今回は前話に比べて美咲との絡み少なめかな。
「バイトすることになった?」
高校生活が始まって一週間くらい経ったころ。登校中美咲が言った一言に対して、俺は思わず聞き返してしまった。
「うん。前々から考えてたからさ」
「でも随分と急に決まったな。部活もやるんでしょ? 大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。部活とバイト掛け持ちしてる高校生なんてたくさんいるし」
バイトねぇ……俺もやろうとは思ってるんだけど、中々いいところが見つからないんだよな。近くのコンビニとかファストフード店とかでも駄目ではないんだけど、ピンとこないというかなんというか……
そうだ。美咲と同じところでバイトすればいいんじゃね? 超絶安定平穏大好き美咲のことだ。きっと変な職場は選ばないはず。それに、同じバイトの知り合いとかいると非常に心強いし。
「なるほどね。ところで、バイトって言ってたけど、具体的に何するの?」
「キグルミ」
「え?」
「キグルミのバイト。風船とか配るやつ」
美咲が、キグルミ……キグルミ……マスコットキャラクター……
キグルミのマスコットキャラクターって、あれだろ? ふなっ〇ーとかく〇モンとかだろ? くま〇ンはまだわかるけど、ふ〇っしーは……
「どうしたの直斗? 急に笑い出して?」
「いや、美咲が梨汁ブシャーとか言ってるの想像すると、つい……」
「言わないから」
「そこは言った方が絶対ウケるって」
「ウケなくていいから」
ノリの悪いやつめ。
美咲がキグルミとか言ったときにはとうとう気でも狂ったかと思ったけど、大丈夫だったみたいだ。安心安心。美咲の性格とマスコットキャラクターって全然合わないんだもん。美咲は裏方とかの仕事の方が似合ってそう。
「じゃーさ、なんでキグルミバイトなんてすることになったの? お前、そんな表出るの好きじゃないじゃん。もしかして、子供好きだったり?」
「いや、単純に給料が高いから」
「金か」
「金だね」
「金じゃ買えないものもあるんだぞ」
「そういうのいいから」
お金で愛は買えないってじっちゃん言ってたもん。
◆◇◆◇◆
放課後、俺は家の近くにある商店街に来ていた。え? 話が唐突すぎてついていけないって?
美咲のバイト先、ここの商店街だったの。だから見に来たの。商店街のマスコットキャラクターであるミッシェルになるらしい。ミッシェルってなんだよ。
とはいえ、近くで観察してたらただの不審者だよね。ってわけで、俺は商店街のお店の中から観察することに。ここからならミッシェルがギリギリ見えそうだ。これでも十分アウトだとか、ストーカーだとかいう意見は認めん。
「お待たせしました。オリジナルブレンドとチョコケーキです」
「ありがとうございます」
お店の女の子がコーヒーとケーキを持ってきてくれた。
そう! 今俺がいるのは喫茶店なのだ! 羽沢珈琲店というらしい。多分だけど羽沢さんがやってるんだよきっと。そして、この茶髪の女の子。店員さんなんだろうけど、なんか天使感があふれ出てる。きっといい人だ。
よし、張り込み調査スタートだ。ターゲットは奥沢美咲。というよりは奥沢美咲が中に入ったミッシェルとかいうキグルミ。さて、いつ出てくるかな?
