。
ただでさえIS学園では考えられない男子生徒という括りに加え、あの甘いマスク、人気がでるのも納得できた。
「では次」
ようやく出番が回って来たところで、ヴァンはゆっくり席を立つ。
当然嫌という程奇異な視線を向けられるが、この学園でたった2人の男が両方ともこの教室にいるとなれば仕方のない事なのだろう。
「名前はヴァン、デレール……」
そこ迄言ってそれ以外の情報が無い事に気が付く。咄嗟に視界に入った織斑一夏の先程の自己紹介を思い出す。
ここはとにかく自分の身辺的な事を当たり障りなく喋れば問題ないのだろう。
「特技は射撃と、近接格闘術です。今は仮入学という形でこの学園に所属しています。もしかしたら短い間の付き合いになるかもしれませんが、よろしくお願いします」
ヴァンは声のトーンこそ低めだが、仰々しいまでに丁寧な言葉づかいでそう言い、綺麗なお辞儀を見せる。
一瞬の間の後、再び教室中から嬌声が上がる。先程までとはないが、相変わらず好奇の視線を送られる感覚にヴァンは気怠そうに息を吐く。
織斑がお近づきになりたいアイドル的な存在であるとするならば、ヴァンはずっと見ていたい二次元キャラ的な存在が既に女子のなかで確立しつつあったが、それをヴァンが知る由もない。
「ねーねー、どっちが良い?」
「私は織斑君かなー」
「ヴァン君もなかなかだよねー」
既に各所で始まりつつある『どっちがいい』論争に耳を塞ぐようにヴァンは再び窓の外を眺める。表情こそ苦笑いだが、その胸中は不愉快さの影響で心底冷め切っていた。
それから後続の自己紹介が全て終わった所で、ようやく千冬ともう一人の教師らしき女性が全員の前に立った。
「全員終わったな……よし、では私達も自己紹介をしよう。私は織村千冬だ、これからお前達の担任をする事になった。ビシバシ行くから覚悟しておけよ……」
千冬がまるで悪女の様にニヒルな笑みを浮かべる。数人を除いた全生徒が若干の委縮を見せた所で、隣いた背の低い、顔と体つきの見た目年齢が一致していない女性がフォローするように窘めなる。