一から無限に広がる物語(かのうせい) ヒト、それをオクトパストーリーと呼ぶ   作:オクトパストーリー主催者

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hasegawaさんの作品を楽しみにされている方には残念なお知らせです。

今回を以て、hasegawaさんは、オクトパストーリーからは引退されます。

今後のhasegawaさんの作品は、下の作者のページからお楽しみください。リレー小説なども企画されていますよ。

それでは、hasegawaさんのオクトパストーリー引退作をお楽しみください。
 
 
 
 
 




【さようなら】 (作: hasegawa)

 神無月も半ばを過ぎ、庭の紅葉も散り始めた午後。

 その日、空はどこまでも高く、上空には鱗状の雲が現れていた。

 久方ぶりのいい天気に遠くで近所の子どもが遊ぶ声がする。

 その声につられて庭に面した窓を開け、室内に風を呼び込む。窓からの風は心地よく揺り椅子に腰かけ揺れに身を任せているうちに深いまどろみに落ちそうになった。

 そんなまどろみは思いもかけないところから破られた。

 私の目の前のマントルピースに置いてあった思い出の品――中央に小さな鏡が付いた仲の良さそうな男の子と女の子が手を繋いでいるマイセンの置物――が、水晶が擦れ合うような音とともに突然砕け散ったのだ。

 物語であれば、狙撃された、あるいはPKや魔力の発動などと言う出来事なのだろうが、あいにく私は一般的な市民に過ぎず、狙撃されるような覚えも、特殊な能力や才能もない――ないはずだ。

 突如として砕けた置物を呆然と見つめる私の脳裏に、これを贈ってくれた幼馴染の姿が思い浮かんだ。

 

 (法子!?)

 

 脳裏に浮かんできた幼馴染の姿を思い浮かべると同時に得も言われぬ不安感で胸が締め付けられた。

 妙に自分の心がざわざわと波立つのを感じ、そのざわつきは暫くの間治まることが無かった。

 

 


 

 

 

 

「だが私は、スピリチュアルなことは、信じないタチなのであった――――」

 

 私ことふじおは、今一度椅子に腰かける。そして先ほどの不安を払拭するかのように「ふぅ」とひとつため息を吐いた。

 

「古い置物が壊れたくらい、一体なんだと言うのか。くだらない。アホか。

 森羅万象、全ての物はいつか壊れ、失われていくのだ。

 これぞ諸行無常の(ことわり)よ」

 

 私はもう一度眠りに落ちるべく、のほほんと瞼を閉じる。

 ふと件の幼馴染の顔が頭に浮かぶが、もう十年近くも会っていない女の顔など、ぼんやりとしか思い出せないのも、無理はなかった。

 

 

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「おい法子! しっかりするんだ!」

 

 ところ変わって、南アフリカの某国。

 現在、このありふれた農村の田園は銃撃戦の舞台となっており、ある女兵士の悲鳴に似た声が、辺りに響き渡った。

 

「大丈夫か法子! おい、返事をしないかッ!」

 

 女兵士は草むらに伏せて身を隠しながらも、すぐそこで血を流して倒れている法子という女の名を呼び続ける。

 

 そう、この女は先の男の幼馴染。幼き日にあの置物を贈った、張本人である。

 それが今はゲリラの凶弾によって、泥水に身を浸しながら倒れ伏しているのだ。

 

「腕から血がッ……!

 おい法子、じっとしていろ! いま助けにいくからなっ!」

 

 法子は幼少期にアメリカに移住した後、現地の男と結婚し、アメリカ国籍を取得。そして軍に入隊した後、ここ南アフリカの某国へと治安維持部隊の一員として派遣されて来た。

 だが今、法子は右腕を銃弾によって撃ち抜かれ、破れた動脈から夥しい量の血液を地面に垂れ流している。

 

 戦友である女兵士からみても、その命はもう、風前の灯に思えた。

 

 

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「?!?!」

 

 揺り椅子でまどろんでいた男の意識を、突然の切り裂くような音が呼び覚ます。

 

「なんだ?! いったい何が?!」

 

 ビックリして飛び起き、キョロキョロと辺りを見回すと、なにやら机の上に置いてあったマグカップが、真っ二つになっているのが見えた。

 ひとりでに。誰が触ることも無く。

 

「これは……昔法子が誕生日プレゼントにくれた、お揃いのマグカップ……」

 

 私はまじまじと机の上を見つめ、こぼれたコーヒーに浸っているマグカップの残骸を観察する。

 先ほどの置物といい、このマグカップといい、なぜひとりでに?

