一から無限に広がる物語(かのうせい) ヒト、それをオクトパストーリーと呼ぶ 作:オクトパストーリー主催者
「――――こうしてみんな仲良く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
傍らの幼子の背中をポンポンとリズミカルに優しく叩く手。
「ふぁぁ……ムニュ」
親の声とリズミカルな振動に心地よくなってきたのか、幼子の目がトロンとし始める。
「そろそろお眠かな」
「もう一回。もう一回さっきの」
そんなリクエストに
「しょうがないなぁ。じゃあもう一回だけ」
昔々かずっと遠い先のことか、わからない――
傍らの幼子が睡魔と闘いながら、紡がれる物語に聞き耳を立てる。
昔々かずっと遠い先のことか、わからない頃、とある星の南の島々ではみんなが楽しく暮らしていました。
綺麗なお花を集めて花の冠を作ったり、イルカさん達と一緒に泳いだり、亀さん達と仲良くしたり、美味しい果物も沢山ありました。
ところが、ある時、それよりももっと南から、怖~い人たちがここを俺たちのものにする。といって沢山攻め寄せてきました。
ここを取られちゃ大変だ。と、みんなも海で一生懸命戦いましたが、みんな段々ひどいけがを負ってだんだんと島の方に、島の方にと、追いやられてきました。
島の偉い人は、みんなが傷つくのはもう嫌だといって、ここを捨てて北の王様たちを頼ろうと言いました。
真夏の暑い日だったけど、みんなで一生懸命準備して、怖い人たちに見つからないように月が出ていない日の夜にこっそりと島を出ていきました。
怖い人たちはお日様が昇ったころ、島にやってきて誰もいない事に気が付きました。
やった~。ここは俺たちの物だ。とみんな大喜びしましたが、ちょっと頭のいい人が言いました。
ここに居た奴らはどこに行ったんだろう。
皆で一生懸命考えると、一番偉い人が言いました。
北の王様に、俺たちを追い払ってくれとお願いに行ったに違いない。これは大変だ。急いで追いかけよう。
その頃島から出て行ったみんなは、というと、一生懸命、北へ、北へ。と逃げていました。
大きな大人に手を引かれた小さい子たちは泣きそうになっていましたが、それでも涙を拭いて、絶対に島に帰ってくる。って言いながら一生懸命ついていきました。
みんな必死に頑張っていると、海がだんだん荒れてきました。すぐに大きな波とすごい風がみんなを襲ってきました。
「たいふう?」
心配そうに自分を見上げる幼子に、優しく微笑みながら
そう、台風です。台風がやってきました。皆で必死に手を離さないようにしながらがんばりました。
でも小さな子が手を離してあっというまに遠くに離れてしまいました。
慌てて一人の大人が駆け出し救い上げましたが、その頃にはみんなとすっかりはぐれてしまったのです。
「ど、う……なった……の?」
ウトウトと、目をしょぼしょぼしながら問いかける幼子。
じゃぁ、ふたりがどうなったか、追っかけてみようか。
嵐が過ぎた後、ふたりはみんなを追いかけようと北へ北へと向かいました。
そこに南の島から追いかけてきた怖い人たちがついに追いついてきました。
怖い人たちは狼や鷲たちを使ってふたりを襲います。
ふたりは手足をばたつかせて鷲たちを追い払い、狼も何とか振り切って、北に、北にと、みんなを追いかけます。
夜になって、夜が明けて また日が暮れて また 朝になって。
怖い人たちからは逃げられましたが、まだまだ皆に追いつきません。
大きな大人も、小さい子もお腹が空いてきました。
お魚を捕まえ、海藻を食べて、途中の島に上陸して、お水を飲んで。
何日も何か月も過ぎた頃には小さな子もすっかり大きくなりました。
そしてとうとう、みんなと出会えました。
「あらら、いつのまにか寝ちゃってる」
気が付くと、スゥスゥと寝息を立てる子供を見つめ微笑むと、幼子を起こさないようにそっと立ち上がり部屋から出ていく。
ただいまという声に自分の伴侶の帰宅を知ると迎えに出る。
「お帰り」
「子供は……寝たの?」
「ぐっすりと。今日は昔話を聞かせたんだけどね。あの頃の事」
「え~!」
「詳しくは話してないけどね、昔話風にして話してみたの」
そうかと微笑む伴侶にそっと口づけをする。
ふたりを窓から差し込んだ月の光が照らしていた。