一から無限に広がる物語(かのうせい) ヒト、それをオクトパストーリーと呼ぶ 作:オクトパストーリー主催者
鳥の鳴き声の聞こえる穏やかな朝
……それは、いつもの朝のようでいて、どこか違った朝だった。
この家の主、
「……? な、何で……の、儀子が、ここに?」
とある事情で同居中の幼馴染――
背中まで伸びたセミロングの髪、仔犬か栗鼠のような印象を想わせるくりっとした榛色の目、小さく整った卵型の顔、鼻筋が通ってお雛様のような小さな口、そしてなにより目を引き付ける雨宿りができそうなほどせり出した胸。
そんな彼女が三角巾を付け割烹着姿で煮物の味見をしたかと思うと、何かまな板の上で素早く刻み、冷蔵庫から何かを出して盛りつけ、忙しなく動いていた。
(貴方作る人、私食べる人。なんていつも言っている儀子が料理だなんて。夢かな……?)
宜弘が暫くその姿に見惚れていると、儀子がふぅと一息吐き、三角巾を外し頭を軽く振る。解いた長い髪が一瞬散るように踊って肩に流れた。
何かを考える様に口元に指をあてながら周囲を見回し、振り向く儀子と宜弘の視線が合わさった。
「あら、宜弘様、お早うございます」
「え? ……宜弘様って、え? 様? え? それにその言葉遣い……。 え?」
「もう、宜弘様。朝はお早う、昼はこんにちは、夜は今晩は。ですよ。人が生活するには挨拶が肝要でしてよ」
窘めるようでいて、けぶる様な笑みを浮かべ、
「宜弘様、お早うございます」
鈴を転がすような声を宜弘にかける。
「あ、おはよう、儀子……って何で儀子がここに?」
「もうすぐ朝食ができますから、お座りになってお待ちください」
「え? あぁ……」
目の前の出来事にどういう事かと戸惑っている宜弘をよそに、儀子は手際よく朝食の用意をしている。
「……全然書けんな」
そう言いながら椅子を軋ませぐっっと伸びをする男の首元にキンキンに冷え切ったコップを持った細い腕が伸びる。
「ゥオッ!! 冷てェ」
自分にいきなり冷え切ったコップなどと言う物を当てた加害者をにらみつける男。
合鍵を使っていつの間にか家に入り込んでいた幼馴染――先日プロポーズをしてめでたく婚約者となった――がニンマリと笑みを浮かべて傍らになっていた。
「真っ昼間からパソコンで何見てるのかな?」
エッチなサイトなんか見てないでしょうね。等と言いながら画面を覗き込む幼馴染。
「な〜んだ、Officeソフトなんか開いて。休みの日でもお仕事?」
「休みに仕事なんかせんわ。趣味の書き物だ」
「へぇ。どれどれ、何を書いているのかな?」
手に持っていた袋を床に下ろすと、どれどれと男の肩越しに画面を覗き込む。
「いや、俺が趣味で小説擬き書いているの知っているだろ? んでお題を貰ったから書き始めたんだが全然書けんわ」
と頭を掻く男に、
「フンフン……名前や容姿の描写からすると、これって私?」
自分を指さしニンマリとした笑みを浮かべる幼馴染――水無瀬儀子。
「へぇ。宜弘はこんな風になって欲しいんだ、私に」
「いや、物語は物語。俺は昔から儀子の気の強さに惹かれていたし。あの時も言ったろ? 儀子を他の男にとられたくないって。こんな風になって欲しいなんて考えてないから。……儀子にお淑やかなお嬢様なんて似合わないだろうし」
ぼそっと呟いた宜弘の言葉を儀子の耳は聞き逃さなかった。
「失礼しちゃうわね。よし、ちょうどいい機会だから」
女優の卵として最近は舞台に上がることも多くなった儀子が腰に手をあて、
「そうね、劇団の新年会までの2日間、このお話の娘の様に過ごしてあげるわね」
「新年会?」
「そ。劇団の新年会。宜弘、新年最初の司会の仕事が私と一緒だって喜んでいたでしょ? うちの劇団の新年会、司会やイベントコンパニオンも一緒に楽しむって言ったら、今から楽しみだって。忘れちゃった?」