 いったい何が起きているというんだ。

 

「だが私は、科学的根拠のないことは、信じないタチなのであった」

 

 私は「ふーやれやれ」と呟きながら、サッと机の上を片付けてから、再び揺り椅子に腰かけた。

 

「いったい何だっていうんだ。今日は不思議なことばかり起こるな」

 

 そして再び瞼を閉じ、夢の世界へと旅立つのであった。

 

 

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「法子ぉーッ! 法子ぉぉぉーーーッッ!!!!」

 

 再び南アフリカの農村。

 いま女兵士の目の前で、倒れた法子の右足に、銃弾が撃ち込まれた。

 

「法子ッ、大丈夫か法子ッ!! しっかりしろぉぉぉーーーーっ!!」

 

 ただでさえ血まみれだった法子は、二度目の銃弾によって右の大腿部を貫かれ、先ほどとは比べ物にならない程の血を流す。

 

 倒れた法子を“エサ”として使い、助けに来たアメリカ兵達を一網打尽にするつもりなのだろう。

 今は女兵士たちは草むらに潜んでいるが、もし法子を助け出そうと一歩でも動けば、すぐさまゲリラの狙撃兵が銃弾を撃ち込むことだろう。

 

 それを狙い、ゲリラは倒れた法子を“嬲っている”のだ。

 あえて急所を外し、激痛に叫び声をあげさせ、仲間たちが痺れを切らして草むらから出てくるのを、じっと待っているのだ。

 

「くそっ! 法子ッ、返事をしてくれっ!

 死ぬなッ! 法子ぉぉぉーーーッッ!!

 

 

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「うおっ?! なんだというんだ今度は!!」

 

 突然、私の座っていた揺り椅子の背もたれが、ボキィと音を立てて折れる。

 そのせいでドテーッと床にひっくり返り、まるでまんぐり返しのような体勢となった。

 

「ファック! 椅子が壊れやがった! お気に入りだったのに!」

 

 そういえばこの揺り椅子は、以前法子の家から譲り受けた物だった。

 当時は私達のみならず、親同士も仲が良かったので、これを気に入った私の父親が、あちらの家から譲り受けたという経緯がある。

 

「まったく! 法子の家の物には、全て呪いでもかかっているのか!?

 ろくなもんじゃない!」

 

 こんなすぐ壊れる欠陥品を渡しやがって! 法子の家のヤツラはロクなもんじゃないな!

 重ねてになるが、私はスピリチュアルなことは一切信じないので、そう現実的な方に物事を捉えた。

 

「せっかく気持ちよく眠っていたのに、なんと不愉快な! 

 もう昼寝はやめだ! 私は台所に行き、ぬか漬けでもかき回して来る!」

 

 そして私はプンプン怒りながら、ドシドシと足音を立てて、ライフワークであるぬか漬けの面倒を見に行った。

 こまめにかき混ぜ、愛情を込めてぬかを育てるのが大切なのだ。

 

 

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「うわぁ法子ッ!? 法子が手榴弾にっ!!」

 

 その頃、南アフリカの某国では、いつまで経ってもアメリカ兵達が動かないことに逆に痺れを切らしたゲリラ達が、法子に向かって手榴弾を投げた。

 

「法子ッ! 法子がまるで木の葉のように!

 クルクルと天高く宙を舞っているッ! 法子ぉぉぉおおおおっっ!!」

 

 

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「――――ファック!! 今度はぬか漬けの壺が!!

 何もしてないのに真っ二つに割れやがった! また法子かっ!!」

 

 どれどれいっちょ掻き混ぜたろかいと取り出した瞬間、以前法子の家から譲り受けたぬかが入った壺が、パキンとばかりにひとりでに割れた。

 

「いったい何だと言うんだ! どうなってるんだこれは!

 俺はただ、のんびりと休日を過ごしたいだけなのに!」

 

 3度続いた不可解な現象に、流石の私もポルターガイスト的ななにかの存在を疑わざるを得ない。

 だが再三になるが、この世の中にそんな非科学的なことがあるワケないので、やっぱり気にせず休日を謳歌することにする。

 

「次はドライブだ! 車に乗って、あてどなく街を走ろうじゃないか! ひゃっほう!」

 

 

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「法子ぉ! 法子がRPGにっ!!