「あ、ここのコーヒー美味しい」
この調査が終わってもまた来ようそうしよう。
◆◇◆◇◆
張り込み調査を始めてから30分経過。
「……早く出てきてくれ」
「あの、何かお探しですか?」
「俺は犯罪者じゃないですよ!!……って、店員さんか」
「お、驚かしてごめんなさい!」
「え、あ、ちょ、驚いてごめんなさい?」
急に店員さんに話しかけられたから、ついびっくりして自分を弁護しちゃったよ。する必要なかったけど。
にしても、今話しかけてきた茶髪の女の子の店員さん。傍から見たらただの不審者である俺に対して話しかけてくれるなんて、やっぱり……
「天使……」
「え?」
「天使はここにいたんだ!!」
「え!?」
「……あ、すいません。つい幼馴染と話してるノリで進んじゃいました」
美咲なら、ここで的確なツッコミを返せる。その点、いくらあんたが天使だといっても、うちの美咲にはまだまだ劣るな(上から目線)。
「幼馴染ですか? 仲が良いんですね」
「昔からの付き合いですからね。そして、そいつが今ミッシェルなんですよ」
「ミッシェル……あ! 商店街の新しいマスコットキャラクターの!」
「YES。そして、俺はそれが面白そうだk……失礼。心配で見に来たんですよ」
「今本音漏れてませんでした?」
「気のせい気のせい」
俺は美咲のことが心配なんだよ。決して面白そうだとかそんな軽い理由じゃない。
「……あ! 出てきた! あれがミッシェルか」
「そうなんですよ! 近くに住んでる子供たちも、ずっとミッシェルの登場を待ち望んでて……」
店員さんと話してる間に、ミッシェルと思われるものが建物から出てきた。ふむふむ。ピンクの熊か。〇まモンみたいだな。やっぱりふな〇しー系統ではなかったか。
そして、ミッシェルは子供たちに風船を配り始める。
「風船配りか……」
「子供たち喜んでますね」
「子供に夢を与えるかのような仕事してるけど、あれ、給料で動いてるんですよ?」
「それ言ったら駄目です」
知ってるか? これが社会の闇だ。某夢の国だって、金で動いてるんだ。はぁ、これだから人間世界というものは嫌になる。
「ん? なんだあの3人組?」
「3人組?」
「金髪、水色、紫……って金髪こころじゃねえかよ!? なんで!? なんでここにいるの!?」
ミッシェルを観察しながら社会の醜さに思いを馳せていると、ふと3人組が目に入る。そのうちの1人がクラスメイトだったんだけどどうすればいい?
しかも、この前知ったんだけど、こころってかなりのお嬢様らしい。超大手企業弦巻グループの社長の1人娘だとか。こころを傷つけようもんなら俺の首が飛びかねない。物理的にも社会的にも。それだけ大手企業ってのは怖いんだよ。
「何してんだあいつ?」
「ポスターみたいなの配ってますね」
「でも、皆ミッシェルの方行っちゃってますよ。誰もポスター受け取ってくれてない」
「本当ですね……」
金水紫3人衆(俺命名)はポスターを配ってるみたいだ。ただし誰も受け取ってくれてない。なーんか、ちょっと可哀想だな。ミッシェルに人気持っていかれてる感じがする。ドンマイこころ。明日はきっといい日になるよ。
「あれ? 3人とも、ミッシェルに近づいて行ってません?」
「本当だ……って、ポスターをミッシェルに渡した。は? え? なんで?」
「子供たちがミッシェルからポスター貰ってますよ」
「ミッシェル利用されてる!? おいミッシェル担当者どこ行った!? 止めろよ!!」
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ! ミッシェルがポスター配らされてる。しかも、さっきの3人衆が配ってたときよりもめっちゃ枚数減ってる。流石うちの幼馴染! 格が違うね! 誇らしいよ!
うーん、これは、あれだね。
「……店員さん店員さん」
「?」
「お会計お願いします」
「あ、はい! もしかして、ミッシェルを助けに行くんですか?」
「帰ります」
「え?」
「あれを止めるのは無理だと、そう俺の勘が言ってましてね」
「えぇ……」
もう完全にミッシェル巻き込まれてるじゃん? 相手は天下の弦巻家じゃん? 勝てないじゃん? じゃあどうするか。答えは簡単。逃げる。だって、多分だけど、あれに巻き込まれたらめんどくさい気しかしないんだもん。
いやさ? 確かに俺はあの時、美咲に救われた時、美咲に何かあった時は必ず助ける、と誓ったよ? でも、今はその時じゃないと思うの。こんなところであの誓いを果たすべきではないと思うの。それに、別にこころが悪い人というわけでもないし。ほっといても大丈夫だろ。破天荒だけど。
◆◇◆◇◆
その夜。
『次のニュースです。速報です。昨年大量殺人事件を引き起こして逮捕された村岡被告が脱獄したという情報が、先ほど入りました』
テレビをつけながら、適当にスマホをいじる。俺現代っ子なんで、こういう時間が楽しいんだわ。これだとテレビつけてる意味がないっていうね。テレビの内容が右耳から入って左耳から出てってるんだもん。
「ん? LI〇E? 美咲からだ」
突然美咲からL〇NEがくる。ふと思ったんだけどさ、LIN〇ってほんと画期的な発明だと思う。クッソ便利。でも、なんで〇INEって名前なんだろ? 線やん。line=線やん。わけがわからないよ。
いや、ぶっちゃけそんなことはどうでもいい。送られてきたメッセージの内容詳しく確認しないと。
『バンドさせられることになった。助けて』
は?