心配げな表情を浮かべ顔を覗き込む儀子。
「あぁ、あれか。うちの会社の新年会と勘違いしていた。そうか、2日後だったか」
「ふっふ~ン。2日間で改めて見惚れさせてあげるから、覚悟しなさいよ」
そう言いながら不敵な笑みを浮かべる儀子。画面を覗き込み、
「えっと……けぶる様な笑みを浮かべ、鈴を転がすような声で上品に話す娘ね。いかにもテンプレな深窓のお嬢様って感じ……違うわね。どちらかというと侍女かしら。それも一緒に育った幼馴染のような侍女。……うん、良いかも。これにお嬢様っぽい雰囲気を持たせればいいわね」
そう言うとにっこりと微笑む儀子。次の瞬間――。
「宜弘様、軽食のご用意をさせて頂きますわね」
そう言うと、床から袋を持ち上げキッチンへと颯爽と足を運ぶ儀子。
「あ、ありがとう、儀子」
一瞬、返事が遅れた宜弘が背中に声をかける。
(あ、焦った。いきなり化けられるんだな)
さほど時間をかけることもなく戻ってくる儀子。
「はい。特製のローテグリュッツェです。どうぞ、お召し上がりくださいね」
ローテグリュッツェは北ドイツでとてもポピュラーな、ベリー類で作るデザートで儀子はこのローテグリュッツェを得意料理としていた。
「「いただきます」」
匙を一掬いする宜弘に
「あの……宜弘様……お味の方は如何でしょうか?」
そう上目遣いで幾分不安げな様子を浮かべる儀子。
(うぉ。さすが女優を目指すだけの事はあるなぁ。普段は絶対にこんな表情なんて浮かべないのに。なら、俺も少し偉そうにしてみるか)
「ああ、美味いな。儀子の作るローテグリュッツェは絶品だな。儀子、大儀」
バニラクリームがかかったローテグリュッツェを口に運びながら宣う宜弘に
「ありがとうございます。儀子は宜弘様にそう言って頂ける事が何よりの褒美です」
そう言い儚げな笑みを浮かべる儀子。その雰囲気は一緒に育った幼馴染のような侍女と言われれば万人が万人とも思い浮かべるものであった。
(駄目だ、かなわん)
そんな儀子は夕食時も態度を崩すことなく。
「お風呂のご用意が整いました。宜しければお背中をお流し致しますが」
そこまで言う儀子にはさすがに苦笑いをしつつ
「いや。結構だ。そういうことはいつもの儀子の時にやってもらう」
そう儀子の額に軽くデコピンをし、浴室に入る宜弘。
「あ、危なかった。言葉遣いと仕草が違うとあそこまで破壊力が上がるとは思わなかった」
扉に寄り掛り溜息を一つ吐く。
浴室から出た宜弘の前に長襦袢に着替えた儀子が三つ指をついて
「就寝のお仕度が整いました」
と出迎える。
幾分ひきつった笑みを浮かべる宜弘。
「そ、そうか。では――」
その言葉に被せるように儀子が言葉を紡ぐ。
「今宵は私が」
そんな言葉に宜弘が慌てた様子で
「ストップ。それ以上はマテ」
両手を突き出すようなその仕草に
「残念。駄目かぁ」
素に戻った儀子がチョロっと舌を出す。
「じゃぁ、そろそろ帰るね」
そう言うと荷物を持ち部屋を出かける儀子に
「おいおい、流石に23時を回って帰したら、
その言葉に目を瞬かせる儀子。すぐに表情を変え――。
「それでは」
その表情に慌てて宜弘が
「その演技、いったん中止。また明日な。一応言っておくが夜伽の必要はないからな」
「演技中止ならいつも通りなんだから別にいいじゃない。二人で寝ましょ?」
「ダメだ」
翌朝。
「起きてください、宜弘様」
そんな声とともに壊れ物を扱うかの様に優しく揺さぶられる感触に
「……儀子? 何で……ってそうか」
宜弘はぼやけた頭で婚約者が昨日から泊まっている事と演技について思い出していた。
顔を上げると案の定、傍らに儀子が立っていた。