 対戦車ミサイルに吹き飛ばされ、屋根より高く吹き飛んでしまったっ!!」

 

 もうあんまりにもアメリカ兵達が出てこないもんだから、ちょっとイラッとしたゲリラたちは、法子にRPGを撃ち込んだ。

 にっくき敵兵とはいえ、ただの人間に対物兵器を撃ち込むという暴挙! ゲリラって貧乏なハズなのに、予算すら度外視してッ!!

 

 法子はまるでクジラの背中にでも乗ったかの如く、高く高く空を飛んでいった!

 

 

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「ブルシットッ! タイヤがパンクしてるじゃないか!!

 これも案の定、法子の家から譲り受けた車だッ!!」

 

 イソイソとガレージに来てみれば、たった今パンクしたのであろうタイヤから〈プシュー!〉という空気の抜ける音がする!

 ちなみに法子の家は、過去に私の親から莫大な借金をしていたので、多くの家財を差し押さえたという経緯がある!

 ぶっちゃけこの家は、法子ん家の家具でいっぱいだ!

 もうケツの毛も残らないくらいに、むしり取ってやったらしいから!

 

「あのアマ! いったいどうなってやがるんだ!

 こんなひとりでに壊れるような物に囲まれて、どうやって生活してたんだ!!」

 

 

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「法子ぉぉーーッ! 法子が戦車に轢かれたぞぉぉーーーッ!! 法子ぉぉぉーーー!!」

 

 女兵士の見ている前で、ゴゴゴッと走ってきた敵戦車が、法子をペシャンコにした。

 法子はまるで漫画のように平べったくなり、鬼太郎に出てくる一反木綿のように、フワフワと宙を舞う。

 

 

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「私のベッドが! タンスが! 本棚がっ!

 すべてひとりでに粉砕したッッ!!」

 

 私の目の前で、いま言った家具たちが〈バコーン!〉みたいな音を立てて砕け散る!

 なんとか咄嗟に床に伏せたので、私は無事だったが、なんか次々に部屋中の家具が粉砕していく!

 

「時計が! 机が! DVDデッキが!

 まるで爆弾でも仕込んであったみたいに!!」

 

 ポルタ―ガイストどころではない。もうこれは敵の襲撃に遭ってるのと同じだ!

 一個小隊を相手に戦っているのと同程度の被害を、いま我が家は受けている!

 

「どうなってるんだ、この家は!

 こんな所にいられるかっ! 俺は外に逃げるぞ!!」

 

 

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「法子がっ! 法子がナパームで吹っ飛ばされた(・・・・・・・・・・・・)ッッ!!!!

 駄目だ! もう跡形すら残ってないッ!! 人体の欠片すらもッ!!

 法子ぉぉッ!! 南無阿弥陀仏ぅぅぅううううッッ!!」

 

 

 

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「うぎゃぁぁぁあああああーーーーーッッッ!!!!」

 

 その時、突然足元が崩れる!

 私が立っていた地面、法子の家から譲り受けた土地が(・・・・・・・・)、轟音を立てて陥没し、崩れ落ちていく!!

 

「うわぁぁぁああああああッッ!! 法子ぉぉぉおおおおおおっっ!!

 法子のアホォォォーーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

 そして私は死んだ――――

 谷底に落ち、身体を強く打ち付け、20数年ばかりの短い生を終えたのだ。

 

 

「――――あっ! いま私、霊体になってるッ!?!?

 今まで信じてなかったけど、スピリチュアルなことって、ホントにあったんだな!!」

 

 

 霊体になっても、意外と現世の物体や、生きている人間に干渉出来るという事を知れたのは、ある種の救いだったのかもしれない。

 

 私が今まで体験したポルターガイストや、金縛りや、なにか虫の知らせのように感じていた予感は、もしかしたら全部真実だったのかもしれないな!

 

 そんな事を考えつつ、私は49日が過ぎるまでの間、この世界で霊体ライフを思う存分楽しんだ後、死んだ両親の待つHeavenへと旅立ったのであった。

 

 

 

 おしまい。




作者のページ https://syosetu.org/?mode=user&uid=141406

hasegawaさん、ありがとうございました。
今後の作品も楽しみにしています。


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