「もう始まっているのか」
「何の事でしょう? 宜弘様」
キョトンとした表情の儀子。
宜弘が一瞬、本当に人が違ったのかと考えるほどその仕草は堂に入っていた。だが、よく見ると目元に微かな笑みが浮かんでいるのが宜弘には見て取れた。
「随分と楽しんでいるな。さて、着替えるから」
部屋から出てという言葉を遮るように
「お手伝いさせていただきますね、宜弘様」
シャツに手をかける儀子。
「こら、自分でやるから、さっさと出ろ」
半脱ぎのシャツのまま儀子の背を押し廊下へ追い出す宜弘。
「まったく。視点を変えると面白いかもと止めなかった俺も悪いが、あの儀子も良いかと思いかけてる自分が怖いわ」
夕食も入浴も終え自室に戻った宜弘が友人に電話をかけたのは10時過ぎの事であった。
『んで? わざわざ電話をかけてきて大事な話だって言ったよな? 真面目に聞いてたら惚気話を30分も聞かされた俺のこの気持ち、手前にぶつけて良いか?』
電話口から聞こえてくる剣呑な声。
だがそれも仕方が無い事ではある。宜弘が延々と電話口で話した事。それは――。
朝食で自分とは少し違うメニューの儀子に理由を尋ねたら失敗したと頬を染め俯く仕草に失敗と称するスパニッシュオムレツに箸を伸ばし、止めようとする儀子とじゃれあいになった事。
昼食後にお茶を持ってきて隣に座る儀子の様子が何とも健気で可愛くて、まじまじと見つめてしまった事。
その視線を感じた儀子が
「どうかなさいましたか? 宜弘様?」
と心配そうに見つめてくる仕草に征服欲を感じてしまい押し倒し、儀子が押さえつけられたままで紡いだ
「宜弘様のお好きなようになさってください」
という言葉と潤いを帯びた眼差しに危うく理性のダムを決壊させかけた事。
夕食後の、お約束とも言える入浴を巡る攻防で惨敗し、身体の流しあいをした事。
このような話を夜10時過ぎに延々と30分も聞かされた電話の相手は、なおも惚気ようとする宜弘に
『じゃ、切るわ。もうこれ以上聞く気ねえし』
そう言い残し一方的に電話を切った。
明けて3日目。
「ほら、起きなさい。宜弘」
力強く揺さぶられる感触。
「ん……? 儀子?」
ああ、終わったのか。そんな思いでベッドから起き上がる宜弘。
「それで? どうだった、私の演技」
「ん。……取り敢えず着替えさせてくれ」
出ていくようにと扉を指さす宜弘。
朝食を食べながらこの2日間の印象を述べ合う二人。
「ふ~ん。まとめると、宜弘はもう一つの私にも惚れ込んだと」
と、にんまりと笑みを浮かべ、言いたいことはわかっているからというように何度も一人うなずく儀子。
その仕草に口を開こうとしては何も言えずに口を閉じる宜弘。
そんな宜弘に対し
「じゃぁ、たまにはやってあげましょうか? 幼馴染の侍女、儀子を」
そう言いのける儀子に口をパクパクと動かし言葉にならない言葉を紡ぐ宜弘。
そんな宜弘を楽しげに見遣り時計を見る儀子が慌てた声を上げる。
「あ、もうこんな時間。宜弘、新年会遅れちゃう。急ぎましょ」
「げっ。急がないと」
慌てて身支度を整える二人。
「ん? メールが入っている。……何々? オンライン物書き屋に30の質問*1?」
「そんなの後で答えればいいでしょ。早く早く」
急かす様な儀子の声にすぐ行くと答えを返し帽子掛けに掛っていた山高帽を取ると急ぎ玄関に向かう。
「宜弘、雇われ司会なんだから急がないと。進行表持った?」
「あっ!」
「え? 忘れたの?」
「なんてな。しっかりと持ったさ」
仲良く一緒に新年会の会場に駆け込んだ二人が早く着いていた出席者に冷やかされるのはいつもの事。
冷やかした当人も手順を確認する宜弘と寄り添い質問しながら細部を見直させる儀子の姿に砂糖を吐き出させられた思いを抱くのもいつもの光景であった。
「今日は皆さんと楽しく過ごすことができました。今年も一年、一緒にがんばっていきましょう! それでは、一旦、締めさせていただきます。みなさまのますますのご活躍とご健康を願いまして【関東一本締め】を行います。みなさま、どうぞご起立ください」
宜弘のその声に会場内がざわつきながらも準備が整う。宜弘の前には儀子がにこやかに佇んでいる。
「それでは、パン!と一回だけ手を叩く関東一本締めで締めさせていただきます。皆様、お手を拝借。いよ~っ!」
パンッ
「皆様、本年もよろしくお願いいたします」
……全部答えられないから適当に抜粋しました。
Q1 HNとその由来を教えてください。
A1 自分の苗字と職業と読み方が持つ意味を掛け合わせつつ別の苗字を想像させるHNです。
Q2 現在の代表作はなんですか。
A2 【村雨と提督の小笠原旅行記】 か 【小悪魔村雨の秘密の日記】ですね。
Q4 逆に苦手なジャンルはなんですか。
A4 18禁、戦闘描写、頭を使う駆け引きは書けません
Q5 尊敬する、又は好きな作家は誰ですか。
A5 水野良、田中芳樹、アーサー・C・クラーク、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイルでしょうか
Q6 次の単語を使って文章を作ってみてください。(紅、叩き、浅はかな)
A6 紅あずま 盗まれて尚 政府叩きの 浅はかさ。
種苗法の改定もそうですが、しっかりと品種が盗まれていることを認識させ、なぜこうなったのか、再度起きないようにするにはどうしたらいいか。を考えさせることも大事だと思いますがね。苗に限らず、色々なものでも。
Q9 好きなことばはなんですか。
A9 人生万事塞翁が馬
Q10 小説を書く際に最も大切にしていることはなんですか。
A10 誤字・誤用を出さないw(守れていません)
Q11 次のうち、最初に決まるのはどれですか。(人物、世界背景、ストーリー)
A11 ストーリー
Q12 人物名を決める時に気をつけることはありますか。
A12 なし。この頃は人名メーカー使用しています。
Q15 長編と短編、どちらが得意ですか。
A15 短編
Q16 オンライン小説独自の技法を積極的に使うほうですか。基本を守るほうですか。
A16 オンライン小説独自の技法って何ですか?
Q17 プロ志望か趣味としてのみか、どちらですか。
A17 趣味しかないでしょ。オリジナルを書いてなおかつ完結させられなくてはプロにはなれないです。
Q18 小説を書いていて、一番苦労するところはどこですか。
A19 誤用をしない事やどこかで似たような話にならないようにすること。
Q24 あなたはコツコツ書くほうですか、集中して書くほうですか。
A24 思い立ったが吉日。集中タイプです。
Q28 あなたの小説の隠れたテーマや、共通点などはありますか。
A28 無いよ。隠れたテーマ、大事なはずなんですけどね。
Q29 最近の食事風景を描写してみてください。
A29 噛めば噛むほど香ばしさが湧きだしてくる玄米に手軽なフリーズドライの味噌汁、半熟を目指しながら固まってしまった目玉焼きをかみしめる男が一人。
テレビをつけてニュースを見てもコロナコロナで気が滅入る。
気を取り直し、録画した趣味の園芸を見ながら収穫したデザートを食べる。洋ナシとグアバをあわせたような食感ときれいなクリーム色の果肉、独特の甘い香り、酸味と甘みのバランスが良くさっぱりしたフェイジョア。それを6個も食べると満足した男は徐に出来もしないが趣味の一環として取り寄せた【豆腐百珍】を読みふけるのであった。
以上です。